猫歴82年にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。モフモフは好みではない。
ワンヂェンがとち狂ってわしと結婚したいと言い出したからには、アレよアレよ。王妃主導でワンヂェンが夢に見た盛大な結婚式が開かれ、猫の国が祝福の声で溢れた。
側室の輿入れなのに、なんでこんなに盛り上がるのかと思ったら、ワンヂェン人気。建国からずっと民の体を治していたから、黒猫聖女と愛されているんだとか。
だったら、誰かワンヂェンを貰ってやれよ。100歳はちょっと……ですか。だからって結婚詐欺するなよ。
ちなみに詐欺師は捕まえて、刑に服しているよ。あまりにもワンヂェンがお小遣いをくれるから、魔が差したんだってさ。
結婚式が終わればハネムーン。猫の国王族しか使わない、インドネシアにある小島、猫の島マーク2に子作りして来いと放り込まれた。わしが名付けしたワケではないと察してください。
その島で2人きりになったわしとワンヂェンは、ロマンティックな夕焼けを見ながら三角座りで黄昏れていた……
「にゃんでウチ、シラタマとこうなってるんにゃ……」
「ワンヂェンのせいにゃろ~~~」
どうやらワンヂェン、魔法が解けた様子。わしと2人きりになって、やっと自分の好みを思い出したらしい。
「こ、これ、どうするんにゃ?」
「知らないにゃ~。さっきまでノリノリだったワンヂェンが責任取れにゃ~」
「責任って……離婚にゃ? たった1日で離婚できるワケないにゃろ! 祝福してくれた国民ににゃんて言うんにゃ!?」
「私がどうかしてましたにゃ。結婚詐欺にもあったんにゃから、同情の余地はあるにゃろ」
「いきなりバツイチはイヤにゃ~~~!!」
「だから、わしに言うにゃ。わしは被害者なんにゃ~~~」
結婚直後は、お互い海を見ながら嘆き声が凄まじいことに。ワンヂェンは喧嘩腰で、わしはテンション低く「にゃ~にゃ~」言い合うのであったとさ。
太陽が海に落ちると、わしは別荘にて証拠作り。豪華なディナーを並べ、仲良さそうな食事風景をスマホで撮影。お風呂は裸を撮るワケにはいかないので割愛。どっちもモフモフだから何も映らないけど……
綺麗さっぱりになったら、別荘のバルコニーにてお酒。これもパリピっぽく撮影しておいたけど、ワンヂェンはヤケ酒するな。まだ撮影が残ってるんじゃ。これがないと家に入れてもらえないんじゃぞ。
あとはベッドにインしているところを自撮りすればミッションコンプリートだ。
「逞しい胸板にゃ……」
「にゃに……酔ったにゃ?」
いちおう腕枕してみたら、ワンヂェンが気持ち悪い。
「にゃのに、このモフモフにゃ!!」
「にゃんなの? 暴れるにゃ~」
ワンヂェンがバタバタするので、わしは両手を掴んで覆い被さったら見詰め合うことに……
「まったくエロイ気持ちが湧かないにゃ~」
「うんにゃ。シチュエーションはバッチリにゃのににゃ~」
こんなありきたりなシチュエーションでも、どちらも反応なし。
「せめてシラタマが、ト〇・クルーズみたいにゃ顔と体だったらにゃ~」
「まったくの別人を言われてもにゃ……てか、わしだって、相手が吉〇小百合さんだったら、言われなくても襲ってるにゃ~」
「だよにゃ~。そんにゃこと……」
「うんにゃ。そんにゃこと……」
「「できるにゃ……」」
というわけで、成田離婚というか猫の島マーク2離婚しそうだったわしとワンヂェンは、この日結ばれてしまうのであった……
翌日は、夜にキャットタワーに帰ったわしたち新婚さん。王妃様方から「いらっしゃ~い」と出迎えられたけど、わしたちはずっとモジモジしてる。
その態度が気になったのか、わしが縁側で1人酒していたら、ベティ&ノルンが背後から忍び寄った。
「ヨッ。オトコになったんだよね?」
「オトコと言うより、ぬいぐるみなんだよ~」
「「キャハハハハ」」
どうやらぬいぐるみ同士の合体を想像してからかいに来たっぽい。つゆとお春の時はケモ耳だったから、今回が初だもん。
「にゃしゃしゃ。オトコどころかオオカミになっちゃったにゃ~。にゃしゃしゃしゃしゃ」
「「……アレ??」」
でも、わしの返しは想定外。2人は顔を見合わせてヒソヒソやってる。
「ねえ~? 何があったのよ~」
「教えてだよ~」
「にゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃ」
でも、わからないので直接聞いて来たけど、わしは答えない。
「みんな~! シラタマ君が変よ~!!」
「マスターが壊れたんだよ~! 大変なんだよ~!!」
なので、王妃様方頼り。わしが変な笑い方をしている姿を見せたら、王妃様方も心配してめっちゃモフられました。それでも口を割らなかったら「ワンヂェンもおかしい」とベティ&ノルンが言い出して、こちらにも拷問。
わしほど撫でられ耐性のないワンヂェンは、全てをゲロっちゃった。
「「「「「変身魔法??」」」」」
そう。わしとワンヂェンは、変身魔法の使い手。普段はモフモフ被害にあわないために変身魔法を使うことが多いのだが、お互いの好きな俳優女優の写真を見せ合い、その顔と体で事を成しちゃったのだ。
「マジで? それって健さんにもなれる??」
「なれるけど……なれたらにゃに?」
「あたしもシラタマ君の側室になる!!」
それを聞いたベティまで、何故か側室に立候補。
「「「ベティはちょっと……」」」
「なんでよ!?」
でも、王妃様方が即反対。たぶん、モフモフじゃないからだろうね。
「それとにゃんだけど……後ろにゃ。後ろを見てみろにゃ」
「後ろ?」
「ママ……」
「エミリ!?」
わしの好みは置いておいて、ベティは側室であるエミリのお母さん。輪廻転生して戻って来たから血筋は別だけど、心で繋がる母親と娘が側室なんて、エミリが引くに決まってる。
「私って、結婚できると思う?」
「選ばなければいつかできるにゃろ」
「健さんみたいな不器用な人がいい~~~!!」
「まず、日ノ本に行けにゃ~~~」
ベティは若く見えるけど、わしと同い年の83歳。ここが一番のネックとなっているのに選り好みも酷いので、わしは結婚できないに百万ネコを賭けたのであったとさ。
てか、不器用な人との結婚生活なんて、大変なのでは……
猫歴81年は、まさかのワンヂェンとの結婚という大イベントがあったので、猫の国が珍しく浮き足立っていたけど、我が猫家は微妙な空気。
なんだか王妃様方が、わしとワンヂェンばっかり寝室に2人きりにするので、子供や孫たちが変な目で見て来るから恥ずかしい。
その甲斐あってワンヂェンがすぐに身籠もったので、なんだか悪いことしたみたいな気持ちだ。ヒソヒソ言わないでください……
そんな居たたまれない空気のなか日々は過ぎて、猫歴82年に新しい命が産み落とされた。
「パン…ダ……」
「「「「「かわいいにゃ~」」」」」
でも、猫ではなくパンダが産まれたので、わしは固まり、王妃様方は絶賛。こうなることを見越して、わしとワンヂェンをくっつけたと思われる。
「シラタマちゃん! 赤ちゃんいるって!?」
ワンヂェンの体調が悪かったからエルフ市の産屋から動かせなかったので、赤ちゃん共々そこで産休していたから、約1ヶ月後にミテナは初めて赤ちゃんと御対面。
「シラタマちゃん。パンダの血、入ってたの?」
やっぱりミテナにもパンダに見えるらしいけど、これでも猫型人間です!
「見ての通り、白猫と黒猫のハーフにゃ。こんにゃ奇跡的な色合いって信じられるにゃ?」
「こんなにかわいいんだから、神様に感謝だね! お~よちよち。おば……おね……赤の他人ですよ~? かわいいね~」
パンダ柄の猫が産まれたんだから、神様なんかに感謝できるワケがない。なんだったら、作為的な物だって感じるのにミテナは聞いてくれない。
「まず、わしの言いたいことを処理してからボケてくれにゃ~~~」
自分のことを赤の他人とか紹介するヤツいる? わしのツッコミも無視して、ミテナは赤ちゃんを抱いたままあやし続けるのであったとさ。
赤ちゃんは少し柄に異常はあるけど、元気に産まれて来てくれたのだから感謝しかない。久し振りの実子はわしもかわいくって仕方がないのでお世話をしたいのに、ワンヂェンがやらせてくれない。
「だって……ウチが初めてお腹を痛めて産んだ子にゃもん」
「それはわかってるにゃよ? でも、1人で子育ては大変にゃ~」
「1人じゃないにゃ! リータたちが取っ換え引っ換え来るから、シラタマまでやったらウチの出番が少なくなるんにゃ!!」
理由はそういうこと。王妃様方もわしの子供は久し振りだから……ではなく、パンダ柄の赤ちゃんがかわい過ぎて、世話を焼いちゃうのだ。いちおうワンヂェンに気を遣って順番で来てるけど、わしにも気を遣ってください。
文句を言ったら「働け!!」って逆ギレされたので、わしはキャットタワーから転落。どうしたものかと考えて、暇潰しに猫会でも見てやろうと猫会議事堂に足を運ぶ。
そして中に入ってエントランスを歩いていたら、ノルンが正面からパタパタと飛んで来た。
「こんなところで何してるんだよ?」
「いや、王様にゃんだから、ここにいても不思議じゃないにゃろ?」
「不思議なんだよ。王様が猫会の終わる時間も把握してないんだよ」
「いや、その……」
そりゃ、猫会が終了した時間にやって来たら、そんな反応になるわな。わしもぐうの音も出ません。
それでも頑張って反論していたら、エントランスが騒がしくなって来た。
「にゃにアレ?」
そっちに目を持って行ったら院長総回診みたいな集団がいたので、これで話を逸らさせてください。
「首相とその取り巻きなんだよ。プラス、記者が10人はいるんだよ」
「ふ~ん。アホらしいことしてるにゃ~」
「ホント、人間は無駄なことが好きなんだよ~」
わしとノルンが院長総回診を見ながらぺちゃくちゃ喋っていたら、わしに気付いた院長……じゃなかった。前回の選挙で猫市の首相を下したソウ市出身のオッサン首相がニヤニヤした顔で近付いて来た。
「これはこれは猫陛下。お供も連れずにどうなさったのですか?」
こいつは10数年前に世界金融会議で粗相をしたキンペイ首相の息子、キントウ。元々ソウ市の市長をしていたが、父親の地盤を引き継いで早くも首相まで登り詰めたできる男らしい。
キントウ首相は明らかにわしに嫌味を言っているけど、相手してやるのは時間の無駄だ。
「お供にゃら、ノルンちゃんがいるにゃよ?」
「プッ……そんな人形がお供ですか」
「こいつ失礼なんだよ~。ノルンちゃんを見て鼻で笑ったんだよ~。ブッコロしていいんだよ?」
「これでも首相にゃんだから、ダメに決まってるにゃろ~」
でも、ノルンまで馬鹿にしたから、ノルンがオコ。戦闘力ならキントウ首相を遥かに上回っているから絶対にやっちゃダメだ。
ただ、キントウ首相はそんのことを知らないので、わしたちの言い方に腹を立てた顔をしてる。
「失礼はそちらでは? こいつだとかこれでもなんて、首相の私に対して失礼すぎます。訂正と謝罪を要求いたします」
「にゃんか勘違いしてるにゃ~……わし、王様。ノルンちゃんはこれでも王族にゃ。そもそもそっちが勝手にやって来て、嫌味を言ったにゃろ? わし、そのことに謝罪しろと言ったにゃ?」
「くっ……」
口喧嘩なら、猫の国最高権力者のわしに勝てるはずがない。だが、キントウ首相もプライドがあるのか言い訳を続ける。
「私はお供も付けずに猫陛下が歩いていることを危惧していただけです。危険ではないですか」
「全然にゃ。襲われたとしても、わしを殺せるヤツにゃんかいないからにゃ。そっちはにゃんでこんにゃに大勢連れてるにゃ? 警護の人がいるにゃ?」
「い、いますよ……」
「警護の人、挙手にゃ~」
王様の言葉なのだから警備員は手を上げたけど、だいたい出入口付近にいるからエントランスの警備員しかいないんじゃね?
「まぁいることにしておいてやるにゃ。その他はにゃに?」
「マスコミ以外は、私の派閥の議員と、私を支持する官僚です。これほど私は慕われているのですよ」
「慕われているのはいいことにゃけど、こんにゃに大勢引き連れて恥ずかしくないにゃ?」
「はい??」
「わしだったら恥ずかしくて連れて歩けないにゃ~。野生でも、群れるのは弱い獣だけにゃもん」
わしが攻撃しまくると、キントウ首相は顔が真っ赤。ノルンもゲラゲラ笑ってる。
「てか、君たち暇にゃの? 金魚のフンする時間があるにゃら、仕事してほしいんにゃけど~?」
「「「「「いや、その……」」」」」
議員や官僚はシドロモドロ。王様に仕事してないって言われてるもんね。
「ま、首相に声を掛けられたら、断れないよにゃ~……というわけで、首相にゃ。見栄張るためだけに、無駄にゃ時間を浪費させてやるにゃ。わかったにゃ?」
「……はい」
キントウ首相はどう見ても悔しそうな顔をして納得はしていないが、マスコミも周りにいるからイエスとしか言えない。そんなキントウ首相の腰をポンッと叩いてその場を立ち去るわしであった……
「シラタマお~う!」
「にゃに?」
「今日はどういった理由で猫会議事堂に来たのでしょうか? 首相に苦言を呈するためですか??」
「えっと……ノルンちゃんを迎えに来たんにゃ。危険だからにゃ」
「ウソなんだよ~。マスターは……ムグッ」
「もうこんにゃ時間にゃ! 赤ちゃんのオムツ替えにゃきゃ~~~!!」
でも、追いかけて来たマスコミの質問に本当のことを言えなかったので、「猫会に大遅刻した」と言おうとしたノルンを握って逃走するわしであったとさ。




