猫歴87年その2にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。娘の情事なんて聞きたくない。
まさかニナとウロがそんなことになっていたとは誰も知らなかったし、やることやってるとニナの口から言われては、わしは精神的に耐えられなかった。
息を吹き返したのは、誰かがモフっていたから。記憶が飛んでいたのでボケ老人みたいなことを言っていたら、ベティ&ノルンがニナのことを教えてくれたからキレそうだ。
しかし、エミリは娘の春を喜んでいるから、これ以上言えない。ミテナには言ってやる。
「みっちゃんがにゃにかしたんにゃろ?」
「やだな~。私は双方からの相談に乗っていただけだよ? 付き合ったらシラタマちゃんが邪魔しそうだから、しばらく黙っているようにと助言はしたけど」
「わしが知りたいのは、にゃにをしたかにゃ。いったいにゃにをしたんにゃ~~~」
「だから、両想いだって言ってるでしょ!」
第三世界出身のウロが、モフモフなんかと大人の関係になるワケがない。ましては両想いなんて、信じられるワケがなかろう。
わしはミテナとケンカとなったが、ケンカはわしだけ成敗。モフられて気絶して、怒られてニナを祝福させられた。70歳のニナを貰ってくれるのだからと……
そうまで言われると、わしも諦めるしかない。グスグス言っていたら、黒いのが飛び込んで来た。
「ワンさん! 俺にもにゃにか描いてくれにゃ~~~!!」
黒猫シゲオだ。なんで知っているのかと聞いたら、父親のインホワがホワイトタイガーになったことを自慢して来たんだって。仲いいな。
「別にいいんにゃけど、候補はあるにゃ? 難しいのは、わしは無理にゃよ?」
「これにゃ。この柄を左の顔と腕に描いて、背中にはこれにゃ~」
「う~ん……背中のは無理にゃ。顔のも描きたくないにゃ」
「にゃんでにゃ~~~!!」
そりゃヤンキーどころか麻薬やってそうなギャングっぽい柄は、王族の品位に関わる。それならトラ柄はどうなのかと聞かれたら、反論できません。
「難しいからできないみたいにゃ?」
「絵心ないってことだにゃ!? サクラ姉さん! 頼むにゃ~」
「いや、いつもおばさんって言ってたよにゃ? こんにゃ時だけ……そもそも私、この魔法使えないにゃ~」
「リータお姉様~~~!! ゴロゴロ~」
わしとサクラが拒否したら、最終兵器、リータ投入。シゲオが抱きついてゴロゴロ言うだけで、リータは陥落だ。メイバイやイサベレとエミリにも同じことをして口説き落としていたけど、リータたちって孫にお姉様って呼ばせてるんだ……
リータたちはわしをモフって機嫌を取ったが、わしにも譲れないモノがある。頑なに断っていたら、サクラに教えろって折衷案が出た。
どこが折衷案なんだと言いたいが、これ以上断ってもモフられるだけだから、ついにわしは折れてしまった。
「こうにゃ?」
「うんにゃ。そのままわしの腕に描いてみにゃ」
「ああ~。失敗しちゃったにゃ。にゃるほど。こうだにゃ」
「うんにゃうんにゃ。上手いにゃ~」
魔法的には無駄に中級レベルだけど、魔法特化のサクラからしたら簡単な部類。なので一度失敗しただけで、わしの腕にサクラの顔に描いた桜の花びらと同じモノが綺麗に描かれた。
お揃いでめっちゃ嬉しいけど、顔に出すと「キモッ」て言われそうだから我慢だ。
「こう? あ、そういうことか。どう? 輪っかになったわよ??」
「さすがベティお姉様にゃ~。そのまま腕に広げて行ってにゃ~」
その横ではベティがシゲオの腕に白のペイントで模様を描いていたから、わしはギョッとした。
「ベティ、いたにゃ!?」
「ずっといたわよ? 新しい魔法、教えてくれてありがとね~」
「わしに落書きしたら、絶好だからにゃ~~~!!」
ニナのゴタゴタからわしはモフられまくってたので、一番教えたくないベティの存在を忘れてしまい、カラーリング魔法もバッチリ盗まれたのであった。
盗まれてしまっては覆水盆に返らず。ベティとサクラは、シゲオに言われた通りにカラーリングを施す。
ベティの担当は顔と左腕。アーティスティックに線を描いているが、ベティってこんな才能あったんじゃ……
「なにその目? 私、フレンチ料理人よ? 皿にソースで描くんだから、こういう柄は得意なのよ……なんか言って? その目もやめてよ~」
わしが信じられませんって目をして黙って見てるので、珍しくベティの泣きが入った。みんなも信じられないって言ってるもん。
サクラの担当は、シゲオの背中。3本の首のドラゴンを金色で器用に描いてるけど、シゲオのセンスよ……何故にこの絵を選んだんじゃ。
「パパ。私のこともベティおばちゃんを見る目で見ないでくんにゃい?」
「あ、ゴメンにゃ。シゲオのセンスを疑っていただけにゃから、サクラに向けた目ではないにゃ」
「やっぱりにゃ~? 難しいし、もうこれでいいかにゃ?」
「いいんじゃにゃい? 迫力にゃいけど」
「2人で散々にゃこと言うにゃ~~~!!」
そりゃ、背中に怪獣は、イタイ。どうにかやめさせられないかと、わしはシゲオの背中をスマホで撮って見せてあげる。
「にゃにこのカワイイ怪獣!? 全然違うにゃ~~~!!」
サクラは手を抜き過ぎて怪獣が乙女チックな顔になっていたので、ベティに頼み込むシゲオであった。
「シラタマ君もどう? 唐獅子牡丹、描いてあげるわよ??」
「マジにゃ? 描けるにゃ??」
「ケンさんの背中を穴開くほど見た、このあたしに任せなさい!!」
入れ墨は男の子の憧れ。そんなことを言われたら、わしも「お願いします」と頼み込むのであった。でも、完成したモノを見たら、唐獅子じゃなくて猫だったので、めちゃくちゃキレたわしであったとさ。
猫牡丹は恥ずかし過ぎるから、どうやって消したらいいんだと後悔していたわしは、「あ、魔力で描かれてるならいけるじゃん」と吸収魔法で吸い取ったら、綺麗サッパリ。サクラの描いた桜の花びらは死守しました。
もう今日は遊び疲れたからお昼寝しようと思って横になったところで、大事なことを思い出した。
「赤ちゃんにカラーリングするんだったにゃ……」
「「「「「あっ!?」」」」」
全員、楽し過ぎて忘れていた模様。慌てて候補を考え出したけど、カラーリング魔法に副作用が無いかを調べ忘れていたので、1週間は様子を見る。
「オヤジ! 元に戻ったにゃ!?」
「オレもにゃ!? ベティお姉さ~ん!?」
「2人には言うの忘れてたけど、そんにゃもんにゃ。もうちょっと魔力を込めたら、1ヶ月は持つかにゃ~? それより体調はどうにゃ?」
「「オレたちで実験してたにゃ!?」」
「その通りにゃけど??」
わしは最初に協力してくれと頼んだ。それなのに忘れているインホワとシゲオが悪い。ただし、動物実験を手伝ってくれたのだから、わしも鬼ではない。
この頃にはモフモフ組のカラーリングに嵌まっていたベティにあとを任せれば楽チンだ。ちなみにニナは、腕に「ウロ ラブ」とサクラに描かせて、ウロを引かせたんだとか。
そのウロとは、わしもちゃんと話をしている。ウロにニナのことを聞くと、性格は本当に好きだと聞かされた。ただし、引っ掛かることがあるのか、お試しで付き合うことにしたんだって。
「こんなに中途半端なことをして、誠に申し訳ありません」
「まぁ……気持ちはわかるから、謝罪はいらないにゃ。ニナのこと、好きになってくれてありがとにゃ」
「シラタマさん……」
「わしから、ひとつだけ助言させてくれにゃ」
「はい! ひとつだけではなく、いくらでもお願いします!!」
てっきり殺されると思っていたのか、わしが反対しなかっただけでウロは感動してるな。
「たぶん、夜の行為に引っ掛かってるんじゃにゃい?」
「あ……言い辛いですが、その通りです。モフモフしてるので……」
「それだけが嫌にゃら、ニナに誠心誠意説明して、変身魔法を使ってもらえにゃ」
「変身魔法ですか……それでは別の女性を抱いてることになるから、ニナさんに悪い気が……」
「お互い気になるようにゃら、それまでにゃ。長続きしないにゃ。ちにゃみにわしとワンヂェンは、お互いが好きにゃタイプの異性になってやってるにゃ~。これも夫婦円満の秘訣にゃ~」
「フフ。そうですね。なんでも言い合える仲じゃないと、普通の夫婦は続きませんよね。助言、ありがとうございました」
これでウロの悩みは解決したと思う。わしの悩みは強くなったと思う。しかし、わしが珍しく娘のために男を繋ぎ止めようとしていたことは王妃様方に見られていたので、お酌をして褒めてくれたのであった。
ウロのことも動物実験も解決したのだから、白猫赤ちゃんたちにはわし直々にカラーリング魔法を施す。
名前は全員花から取っているので、首元にその花を描くことでもう間違うことはないだろう。魔力も多く使っているから、おそらく1ヶ月は持つが、念のため2週間置きに魔力を込めてその絵を維持するようにしている。
そんなことをしていたら、インホワたちの柄が1ヶ月ぐらいで消えたのか「にゃ~にゃ~」騒いでいたけど、カラーリング魔法は猫家で大流行しているから使える人が多いので、そっちに言って。あのシマウマみたいなのは誰?
なんだかモフモフもモフモフ以外の人も毛色が派手になっているが、わしは我関せずにお昼寝。起きたら必ず何かを描かれている毎日。だからお昼寝は怒られないのか……
今日もお昼寝していたらスマホに緊急連絡が入ったので、わしは1人で日ノ本へ飛んだ。
「にゃ~んだ。生きてるにゃ~」
御所の寝所に急いでやって来たけど、悠方上皇は玉藻と喋っていたのでわしは茶化す。2人にギロッと睨まれたけど、すぐに半笑いに変わった。
「シラタマ。頭に三色団子が付いておるぞ?」
「どうやったらそんなところに付くんじゃ。ククク」
「しにゃった!?」
いつもは寝起きに吸収魔法を使って落書きを消していたのに、今日は焦って忘れていたから2人に笑われちゃった。なので、ここ最近の猫家の流行りを教えてあげて、毎日迷惑してると愚痴っておいた。
「しっかし、倒れたって聞いたけど、元気そうだにゃ~」
わしが飛んで来た理由は、悠方上皇はもう目覚めないかもしれないと聞いたから。若干騙された気もするが、悠方上皇は83歳なのだからそんな誤報は多々あることなので怒ることでもない。
「心臓は確かに止まったんじゃが、奇跡的にな。シラタマには悪いことをしたな」
「いいにゃいいにゃ。気にするにゃ」
玉藻が申し訳なさそうにするが、わしは肩をポンッと叩いて隣に座る。すると、悠方上皇は覚悟を決めた目で語り掛ける。
「朕はもう長くない。今日、シラタマと会えたことは、神の計らいだ」
「にゃに言ってるにゃ。それだけ喋れたら、まだまだ死なないにゃ~」
「いや、シラタマと喋るのはこれが最後の予感がする。朕の最後の頼み、聞いてくれんか?」
「う~ん……まぁいいにゃ。言ってみろにゃ」
ちょっと茶化したくなったが、先は短いのだからわしも我慢して話を聞く。悠方上皇の頼み事はわしとしては簡単な内容だったので軽く許可してやった。
「い、いいのか?」
「わしがそんにゃに尻の穴の小さい男じゃないこと知ってるにゃろ。お安い御用にゃ~」
「そうであったな。シラタマは器の大きい男であったな」
「でも、たぶんにゃけど、今年の関ヶ原も見れるんじゃないかにゃ~?」
「もう無理だ。死ね死ぬ」
「年寄りは死ぬ死ぬ言って、にゃかにゃか死なないのが世の常にゃ~。にゃははは」
それから1ヶ月後、元天皇、悠方上皇は安らかに旅立った。
長く皇位に就いていた彼の功績は、教育、経済、医療、漁業発展と多岐に渡り、取り分け災害被害者の救済に力を入れていたことから、真の現人神だったと日ノ本国民は膝を折って、御所の方角に祈りを捧げたそうな……
余談だが最後の言葉は「アレで最後だと言ったのに何回来てんだ」と、わしに向けられた言葉だったことは、天皇家だけに秘されたのであった。




