猫歴86年その2にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。あの泥棒小僧に泣かされたのは、ちょっと腹が立つ。
ツイファ市長に市役所移転の話を持って行ったら、ヨキ市長の代から準備済み。わしを想ってのことだったから、トイレで隠れて泣いてしまいました。
そうして気持ちを落ち着かせたら、VIP食堂に戻ってツイファ市長と打ち合わせだ。
「資金があるのはわかったにゃ。場所は確保済みにゃの?」
「はい。それもヨキ市長から、キャットパークを使うようにと指示されております」
キャットパークとは、キャットタワーから南西に大通りを挟んだご近所さん。町作りはわしも最初に大まかな指示を出していたけど、一等地にあった憩いの広場はこのためだったのか。
わしは建国記念日のお祭りに使う広場を兼ねてるとしか聞いてなかったんじゃけど~? ちなみに名前の由来は、言わなくてもわかってくれ。
「建国記念日は大丈夫にゃの?」
「はい。いまはキャットタワーの下は……」
キャットタワーがあるのは、町の中央からやや北東。キャットタワーを基準に大通りを挟んで真南に私立猫の国大学があり、真西に猫会議事堂、南西にキャットパークだ。
このド真ん中が十字の道路となっていて、建国記念日ではこの広々とした十字路がメイン会場となっている。
その十字路を新キャットパークとし、車なんかは外苑の道路に逃がしたり、地下道を用意すれば渋滞にならないと、完璧な開発プランも用意されていた。
「にゃるほどにゃ~……ヨキのヤツ、わしに隠れて色々考えていたんだにゃ~」
「ええ。指示書には、シラタマ王に丸投げされたと愚痴も書いてありましたよ」
「丸投げじゃないにゃ~。都市開発も市長の仕事にゃから、課題にしただけにゃ~」
愚痴を代々受け継ぐぐらいなら、言ってくれたらいくらでも助言してやったのに……あ、声を掛けようとしたらいつもお昼寝していたのですか……起こしてよ!
ヨキの指示書は気になるが、なんだか愚痴が多く載っていそうなのであまり深く聞かないほうがよさそうだ。
「あとはデザインと工期だにゃ~……それは考えてあるにゃ? 大まかでいいから、転居までの期日を早めに出してくれにゃ」
「転居は1ヶ月もあればできると書いてましたよ」
「そんにゃに早いにゃ?」
「はい。猫陛下に第2キャットタワーを作ってもらえばすぐに終わると」
「そこはわし頼みにゃ!?」
ここまで完璧なヨキの予見が最後は丸投げでは、わしもビックリ。しかしわしは王様であって、建設作業員ではないのだ~!
「お金も場所もあるにゃら、建設会社にやらせたらどうにゃ? そのほうが、経済のプラスになるにゃろ??」
「そうしたいのは山々なのですが、二代前の市長が建設会社に問い合わせたところ、キャットタワーの建設方式がわからないらしいのです」
「にゃ? ダーシーってヤツが、設計図を書いてたと思うんにゃけど……」
「そうなのですか? どこにもそんな資料は残ってませんよ」
「アイツ……画期的にゃ技術だからって隠しやがったにゃ!?」
ダーシーとは、猫の国初期に猫市に貢献してくれた建築家。ただ、建築に関しては変態なので、キャットタワーのことは自分の胸の内に留めたのだと思われる。
実際には、王様の居城だから設計図を残していては危機管理に関わると、秘書で嫁さんのファリンに燃やされたんだとか。後日、ダーシーの子孫に聞きに行ったら、日記にはそのことが涙に滲んだ文字で書かれてました。
「んじゃ、わしが設計図を書いてやるにゃ。それで建築家が直したらにゃんとかなるにゃろ」
「はあ……猫陛下がゴネた場合は、王妃様に口を利いてもらえと書いてあったのですが……」
「ゴネてないにゃろ? わし、真っ当なことを言ってたにゃ~~~」
何度も言うが、わしは王様。建設はわしの仕事ではないから「にゃ~にゃ~」言っていたら、VIP食堂のドアが開いて誰かが入って来た。
「シラタマさ~ん?」
「シラタマ殿~?」
「にゃ? リータさん。メイバイさんにゃ……」
2人が入って来たので、わしは暗い顔。しかしここでツイファ市長に何かを言われると、確実にビルを建設させられるので、わしは必死のウィンクで「喋んな!」と訴えた。
「キャットタワー2ですね。承りました」
「シラタマ殿に任せてくれたら、1日で終わるニャー」
「いつから聞いてたにゃ~~~!!」
でも、事細かくバレバレ。わしはどこかに盗聴器が仕込まれているのではないかと、フユを呼び寄せて一緒に探すのであった。リータたちがフユに依頼していたのだから、見付かるワケないのに……
ビル建設はリータとメイバイの登場でマストとなってしまったが、工期1日は勘弁してくれと土下座。確かにキャットタワーを建てた時は1日でやったけど、アレは仕事場と居住区はそのまま残していたから早かっただけ。
そのあともちょくちょく手直しして、いまの快適なキャットタワーとなっているんです。
この訴えはなんとか通ったけど、1週間も短すぎない? 引っ越しも込みじゃと!?
ちょっと口答えをしたら仕事が増えたので、わしはこの日はもう口を開かないのであったとさ。
ツイファ市長にはその一部始終を見られて「王様ってもっと偉いんだと思ってた」と情けない印象を持ったそうだ。
翌日からは、わしは忙しい。建設会社に足を運んで人員と資材の確保。太陽光パネル工場にも行って、太陽光パネルと工員も確保。
太陽光パネルはすぐには充分な数は揃わなかったから、魔道具工房を訪ねて電池魔道具を融通してもらう。わしはゼネコンの課長かっちゅうの。
次の日は、それらの人員を集めて会議。キャットタワーの間取りを見せながら設計図を作り、その翌日に着工だ。
わしの土魔法で1階ずつニョキニョキと伸ばし、その都度建設作業員が水廻りの工事。電気系の作業員が工事している間に、わしはエレベーターの作業をしてからガラス魔法でガラスを嵌めて行く。
そうして半分を超えた辺りでお昼休憩。エミリが届けてくれた差し入れを作業員と一緒にわいわい食べていたら、見慣れた2人が一緒にお弁当を食べていたので声を掛けてみる。
「にゃあ? ウロ君はこんにゃところでにゃにしてるにゃ?」
「後学の為に、ビルの建設をどうやっているか見に来ました。しかしシラタマ王ばかり働いてませんでした? 親方とか呼ばれてましたよ??」
「アイツらが勝手に呼んでるだけにゃ~」
ウロは前にも家の建設現場を見ていたから興味があるのはわかるけど、親方とか呼ばれているところを見られたのは恥ずかしい。
ここはもう1人いる場違いな人に質問して話を逸らそう。
「ところでみっちゃんはにゃにしてるにゃ?」
「いや~。またビル作るとか言うから、サンドリーヌタワーを抜かさないように見張りをね」
「そんにゃことのために学校休んだにゃ!?」
「が、学校は……ビルの建設を見学するって休学届出したから……」
「学校と家に電話しにゃ~す」
「待って! 待ってよシラタマちゃ~~~ん」
ミテナ、やっぱり中学校を無断欠席してたみたい。しかしミテナは電話中もわしの足にしがみついてウルウル見て来るので、その目に負けたわしは課外授業で連れ出したと嘘をついてしまった。
母親にも電話を入れて嘘をついたから、誘拐とかの捜査はされないだろう。まったくこの子は……
ミテナはそれでもう泣き止んでいたから、わしは懇々と説教。そんなことしていたら作業員から開始を告げられたので、わしはそちらに向かう。
作業員が「親方親方」言うから、ウロが残念な目で見て、ミテナがニマニマ見るから恥ずかしいもん。
お昼からもビルをニョキニョキ伸ばしていたら、作業も慣れて来たから3時頃には外観は完成。建築作業員は中の微調整や掃除に向かい、わしと電気系作業員は屋上でせっせっと太陽光パネル設置だ。
「プププ。電気屋さんしてるシラタマちゃん、久し振りに見たわね」
「笑うにゃ~。てか、そんにゃところに立ったら危ないにゃ。こっち来にゃさい」
「これぐらい大丈夫よ~……あっ」
「にゃ~! みっちゃ~~~ん!?」
ミテナは柵の外で作業していたわしを笑って見ていたら、足を踏み外して落下。わしは屋上から慌てて飛び降りて、ミテナを救うのであったとさ。
危うく新聞の一面に載りそうになったミテナは、10階建てのビルから落ちたから超反省。わしの説教もいらないぐらい震えているが、また何かやらかしたら邪魔になるから腰に縄を結んでウロに持たせた。
ミテナは「ウサギじゃないよ~」とかブーブー言っていたけど、そこは犬じゃないか? ウサ耳だからウサギで合ってるんじゃね? てか、なんか昔、似たようなことあったな……懲りないヤツじゃ。
心の中でツッコんでいたら、日が暮れる前に作業は終了。夕焼けに照らされた屋上で、作業員と一緒に酒盛りするわしであった……親方言うな!
翌日からは、ツイファ市長と打ち合わせして、引っ越し作業。1階ずつ、次元倉庫に物を入れてキャットタワー2に運び込む。誰じゃ引っ越し屋さんって言ったヤツは……
そうこう引っ越し屋さんと言われながらも、市役所職員の仕事の邪魔にならないように作業を続けたら、期限の1週間までに全ての作業は終わり、最終日は大部屋でキャットタワー2始動パーティーだ。
「皆様、グラスは行き渡りましたか~?」
「「「「「わああああああ」」」」」
ツイファ市長がグラスを掲げると、市役所職員や作業員が大声で応えた。
「では、建築家兼、電気屋さん兼、引っ越し屋さんのシラタマさんに……かんぱいにゃ~!!」
「「「「「かんぱいにゃ~~~!!」」」」」
「せめて王様を入れろにゃ~~~!!」
この1週間、王様らしい仕事をしていなかったわしは、王様から陥落。わしのツッコミは人々の大声に掻き消されて、パーティーは続くのであった。
パーティーは、何故かわしの周りはマッチョな作業員が囲んでいるので花がない。市役所職員からも一切感謝の言葉もない。
ここまで酷い扱いを受けているのだからもう消えてやろうとわしが考えていたら、騒ぎ声が小さくなり、しばらくするとパーティー会場の入口だけが騒がしくなった。
「首相が表敬訪問して差しあげると言ってるんです。早く中に通しなさい」
キントウ首相だ。取り巻きやら警備の者を30人ほど連れて押し掛けたみたいだ。わしは人を押し退けて前のほうまでやって来たら、酒をチビチビやりながらツイファ市長とキントウ首相のやり取りを傍観する。
「これはこれは首相。お呼びもしていないのに、どうしたのですか?」
「どうしたも何も、お祝いに駆け付けただけですよ。私がいれば、箔が付くってモノですからね」
「箔なんて、このキャットタワー2を見ただけでわかるでしょう。首相の箔なんて、霞んで見えますことよ。オホホホホ~」
「どうりで市長のオーラがいつにも増して見えないと思ったら、建物のせいでしたか。わはははは」
ツイファ市長もキントウ首相も言葉は丁寧だが、バチバチのケンカ中。これは面白くなって来たなと、わしは寝転んで乾き物をツマミながら観戦だ。
「最上階は住居と聞きましたが、私はいつから入居できるのですか?」
「イヤですわ。市役所は猫市の持ち物ですよ。首相には立派な3階建ての首相官邸があるではないですか。お忘れですか?」
「忘れるワケはありません。ただ、こちらのほうが首相に相応しいから入居してあげようと言っているのです」
「その必要はないと言っているのですよ。あ、もしかして、市長如きに上から見下ろされるのがおイヤなのですか~? ウフフフ」
ツイファ市長のナイスカウンター。キントウ首相もいいのをもらって顔が険しくなっている。
「穏便に済ませてあげようと思いましたが、仕方がないですね。法律を作って、キャットタワー2の10階と9階は、国政に関わる議員の住居にしましょう」
「は? 私利私欲の為に法律を作るなんて、横暴すぎますでしょう!」
「私利私欲ではありません。猫会議員の安全の為です。これは国防と言っても過言ではありません!」
ここでキントウ首相は力業。ツイファ市長も市役所職員も横暴だと非難轟々。どちらかというと悪口がすんごい。パワハラケチジジイって……めっちゃ嫌われてるのかな?
「うるさい! 私は国民の代表だぞ! その文句は、国民に言っているようなものだぞ!!」
「ちょ~っといいかにゃ?」
「なんだ!?」
あまりにも悪口が酷いので、キントウ首相も我慢の限界。わしが袖を引っ張ったら、怒鳴りながら振り解かれた。
「ね、猫陛下……」
「うんにゃ。わしにゃ」
すると、キントウ首相の顔は蒼白。自分のやっていることは無茶苦茶だと自覚はあったんだね。
「ど、どうしてこちらに……」
「そりゃ、このビル建てたのわしにゃもん。それよりにゃ~……わしは悲しいにゃ。首相官邸も議員宿舎もわしが建てたんにゃよ? にゃのに首相も議員にも相応しくないにゃんて、泣きそうにゃ~」
わしがオヨヨヨと泣いたフリをすると、キントウ首相は何故か勝ったような顔に変わった。
「そんなことは言っていません。ただ、老朽化しておりますので、防災上の不安がありますので、こちらに転居したほうがいいと判断したしだいです」
「老朽化にゃ? さっきの言い分と違うにゃ~……高いところに住みたいって言ってたにゃろ?」
「め、滅相もありません……」
「違うんにゃ。認めたら王様権限で住ませてやろうと思っていたのににゃ~」
「滅相もありませんのありません!!」
「どういう意味にゃ??」
わしが甘いことを言うとキントウ首相は前言を撤回したけど、肯定の否定してから肯定否定って言われてもわからんわ~。まぁ住みたいってことか。
「んじゃ、毎月猫市に一千万ネコを振り込めにゃ」
「……はい??」
「家賃にゃ。首相官邸や議員宿舎は、地方から来る者の為に税金から家賃を出してるんにゃ。それを使わないにゃら、家賃を支払うのは普通のことにゃろ?」
「た、高すぎます! 一千万ネコなんて払える額じゃありませんよ!?」
「そりゃ猫市の一等地の上に新築にゃもん。防犯も見晴らしも最高にゃら高くなるに決まってるにゃ~。びた一文負からんからにゃ」
「くっ……」
さすがに月給より高い額を持って行かれるのでは、キントウ首相も諦めるしかないみたい。そもそもわしの登場で分が悪くなったのだから、キントウ首相は悔しそうにすごすご引き下がるのであった。




