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猫王様の千年股旅  作者: ma-no
猫歴50年~

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猫歴75年その5にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。オーガとはいったい……


 オーガ探索から2ヶ月、やっと見付かったので、玉藻と家康、発起人のナディヂザとグリゴリーを引き連れてオーガに会いに来てみたけど……


「ゴリラかにゃ?」

「飛騨の山猿じゃないか?」

「秀吉に少し似ておるのう」

「麻呂は伝説のイエティだと思うでごじゃる」

「ぎりぎりミノタウロスに見えるから、ミノタウロスにしようでおじゃる~」


 頭の王冠みたいな角はオーガの特徴だが、顔から下がおかしい。普通の人間より体が5倍ほど大きく全身毛むくじゃらで真っ白。立ったら10メートル以上ありそうな大きさにしても、顔が小さ過ぎる。

 わしたちジジババ組は類人猿にしか見えないのに、双子はどうしてもカッコイイ名前で呼びたいみたいだ。


 そのなんとも言えない生き物は、わしたちを見てフリーズ。とぼけた顔のまま、木の実らしき物をポリポリ食べ続けているから、わしたちもほのぼのした会話ができるのだ。


「%%&*##??」


 2分ほど固まっていた奇妙なオーガは、長い白髪を掻き上げてから何かを喋り出したけど、言葉が違うからサッパリわからない。


「にゃんかおばちゃんみたいな仕草だにゃ。アレを食べろってことかにゃ?」

「うむ。アメちゃんくれるおばちゃんみたいじゃな」

「アレはなんの木の実じゃ? (わし)は食いとうないぞ」

「「我らも無理でごじゃる~」」


 奇妙なオーガは「あらやだ~」って手を振ったあとは「あたしったら、お客さんに何も出さないなんて……あ、これ食べる? けっこう美味しいのよ~」って仕草をしながらペチャクチャ喋っているけど、誰も食べたくない。

 わしも衛生面が心配で食べたくないのに、こんな時だけ「リーダーだろ」と全員で背中を押して来るので行くしかない。


 わしが近付くと、おばちゃんオーガは平べったい栗みたいな物を差し出したから、仕方なく受け取った。


「これ……食べるにゃ?」

「うんうん」

「デカイんだよにゃ~……にゃむさん!」


 食べる仕草をしたら、おばちゃんオーガに手の平を上に向けて勧められたので、わしの口より倍は大きな木の実にかぶりついた。


「ボリボリ……」

「どうでおじゃるか?」

「木にゃ……ボリボリ……吐き出していいと思うにゃ? ボリボリ……」

「ダメでおじゃる~」

「無理にゃ! オエ~~~!!」


 食えたもんじゃない。木の皮食ってるようなモノ。頑張って噛み砕いたけど、わしじゃなかったらここまで小さくできない。野生の生活をしていたわしでも無理だ。

 食べ物を吐き出したから怒るかと思ったけど、おばちゃんオーガは水の入った器っぽい物をわしの前に持って来て背中を指で擦ってくれたから、けっこう優しい人みたい。

 双子は襲われたと思って青い顔をしているけど……玉藻と家康は笑ってないで、助けてくれてもいいんじゃぞ? この水もなんかイロイロ浮かんでいるから飲めません! 


 わしは何度も頭を下げて、持参した水筒から水を見せ、それでうがいするのであったとさ。



 おばちゃんオーガは「変な物食べさせてゴメンね~」とか身振り手振りしているけど、なんとか普通に念話を繋ぎたい。しかし、おばちゃんオーガは吸収魔法の膜で身を包んでいるから一切繋がらないのだ。

 どうしたものかと考えて、わしは刀を抜いたら鞘ごと両側に投げ捨てて敵意ないアピール。そのあと、わしも【吸収魔法・球】を広げてみた。


 吸収魔法の押し合いが起こるとおばちゃんオーガは不快な顔になったが、わしがドスンと座って笑顔を見せると敵意がないことは伝わったと思う。

 その後は、吸収魔法を押したり引いたり、消したり出したりとして、なんとかわしの意図を伝える。


「やだ~。最近の人は、こんなことできるのね~。おばちゃんビックリしちゃった」


 おばちゃんオーガに念話を繋げてみたら、おばちゃんそのモノ。自分でも言ってるから、このオーガの個体名は「オバチャン」でいいだろう。ミノタウロスは立派すぎるもん。


「わしも驚いたにゃ。会話の成り立つオーガもいるんだにゃ~」

「あら? オーガのことも知ってるの??」

「うんにゃ。3人ほど会ったことがあるにゃ。問答無用で殺されそうになったから、大変だったにゃ~」

「そう……私たちは本来、上官からの命令は絶対に逆らえないからね。最後の命令によっては、そんなことにもなるわよね……」

「あ、暗い顔させちゃったにゃ。つまらない話はまたあとでにして、いまはこの出会いを喜ばにゃい? わしの家族も近くに来てるんにゃ~。美味しい物もいっぱいあるにゃよ~? 宴にしようにゃ~」

「あらあら。お気遣いなく~」


 オバチャンは母国のことも詳しく覚えているみたいだけど、わしもまだ「仲間を殺した」と言うのは怖いので、まずは出会いを感謝だ。

 玉藻に猫クランメンバーを呼びに行かせている間に、わしたちは身分だけ隠して自己紹介。オバチャンは名前を言いたく無さそうにするので、わしたちだけだ。


 猫クランメンバーが続々登場すると、オバチャンはちょっと嬉しそう。何故かと聞くと、子供が好きらしい。全員成人しているから、オバチャンがデカイだけです。

 阿修羅と喋った時は「獣は帝国の敵」とか言っていたので、四つ足組の紹介はオバチャンから確認を取ってから。町や自分に襲い掛からない限りは殺さないと言質(げんち)も取れたので、念の為コリスから見せてみたら大丈夫そうだ。


「んじゃ、これでわしの家族や仲間は全員揃ったにゃ。この出会いに乾杯にゃ~!」

「「「「「乾杯にゃ~~~」」」」」

「あらあらあらあら。もう、おばちゃん、嬉しくって泣きそうよ~」


 久し振りの人間、久し振りの食事、久し振りのお酒に、オバチャンも涙。


「ウオオォォ~~~!!」


 いや、大号泣。おばちゃんなのに男泣きするので、わしたちは一旦距離を取るしかなかった。鼓膜破れるかと思ったよね~?



 オバチャンがグズグズ声になった頃に、恐る恐る元の席に戻る猫クランメンバー。とりあえず家族のことを聞いてみたら、また男泣き。失敗したと離れて、次のターンは帝国のことを聞いてみた。


「もうね。最悪の国だったわね。だって滅びちゃったんだも~ん。あははは」

「そのわりには明るいにゃ~」

「もう笑うしかないだけ。でもね。帝国がオーガを作り出してから、ちょっとはマシになったのよ? 獣に(おび)えることはなくなったんだもの」

「フ~ン。獣の対抗手段だったんにゃ」

「そうそう。どこで間違ったのか、皇帝は必要以上に強いオーガを作ろうと、国民を選別し出したのよ。その使い道が人間を殺すって、本末転倒じゃない?」


 帝国の情報はオニヒメから聞いていたので合わせて喋っていたら、オバチャンに同意を求められたのでわしは難しい顔で答える。


「国のトップってヤツは、強い力を持つと戦争したがるからにゃ~……いつの時代も変わらないんだにゃ」

「この時代もそうなの?」

「いまのところ平和にゃけど、今後どうなるかはトップしだいだろうにゃ」

「そう……平和が一番いいわよね~」

「だにゃ。平和に乾杯にゃ~」

「ええ。乾杯……ウオオォォ~~~!!」

「それ、やめてくれにゃ~~~!!」


 いまが平和と知って、オバチャンはまた涙。話をしていると時々男泣きするので、わしたちは近付いたり離れたりとして宴は続くのであった……



 宴もたけなわになると、猫クランは大型のキャットハウスに入って就寝。オバチャンは敵意はないけど阿修羅みたいに多重人格の可能性もあるので、最強チームにコリスを加えて交代で見張り。

 実はコリスも家康ぐらいは強いんだよ。好戦的ではないってだけで、猫クランの訓練に率先して付き合ってくれているから、群を抜いて伸びているのだ。


 そんなに警戒していても、オバチャンはイビキかいて大の字で寝てる。わしが見張りをしていたら、何人か外に出て来た。うるさいのね。ちょっと離れよっか。


 猫クランはあまり眠れなかったみたいだけど、朝になったらオバチャンと真面目な話だ。


「昨日は説明を省いたけど、この3人は本物のオーガにゃ。このオニタのお婆さんが、皇帝が作りしオーガと結婚して子を成し、血を受け継いでいるんにゃ」

「そう……オーガの子を残す皇帝の悲願は叶ってしまったのね……」

「たぶんその(たくら)みは叶ってないんじゃないかにゃ? わしはオーガの血ではなく、お婆さんの血筋で角が生えたと予想しているにゃ。みんにゃ優しく育ったから間違いないにゃろ。話をしたらわかるにゃ~」


 おそらくオニタたちは、自分のルーツを知りたいだろうから朝の内は質問タイムを譲る。わしも見張りで残っていたら、興味のあるメンバーは集まって聞いていた。四つ足組はまったく興味なしで寝てる。

 双子たちも満足したようなので、お昼休憩でお腹いっぱいになったら、わしの暗い質問タイムに移行。念の為、皆には下がってもらい最強チームに守ってもらう。


「昨日、わしは他のオーガと会ったことがあると言ったにゃろ? オバチャンの仲間は、わしが全員殺したにゃ。申し訳にゃい!」


 いくらオバチャンが友好的であっても、仲間の死は受け入れられないかもしれないからの対策。わしが土下座で謝ると、オバチャンも数十秒は黙っていた。


「問答無用で襲われたんでしょ? それなら仕方がないことよ」

「許してくれるにゃ?」

「許すも何も、私たちは兵器よ。壊れる日が来ただけ。いえ……早く壊してくれたのだから、感謝しなくちゃね」


 オバチャンはそんなことを言っていても、寂しそうな顔をしている。


「うちには写真と言って、見たままの景色を切り取り保管する技術があるにゃ。3人のオーガの、死後の写真もあるにゃ。オバチャンには気分がいい物ではないとは思うけど、見たいにゃら出すことができるにゃ」

「そんなに気を遣わなくていいわよ? そこまで親しくないし。私を殺そうとしたヤツもいるぐらいだしね。見せてちょうだい」

「……わかったにゃ」

「ナニコレ~~~!!」


 本当に気を遣う必要なかったみたい。新技術にオバチャンは驚きっぱなしだ。


「ところで、オバチャンの知り合いはいるにゃ?」

「こいつ。顔がみっつあるヤツ。帝国人を殺しまくった挙げ句、私まで殺そうとしたのよ」

「そいつにはわしも殺され掛けたにゃ~。名前とか覚えてにゃい? お墓作ったけど、仮名(かめい)にしたんにゃ」

「確か……アレクセイ? 皇帝に心酔してたイヤな男よ」


 どうやらオバチャンは西側の町の警備をしていたが、暴走した阿修羅のアレクセイに殺され掛けたらしい。その時の上官が、民を連れて幸せに暮らせと命令したから、現在の旧市街まで逃げて来たとのこと。

 ただ、この場所はその当時には廃棄した危険な場所だから、普通の人間は暮らすには厳し過ぎたので、年々数が減って最終的にはオバチャンしか生き残れなかったらしい。


「それは辛かっただろうにゃ」

「もう終わったことよ~……あ、この人間みたいなのは知らない顔だけど、馬並みの人は知ってるわよ。ヤロスラフって名前で、いい男だったのよ~」

「馬並みにゃ? どこからどう見ても馬がくっついてるんにゃけど……」

「だからね。凄いモノを持っていてね。私もあんなモノ、入れ……」

「にゃ~! もう充分わかりましたにゃ~~~!!」


 悲しい話をしていたのに、いきなり下ネタをぶっ込まれたので、わしは慌ててカットインするのであった。


 青少年の教育に悪いでしょうが!


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