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猫王様の千年股旅  作者: ma-no
猫歴50年~

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猫歴84年その1にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。株取り引きなんて大嫌い。


 アメリヤ王国が株取り引きをやりたいと言い出したから手伝ってあげたら、わしが助言し過ぎたのでサヴァンナ女王たちから「手伝って~」と泣き付かれてしまった。

 フユからも「手伝え」と言われてお母様方にもチクられたから、即決定。だってこれ、システムを作る以上に大きなお金が動くし、とてつもなく大きな功績になるもん。


 いちおうやんわり断ってみたけど、モフられてわしの意見は却下。仕方がないので、後日、アメリヤ王国に助っ人を連れて行ってサヴァンナたちに顔見せだ。


「「なんですかその詐欺師は……」」


 でも、助っ人の顔を見るなり、サヴァンナたちは汚物を見る目。胡散臭い顔をしてるもんね~?


「あぁ~。こいつはホウジツの曾孫でズールイって言うにゃ。どうもホウジツの一族は、優秀にゃヤツは胡散臭い顔になっちゃうんだよにゃ~……腕は確かだから、顔のことは一旦忘れてやってくれにゃ~」


 そう。助っ人とは、ホウジツの曾孫ズールイ30歳。名前からして胡散臭いけど、中国語で博識な人になってほしいという願いが込められてるんだよ?

 顔も胡散臭いから信用できないのはわかるけど、わしの顔はとぼけた顔って笑わないでください。


「あのホウジツさんの曾孫さんですか……いまはどのような役職に就かれているのですか?」


 サヴァンナとは違い、シャーロットはホウジツを尊敬していたから、この胡散臭い顔でもなんとか信用できるみたいだ。


「猫の国の要職には就いてないにゃ。わしのファンド会社で社長をしてもらっているんにゃ」

「ファンド会社??」

「簡単に言うと、株式会社に資金提供するだけの会社だにゃ。ウチは株式会社がにゃいから、会社の財産を担保に出資してるんにゃ。このファンド会社もホウジツが作ったんにゃよ~?」


 ズールイを雇用したのは、わしが会社運営が面倒だから。そこそこ優秀と聞いていたが、金の亡者のような性格をしているから、なかなか扱いが難しいヤツだ。


 ホウジツは若手にチャンスを与えるためにファンド会社を作ったのに、ズールイは確実に利益が出る会社にしか出資しないの。だから会長のわしが、将来性のある会社に出資しているのだ。

 そのせいで、仲はあまりよろしくない。わしは赤字ばっかり出すもん。でも、たまに逆転満塁ホームランの会社が取り返してくれるから、その時だけはズールイも気持ち悪いぐらい機嫌がいいよ。


 ちなみにホウジツが出資して不平等な契約をしていた会社は、軌道に乗ったあとに酷い契約書に気付いて怒鳴り込んで来たけど、デスクにはわしが座っていたから土下座になってた。そりゃ王様には何も言えないわな。

 そこでネタバラシしたら、その後は契約書を穴が開くまで読むようになったから全てホウジツの狙い通り。毎年ホウジツのお墓に足を運んで、手を合わせるようになったそうだ。



 ある程度の人となりをわしが紹介したら、ズールイの挨拶だ。


「アメリヤ王国の画期的な取り組み、このズールイ、感慨深く思ってますぅぅ。私に任せてくれたら、アメリヤ王国を猫の国を超える経済大国にして差し上げましょう! そして私は世界一の富豪に……グフフフフ」

「「こんなこと言ってますけど……」」


 せっかくわしがいい感じで紹介してあげたのに、ズールイは悪い顔して心の声が漏れまくっているから、サヴァンナたちは「やっぱり詐欺師なのでは?」と不安な顔をしてるよ。てか、国民が猫の国を倒すなよ。

 なのでわしはズールイに聞こえないように念話でヒソヒソ話だ。


「金儲けに関しては、本当に天才的なんにゃ。ただ、グレーにゃことをしまくってにゃ~……」

「「そんな人を紹介されても困るのですが……」」

「言いたいことはわかるにゃ。だから、反面教師にしたら、いい法律を作れると思うにゃ。こいつには好きにやらせて、汚いとか外道とか思ったら、容赦なく規正してやれにゃ。にゃんだったら、ブタ箱に入れてもいいにゃ~」

「もしかして、アメリヤ王国に捨てようとしてません?」

「ウチはゴミ箱じゃないですよ?」

「滅相もないですにゃ~」


 確かにわしは、もっと使いやすい手駒に変更を考えているけど、本当に優秀なので受け取ってください。2人もわしの推薦だから、悩みに悩んで引き受けてくれた。やったね!

 ただし、ズールイだけではサヴァンナたちが言いくるめられそうなので、しばらくはわしも真面目に株取り引きの授業。人任せにしてるとフユにチクられそうって理由もある。


 その甲斐あって、サヴァンナたちもずいぶん株に詳しくなったはずだ。


「これ、おじ様だけで充分なのでは?」

「もう私たちだけでもできそうですよ?」


 すると、ズールイはさっそく戦力外通告。わしの授業は第三世界の本を参考にやっていたから、そりゃそうか。


「わしのは基礎の基礎にゃ。ファンド会社ってのは、どんにゃに汚い手を使ってでも金儲けするにゃよ? だからズールイが必要なんにゃ。デモのうちに、ズールイと勝負したらわしの言ってる意味がわかるにゃ~」

「「はあ……」」


 サヴァンナたちにわしの言葉はあまり響いてなかったが、株取り引きで勝負をしたら連戦連敗なので、すぐにズールイの危険性に気付いた。

 そのせいでわしのスマホは、サヴァンナたちからの苦情と愚痴で鳴り止まなくなるのであったとさ。



 猫歴83年は株取り引きの相談を受けたからアメリヤ王国に足を運ぶことが多かったので、例年よりわしの睡眠時間が短い年であった。みんな「また寝てる」とか言ってたから変わらないかも?

 株式のインターネット取り引きは、年内いっぱいはデモで練習を繰り返し、魔王みたいになっているズールイにアメリヤ王国の精鋭が挑み続ける毎日らしい。サヴァンナたちの苦情がうるさいので、スマホは着信拒否しました。


 そうして猫歴84年の1月に、法人向けのインターネット取り引きがヒッソリと開始した。だが、わしは忙しいので報告を聞いただけだ。

 そんなことを言って本当は暇なんだろうと思う方もいらっしゃると思うけど、今回はマジなんです。


「ウロ君、グレタちゃん。猫クランにいらっしゃいにゃ~」

「「「「「いらっしゃいにゃ~」」」」」


 リータの音頭で歓迎会が始まった通り、今年は猫クランに2人の若者が飛び込んで来たから、新人教育係のわしも忙しいのだ。


「グレタは置いておいて……ウロ君は本気にゃの? 大学で研究してたにゃろ??」

「ええ。子供の頃からお願いしていた通り、本気ですよ。ようやく夢が叶います」

「本気にゃら止めにゃいけど……ひとまず、わしたちの本気の活動を見てもらおうかにゃ? それからもう一回同じ質問させてもらうにゃ~」

「シラタマさんは相変わらず心配性ですね」


 歓迎会の翌日は、訓練から狩りに変更。猫クランにちょうどいい狩り場に転移して、わしは獣の虐殺風景を指差した。


「アレが、わしたちの本気の仕事にゃ」

「あわわわわわわ……」


 するとウロ今年23歳は腰砕け。熊の大群みたいな獣や怪獣みたいな獣が押し寄せているところを、猫クランが笑いながら突っ込んでるもん。

 第三世界生まれで第四世界の現代っ子には、恐怖映像にしか映らないから、覚悟を決めたと言っていたウロでも恐怖に腰を抜かしても仕方がない。わしでも怖いしな。特にお母様方が……


「ジジイ! オレも行かせてくれ!?」


 わしがウロを介抱していたら、グレタが興奮して声を掛けた。


「ダメにゃ。グレタの実力ではすぐに殺されるからにゃ」

「そんなのやってみないとわからないだろ!」

「わかるにゃ~。瞬殺にゃ~」

「行かせてくれ~~~!!」


 この地団駄を踏んでいる大柄の女性グレタ今年19歳とは、額から二本の角が生えているのを見たらわかるだろうが、オニタの第三子。つまりわしの曾孫だ。

 性格は凶暴。小さい頃から気に食わないことがあるとすぐに暴力に走るから、オニタ夫婦も手を焼いていた。ちなみに名前の由来は、アリーチェが先祖の名前から取ったらしいから、グレたワケではないよ?


 暴力を振るうぐらいならウチには強靱な肉体を持つ人間が多いので大目に見て育てていたら、グレタが6歳の時に歳の離れたナディヂザとグリゴリーをボコボコにして泣かせたので、さすがに手を打たなくてはならない事態に。

 契約魔法を使えば楽だが、子供に使うのは奴隷にしたみたいで気が引ける。家族会議の末、トラウマを植え付けるのはどうかとなったので、わしは必死に止めました。


 やり方は、猫ファミリー全員が揃っているところで、猫クランメンバーがグレタに殺気を放つだけ。それだけでグレタは泡を吹いて倒れたから、それ以降は家族には暴力を振るわなくなった。

 ちなみにわしは怖がられたくないからオニタの後ろに隠れていたので、たまに暴力振るわれていたよ。まったく痛くないから、かわいいもんじゃもん。


 しかし小学校のお友達は恐怖の範囲外。他所様の子供に怪我をさせては申し訳ないので、猫クランの誰かが必ず見張りでついて行くしかなかった。

 わしは怖がられていないからその大任は回って来ませんでした。失敗したな~。


 なんとか6年間を乗り切ったから性格も丸くなったかと思っていたら、中学校に入って思春期を迎えたら事件発生。授業中に急に暴れて、3人の生徒に怪我を負わせてしまった。

 その時の担当だったサクラはネコパンチでグレタを気絶させ、生徒は回復魔法で治したから大事なかったが、王族が暴力事件を起こしたのだから無かったことにはできない。


 わしは親御さんや各所に誠心誠意謝罪して回り、グレタにも罰を与えた。もう金輪際、暴力事件が起きないように契約魔法で縛ったのだ。

 テレビやネットでは未成年に契約魔法は罰が重すぎるのではないかと議論になったが、これで一応の決着となった。


 ちなみにオニタとわしは、契約魔法の対象外。オニタはその決断をしたから、親の責任でグレタの怒りを全て受け止めるため。

 わしは……大きな声では言えないが嫌われたくないから。でも、わしが契約魔法を掛けたから、めちゃくちゃ罵詈雑言を言われて殴られました。拳は痛くないけど、心は痛いから泣きました。


 そんな経緯があるから、大学進学は断念。義務教育の高校を卒業したら、猫クランで引き受けたのだ。赤点だらけでほぼ中退だから、ウチしか働き口がないってのもある。

 そして今日は、ウロもやっていけるか心配ではあったが、グレタが獣を見てどう反応をするか見ようと思って、訓練の前に狩りを見せたというワケだ。


「ジジイ~! なんとか言え~~~!!」

「もうダメって言ったにゃろ~。回想してるんにゃから揺らすにゃ~」


 その結果は、わしの襟首を掴んで揺らしまくる始末。グレタは戦闘を見てからバーサク状態になったので、こんな危険な場所で危険なことをやらかす前に、渋々命令して座らせるわしであった。


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