猫歴84年その5にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。家族が悪口言ってたから悲しい。
アリスがわしのことを意味有り気な横文字で怒鳴るから、おそらく悪口なんだろう。なので猫クラン研修は他の人に任せ、気になっているモフモフ組を誘って猫大秘密地下施設の大図書館で調査。
猫関連の本を探し出せば謎が解けると思っていたが、写真付きの本は一冊も見付からず。そんなワケないだろうと話し合ったら、王妃様方のお楽しみ部屋が怪しいということになり、夜中に忍び込むことになった。
王妃様方のお楽しみ部屋とは、わしのぬいぐるみや人形が所狭しと飾られている部屋。置き場所に困ったのか、ぬいぐるみが天井から吊るされて首を吊っているように見えるから、わしが近付かない部屋だ。
子供たちも小さい頃には連れて行かれていたが、モフモフ組は自分がいっぱい居て見られている気持ちになって泣き出したんだとか。たぶん、首吊りぬいぐるみもあったから、拷問部屋と勘違いしたんだろうね。
そんな曰く付きの部屋に、わしたちモフモフ組は覚悟を決めて踏み込んだ。
「にゃ? 綺麗に整理整頓されてるにゃ」
「もっとあったよにゃ~?」
しかし、足の踏み場もなかったぬいぐるみたちはどこへその。壁一面の棚にはギッシリ入っているが、特に汚く見えない。インホワたちも不思議に思ってキョロキョロしてる。
「あ、棚の一番下はほとんど本になってるにゃよ?」
「本当だにゃ。やっぱりここに運び込まれてたんにゃ~」
図書館の本を勝手に持ち出すなと言いたいところだが、手分けして作業。かわいらしい猫の写真ばかりの本を読んでいると「これってエロ本じゃね?」と誰かが呟いた。
確かにこんなに猫の写真ばかりを集められると、わしたちの立つ瀬がない。エロ本というよりは「アイドル写真集」だとわしは皆に言い聞かせる。ニナに「浮気写真」と言われて妻帯者はイラッとしました。
「じょ、冗談にゃ~。あ、これ? この本には、いっぱい猫の種類が載ってるにゃよ~?」
妻帯者から「さっさと結婚しろ」と責められていたニナは、ちょうど見付けた本で話を逸らした。
「エキゾチックショートヘアーは~……にゃにこの顔……」
「「「「にゃににゃに……にゃ……」」」」
エキゾチックショートヘアーの顔は、ぺちゃっとした鼻をしていてブサイク。こんなのと一緒にされていたのかと、わしたちモフモフ組は絶句だ。
マンチカンも調べたら、手足が短い! だからわしが演武をしたら、みんな笑っていたのか!? 手足が短くて悪かったですね~!!
謎が解けたあとは、激怒。ヤケ酒を飲みながら「にゃ~にゃ~」文句を言ったりクダを巻いていたら、お楽しみ部屋のドアが勢いよく開いた。
「誰が騒いでいるのかと思ったら、サクラたちだったのね……」
「インホワ~。そこで何してるニャー……」
「みんな、ここは入りたくなかったのでは?」
そこに立つのはリータ、メイバイ、イサベレの、猫家最高権力者。わしは家族からナメられているので、権力ないよ?
その3人は冷めた目で見ているからインホワたちもブルッと震えたが、覚悟を決めて立ち向かった。
「この本はなんにゃ!?」
「みんにゃして、ブサイクだと笑ってたにゃ!?」
「「「「酷いにゃ~~~!!」」」」
非があるのは王妃様方だ。モフモフ連合の訴えは、王妃様方の心に響く……
「そんなこと思ってないよ~?」
「みんなかわいいニャー」
「ヨシヨシ。ヨシヨシ」
「「「「ゴロゴロゴロゴロ~~~!?」」」」
いや、よくわかりません。リータたちはインホワたちをしこたま撫で回し、口を塞いだのであった……
「……もういいかにゃ? 脱出にゃ~」
わしは白猫ぬいぐるみに擬態していたから、モフモフ被害にあわなかったのであったとさ。
翌朝の10時頃にわしがリビングに顔を出したら、モフモフ組が「この裏切り者!」と大合唱。王妃様方の撫で回しを1人だけ回避したと思われたみたい。
「その罰にゃら、さっき受けたにゃ……3時間も撫で回されたんにゃ……もうお外も歩けないにゃ~~~」
回避できたと思ったのは、翌朝まで。どうやら王妃様方はわしが寝床に居なかったから、浮気してるんじゃないかと探し回っていたんだとか。
インホワたちを撫で回して気持ちが落ち着いたからそのまま眠りに就けたが、朝にわしが幸せそうにグウスカ寝てる顔を見て、「そういえば昨日の罰忘れてたね」と、長い長いモフモフの刑を執行したのだ。
複数人で受けたモフモフの刑をわしは1人で受けたのだから、モフモフ組も怒りは鎮火。各々の部屋に向かうのであったとさ。
わしも猫クラン研修に戻ったら、ウロから苦情。グレタばかり構っていたから寂しかったらしい。
「それはすまなかったにゃ~。いまはどんにゃ感じにゃの?」
「見てください!」
ウロはいろいろウロウロやったけど、いいとこC級ハンター並み。猫クラン研修が始まってまだ2週間だから、そんなモノだろう。
「うんにゃ。もう少し体力付いたら、重力魔道具を使って行こうにゃ。魔法はサクラに任せたにゃ~」
「もう行くのですか!? 私ももっと見てくださ~~~い!!」
かと言ってわしも忙しい身。1人に構ってられないのでグレタを見に行く。
こちらも朝の内は基礎体力と基礎魔力の向上をやっていたので、今朝のモフモフの刑が尾を引いていたわしはお昼からお昼寝。家族がやってくれるなんて、こんなに楽なことはないな。
そうして別宅の縁側でグウスカ寝ていたら事件が起こる。縁側の底が抜け、グレタの悲鳴が上がったのだ。
その声に驚いた猫クランメンバーは訓練をやめ、走って別宅に駆け寄って来た。
「ウロ君。何があったのですか?」
「あの、その……ちょっとしたイタズラを……」
リータが優しく質問しているのに、ウロはシドロモドロ。ひとまず拳から血が噴き出しているグレタをサクラが治してから話を聞く。
どうやらウロとグレタは3時の休憩で縁側までやって来たらしい。そこでは訓練も見ないでお昼寝しているわしがいたので、2人で驚かせてやろうと企んだ。
そのやり方は、グレタの案でわしをぶん殴ること。ウロも剣の達人のわしなら、そんな攻撃を受けないと思って止めなかったらしい。
しかし、わしは起きないどころか、グレタの拳を受けて縁側も抜ける事態に。その結果、グレタの拳が割れるという大惨事となったそうだ。
「申し訳御座いませんでした」
ウロがシュンとして頭を下げるとリータは微笑み、まだ起きないわしの首根っこを掴んで優しく声を掛ける。
「シラタマさんを起こすには、殴り方が悪かったですね」
「……はい??」
「シラタマさんは、すっごく頑丈なんです。私でも本気で殴ったら怪我しちゃいますよ。特に地面に固定されている時は要注意です。殴るなら、お腹です」
「はあ……」
最愛の夫が殴られたと言うのに、リータは特に気にしないで話を続けるからウロも呆気に取られる。
「ここ。お腹は空気を吸って、上下してるでしょ? 膨らんでいる最中は硬いからダメですよ? しぼんで行く時が殴り時です。いくら硬いシラタマさんでも、この時だけは息が止まるんです」
周りでウンウン頷いている人間が数人いるってことは、やったんだね。
「あと、上からは絶対殴っちゃダメです。力が逃げる場所がありませんからね。こういうブラブラしている時は、辛うじて大丈夫です。ね? メイバイさん??」
「うんニャー。見ててニャー?」
リータがわしの首根っこを掴んだまま前に出すと、メイバイが素早い連続パンチ。わしはブランブランと揺れている。
「ね? 大丈夫でしょ??」
「まぁ本気で殴ったらこれでも怪我することあるから、その点は注意だニャー」
「「「「「はいにゃ~」」」」」
そうしてリータとメイバイが締めると、皆はいい返事。そのやり取りの中、2人だけ顔をしかめている人がいた。
「あんたたち……夫で父親のシラタマ君をサンドバッグにするなんて、よくできるわね……」
「さすがのノルンちゃんもドン引きなんだよ~」
ベティとノルンだ。いつもわしをからかう側なのに、こんなに酷いことはさすがにできないドン引きしてるよ。
「「「「「あ……にゃはは」」」」」
そのツッコミのおかげで、リータたちも酷いことをしていたと反省するのであったとさ。
結局のところ、モフモフの刑で起こされたわしは、グレタとアリスの乱取りを真面目に見ている。でも、皆がわしのことを変な目で見るから気持ち悪い。
ベティとノルンはわしのことを哀れんだ目で見て来るので、もっと気持ち悪いな。
「にゃんなの? 言いたいことあるにゃら言ってにゃ~」
「いくらなんでもあたしも言えない! ううぅぅ」
「マスター、今まで酷いこと言って悪かったんだよ~。ううぅぅ」
「にゃんで泣きながら抱きつくにゃ~……あ、アレにゃろ? お前たちもわしのことエキゾチックショートヘアーとか言ってたんにゃろ?」
「「エキゾチック……ブハッ! キャハハハハハ」」
「泣くか笑うかどっちかにしろにゃ~」
わしが予想を言ったら2人は泣き笑い。涙や鼻水をわしの着流しで拭き出したから、コリスに頼んで引き離してもらうのであった。
皆の目は気になるけど、3日も経たないうちに普通の空気に変わったので、もう悪口問題は収束。猫の本の件は、国民の目が届かないところに隠してくれていたと思うことで不問にした。
そうして猫クラン研修にわしが力を入れつつお昼寝もしていたら、そろそろ次の段階に行ってもよさそうだ。
「乱取りを始めてから10日になるけど、グレタはアレ以来キレたことないよにゃ?」
「そういえば、ずっと頭は冴えてるな」
「怒りはどうにゃ? 急に湧いて来たりはしなかったにゃ?」
「たぶん……」
「じゃあ、乱取りは一日置きに変えて、様子を見てみようにゃ~」
「えぇ~」
「やった」
猫クラン研修はまだ序の口だよ? まずはグレタの怒りの制御だ。乱取りが減らされると聞いたグレタは嫌そうな顔をし、アリスは助かった顔。
なのでアリスは、グレタとの乱取りがない日はサクラの下へ送り込んだから、同じく嫌そうな顔をしてくれた。
それから10日。1日置きの乱取りでもグレタは怒りの制御ができていたので、次の10日は2日置き。これもクリアーしたが、やはり72時間の壁は越えられなかったから、調査はここまででいいだろう。
わしは猫クランメンバーを全員集めて話をする。
「え~。グレタには、2日置きに誰かと殴り合いをしてもらいますにゃ。ただ、これからドンドン強くなって行くと思うから、限界が来たら上位者に変えて行くから覚えておいてくれにゃ」
「おうっ!」
「はいっ!」
「「「「「にゃっ!」」」」」
「「……にゃっ??」」
「その返事は別に覚えなくてもいいにゃよ?」
せっかくわしがいいことを言ってグレタとウロがいい返事をしてくれたのに、その他全員が変な返事をするので、まったく締まらない発表となるのであったとさ。




