猫歴77年にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。婿養子の死は、これでも悲しい。
猫歴76年はヒサカタ上皇の天皇引退から始まり、後半には婿養子のセンエンの死という暗いニュースがあったので、アンクルチームはできるだけ明るいニュースを発信していた。
「これが、私が1人で狩った獣。20メートルはあった」
「イサベレさんにゃ。血みどろの写真は出すのやめとこうにゃ~」
猫クランならば、やんややんやと持て囃される話でも、狩りに出たことのない人には恐怖写真。血もそうだけど、デカすぎるもん。
皆も同じ話をしようとしていたのか、スマホを背中に隠したな。わしになんとかしてくれと言われても、オーガ探索の話も暗いよ? 友好的になった白い獣の写真見せてあげたら?
アンクルチームも思い出したのか、巨大な白い獣のモフモフに埋もれる写真を出してくれたから、嫁や子供たちに好評……かどうかはわからない。バックが白い毛ばっかだもん。
ちなみにオーガ探索は、猫歴76年になんとか候補地は回り終わった。オーガも1人見付かったけど、最強チーム以外会っていない。
このオーガは野人に近い姿をしていて、オバチャンのデータになかった人物。発見した場所はフィンランド近辺で、わしたちと目が合った瞬間に洞穴に逃げ込んだ。
オーガには珍しく好戦的ではなかったから話せばいいかと洞穴を覗いたら、頭を抱えて震えていた。何度も声を掛けて、念話を繋ごうと努力したけど一向に【吸収魔法・球】を解いてくれないのでは話にならない。
一度、洞穴から引っ張り出して意識を奪ってから念話を試してみたけど、オーガは目覚めたらまた洞穴に飛び込んで震えていたから、悪いことをしてる気分になってこれも失敗。
3日ほど美味しい物を見せたり、元の姿を見せたりとイロイロ試して3人で話し合ったら、王冠みたいな角が2本、変な形になっているから脳に異常があるのではないかとの結論に至った。
このまま放置していても人間には迷惑を掛けないとは思うが、これほど臆病ではここに残しておくのも辛いだろうと、死後の世界に送ることにしたのだ。
わしが一瞬で片を付けたが、その時のオーガの悲しそうな顔が目に焼き付いているから、猫クランメンバーでもどうしても知りたい人にしかこのことは喋っていないのだ。
翌年の猫歴77年になると、しばらく里帰りしていたヒサカタ上皇がまたやって来たけど、ここはお前の家ではない。ぐうたらするなら、御所でしろ。家臣にそんなところ見せられないって言われてもしらんがな。
ヒサカタ上皇が出て行かないなら、わしが出て行くしかない。今日はウサギ市にあるホスピタルを訪ねてみた。
「ポポル~? まだ生きてるにゃ~??」
「か、神様……はは~」
「拝まにゃいでくれにゃい??」
このカリッカリに痩せたウサギは、ポポル御年89歳。そろそろだろうと20年ぐらい訪ねているけど、なかなか死なないしつこいヤツだ。
ちなみにわしを神様と呼び出したのは、猫軍を引退して族長になってから。とっくの昔に死んだヨタンカの意志を継いだウサギ族が、わしへの感謝を忘れないために族長が引き継いでるんだとか。よけいなことしやがって……
「てか、いったいいつ死ぬにゃ?」
「たぶん、もう間もなくだと思うんですけど……」
「10年前からそう言ってるにゃ~」
ウサギ族の寿命は、けっこう短い。50歳超えた辺りでバタバタと亡くなるから焦って調べてみると、アメリカ大陸のクリフ・パレスで極貧生活をしていたウサギ。単純に栄養不足の生活を長年していたから、短命だったのだ。
そこで昔、ウサギ族の生態を聞き取りしたノートがあったから読んでみたら、だいたい40代で亡くなり30代もザラと書いていたので、これでも猫の国国民になってから寿命は延びていた。
それからはワンヂェンと一緒に経過を見守っていたら、猫系二世は平均寿命は格段に延びていたので、猫系三世は普通の人間ぐらいになりそうだ。てか、猫系二世とかカルテに書かないでって言ったのに……
「それにしても、猫の国第一世代にしては生き過ぎだよにゃ。病気がちだったお母さんも65歳まで生きたんにゃっけ?」
「はい。お父さんは3人まで増えましたけど……」
ポポルの母親ルルは、わしと出会った時点で未亡ウサギ。ソウハというケモナーの人間の男と結婚して、他界してからまたわしは狙われると構えていたけど、すぐにウサギ族の男と再婚してた。
たぶん、本当はウサギ族がタイプだったのだろう。極貧生活をしていたから、お金を持っている人間に目が眩んだのだろう。老後は奥さんを亡くした紳士なウサギと、お金に困らず幸せに暮らしたんだって。
「やっぱり、あの訓練のせいかにゃ?」
「訓練ですか??」
「あ、にゃんでもないにゃ……もうこの際、いいかにゃ?」
そういえばポポルとルルには、エルフにクラスチェンジしない程度に猫クラン研修を受けさせたことがあったと思い出したが、極秘事項だけどもう死にそうだから教えてあげよう。
「あのまま訓練していたら、300歳まで生きられたのですか……」
「エルフになりたかったにゃ?」
「いえ……子供より長く生きたくありませんでしたから……」
「それは悪いことしたにゃ~……」
ポポルは二度結婚している。1人目はモテ期だったため、めちゃくちゃ好みのウサギと結婚したけど、3年で離婚。
ポポルは仕事ばっかりして奥さんを構ってあげなかったから「ウサギは寂しいと死ぬんだよ」と言って出て行ったそうなので、死ぬほど笑った。人間が勝手に言ってた名文句をウサギが言うんだも~ん。
2人目は容姿はそこそこのウサギと結婚したと言っていたけど、わしには1人目との違いがわからなかった。
ただ、もう失敗したくないと多妻のわしに泣き付いて来たので、夫婦円満の秘訣というか、わしが反省して直した点を伝授してあげたから、仲睦まじい夫婦となれたそうだ。
この2人目の奥さんと5人の子供に恵まれたが、奥さんと長男を見送ったと聞いていたので、わしもなんとも言えない顔だ。
「神様が謝ることじゃないですよ。あの当時は、戦士が必要でしたから。ウサギ族のためになれたのですから、感謝しかありません。それに、孫もいっぱい居ますから寂しくないですよ」
「だよにゃ~。子供や孫がいっぱい居ると、寂しさにゃんて、元気な声で吹き飛ばしてくれるよにゃ~」
「ええ。この子なんて、大学の先生目指してるんですよ」
「うちの子にゃんてにゃ~……」
やはり子供は元気の源。わしとポポルは写真を見せ合って、子供と孫自慢をするのであった。ポポル一族の顔は1人も覚えられなかったけど……
ポポルがまだ死にそうにないので、ここはシャーマン頼り。付き合いは長いけど、そこまで深い付き合いはしていなかったから1人で聞きに来てみた。
「ポポルは今年ポックリ逝きますよ。頼ってくれて、アザース」
「もうちょっと、こう、心の準備をさせるとか、オブラートに包むようにゃ言い方できにゃい?」
でも、まさかの急展開。シャーマンのあまりの軽さに、わしもすんなり飲み込めないよ。だがしかし、正確な日時は教えてもらったのだから、猫ファミリーでポポルと付き合いのあった者には、それとなく伝えて御見舞いに連れて行く。
そんなことをしていたら、ポポルもさすがに勘繰り出したのでしばらくストップ。わし1人で思い出話をする。
「猫軍アメリカ支部の将軍を、長きに渡り務めてくれてありがとにゃ」
「な、なんですか急に……やっぱりボク、死ぬんですか?」
「そりゃいつかは死ぬにゃろ。だから、アルバム作って来たにゃ。この時期からポポルはムッキムキににゃってるけど、いったいにゃにがあったにゃ?」
「これは1人目の娘にですね。筋肉自慢したらカッコイイって言ってくれたから、筋トレ頑張っちゃいました」
いまはカリッカリでまったく想像できないが、アルバムの中のポポルは筋骨隆々。この頃のポポルは鬼将軍とか呼ばれていて、昔のポポルを知っているわしたちは大笑いした記憶がある。
「だから調子乗ってたんだにゃ~。他部族をボコボコにしてたから、肝を冷やしたにゃ~」
「ア、アレは、キカプー市に来た部族が皆殺しにするとか言って襲い掛かって来たからですよ~。神様も見てたでしょ~」
「うんにゃ。ビデオも回してたにゃよ。見るにゃ?」
「それは初耳です!?」
この話は、シャーマンからキカプー市に犠牲が出ると聞いていたから、ポポルに「ちゃんと仕事してるの?」と唆して猫軍を派遣し、いちおうわしもその場で待機していたのだ。
ポポルがどうするかとカメラを回して見ていたら、念話で口喧嘩を始めたと思ったら1人で無双していたので、わしが止めに出て行ったの。将軍なんだから人を使えよ。
「あの時、機転を利かせて神様を紹介したじゃないですか~」
「それのせいで、わし、いまだに拝まれてるんにゃよ? にゃんてことしてくれるんにゃ~」
やりすぎだからと説教していたら、ポポルは説教を逃れようと「この方を誰と心得る。かの大国、猫の国の神様であるぞ!」と機転を利かせたから、拳骨制裁したのが悪かった。
ポポルでも鬼のように見えていたのに、わしが一発でのしてしまったから、神様認定されてしまったのだ。でも、わし、悪くない。そのうち風化すると思っていたのに、ポポルたちが「神と敬え!」とか度々再教育してたからなんだよ?
それからも思い出話に花を咲かせていたら、もう日が暮れていたので、そろそろわしも腰を上げる。
「あ、そうにゃ。ポポルって、延命治療は望むにゃ?」
「え? どういうことですか??」
「だからにゃ。次、心臓が止まった時に治療はいるかと聞いてるんにゃ。1回経験あるにゃろ?」
「あぁ~……AEDのアレですか。胸毛剃られましたから、あまりしてほしくないですね」
「だったら、これにサインしろにゃ。わしは手を出さないようにしてやるにゃ」
わしが差し出したのは、延命治療拒否の書類。一言とサイン欄しかないから、ポポルも怪訝な顔をしている。
「シラタマさんがですか……なんだか怖いですね」
「家族と相談してもいいし、1人で決めてもいいにゃ。また来るから、その時までにサインしておいてにゃ~」
ポポルの答えは、これ以上家族が亡くなる姿を見たくないとの延命拒否。1人で決めたそうだ。
わしはその日が来るとホスピタルに足を運び、ポポルが心臓マッサージやAEDを受けている姿を心配そうに見ている御家族の後ろで、リータとメイバイに挟まれて立っていた。
「終わったにゃ……」
「シラタマさんなら、なんとかできたと思いますか?」
「たぶんにゃ……」
「助けられたのに助けてはいけないなんて、辛いニャー……」
「ポポルが望んでないんにゃから、これが運命でいいにゃろ」
ポポル、心不全で死去。おそらくだがわしの回復魔法なら延命はできた可能性はあるが、長くは生きられなかっただろう。
ポポル、享年89歳。猫軍アメリカ支部の将軍を68歳まで続けて歴史に名を残す。葬儀には、それは多くの現役軍人と退役軍人が出席して「鬼将軍に敬礼!」と一糸乱れぬ敬礼を見せたのであった……




