猫歴78年その2にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。子供の頃に夢見た未来はまだ来ない。
第三世界でわしが死んだのは80年前。22世紀なんて途方もなく遠い未来だと思っていたけど、まだ車は地上を走っているから少し物足りない。でも、タクシーに乗ったら超怖い。
ハンドルもペダルもないんだよ? 住所言ったら勝手に道を選んで連れて行ってくれるんだよ? 運転免許所有者が国民の2%しかいないんだよ?
お金も勝手にペラッペラのスマホから取られるんだよ? なんだったら、国民のほとんどは体内のチップから取られるんだって!?
それを成しているのが、高性能AIと量子コンピュータ。車の台数は100年前より3倍も増えているのに、全て自動走行させて移動時間は半分近く減ったんだとか。
そのかわりに、電車の数が激減。今では長距離移動する際にリニアモーターカーに乗るぐらいらしい。東京、大阪間を30分って……マジっすか?
これもそれもわしのおかげらしいけど、こんなの作れません。
「製造の話ではなく、政治の話です。いまは解散した白猫党が信頼できる政府を作ってくれたから、国民も政府を信じてついて来てくれたから、法整備も立ち退きも体内チップも早期にできたのです」
「わし、党首じゃないにゃよ?」
「党首みたいなモノじゃないですか? 皆さんそう言ってましたし」
「白猫党に洗脳されてにゃい??」
やっぱりわしのおかげではない。皇太子殿下が洗脳されていただけ。その白猫党がどこに行ったかというと、政治家や政府が不正できないガッチガチの法律を作ったら解散して、普通の人に戻ったそうだ。
「あの全てをやりきった泣き顔は、いまも忘れられません」
「たぶんそれ、異世界転移できないのを知ったから、泣いてたんじゃないかにゃ~?」
洗脳されている人には、何を言っても通じない。とりあえず会ったことあるギャル総理の連絡先を教えてもらって、白猫党の真実を聞くわしであった。
やっぱり、自棄になって辞めたんだってさ。
第三世界3日目は、猫ファミリーで夢の国に行こうとしたけど、なんか無くなってた。日本独自のアニメを元にした遊園地が流行り始めてから、勢いに押されて撤退したんだとか。
「「「「「にゃんだこりゃ~~~!?」」」」」
遊園地は、3D盛り盛り。なんだかアニメの世界というより異世界に来たみたい。勇者シラタマが戦ってるし……
「「「「「ププププ……」」」」」
「著作権、どうなってるにゃ~~~!!」
「「「「「あははははは」」」」」
「「「「「にゃははははは」」」」」
どうやら猫王様の小説がアニメでアレンジされて、再ブレイクした模様。スーパー猫又の時には角が生えずに金色になるって、マジでやめてくんない? 波、撃たれるから!
「ノルンちゃん用の乗り物がひとつも作られてないんだよ~」
「そりゃそうにゃろ。いつ来るかわからない客1人のために作るワケないにゃ~」
「多様性の時代はどこ行ったんだよ~」
「ほら? ノルンちゃんのお仲間が飛んでるにゃ~」
「あんなのとノルンちゃんを一緒にするんじゃないんだよ! ブッコロなんだよ!!」
「壊しちゃダメにゃ~」
前回、ノルンが記者会見で言った乗り物も高性能ロボットもいまだに作られていなかったので、荒れ荒れ。まぁ確かに、ドローンに2本のアームが付いてるだけでは怒っても仕方ないか。
でも、「ジュース飲みたい」って言ったら持って来てくれたから、ノルンより高性能な気がしないでもない。こんなお願い、絶対に聞いてくれないもん。
遊園地で遊び倒したら、夜には黒モフ組がわしを囲んだから遊んでほしいのかと思ったけど、ここの技術者と喋りたいから手配してくれと頼まれた。
それなら次の日にたぶん会うことになると思うので、黒モフ組とは午後に合流する。それと天皇陛下にもコンピュータ技術に詳しい人も呼び出してくれるようにお願いしておいたから、これでいい?
第三世界4日目は、わしだけ別行動。東京にある国連事務所にやって来たけど、なんでこんな所にあるんじゃろ?
「それはですね。シラタマ王が来るなら日本だろうと、待ち構えているのです」
「にゃん十年も来にゃいと言ったのに、ごくろうにゃことだにゃ~」
「ええ。日本も巻き込まれて、ずっと議長をやらされていますし」
「にゃ? 責任取れとか言われてるにゃ??」
「いえいえ。調整役です」
天皇陛下曰く、どうやら国連総会は基本的に言いっぱなしで終わることが多いから、女系皇族から離れた人が調整役を買って出たらしい。
各国との調整を上手くしてくれるから世界中の要人も助かっているからって、議長とかは任せてるんだって。
「日本人の特性でしょうね。どちらも立てて良い気分にさせ、落としどころを見付ける才に長けていたようです」
「サービスも行き届いてるもんにゃ~。でも、サービスし過ぎは悲しくにゃい?」
「そこは、まぁ……ご想像にお任せします。フフフフ」
「怖いから聞かないにゃ~」
天皇陛下の含み笑いが怖すぎて、その先は聞きたくない。明らかに黒幕顔してるし……買って出たんじゃなくて、皇族から送り込んだんじゃね?
天皇陛下と喋っていたら、緊急国連総会が開幕。わしが登場すると、万雷の拍手で迎えられた。何か裏があるのかと構えていたら、世界が平和になったからの感謝の気持ちらしい。
領土問題はなくなり、餓死者もゼロ。従って戦争も紛争もゼロ。核兵器は限りなくゼロに近付き、銃の数も最多数の頃より80%もカットしたんだとか。
軍事費はほとんど国の発展に使えるし、鉄等の資材も余るようになったから値段も下がる。軍事に使っていた物が技術の発展に流れたから、進化速度はかなり上がったんだってさ。
「いや~。にゃはは。凄いにゃ。素晴らしいにゃ。文句なしにゃ。人間も捨てたもんじゃないにゃ~。世界中の人々に拍手にゃ~~~!」
格差も貧困も差別も、様々な問題もほとんど解決していたから、わしもベタ褒めで拍手だ。出席者も拍手で応えてくれたけど、なんだかため息もいっぱいまざっていたから期待に応えてあげよう。
「んじゃ、引き続き、平和を維持してくれにゃ。わしがまた来た時に泣いてる人がいたら、偉いヤツらは片っ端から泣かすからにゃ~?」
「「「「「まだ脅すの!?」」」」」
「にゃ~はっはっはっはっはっ」
ため息の理由はそういうこと。わしのお眼鏡に適うか心配していたんだね。しかし、平和を維持するほうが難しい。世界中の権力者は、猫の脅威から逃れられないのであったとさ。
緊急国連総会はどんよりとした空気になってしまったので、褒美をくれてやる。全員に超高級肉を使ったお弁当と、お持ち帰り用の超高級肉1キロを包んであげたので、笑顔というか阿鼻叫喚で終わる。誰か早弁しやがったな?
次に運転手のいないリムジンに揺られてやって来た場所は、某・赤い門がある大学。赤い門がなくなってるけど、まぁいいや。
黒モフ組と毛に引っ付いていたノミみたいなノルンと合流したら、体育館にて、集まった企業人の前でわしは演説する。
「民俗学者のみにゃさん。今回は遺跡とかイロイロ回って来たからにゃ。研究の交換といきましょうにゃ~」
本当の目的はこっち。始めて発見した物も多々あるから教えに来たのだ。もちろん第三世界での新発見も教えてもらって第四世界で活かすつもりだ。
「企業人のみにゃさんは、伝説の美味しいお肉、欲しいにゃ~?」
「「「「「うおおぉぉ!!」」」」」
「じゃ、新技術と交換にゃ~。民俗学者のみにゃさんは協力してくれたら分け前あげるからにゃ~?」
「「「「「うおおぉぉ!!」」」」」
企業人はたぶん呼ばずとも来ると思っていたから、体育館を選んだのは正解。50年近く経っているのに、超高級肉は大人気。格安で企業秘密をゲットだぜ。
「あの~……そんにゃ目で見にゃいでくれにゃい? 向こうさんも喜んでくれていることだしにゃ」
ギョクロたち黒モフ組の目が、詐欺師でも見る目になっていたからわしも気まずい。向こうの願望を口にしただけなのに……
「え~。うちの子供たちと、技術のディスカッションしたい人いにゃい? 我が国きっての天才たちなんにゃ~」
「「「「「そんにゃ言い方するにゃ~~~!!」」」」」
「「「「「キャーーー!!」」」」」
というわけで、黒モフ組に頼まれていたことを叶えてあげたけど、まだ不満があるみたい。でも、モフモフを撫でたい女性技術者が大挙して押し寄せて来たので、黒モフ組はあっという間に見えなくなるのであった。
技術のカツアゲは、世界中から企業人が集まっていたのか、前回の3倍はありそう。象形文字とかは読めなさそう。あ、アメリカの企業の人は、翻訳ソフトくれたのですか。助かります。
民俗学の資料はそこまで多くないけど、民俗学者は資料と超高級肉をもらえてホクホク顔。企業人も超高級肉を掲げて帰って行くからウィンウィンだ。
どう考えてもウィンウィンではないので、わしは笑いを堪えられない。黒モフ組はわしの笑いに引いているかと思ったけど、意気消沈。こちらの技術者の話について行けなかったみたいだ。または、モフられ過ぎて疲れたのかも?
そのままホテルに帰ると、お母様方は超心配してる。わしのことは「頭、大丈夫?」って心配された。笑ってるだけですよ?
その場を見ていたノルンがわしの悪行を包み隠さず喋るので、今回もけっこう引かれました。詐欺じゃないですって~。
技術を安価で手に入れた次の日は、わしは完全に1人で行動する。まずは生家の近くに転移して、自分の作った会社がビルになっていて驚いたり、先祖代々の墓に顔を出してご先祖様を「また来た!?」って驚かせたり。
その足で空中ダッシュ。戦闘なら頭が空を向いているほうが走りやすいが、長距離移動なら頭が進行方向に向いているほうが空気を踏んだ時に推進力が生まれやすい。
わしは「スーパーマンみたいだな」と思いながら凄い速度で空を平行移動していたら、前方に飛行機らしき物を発見。ただ、高度は飛行機が飛ぶ高さではなかったので「アレが空飛ぶ車か~」と興味本位で近付いた。
わしのほうが遙かに速いので、上から見たり下から見たり。確かによっつのプロペラはうるさいなと並んで飛んでいたら、窓からわしが見えたのか、派手なおばちゃんはギョッとした顔。もう1人の清楚なおばちゃんはゲラゲラ笑ってる。
わしは「ヤベッ。バレた!」っと焦って、急いでその場を離れるのであった。
スカイキャットとかUMA扱いされませんようにと祈りながら……




