猫歴86年その3にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。建築家でも電気屋でも引っ越し屋さんでもない。
キャットタワー2を建てさせられたわしもパーティーに出席していたら、キントウ首相が上の階を寄越せと乱入。わしの力で追い返したら、ひとまずツイファ市長に事情を聞いてみる。
「にゃあ? ひょっとしてにゃけど、10階に住めるの自慢したにゃ??」
「ギクッ!」
どうやら当たりみたい。だからキントウ首相が羨ましいって殴り込んで来たのだ。
「別にですね。私は高いところに住めるから嬉しいとか思ってないんです。あの男が、税金を上げようとしたり、猫市の補助金を削ろうとしたり、おばちゃんはみすぼらしい格好ですね~とか言って来るから! 嫌がらせをしただけなんです」
「うんにゃ。最後の言葉が一番ムカついたのはわかったにゃ~」
「違うんですぅぅ~~~」
どう聞いても悪口に力が入っていたけど、わしはもうちょっと話を聞いてあげる。
このキントウ首相とは、4年前にわしに絡んで来たオッサン。派閥を作って大名行列をしていたのを叱ったから次の選挙は落ちると思っていたのに、わしの前に現れたから驚かされた。
性格は穏やかで笑顔の素敵な紳士。それは表の顔で、自分より地位の低い人には横柄でパワハラも酷いんだとか。猫市だけじゃなく、各市の市役所職員にもめちゃくちゃ嫌われているらしい。
キントウ首相が二期目に突入してから横柄さに拍車が掛かったのも、今日初めて知りました。
「にゃるほどにゃ~……」
「引っ越し屋さん。何か手を打ってください! お願いします!!」
「いま、引っ越し屋さんって言ったよにゃ?」
「「「「「お願いします!!」」」」」
ツイファ市長にツッコミを入れてる最中に市役所職員が大声で頭を下げたから、伝わらず。いや、ツイファ市長は下向いて「やっちゃった~」って顔してるから、間違えたの気付いたな。
「わかったにゃ。この件、わしが預かるにゃ~」
「はは~」
「「「「「はは~」」」」」
「さっきの取り戻そうとしてるにゃろ?」
ツイファ市長が王様のわしを称えるように跪くモノだから市役所職員も続いてるけど、そんなことする人、ここ何十年も見てないぞ?
ツイファ市長はテへって顔をしているので、わしはツッコムのも面倒になって、ため息を吐きながらその場を後にするのであった。
パーティー会場を出たら王妃様方とウロとミテナが追って来たけど、居たんだ。疑問に思ったが、女の子を1人で帰すワケには行かないので、わしがミテナを背負って送り届ける。
キャットタワーに戻ると、政治評論家のノルン先生から昨今の政治事情を御教授してもらう。何人かは一緒に聞いていたけど、気付いたらわしとウロしかいなかった。
ちなみにウロは猫クランの一員だから空き部屋を与えて寝食は共にしてるけど、ニナの部屋を行き来してるかは怖くて聞けません。
翌日はノルンとウロを引き連れて、わしは猫会議事堂に乗り込む。
「にゃ? みっちゃん、学校はどうしたにゃ??」
「首相とやり合うんでしょ? だから生で見たくてお母さんに、シラタマちゃんが呼んでるって言って来た」
「噓つくにゃよ!?」
「シラタマちゃんだって昨日噓ついたじゃ~ん」
でも、ミテナが猫会議事堂の前に立っていたので、渋々連れて中へ。こんな時間に中学生を連れ回してるとか言われたくないもん。
まだ猫会が始まるのは時間があるので、猫会議事堂の喫茶店でミテナの事情聴取だ。
「てか、ちゃんと学校行ってるにゃ?」
「行ってはいるよ」
「行っては、にゃ? まさかイジメにゃ……」
「ないない。どちらかというと、牛耳ってるから」
「そっちのほうが心配にゃんだけど~?」
ミテナはイジメる側に回っているのかと思ったけど、止める側をやってると聞けて安心した。その功績と持ち前の明るさと、有り余る統率力でクラスどころか中学校の女王として君臨しているらしい……今年2年生じゃろ?
「やっぱり心配にゃんだけど~?」
「心配するところそこじゃないの。勉強について行けなくなって……あっ!? このこと言う気なかったのに~~~」
わしがおかしな心配ばかりするので、ミテナは悩みをゲロッちゃった。なので詳しく聞いてみたら、小学校からずっと成績は1位だったのに、中学校に入ってから成績が落ち続けているから自信喪失してるんだって。
「まぁ……そんにゃもんじゃにゃい?」
「そんなことないよ~。人生二度目なのよ? 年端もいかない子供に負けたなんて、女王の名折れよ」
「いや、みっちゃん、よく考えてみろにゃ。みっちゃんが女王をしていた時より、いまの学力レベルは数倍になってるにゃよ?」
「え? そんなことになってるの??」
「当たり前にゃろ。その頃を生きた人は、いまの小6レベルしか学力にゃいもん」
「うそ~ん。小中高と無双できると思ってたのに、これからもっと難しくなるの~~~」
ミテナ、いま初めてちゃんと勉強してると知って、悩みは解決。しかしながら、成績低下はプライドが許せないらしく、なんとかしてくれとおねだりが始まった。
「にゃんとかと言われても、自分でやることだからにゃ~……わかったにゃ。わしが家庭教師してやるにゃ」
「シラタマちゃんは、ちょっと……」
「にゃんで~? わし、これでも子供や孫たちに教えてるから、高校までは教えられるにゃよ??」
「その顔に教えられたら、もっと自信なくす……」
「にゃんでにゃ~~~!!」
どうやらわしのとぼけた顔では、いくら成績アップしても負けた気分になるらしい……でも、成績アップはしたいんか~い。
「チッ……ウロ君。頼めるかにゃ?」
「ええ。私でよければなんなりと」
「これでいいにゃ?」
「ありがと~~~う!」
ウロを頼れば、成績問題は解決。だから今からでも学校に行けと言ったけど、ミテナはテコでも動かないのであった。
長い間喫茶店にいたので、猫会議事堂の王様観覧席に入った頃にはすでに猫会は始まっていた。なので席に座ろうとしたけど、玉座がわし用とノルン用の小っさいのしかない。
場所はそこそこ広いので次元倉庫からソファーを出したら、ミテナはわしを撫でたいが為にソファーに陣取る。従って玉座はウロが座るので居心地が悪そうだ。
そうして猫会を見ていたら、過去の法案の手直ししかしてないので面白くない。ミテナにも撫で回されるので、ついつい居眠りしてしまった。
それからお昼になり、ごはんをどうするかと聞かれたので、次元倉庫に入っているお弁当でその場でランチ。そこでウロから、わしがお昼寝法案を破っていたから叱られました。罰金の5万ネコ払ったら返されました。
だからミテナが受け取ったけど、家庭教師代取るぞ?
居眠りの件はそれでうやむやになったので、猫会をウトウト見ていたら、キントウ首相の熱がこもった演説が聞こえて来た。
『先日、キャットタワー2という建物が作られました。この最上階には、市長が住むらしいのですよ。市長がですよ? 我々は老朽化している建物に住んで、いつ崩れるかとビクビクしているのに、こんな横暴を許していいのですか? ここは一致団結して、我々が住めるようにしましょう!!』
「「「「「そうだそうだ!!」」」」」
その演説に、一部始終を知ってるわしたちは苦笑い。昨日の今日で、よくもまぁ大声で言えたもんだと失笑だ。
「シラタマちゃん。自由にさせておいていいの?」
「自由にさせていると言うか、呆れ果てて力が入らないにゃ~」
「気持ちはわかるわ。こんな馬鹿な貴族がいたら、私も何も言えないもの。最低でも爵位剥奪よ」
「にゃはは。さすがは女王様にゃ~」
「笑っている場合ですか? 投票が始まりそうですよ」
「「議論はどこ行ったにゃ??」」
議題提出が早すぎるどころか議論をすっ飛ばして投票が始まったから、わしとミテナは顔を見合わせて固まる。
ただ、ウロがこのままではいけないとわしを揺すってくれたので意識が戻ったが、賛成は6割を超えたのか拍手の音が議場を包んだ。
「ちょ~っといいかにゃ?」
そこにわし登場。2階から議場のド真ん中に飛び下りたら、全員口をパクパクしてる。そこまで驚かなくても……
「その市役所の使用権に関する法案、一部始終見ていたけど、にゃんで議論も無しに投票してるにゃ?」
わしが再び質問すると、キントウ首相が立ち上がった。
「それはすでに話し合いが終わっていたからです」
「市役所が完成したの昨日にゃよ? いつから話し合っていたにゃ?」
「昨夜から徹夜でです」
「それはにゃん人でにゃ?」
「10人です。朝になって私の派閥の者に説明したら、皆、賛成すると言ってくれたから、この結果になったのですよ」
「にゃるほどにゃ~……」
わしが考える素振りをすると、キントウ首相はニヤリと笑った。
「そもそもにゃんだけど、首相官邸と議員宿舎は老朽化でボロボロにゃの?」
「は、はい……」
「堂々と嘘言うにゃよ~。わしの建てた建物は、もしもの為のシェルターも兼ねてるから、ちょっとやそっとじゃヒビすら入らないにゃ。これはどう説明するにゃ?」
「嘘では…ありません! 使い勝手が悪いといつも言っていたのです!!」
「話を変えるにゃ。そんにゃ話してないにゃ。お前が嘘をつき、議員を騙して、私利私欲の為に法案を通したことを、わしは追及しているんにゃ……」
わしは言葉を区切ってハッキリと伝えたら、キントウ首相は逆ギレだ。
「どこが私利私欲なのですか? 6割も賛成しているのですよ? これは国民の意思です。もう投票も終わったのですから、この法案はすでに適法なんですよ!」
そう。すでに法案が通っているから、もう覆せないと思って勝ち誇っているのだ。
「議長、王様権限でその法案は破棄にゃ。直ちに破り捨てろにゃ」
「は?」
「……はっ!」
「はあ~~~!?」
唖然呆然。議会が決めた法案は、わしの一言で目に見えるように破り捨てられからには、キントウ首相以外の人間は言葉を失った。
「議会の冒涜だ! 選挙の冒涜だ! 猫陛下は国民の声をなんだと思っているのだ!? こんなことが許されていいのか!!」
「それが許されるんだにゃ~」
「どこにそんな根拠があると言うのだ!!」
「憲法にちゃんと載ってるにゃよ? 第1条に、猫の国はわしの所有物と。2条に君主は国民のために働くと。3条に、議会よりも君主の発言が優先されると書かれているにゃ。議長はちゃんと読んでくれてるのに、首相は憲法すら覚えていないって……マジでどうにゃってるの?」
「え……」
キントウ首相は議長に助けを求める目を向けたが、わしが正しいと言う感じで首を横に振った。次に議員に目をやると、半分ぐらいは下を向き、また3分の1ぐらいは議長と同じ顔をしている。
前者は憲法すら覚えていなくて、後者はちゃんと覚えている人だと思うけど、少なっ!
「だ、だからなんだ! たった1人の意見で覆すなんて、横暴でしかない! 独裁政治だ!!」
「議論もなく市役所の持ち物を奪うことや憲法をにゃいがしろにするのは、独裁政治じゃないにゃ?」
「議論したと言っているだろ! 憲法だって、時代にそぐわないんだ!!」
キントウ首相はずっと怒鳴っているが、わしは全然テンションが上がらない。
「あのにゃ~……議論は見えるところでやるもんにゃ。そして、憲法は国が守らなくては行けない一番大事にゃ法律にゃ。トップクラスの人間が知らない、守らないじゃ洒落にならんにゃ。はぁ~……王様権限で解任にゃ」
「なっ……」
わしがため息まじりで解任を口にすると、キントウ首相の血の気が引いた。
「そ、そんな法律は……」
「あるにゃ。国の要職に就く者は、君主の裁量でいつでもクビにできるにゃ。憲法の5条に明記してあるにゃ」
「まっ……」
「待たないにゃ。そもそもお前、各地の市役所職員からめちゃくちゃ嫌われてるにゃよ? わしにまでこんにゃ口を利くようにゃヤツは首相の器じゃないにゃ」
「す、すみませ……」
「謝るのも遅いにゃ。このあと、わし直々に取り調べしてやるにゃ。首相の周りからにゃにが出て来るんだろにゃ~? にゃ~はっはっはっはっ」
わしが笑いで締めると、キントウ首相は膝から崩れ落ちる。その他議員の半分ぐらいは顔を青くして、残りは拍手。
議員の様々な顔を見ながら、わしはキントウ首相の腕を捻り上げて退場するのであった……




