猫歴84年その8にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。わしは王様であって神様ではない。
ウロがまだ天皇気分だったので冗談で窘めたら、わしは神様扱い。なんでも第三世界では、発展途上国なんかがわしを猫神様とか言って神聖視してたんだとか。
確かに切っ掛けを与えたのはわしだけど、貧困問題を解決したのは第三世界の人なんだからやめてほしい……白猫教信者が増えまくっていたじゃと!?
一時期ララが白猫教布教を抑えたらしいが、救われたのは事実だから年々信者が増えてキリスト教を追い抜いたらしいけど、聞きたくありませんでした。
あ、アマテラスの存在が事実と知ったから、神道がブッチギリの1位になったのですか。それはよかったですね。それでも白猫教は総人口の2割もいるのですか……
あまり深く考えたくないので猫クラン研修に打ち込んでお昼寝していたら、ついにグレタとウロは正式加入となった。
狩りではグレタがガンガン行くので、前衛組が毎回説教。それで怒りが溜まってキレるのかと見ていたら、殴り合いしてるから大丈夫そうだな。
ウロは後衛なので、活躍も迷惑もさほどない。ニナがやたら褒めてるから、活躍してると勘違いしてそうだなあの顔は。ご褒美の虫クッキーはわしの下に持って来ないでくださ~い。
猫クラン活動は狩りがメインだが、ボランティアも含まれているので今日はアフリカの集落にやって来た。
その内容は、炊き出し、教育、農業、建築、娯楽、商売等々。わしは基本的に商売担当なのでレジャーシートを広げて原住民と売買して、その他の人はできることをやってくれている。
原住民はわしたちが来るなり商売ブースに群がるので、何人か手伝って人が捌けたら、各々の仕事に向かった。
「しかし原住民に施しをすると聞いていましたが、思ったより栄えているのですね」
ウロも手伝ってくれていたが、わしと話をしたいのか残って辺りを見回している。ニナは炊き出しに行けよ。
「ここはかなり昔から交流があるからにゃ。ゆっくりと成長して来たんにゃ」
辺りには土壁の建物が建ち並び、2階建ての建物もチラホラ見えるから、集落というより町に近い。これはわしたちが建築方式を教えて、原住民が頑張って建てたのだ。
「シラタマさんなら、簡単にこの規模の町を作ってしまいそうですが、時間を掛けたということには理由があるのですか?」
「そりゃこんにゃのが一夜で出来たら施しのし過ぎにゃろ。それに、自分たちで作ることこそが、自分たちの町だと誇れるにゃ~」
「そういうことですか……確かに原住民が自分で作らないと愛着を持てませんね。そんな町では発展させる意欲も湧かないということですか」
「そんにゃ感じにゃ。ここの歴史は撮影しておいたから見るにゃ?」
「はい。是非とも」
テレビを出して見せてあげたいけど、そんなことをしたら原住民が群がって来るので、ウロにはキャットタブレットを渡して見てもらう。
わしはまた商売に戻って奥様方の愚痴を念話を使って聞いていると、ウロが頭をバシバシ叩いて来たから、奥様方との会話はニナに変わってもらった。
「もう見終わったにゃ?」
「早送りで一通りは……その前に、この地の始まりに驚きです。ここはその昔、干ばつ地だったのですよね? どうしてこんなに緑が豊かになっているのですか!?」
「ああ~……」
どうやらウロは、驚き過ぎてわしの頭を叩いたっぽい。
「それもどっかのフォルダに入ってると思うんにゃけど……まぁいいにゃ。あそこに山と湖が見えるにゃろ?」
「はい……アレ? あんなところに山なんてありましたっけ??」
「いんにゃ。アレはわしが魔法で作ったんにゃ~」
「あんなに大きな物を……」
まさか高さ500メートルを超える緑豊かな山が人工物だったなんて、ウロはこれっぽっちも思っていなかったので呆気に取られてる。
「最初は井戸を掘ろうと頑張ったんにゃけどにゃ~……水源がぜんぜん見付からにゃいから、飲み水がチョビッとしか確保できなかったんにゃ。だからわしはない頭を使って考えたら、山があったら解決するんじゃないかと思ったんにゃ。
山ってのは木と土が水を溜め込むにゃろ? それでにゃんとかならないかにゃ~っと試してみたんにゃ。もちろん現地の人に神様とかいないか聞いてからにゃ」
山の作り方は超簡単。湖予定地の土を掘って隣に盛るだけ。いちおう崩れないように要所要所固めて、猫クランで踏み固めたのだ。みんな、わしが土遊びしてると思ってたけど。
盛り土が完成したら、この気候に合いそうな木と植物の種をいい感じに植えて、わしお手製急速成長薬を撒けば一夜にして森も完成。
そのせいで猫クランメンバーは傘を持って山の周りをクルクル回っていたから、隣のあの化け物に怒られる前に止めました。
これだけではすぐに枯れてしまうから、わしは定期的にやって来て花の種を植えたり蜜蜂を放ったり魔法で水やりしていたら、立派な山と、そこから流れた水が川となり、湖も完成したのだ。
「ま、そこからは、自然と草木が増えてにゃ。原住民も集まって来たというワケにゃ」
「町を作るより山を作るほうが驚きです……」
「そうかにゃ~?」
「当たり前ではないですか。土を運ぶだけでもトラックが何千台必要になるか……何年も掛かる事業ですよ」
「ここは魔法の世界にゃもん」
「はぁ~……私には一生できない気がするのに……はぁ~」
ウロは猫クランに入って、わしとの差に気付いたみたいでため息連発。これならもう質問がないと思ったけど、ありまくるらしい。
「それにしてもですよ? 山ひとつでこれほど緑が広がるモノですか??」
「誰がひとつと言ったにゃ?」
「ま、まさか……」
「あ、そこまで多くないにゃよ? 6個だけにゃ」
「充分多いですよ?」
わしが期待を持たせた言い方をしたせいか、ウロも冷静になって来たな。
「多いかどうかわからにゃいけど、その副産物が、面白い結果になったんだよにゃ~」
「面白いというと?」
「どういうワケか、降雨量が増えたんにゃ。これは第三世界のこの地域の降雨量を調べたから間違いないはずにゃ」
「り、理由はわかっているのですか? 研究しているのでしょ??」
「それが研究者がいにゃいから、わしが論文書いて発表したんだけどにゃ~……総スカン食らったにゃ~」
わしはまずは雲の発生するメカニズムから調べ、雲には水分が不可欠だと学んだ。そこから地上の水分量が関係しているのではないかと考える。
日本のような島国なら水分は海からいくらでも補充できるが、内陸では難しい。さらにここはカラッカラの干ばつ地。
蒸発する水分がないから、上昇気流が発生しない。その結果、水分も上空に昇らないから、雲の発生条件を満たさないのだ。
これを踏まえて、わしの研究。というか、実験。もう森や湖があるから、水分の蒸発量を調べて、雲の発生量と照らし合わせた。
その結果も予想通り。他の干ばつ地と比べると、一目瞭然。内陸でも水分の蒸発量が多い土地の近くには雨雲が発生しやすいと結論付けられたのだ。
「いや、凄い研究じゃないですか? 世界を救えると言っても過言じゃないのに、どうして誰もわかってくれないのですか!」
わしが掻い摘まんだ研究成果を発表したら、ウロは怒ってくれたからちょっと嬉しい。
「それがにゃ~……いま現在、ほとんどの国が困っていることは森の浸食なんにゃ。だから増やしてどうするんにゃ~って」
「あ……」
「そんにゃこと言われたらやる気も起きないにゃろ~?」
本当は南の国とかの砂漠地帯を緑にしようと思ったけど、山と湖なんか作ったら国土が減るって怒鳴られたから、もう知らない。砂に埋もれて滅んだらいいんじゃ……
「第三世界にそれは伝えてくれたのですよね? そっちは困っているのですから」
「にゃ……」
「忘れていたのですね……」
「しょうがないにゃろ~。散々マッドキャットとか、魔王とか言われたんにゃから~」
そりゃ国が滅びそうな研究発表をしたのだから、この研究は封印するしかなかった。元々魔猫とか呼ばれてたし……てか、マッドキャットってなんじゃ。サイエンティストが完全に消えてるじゃろうが。
この日はボランティアしに来たのか愚痴を言いに来たのか、わからなくなるわしであったとさ。
後日、猫クランがボランティアをしに来た場所は、ソロモン諸島に浮かぶ小島。ここは最近人間が住んでいることを発見したので、来たのは2回目だから裸族のような暮らしだ。
「ここはまた質素ですね……物々交換してるのですか?」
それでもウロは興味津々だ。
「うんにゃ。どれもそれも値は付かないだろうにゃ~」
「これも施しをし過ぎない配慮ですか。場所によって、ボランティアの仕方も変わるのですね」
「ま、正解はわしもわからないけどにゃ~」
ウロはこれ以外でも、前回の場所ではネコ札を使っていたことを質問。町ぐらい大きくなった集落には穀物を買い取る時にはネコ札を使って、わしから買う時はネコ札を返すという回りくどいお金の教育していることを教えてあげた。
そうしていくつかの質問に答えて、もうやることもなくなると、ウロは虫を探しに行くとニナと手を繋いで離れて行った。
「にゃ? まさか付き合ってるにゃ……」
「ジジイ」
わしがその光景に驚いていたら、グレタが隣に来てウンコ座りした。
「ど、どうしたにゃ?」
「どうもこうもない。なんでこんな弱いヤツらに施ししてんだ。ジジイは強いから奪う側だろ?」
「奪う側って……にゃに言ってるにゃ?」
「なんだよ。オレ、変なこと言ったか??」
グレタがあまりにも物騒なことを言うから、わしの目にはグレタがバイキングに見えた。これは二本の角のせいじゃな……
「まぁ……わしの考え方だと変だにゃ」
「はあ? 弱者が強者に虐げられるのは普通だろ」
「そういう考えの人がいるのは事実にゃ。しかしわしは、それを美徳としてないにゃ」
「美徳なんかでメシが食えるか。奪えば食い放題だ」
「それはどうだろうにゃ~?」
「どういうことだ!!」
グレタはまだ噛み付いて来るので、今度教えてあげると今日のところはコリスに預ける。ボコスカ殴り合っているところを原住民が楽しんで見ていたらしい。
そうしてボランティアが終わった数日後に、わしはグレタだけを連れてキャンプ。曾孫とキャンプデートなんて、長く生きるモノだ。
「ここはグレタが目指す世界の一歩手前にゃ」
「どこがだ? オレは森の中でなんか暮らしたくないぞ?」
「目に映る人から全てを奪って暮らしていたら、最後は自分1人になると言ってるんにゃ。こんにゃところで暮らせるにゃ?」
「な、なんとかなんじゃね?」
「んじゃ、キャンプスタートにゃ~」
グレタは強がっているのは見え見えだが、わしはキャンプ道具一式を投げ渡して離れる。そうしてわしはさっそくテントの設営をしていたら、グレタが近付いて来た。
「なあ? 何してんだ??」
「寝床作ってるんにゃ。雨が降って来たら困るにゃろ?」
「確かに……どうやって作るんだ?」
「さあにゃ~? グレタは教えてくれる人をムカつくってだけで殺しちゃったから、1人でやるしかないにゃ」
「おお~い。教えてくれてもいいだろ~」
「知らないにゃ~」
わしが頑なに拒否したら、なんとかグレタは離れて行ってテントの設営を始めた。わしは器用なのでチョチョイのチョイで完成させて、焚き火でお湯を湧かしてコーヒーを飲みながらグレタの様子を見守る。
すると、グレタはわしのテントを参考にやっていたけど、まったく上手くいかないから諦めた。というか、骨組みを折って布も破いたから、ゲームオーバーだ。
「なあ? メシは??」
グレタは寝袋を発見したから、それで1日凌ぐみたいだけど腹は満たせないのでまたわしの下へ寄って来た。
「キャンプキットの中に、塩と調味料があるにゃ。フライパンと鍋もあるから、それで作ったらどうにゃ?」
「はあ? 料理なんかしたことねぇよ」
「そう言われても、グレタはマズイって理由で料理人殺しちゃったからにゃ~。他の人も殺しまくったにゃろ?」
「んなことしねぇよ!」
「したんにゃ。したから誰もいないんにゃ。わしは手伝わないからにゃ」
ここまでアドバイスしたわしは、グレタに見えない速度で移動して目の前から消えるのであった……




