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猫王様の千年股旅  作者: ma-no
猫歴50年~

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猫歴86年その1にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。デスメタルは好きではない。


 メイバイたちが長い人生を楽しむために組んだバンドは、家族の半数から大不評。会場に残っていた人の半分は、好きというより我慢して聞いていたから、3分の2はバンド活動を否定したことになる。

 なのでバンド会議。あっという間にリータのヴォーカルが悪いと切り捨てられていたので、わしが慰める。かわいそうじゃもん。


 ここでどういうワケか、ベティ&ノルンが主導権を握って、次なるライブだ。


「キャットガールズは、アイドルグループとして生まれ変わりました」

「ノンルちゃんたちのデビュー曲を聞いてだよ~!」

「「ヘビーネコテンション!!」」


 本当になんでこうなったのかわからず仕舞。センター、ベティ&ノルン。メイバイ、イサベレ、コリスは周りでワンコーラスを歌って踊る係。おそらくだが、リータは踊るだけで口パクだな。

 これなら聞ける曲になったので、猫ファミリーはやんややんやの声援。インホワとシゲオは、その気持ち悪い合いの手はなんじゃ? なんでファンが踊る必要があるのじゃ??


 大盛り上がりの会場であったが、わしだけついて行けず。それでもベティたちは、歌って踊って猫ファミリーを楽しませるのであった。



 このアイドルライブはベティたちが撮影してネコチューブで配信したら、大バズり。ちょうど東の国の女王誕生祭の期間だったので、苦情が入りました。邪魔するなだって。

 それを脅しのネタに使われ、キャットガールズにオファー。飛び入りゲストで、女王誕生祭を盛り上げていた。これが狙いで苦情を入れたんだな……


 そのおかげで、我が猫家にオファーが殺到。ベティ&ノルンはやる気満々だが、メイバイが断固拒否していた。


「ちょっ。いまの勢いを逃すと、また売れないバンドに逆戻りよ?」

「そうなんだよ。いまが頑張り時なんだよ~」

「私はバンドをしたかったんニャーーー!!」


 そりゃ路線がめちゃくちゃ大きく変更しているから、メイバイも我に返ったっぽい。ベティ&ノルンは、このビッグチャンスを逃したくないのか説得を繰り返している。売れない以前に売ってないじゃろうが……


「リータからも言ってよ~」

「私ですか? 私もそんなにやりたいワケじゃなかったし……」

「イサベレは辞めないんだよ?」

「辞める。恥ずかしい」

「「なんでよ~~~!!」」


 でも、内部崩壊。メイバイを筆頭に、次々とマイクを置くのであった。


「コリスちゃんは抜けないよね? リリスちゃんも一緒にアイドルやらない? 美味しいの作るよ??」

「「美味しいのあるならいいよ~」」


 コリスと新メンバーのリリスだけは餌付けして、なんとかアイドルグループを存続させるベティであったとさ。



 音楽性の違いからメンバーが激変したキャットガールズは、その後は鳴かず飛ばず。ツアーで行った西の国で、主軸であったメイバイ、リータ、イサベレがいなかったから、大ブーイングを浴びてたもん。

 それからは配信メインに切り替えていたが、あっという間にファンが離れて、キャットガールズは活動停止になっていた。プププ……


 メイバイはというと、いまは弾き語りのシンガーソングライターをやっている。今度は音楽の詳しい人とバンドを組みたいらしく、曲を書きつつ新メンバーを探してるんだって。

 ちなみに配信もやっていて、猫耳覆面メイドがギターを掻き鳴らすのが受けて、徐々にファンが増えているらしい。


 どんだけ要素を加えてるんだか……あ、王族とバレたらまた一気にファンが増えそうだから、隠れてやっているのですか。賢明ですね。



 猫歴85年は、メイバイ100歳の誕生日から我が猫家は迷走してうるさい年であったが、猫歴86年の初期には収束。

 ベティ&ノルンはまだしつこく猫ファミリーに「君もアイドルにならない?」とスカウトしているけど、みんな散々な失敗を見たからやりたくないみたい。


 アイドル活動はまったくないけど、猫クラン活動はちゃんとやっていたら、猫歴86年の春頃からおめでたい報告が立て続けに入って来た。


「メイバイさん、おめでとうございます」

「ありがとニャー。3人から遅れてたから、ちょっと焦ったニャー」

「本当によかった。また子供たちを一緒に育てていける」

「うんニャ! エミリも一緒に元気な赤ちゃん産むニャー!」

「「「にゃ~!」」」


 メイバイがグラミー賞を取ったと思われた方もいる……いないか。冗談はさておき、新たな家族が増えるのだ。

 実は趣味探しやバンド活動、アイドル活動をやってる裏では、人生のアクセント第一案の子作りは、ヒッソリと進行していたの。


 いちおうコリスも誘えと王妃様方から脅されたから、ちょうどいい大きさの猫型になって、お尻フリフリしたりコリスに覆い被さったりしたけど、殴られました。

 どうも発情期以外は貞操がガッチガチみたいだ。誰じゃわしが誘惑してるところを映像に撮ったのは!?


「しっかし、どうしよっかにゃ~……」


 わしは喜んだり怒ったりしたら、腕を組んで真面目に考える。すると皆は寝ているのかと勘違いしてモフられたので、悩みを口にする。


「ほら? 孫も2組が結婚して、部屋が足りないにゃろ?」

「そんなのシラタマさんのサジ加減でしょ」

「そうニャー。ちゃちゃっと広くしてニャー」


 わしの魔法に掛かれば、キャットタワーの階数をいくらでも増やせるから、リータとメイバイの意見はわからなくもない。


「それがにゃ~。もうこれ以上、太陽光パネルを取り付ける場所がないんにゃ」


 しかし、キャットタワーは深刻な電力不足。ただでさえ猫ファミリーが大量消費するのだから、わしが頑張ってキャットタワーの至る所に太陽光パネルを張りまくったんだよ?

 さらに下の階、8階までを市役所が占拠しているから、おそらくこのキャットタワーは、世界一電気を消費している建物。毎日毎日、わしとコリスで電池魔道具に魔力を補給してなんとか維持しているのだ。


「電力不足ってことですか……」

「でも、シラタマ殿が……」

「言いたいことはわかるにゃよ? でも、わしは発電機じゃないんにゃ~~~」


 人力発電は、世紀末の奴隷がムチを打たれてやる仕事。王様と王妃がやってるのはおかし過ぎるじゃろ。

 そのことを喉を鳴らしながらスリスリごまを擦ったら、なんとかわしの訴えは通った。


「じゃあ、どうするのですか?」

「引っ越しかにゃ~? 最前線の町にゃら、ハンターの仕事も多いにゃろうし……あ、わし的には、瀬戸内海の小島に越したいかにゃ~? 海を見にゃがら余生を楽しむにゃんて、贅沢じゃにゃ~い??」


 リータの問いにわしが願望で返したら、メイバイと一緒に怒って責める。


「そんなのダメニャー! シラタマ殿は王様なんだから、首都にいなきゃダメニャー!!」

「なんですかその願望は! 猫の国ならまだしも、王様がなんで日ノ本に移住しようとしてるのですか!!」


 そりゃ隠居モードじゃ怒られても仕方がない。余生もあと900年もあるから長すぎるな。


「冗談にゃ~。そんにゃに怒らないでくれにゃ~」

「「本当にゃ……」」

「本当ですにゃ~。とりあえず、外町に豪邸を建てて住むってのはどうにゃろ? あそこにゃらまだまだ土地が残ってるにゃろ? 家族別に家を建てるのもいいかもにゃ~」

「「なんでそうなるにゃ~~~!!」」

「にゃ~~~??」


 わしはナイスアイデアだと思ったのに、2人が「にゃ~にゃ~」言ってる意味がわからないので首を傾げた。


「だから、どうしてシラタマさんが出て行かないといけないのですか!」

「そうニャー! ヨキ君からも頼まれてるんニャー!!」

「にゃんでヨキが出て来るにゃ??」


 ヨキの話は、猫の国が建国する前まで(さかのぼ)る。その時は廃墟だったこの町にヨキたち浮浪児が住んでいて、わしが衛生的で頑丈な真四角の建物、シェルターを建ててあげた。

 帝国を倒したあとは、わしはシェルターの庭に車を出して住んでいたら誰からもツッコまれて、出て行こうとしたらこれもツッコまれた。


 立地的に町の中央だし、その時はシェルター以外に綺麗な建物がなかったからだ。だからヨキたち浮浪児は自分の足で出て行き、シェルターは王様の住居兼、役場となったのだ。

 この時の経験があるから、キャットタワーが手狭になったらわしが出て行こうとすると予見して、ヨキはもしもの時はリータとメイバイに止めてくれと頼んでいたそうだ。


「ああ~……にゃんかそんにゃことあったにゃ~。あのあと、シェルターを改造したり、子供たちの寮を建てたり、よけい仕事が増えた記憶があるにゃ~」


 わしの記憶は大変な目にあったぐらいだったので、リータたちの目が怖い。


「わかったにゃ。市役所に出て行ってもらおうにゃ。これでいいですにゃ?」

「「まぁ……」」


 たぶんこれが最適解。わしは2人から怒られたくないからって、猫市の大事な機関に退去を伝えに行くのであった。


 言いにくいな~……



 さすがに長年、ここに通っていたヤツらに退去を命じるのは心苦しい。

 わしはとりあえず市長室に入ると、おばちゃん市長のツイファには「大事な話がある」とプレッシャーを与えて、仕事が終わったら王族居住区にあるVIP食堂に呼び出した。


「あの~? 大事な話とはなんでしょうか?」

「まぁまぁ。話はメシを食ってからにゃ。イスキアワインも奮発してやるにゃ~」


 ツイファ市長はめちゃくちゃ恐縮していたけど、偽造イスキアワインを飲んだら「最後の晩餐」とか言ってガツガツ食べ出した。病気なのかな?

 わしもそれを見つつ、取られないように急いで食べたら、食事はあっという間に終了。食後にも偽造イスキアワインを振る舞って、ようやく本題だ。


「ちょ~っと、無理にゃお願いがあってにゃ~」

「無理なお願いと言いますと……私に死ねと?」

「どうしてそうなるんにゃ~」

「死ぬなと言うことは……国政選挙に出馬して、あのいけ好かない首相を倒せと言うことですか? いや、暗殺したほうがいいですか??」

「誰もそんにゃこと言ってないにゃろ。市役所に移転してもらいたいだけにゃ」


 ツイファ市長が無理難題すぎることばかり言うので、わしはアイドリング無しで言っちゃった。さすがにこの無理難題は、ツイファ市長も反対……


「あ、そんなことですか。それじゃあ新しい市役所ができしだい出て行きますね」


 いや、反対どころか大賛成で荷物をまとめようとしてるよ。


「にゃ? イヤじゃないにゃ??」

「正直言いますと、この歴史的に名高いキャットタワーから出て行くのは、寂しさがあります。しかし、ヨキ市長の代から、いつかこんな日が来るからと準備していましたから」


 どうやらヨキは、市長に当選してから前もって準備をしていたとのこと。双子王女がわしに賃貸料等を払っていなかったことを逆手に取り、その費用を積み立てて、いつでも退去できるように資金を準備してくれていたのだ。

 それは代々猫市の市長になった者に申し送りされて、受け継がれていた伝統と聞かされたけど、それって裏金なのでは……わしは聞いてないぞ!?


「ま、まぁ、ヨキはそんにゃにわしのことを考えてたんだにゃ……」

「ええ。いい人ですね。シラタマ王は、家臣に愛されていたんですよ」

「そうだにゃ……ちょっと席を外させてくれにゃ」


 そんなことを言われては、涙腺が緩むやろ~。


 わしはトイレに入ると、ヨキの写真を見ながら涙が止まるのを待つのであった……


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