猫歴84年その3にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。曾孫がボコボコに殴られる姿を見るのは、辛い!
グレタが最強だとのたまうからには、教育的指導は必要。わしが心を鬼にして猫クラン組手を見守っていたら、猫クランランキング12位のサクラまで終了となった。
もちろんグレタはボッコボコ。でも、まだ心が折れないのだから続けるしかない。
「13位はリリスにゃ。手加減してあげるんにゃよ~?」
「ホロッホロッ」
現在2メートル近くまで成長した白リスしっぽ猫のリリス57歳は、猫クランランキングがもっと上でもいいけど、お腹が空いた時とかにムラがあるから減点だ。戦闘そっちのけでわしの所に走って来るもん。
それでもリリスは温厚というかランキングには興味がないので、笑顔でグレタと対峙。尻尾ベチコーンって、一発で倒しちゃったから褒めておこう。皆には甘いと言われたけど、一番倒し方がスマートだから当然だ。
「14位は~……マティルデで、15位はアリーチェにゃ~」
「私もやるの?」
「娘は叩きたくないな~」
「わしも心を鬼にしてるんだから、協力してくれにゃ~」
「「心も人間じゃないんだ」」
「言葉の綾にゃ~」
ハイエルフの白髪長身マティルデ推定106歳と白髪少女に見えるアリーチェ推定104歳は、昔はリータたちと切迫していたのにたまにしか訓練に参加しないので、下から追い抜かれまくりでこの位置。
今日もやる気がないので、2人ともビンタ一発でグレタをのして終了。てか、マティルデはいつまでキアラの部屋に居候するんじゃろ?
「次は~……16位エリザベスで、17位はルシウスにゃ」
「そんなに低いんだ……」
「嘘だろ……」
「訓練もせずに寝てるからにゃ。わし、知ってるにゃよ?」
「「ギクッ!?」」
「こっち来た時は強くなりたいって言ってたのに、その気持ちはどこに行ったんにゃ~」
普通の白猫エリザベスとルシウス共に86歳は家猫期間が長すぎて、すぐに訓練は飽きていた模様。何か言い訳をしていたけど、この順位はプライドが傷付いたらしく、今度から頑張ると言ってた。その言い方だと頑張りそうにないな……
とりあえず2人が元気になったところで、グレタにネコパンチ。倒れたところにもネコパンチをしていたから、ネコリーストップ。猫がじゃれているように見えたけど、普通の猫じゃないから死人が出るもん。
「18位はアリスだにゃ」
「うぅ。猫祖父母にいつの間にか追い抜かれてました~」
「そりゃわしの兄弟にゃもん。てか、原因は研究ばかりしてたからにゃ~。このままじゃシゲオたちに追い抜かれるのも時間の問題にゃよ?」
「うぅ……その時はその時です~」
「そこは訓練頑張ると言おうにゃ~?」
金髪猫耳女性アリス51歳はそこまで戦闘が好きじゃないので、訓練より研究のほうを優先したいみたい。というか、古代遺物を愛でる時間のほうが長い気がしないでもない。
このアリスは後衛職だが、猫クランの活動場所はとんでもなく厳しい環境なので、強靱な肉体は必須。後衛職でもB級ハンターを片手でのしてしまう力があるので、グレタもポコポコ叩くだけで撃沈だ。
そういえばアリスには格闘技教えてなかったな……
「えっと~……19位はシゲオにゃ」
「その間はなんにゃ? もっと下って言いたいにゃ??」
「いや、前の試合に反省点があっただけにゃ~。シゲオも女の子を殴ったら、わしが怒るからにゃ?」
「誰が女なんか殴るにゃ!」
黒猫シゲオ32歳はヤンキーに見えて紳士的なので、グレタの拳を受け続けてくれた。でも、あまりにもしつこいから前に出たな?
インホワと同じく、グレタは両手両足がボロボロになったのでわしはシゲオを説教。すぐに王妃様方がわしをモフリ……説得に来たので次の挑戦者を呼び出す。
「20位は同着にゃ。ナディちゃんとグリ君にゃ~」
「「双子だからひとまとめにしたでおじゃる?」」
「まぁ……どっちが上って言ってもケンカしないにゃ?」
「「そんなことでケンカしないでごじゃる~」」
「じゃあ……みんにゃ~。どっちが上だと思うにゃ?」
「「わからないだけだったでおじゃるか!?」」
続いての対戦相手はグレタの姉と兄、一本角の双子鬼ナディヂザとグリゴリー共に31歳だけど、2人は式神使いだから正直よくわかりません。1歳下のシゲオのほうが訓練熱心で前衛だからわかりやすいのでこの位置だ。
皆にも聞いてみたけど、全員唸るだけ。後日、2人に戦ってもらって順位を決めることに落ち着いた。
「ちょっと休憩時間あげ過ぎたから、2人で体力削ってくれにゃ~」
「わかっているでおじゃる。痛め付けてやるでおじゃる~」
「というか、積年の恨み、晴らさせてもらうでごじゃる~」
「ホドホドにするんにゃよ~?」
「「おじゃるぅぅ~!!」」
喋り過ぎたので2人にはお願いしてみたけど、殺しませんように。双子が20歳の時に6歳のグレタに泣かされたから、相当恨みがあるみたいだから無理っぽいな。
とりあえずナディヂザが10分ほどグレタを甚振ったら、グリゴリーにチェンジ。5分ぐらい甚振る姿を見ていたら、シゲオから「グリゴリーは男だぞ?」と言われて慌てて止めた。見た目がオニヒメそっくりだから、気付かなかったの。
それでもグレタはボロッボロのボロ雑巾になっていたから、回復魔法で治して次の対戦相手だ。
「次で最後にゃ~。オオトリは……」
「ノルンちゃんだよ~!!」
そう。猫クランランキング最下位は、妖精ゴーレムのノルン推定1079歳……
「ノルンちゃんなんか呼んでないにゃ~」
いや、わしが呼び出そうとしたのは違う人。ノルンは勝手に出て来ただけだ。
「なんでなんだよ! ノルンちゃんも猫クランの一員なんだよ!?」
「ノルンちゃんはマスコットにゃろ~」
「マスコットはマスターなんだよ! ノルンちゃんはマジカルベティ&ノルンにも属しているから戦えるんだよ!!」
「それ、昔、脱退したとか言ってにゃかった?」
「いつの間に脱退してたの!? 2人で頑張って行こうって約束したでしょ!?」
「ベティはうるさいから話に入って来るにゃよ~」
わしがノルンと揉めていたら、魔法少女ユニットの創設者が脱退は認めないとうるさいな。ベティも魔法少女卒業したとか昔言ってたじゃろう。
しかしこのままでは収拾がつかないので、もういいや。猫クランランキング最下位と認めて、ノルンを送り出す。
「マジカルチェンジ! 【妖精の怒り】なんだよ~~~!!」
その結果は、魔法少女衣装に着替えたノルンはグレタの目では追えないほどのスピードであった為、頭から生やした角を避けられず、グレタは感電して倒れるのであったとさ。
「ビクトリーなんだよ~! ムグッ」
「んじゃ、オオトリはクラン見習いのウロ君にゃ~」
ノルンが勝鬨を上げてうるさいので、わしは口を塞いで猫耳青年ウロ今年23歳を呼び出す。
「私で大丈夫でしょうか……」
「まぁ身体能力では倍以上差があるから、心配にゃ気持ちはわかるにゃ。でも、ウロ君のようにゃ弱者に負けることこそが、グレタの為になるんにゃ」
「ずっと強さに拘っていましたからね。それは私のような者に破れるのは堪えるでしょう」
「にゃろ? そのためにスタミナはスッカラカンしにておいたから、わしの教えた通りやったら大丈夫にゃ」
「わかりました。なんとかやってみましょう」
ウロは自信がなさそうだったが、わしの考えに賛同してくれた瞬間に精悍な顔となった。でも、グレタに近付くと体格差と殺気にビビって情けない顔で振り向いたから、猫クラン総出で応援する。
「んじゃ、これでラストにゃ。はじめにゃっ!」
グレタは仕掛けられないぐらい体力の限界が来ていたので、わしが間に入ってレフェリー。開始と同時に、ウロは手袋をしている右手をグレタに向けた。
「【王水】にゃ~~~!!」
手の平に浮かぶ魔法陣。そこからグレタの体の倍はある水の球が飛び出し、グレタは避けられずにブッ飛ぶのであった。
ウロ君だけには、「にゃ~」とか言ってほしくなかったな~……
「みんな素手で戦っていたのに、私だけ魔法ってズルくないですか?」
「まぁ……ズルしにゃいと勝てにゃいし……」
猫クラン組手は終わったけど、ウロの苦情は止まらない。皆からもブーイングされてるもんね。たぶんブーイングはわしに対してだから、気にすることないよ?
ちなみにさっきの魔法は、アリスお手製魔法陣。ウロの魔法では心許なかったから、どうせズルするならとことんズルしてやったのだ。
ウロの目は冷たいし皆のブーイングは聞いてられないので、わしは「これしかなかったんですよ~」と頑張って宥めていたら、どこからか笑い声が聞こえて来た。
「クッ……ククク……クハハハハハハハ!!」
その方向を見たら、グレタを治療していた双子がオバケでも見たような顔でこちらに逃げる姿。残されたグレタは大の字になって狂ったように大笑いしてるから、わしたちも怖い。
「これって……気が触れたんじゃ……」
「シラタマ殿がやりすぎたんニャー」
「わしはグレタに暴力振るってないにゃ~。みんにゃがやりすぎたんにゃ~」
「企画したのはダーリン。責任取って」
「みんにゃも賛成してくれたにゃろ~」
リータとメイバイがわしに罪があるような目で見て来るから言い訳したけど、イサベレが背中を押す始末。他のメンバーもわしが悪いとグイグイ押すので、とうとうグレタの目の前まで来てしまった。
「あ~……頭、大丈夫にゃ?」
こんな聞き方は失礼だったのか、猫クランメンバーは代わる代わるわしの頭をスパーンッと叩きやがった。エリザベスのは痛かったぞ? 気功乗せたじゃろ?
わしの頭は硬いから大丈夫だけど、グレタが心配なので視線を戻したら勢いよく体を起こした。
「あぁ~! スッキリした~~~!!」
その顔は気分晴れ晴れ。こんなにいい笑顔のグレタは初めて見たけど、殴られまくったので頭に異常があるかもしれない。もしくはそっちの趣味なのか?
「だ、大丈夫にゃ? どこか痛いとこないにゃ??」
「おう。アネキたちが治してくれたからな。ありがとな」
グレタが感謝の言葉を言うことも、契約魔法で言わせるしかできないことなので、やはり頭でも打ったのではないかと皆はヒソヒソやってる。打ったというか、しこたま殴っていたぞ?
「ま、まぁ元気ならいいにゃ。ちなみに吐き気とか目眩とか、幻覚とか見えてないにゃ? にゃんか変なところがあったらにゃんでも教えてくれにゃ」
「ぜんぜん。しいてあげるなら、初めて怒りが消えた」
「怒りにゃ?」
グレタ曰く、生まれてから今までずっと怒っていたらしい。自分でもその怒りはどこから来ているのかはわからないし、年々増えていたそうだ。
「てことは~……おにゃかすいてにゃい? 飲み物も出しておくにゃ」
「おう! サンキュー!」
なんとなくグレタが置かれている状況を理解したわしは、同じような顔をしていたリータ、メイバイ、イサベレやその他を集めて会議をする。
「これって……わしたちがストレスの発散させる場を奪っていたから、年々凶暴ににゃっていたのでは?」
「ですね。子供の頃は私たちが相手していたから、まだマシだったのかもしれません」
「中学校からは契約魔法で縛ったのは最悪だったかもニャー……」
「だからあんなに死ね死ね暴言吐いてたんだ……」
「大失敗にゃ~~~」
そう。わしたちはグレタのことを見誤っていた。暴力を封じればいつかは優しい人間になると思っていたから、教育方針が完璧に間違っていたのだ。
この日、わしたちはグレタに悪いことをしていたと、心底後悔したのであった……
「あの~……私を使う必要もなかったのですよね?」
「う、うんにゃ。いまは反省してる最中にゃから、足さないでくれにゃい?」
最弱のウロに負けて改心させる作成も大失敗だったのは認めるから、ウロさんには少し黙っていただくわしであったとさ。




