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猫王様の千年股旅  作者: ma-no
猫歴50年~

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猫歴80年その2にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。ホヤだって生きている。


「シラタマちゃんが、次の人生はホヤって言われたらどうなのよ?」

「イヤにゃ」

「ほら~」


 ホヤになってまで生きたくはない。


 さっちゃんがウサ耳になって、ウサギに痴漢しまくっていた……じゃなくて、輪廻転生していたので話をしていたけど、そろそろ日暮れだ。


「喋り足りにゃいけど、そろそろ帰らなきゃだにゃ~……あ、そうにゃ。どこまでに言うにゃ?」

「どこまでって?」

「輪廻転生したことをにゃ。誰にも言いたくないって言うにゃら、わしは秘密は守るにゃよ?」

「あぁ~……どうしよっかな? 将来は猫クランってのには入りたいから、リータたちには言ってもいいような気もするけど……」

王子君(エティエンヌ)はいいにゃ? たぶん、あと10年ぐらいしか時間はないと思うにゃよ??」

「そっか……子供たちもそんな歳なのね。そのこともちょっと考えさせて」


 自分の子供には、さっちゃんも会いたいのだろう。ただ、東の国とは関係のない人間になったのに、知られてしまうと孫や子孫に口を出してしまいそうだと考えたらしく、即決できずにこの日は別れるのであった。



 それからのわしは、暇な時は小学校が終わった時間にさっちゃんの家を訪ね、猫クランの隠れ家に連れ込んでお喋りというか……


「モフモフ~~~!!」


 モフられてる。会えなかった分のシラタマ成分ってのを補給しているらしいけど、それは科学的に否定されたはずだ。

 それで満足したらようやくお話できるようになるけど、さっちゃんはまだ輪廻転生を誰に教えるかは悩んでるみたいだ。


「そういえば、いまの暮らしは満足してるにゃ?」

「うん。庶民の暮らし、初めてのことばかりで楽しいわよ。これが庶民の暮らしかどうかは、わからないけどね~」

「ウサギ居住区で暮らしてるってことは、ド庶民にゃよ?」

「どこがよ。東の国の王族と近い暮らししてるわよ」


 さっちゃんが言うには、テレビもスマホもあるし、トイレもウォシュレット完備。狭いけどお風呂もあるし、キッチンもあるから毎日温かい料理が食べられて至れり尽くせりらしい。


「まぁ猫の国は中間層っていうのが、8割を占めるからにゃ~……貧困層も犯罪者ぐらいにゃし、お金持ちも少ないにゃ。その分、中間層がわりとお金持ってるんにゃ」

「すっご……8割もこの暮らししてるんだ。たぶんこれ、東の国の下級貴族ぐらいの暮らしよ。完全に猫の国に負けてる……」

「ま、貴族とかお金持ちってのは、貯め込んでるか、下にお金を回さないんじゃないかにゃ~? 猫の国にはそれがないから、いまのところ中間層が多いんだろうにゃ」

「助言してあげたいけど、言いにくい~~~」


 さっちゃんが女王モードに入ってしまったので、家に不満はないかと聞いて話を変える。

 唯一不満なことは、高級肉がたまにしか食卓に乗らないこと。それもランクの低い高級肉しか出ないから、舌の肥えたさっちゃんは不満らしい。

 だから毎回、わしの肉を奪おうとしていたのか……お母さんになんて言うつもりじゃ。王様から貰えませんと泣いてたじゃろ?


「もうちょっと、ごはんにお金使ってくれてもいいのにな~」

「たぶんにゃけど、お金貯めてるんじゃにゃい?」

「老後も至れり尽くせりの国なのに、貯める必要あるの?」

「いま、さっちゃんは集合住宅に住んでるにゃろ? 手狭に感じてるんじゃないかにゃ??」

「あぁ~……確かに狭いわね。昔の寝室にも満たない部屋で、4人は狭すぎるわ。ウサギ小屋みたい」

「いつの頃と比較してるんにゃ~」


 またさっちゃんが女王脳になったので、わしは「メッ!」と叱ってから続きを喋る。


「ひょっとしたら、夢のマイホームを買おうとしてるのかもにゃ」

「マイホームって……あ、家を建ててるってこと?」

「そうにゃ。ちょっと前から内壁の外の土地を売り出してにゃ~。マイホームブームになってるんにゃ」


 ここ猫の国の土地は、元からある土地も増えた土地も全てわしの物。といっても建て前ってだけで、勝手に使われないように一時保有していると言ったほうが正しい。

 その土地を、国なり町や村に売ることで、開発や建物を建てる権利が委譲する。値段はなんと、無料(ゼロネコ)。国とかは賃貸料とか土地を売る際には高い値付けをしているからボロ儲けだ。


 一度さっちゃんにその話をしたら「アホなの?」っと(ののし)られた。別にわしが決めたワケじゃなく、猫の国初期中枢メンバーがこっちのほうが楽だからって、一時保有してくれと頼まれただけなのに……

 ちなみに猫市の内壁内の土地は市の持ち物で、キャットタワーと敷地はわしの所有物。キャットタワーの王族居住区以外は市役所が借りてるけど、アイツら賃貸料等を一切払ってくれない。双子王女がこんな契約にしてやがったの。


「そっか~……入り用じゃ仕方ないわね」

「まぁ住宅ローンってお金を借りられるシステムもあるし、案外早く引っ越しできるかもにゃ」

「どんな家になるんだろ~。楽しみ~」

「きっとさっちゃんのお眼鏡に適わない建物にゃ……」

「ちょっと! 私だって空気読めるんだからね!?」


 立派なお城やビルに住んでいたヤツには、両親が建てた家なんて満足するワケがない。特に、自分の家をウサギ小屋なんて言ってたヤツにはな!



 後日、さっちゃんはどんな家が作られているのかが気になったらしく、わしに連れて行けとうるさかったので、手繋ぎデート。

 内壁の外は農夫や大工、マイホームを手に入れた人ぐらいしか歩いていないから、そこそこ歩きやすい。わしに気付いた人も、孫を連れて歩いていると勘違いしているように見える。


「ちっさ……」

「だから言ったにゃろ~」

「あの家は大きいけど、いくらぐらいなの?」

「たぶんお金持ちが買ったから、庶民にはキツイだろうにゃ~」

「最低、アレぐらいがよかったのにな~」

「だったら、輪廻転生する時にお金持ち選べにゃ」

「だから私には選ぶ権利なかったのよ~」


 もうすでに入居者のいるお宅を見て回ったら、さっちゃんは予想通り。日本では一般的な大きさの2階建て住宅でも住みたがらない。

 これでも集合住宅より2倍は床面積はあるのだと懇々と説教していたら、建設中の区画に入った。ちょっと歩き過ぎたと戻ろうとしたその時、見知った人物がいたので、さっちゃんに許可を取ってから声を掛ける。


「ウロ君。こんにゃところでにゃにしてるにゃ?」

「あ、シラタマさん。テレビでマイホームの話をやってましたので、ちょっと建築方式が気になって見ておりました」

「猫大の生物学部に入ってにゃかった? スケッチまで取ってるって、建築学部に転部するつもりにゃの?」

「いえいえ。魔法で家を建てているのが面白いので」


 どうやらウロは、第四世界の建築方式が目新しくてずっと見てられるらしい。


「この建築方式は、一般的な物なのですか?」

「いまは一般的かにゃ? 昔は木材とかセメントを使った建築方式が主流だったんにゃけど、わしが土魔法でやってたら、その当時の建築部門のトップが教えてくれとうるさくてにゃ~」

「ということは……猫前と猫後で変わったと」

「紀元前、紀元後に猫を当て嵌めにゃいでくれにゃい?」


 元天皇陛下がそんなことを言うと、歴史の転換点になりそうで怖い。メモも取らないで!

 ちなみに建築に魔法を使うことで、退役軍人やハンターを引退した魔法使いの再就職先になったんだとか。もちろん高校生からその道に進もうと土魔法を勉強している学生もいるよ。


「あ、そうにゃ。第三世界の建築方式も聞いたにゃよ? 特殊素材に水を加えて膨らませるにゃんて、魔法みたいだにゃ~」

「そういえば似てますね。あるいは、シラタマさんが教えてくれた第四世界の建築方式をヒントにしたのかもしれませんね」

「そんにゃこと喋ったかにゃ~?」


 あまり記憶になかったのでウロと話し込んでいたら、さっちゃんがわしの袖をクイクイ引っ張った。


「ねえ? 第三世界や第四世界とか言ってるけど、この人って何者??」

「あ、紹介を忘れてたにゃ。ウロ君は第三世界でお世話になった天皇陛下にゃ。会ったことあるにゃろ?」

「ええぇぇ~!?」

「こっちのミテナちゃんは、東の国の元女王、サンドリーヌにゃ。天皇陛下が会った時にはまだ王女様だった女性にゃ」

「ええぇぇ~!?」


 異世界転生者と輪廻転生者の初対面。ウロとさっちゃんは、まさかそんな特殊人物が目の前にいたとはこれっぽっちも思っていなかったので、同じ驚き方をするのであったとさ。



「第三世界から異世界転生して参りました、元令和天皇です。再びお会いできて、光栄でございます」

「第四世界、東の国元女王、サンドリーヌだ。私も再び相見(あいまみ)えることができて、感慨深く思っている」


 一通りわしが「早く言えよ!」と責められたあとは、ウロとさっちゃんは前世の喋り方になっていたので、オモロ。ネコ耳とウサ耳の会話じゃないもん。

 わしが腹を抱えて笑っていたら、今度は「勝手にバラすな」と怒られたので、変な汗が出た。さっちゃんに怒られても怖くもなんともないが、天皇陛下の丁寧な口調の説教はいまだに慣れません。


 その後、質問タイムになったので、さっちゃんから当ててあげる。


「ていうか、最近、第三世界に行ったの?」

「うんにゃ。2年前ににゃ。めっちゃ楽しかったにゃよ?」

「うそ~ん。なんで声かけてくれないのよ~」

「さっちゃんがいるにゃんて知らなかったんにゃもん」


 さっちゃんは第三世界のことを聞きたそうだったけど、ウロを待たせていたので次回会った時に写真とかを見せる約束をしておいた。


「これほど建設ラッシュになっているのは、どうしてですか?」

「にゃ? まだ発表してないのかにゃ?」

「特には聞いてませんが……」

「市民が混乱するからかもにゃ~? ま、2人は口が堅いだろうから教えてあげるにゃ。将来の話にゃけど、内壁内の住居はほとんどなくなるにゃ」


 これは猫市発足から予定していた計画。人口増加に伴い、内壁の中だけでは土地が足りなくなるのは目に見えていたので、外壁の中を使うことにしていたのだ。

 ただ、外壁の中は農地が広がっているので、移転するにも土地が足りない。外壁の外に出せたらいいのだが、そこは獣被害が起こるからできない。


 だがしかし、それは猫の国初期のお話。現在は森を押し返して国土は広くなっているから、猫市周辺には獣の一匹も見ない日もあるぐらい。これならばそろそろいいかと農地を外に移転して、建築を開始したのだ。


 ここで問題になるのが、市民が出て行ってくれるかどうか。必ず立ち退きには問題が起こるのは予想済み。

 なので、猫市の住居は全て市の持ち物で賃貸住宅のみにして、来たるべき立ち退きを楽にしようと、猫の国初期から画策していたのだ。

 

「将来的には、内壁内は政府の施設、企業の施設、商業施設、学校や病院等の公的な施設だけにして、外からのアクセスしやすい場所になるんにゃ~」

「なるほど……そんなに昔から、ベッドタウンと職場を分けようと考えていたのですか」


 この壮大な計画に、ウロは納得。未来に起こる問題に早期に対応しているから褒めてくださった。


「それって……誰が考えたの?」

「わしにゃけど……」

「うっそだ~。シラタマちゃん、最初っから王様やる気なかったじゃな~い」

「やる気はにゃいけど、その当時は、わしが全世界ナンバーワンの頭脳を持ってたんにゃよ?」

「ないないない。その顔は、ないわ~」

「だからにゃ。顔は関係なくにゃい??」


 ウロとは違い、さっちゃんはまったく褒めてくれない。面倒を避けようとガチで考えたのに、わしの顔では信じられないと悪口まで言うので、8年振りにケンカをするのであったとさ。


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