猫歴84年その9にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。このふざけた顔を見てもわからないだろうが、怒っている。
グレタを連れてキャンプに来たわしは、たいしたアドバイスをせず。テントの設営をしたら狩りに出た。探知魔法を飛ばしてヘラジカを見付けたら、サクッと首を落として血抜き。
2匹ウサギを見付けたけど、ウサギ族が頭に過ってスルー。それを追いかけていたオオカミを狩って、こいつも血抜きしたら担いでテントに戻った。
「それ、メシにするのか? 黒い獣じゃないからマズそうだな~」
すると、狩りもしないでベースキャンプでスマホを見ながらゴロゴロしていたグレタが寄って来た。
「この辺は弱い獣しかいないからにゃ。ま、これだけあればわしは充分にゃ」
「は? オレの分は??」
「グレタは収穫量が少ないからってハンターを殴り殺したにゃ~。そもそもグレタはハンターにゃんだから、自分で狩れにゃ~」
「くっ……ジジイより大物を狩ってやるからな!!」
わしが突き放すと、グレタはダッシュで狩りへ。獣を捌いて待っていたら、1時間後ぐらいに熊を背負ってグレタが戻って来た。
「どうだ! ジジイより大物を狩って来てやったぞ!!」
「うんにゃ。頑張って食えにゃ」
「ハッ! 分けてやらないからな!!」
グレタが離れると、わしはクッキング。捌いた獣をジャンジャン焼いて、摘まみ食いしながらスープ作る。
グレタはどうするのかと見ていたら、ナイフも使わず引きちぎっては皮を剥ぎ、引きちぎっては皮を剥ぐ。
魔法は父親譲りで苦手だが、猫クランではもしものために、水魔法や火魔法といった生活に使える魔法を教えているから料理ぐらいできる。
と思って見ていたけど、薪に使っている木の水分が多いので、煙が凄い。それでもなんとか焼いていたけど、「マズイ~!!」っ声が聞こえて来た。
「なあ……」
「今度はなんにゃ?」
「どうやったら旨く食えるんだ?」
「わし、研修で教えたにゃろ? 普通は血抜きするってにゃ。肉食獣はただでさえ肉が臭いんにゃから、血抜きしなかったら激マズにゃよ?」
「なんだよ~。だからジジイは鹿を狩って来たのかよ~」
「まぁこれは研修の一環にゃから、サービスにゃ。ちょっとだけ分けてやるにゃ」
「マジで? あ、うまっ……オオカミも臭くないな……」
わしが焼いた肉はそれほど美味しくないが、ついさっきくっさい肉を食ったグレタには美味しく感じたみたい。しかしこれはサービスなので、すぐに取り上げた。
グレタはブーブー言いながら離れて行くと、肉を絞って血を抜いてから焼いていたけど、もう手遅れ。腹は減っているから、我慢して食べるのであった。
「あ、吸収魔法使ったら、数日メシ抜きでも生きていけるにゃよ?」
「それ、先に言えよ~~~!!」
お腹いっぱいになってからわしが助言してあげたら、グレタは嘆くのであ……
「これも研修で言ったにゃよ? 聞いてないグレタが悪いにゃ~」
「すんません……」
でも、猫クラン研修では教えていたので、グレタも思い出して反省するのであった。
日が暮れるまでわしは料理して食べ続けたら、お腹は真ん丸。森の夜は早いしやることがないので、わしは水浴びしたらすぐにテントに入ってゴロン。
スマホでリータたちに報告を入れていたら限界が来たので早めの就寝だ。
翌朝わしは気持ち良く目覚めた。そうしてあくびをしながら昨日の残り物をスープにぶち込んで調理していたら、顔がパンパンのグレタが近付いて来た。
「にゃはは。にゃにその顔? にゃははは」
「笑うなよ。めちゃくちゃ痒いんだよ」
「ヤブ蚊にやられちゃったのかにゃ? ちゃんとテント張らないからそんにゃことになるんにゃ」
「ジジイ! なんとかしてください!!」
「にゃんとかと言われても……グレタは医者なんていらないって殺したにゃろ?」
「もうそれ、いいだろ~。オレが悪かったって~~~」
さすがのグレタも痒さには勝てないらしく反省の言葉が出たから、わしも鬼ではない。というか、曾孫がかわいそう過ぎて見てられないので、氷魔法で冷やして腫れを抑え、痒み止めの薬を塗ってあげた。
とりあえずグレタには、わしが作っていた朝メシを振る舞いながら話をしてみる。
「んで……にゃにが悪かったんにゃ?」
「弱者から奪うってヤツ??」
「まだわかってないにゃ~」
「いや、アレだろ? 弱いヤツにも特技があるっての。戦闘の時にも役割分担してる感じ。そいつらを虐げたら、メシも食えないって言いたいんだろ?」
「う~ん……及第点ってところだにゃ」
わしは次元倉庫からパンを取り出して半分をグレタに渡した。
「このパンに、にゃん人の手が入ってるかわかるにゃ?」
「ぜんぜん」
「最低でも、農夫、パン職人、商人の3人にゃ」
「ふ~ん……そんなもんか」
「そんにゃもんじゃないにゃ。パン1個食べたところで腹は満たせないにゃろ? だからそのにゃん十倍もの人間が関わって、グレタのお腹をいっぱいにしてくれているにゃ。
さらに言うと、パンじたいができるまでに、数百年、数百万人の人が考えて考えて、今日のこのパンの姿になったんにゃ。ここに至るまでに、その人がいなかったらどうなるにゃ?」
グレタは少し考えて答えを出す。
「いま、パンは食えない」
でも、当たり前の答えだから、わしもズルッとこけた。
「わしの言いたいことは、こういうことにゃ。人間は可能性の塊にゃ。美味しい物を作ったり、便利にゃ物を作ったりにゃ。そのほとんどの人は、グレタが言う弱者から生まれるんにゃ。自分の欲望を押し付けているだけでは、決していまの暮らしにならないにゃ。グレタも毎日こんにゃ暮らししたくないにゃろ?」
「ああ。もう懲り懲りだ」
「だったらにゃにをしたらいいかわかるよにゃ?」
グレタは口に入れたパンをスープで胃に流し込んで立ち上がる。
「弱いヤツを守ったらいいんだな!」
「にゃはは。その言葉が聞きたかったにゃ~」
実際に独りを経験しないと、グレタではこの言葉は出て来なかっただろう。わしはやっとわかってくれたと拍手するのであった。
「んじゃ、片付けしたら、グレタが歩もうとしていた終着点に連れてってやるにゃ~」
「おお~い。もうわかったって言っただろ~~~」
でも、わしの教育的指導は続くのであったとさ。
グレタの未来、2ヵ所目は、オーガ探索で見付けたオバチャンが守っていた廃墟だ。
「なんか見覚えがある……」
「そりゃそうにゃ。グレタが10歳の時に来たことあるからにゃ。わしたちがオバチャンって呼んでいた生き物は覚えているかにゃ?」
「ああ~……顔がやたら小さい毛むくじゃらの??」
「その人にゃ。グレタが帰ったあとにわしが殺したにゃ」
「は??」
グレタはオバチャンぐらいしか記憶になかったので、一から丁寧に説明してあげた。
「オバチャンは帝国って国に人間兵器として作られたにゃ。そして弱者を虐げていたら、国も人も滅んでしまったんにゃ。これがグレタの選ぼうとしていた未来の終着点にゃ」
「廃墟だけしかない場所で、300年も1人で……」
「次に行くにゃ~」
グレタは思うことがあるみたいだけど、次に転移。わしの実父、白銀猫の縄張り一歩手前に連れて来た。
「な、なんだここは……」
「怖いにゃろ? 1人で入って行けるにゃ?」
怖い物知らずのグレタでも、この先に絶対的な死が待っているのは肌で感じているのか、わしの質問には首を横にブンブン振って答えにするしかできないみたいだ。
「これがグレタの未来Bパターンにゃ。この世界には人間では絶対に手が届かない化け物がいるにゃ。そいつらにケンカ売ったら、確実に死ぬにゃ。よかったにゃ~。そうにゃる前に止めてもらえてにゃ」
「ゴクッ……」
「ちにゃみにこの先にいるの、わしの父親にゃ。それじゃあ次に行こうにゃ」
「はい??」
グレタは生唾呑み込んで返事もできなかったから、わしは脅し過ぎたと思ってカミングアウト。それで声は戻ったけど、わしは草木も生えない荒野に転移した。
「ジジイの父親って? てか、ここどこだ?」
見渡す限りの死の大地にグレタが気付いたところでわしのアンサーだ。
「ここはグレタの未来ではなく、わしの未来の終着点にゃ~」
「はあ? ジジイの??」
「さっき、わしの父親を紹介したにゃろ? 見せることはできなかったけどにゃ。わしは父親より強い猫にゃ」
「アレより? ジジイは何も感じないのに……」
「ちょっとここで動かず待ってろにゃ。向こうから殺気を飛ばすから、気をしっかり持つんにゃよ?」
グレタはなんだか混乱しているので、わしは1キロぐらい離れた場所で隠蔽魔法を解き、スーパー猫又3になってから殺気を放つ。そしてスーパー猫又3状態が解除されたら、素早く戻って来た。
するとグレタは女の子座りでプルプル震え、その下には水溜まりもあったので【水玉】を頭から落として乾かしてあげた。やりすぎたな~。
「というように、わしは最強の猫にゃ。わしがその気になったら、世界は滅亡にゃ~。もしもわしが世界征服するとか言い出したら、人間はどうすると思うにゃ?」
グレタはまだ恐怖心が拭えないのか、話は聞こえているが声が出ない。
「倒そうとするはずにゃ。力で勝てないにゃら、頭でにゃ。わしの故郷には、この景色を作り出せる兵器が1万個もあったんにゃよ? その兵器でわしを倒そうと頑張ったけど、人間は住むところを減らして自滅しましたとにゃ。めでたしめでたしにゃ~」
わしが面白おかしく締めたけど、ぜんぜん反応がありません。
「まぁわしは人間が好きにゃから、こんにゃ未来が来ないように頑張っているんにゃ。グレタも人のこと言えないにゃよ? 我がクランメンバーは全員、いつでも世界の敵に成り得る存在にゃ。だからこそ、わしは……わしたちは人々の見本になれるように振る舞わないといけないんにゃ。わかったかにゃ?」
「はいっ!」
わしの話は難しかっただろうが、グレタはいい返事。きっとこれ以降は、軽はずみな言動はしないと信じて帰路に就くのであった……
数日後……
「あの……グレタさんが優しくて凄く気持ち悪いのですけど……」
改心したグレタは、猫クラン最下位のウロを必要以上助けているから、わしの下に苦情が来た。
「まぁ……攻撃的にゃグレタより、いまのグレタのほうがよくにゃい?」
「確かにそうですけど、私ばかりを構うので、いつもニナさんとケンカになるんですよ~」
「モテる男は辛いにゃ~……」
「モテるって……私のことですか?」
自分で言っていてイラッと来たが、ウロがまったくわかっていなかったのでイライラだ。
「こにゃいだニナと手を繋いでいたにゃろ? グレタと二股掛けてたら、わしはウロ君をどうするかわからないにゃよ?」
「め、滅相も御座いません! ニナさんとも何もないですよ!? ペットみたいでかわいいとは思いますけど!!」
「う、うんにゃ。それ、本人には言わないでやってくれにゃ……お願いにゃ~~~」
こんなに必死に否定されると、嬉しいよりも罪悪感が勝る。わしはニナに同情して、ウロより低く頭を下げ続けるのであったとさ。




