猫歴75年その1にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。工具メーカーではない。
和楽器製作を匠に任せようとしたら、あら大変。元から使っている工具では歯が立たないとか言うので、黒魔鉱製のノミやら彫刻刀やらよくわからない道具をせっせと量産。
ひとまず笙職人が使っていた工具は全て完全コピーしたから届け、次の篳篥職人の工具をせっせとせっせと作っていたら、玉藻から電話が来てストップを掛けられた。
『上手く使いこなせないにゃと~~~!!』
理由はそういうこと。いくらわしが完コピしても、初めて使う工具はクセやら勝手が違うからなかなか本領が発揮されないらしい。
『とりあえず、製作には3年ほど見てくれと言われておるから、シラタマはいま作っている工具を納品したら、楽器修行に戻ってくれ』
『やってられるか~~~!!』
またしても無駄な努力。やれと言われたことをやって、変更も泣く泣く受け入れてやったのに、この扱いは酷すぎる。
わしは「下請け会社か!」とキレてスマホをブチッと切り壁に投げ付けたけど、壊れると子供たち思い出まで壊れてしまうと慌てて追い付いて優しくキャッチするのであったとさ。
それから3日、わしはふて寝してる。王妃様方も何故かお昼寝していても怒らずに優しく撫で続けるので、わしの気持ちを汲んでくれているのだろう。
そう思っていたけど、目が覚めたらわしは京にある御所にいた。「3日も丸々寝てたんだから、働け」と脅されました。
たぶん玉藻が吹き出したのは、王妃様方になんとかしてくれと頼んでいたのだろう。ムカつきます。でも、王妃様方の目が座ってて怖いです。
とりあえず今日のところはビクビクしながら和楽器の修行をして様子見。その後も王妃の誰かがわしを見張りについて来るのでお昼寝生活に戻れなさそう。でも、1日は完全お昼寝日はくれたから、わしの体を気遣ってくれてるのかな?
そうこう修行したり、修行を終えた和楽器の製作したり、たまに猫クラン活動をしていたら冬になり、ナディヂザとグリゴリーも戦闘に慣れて来たみたいだ。
「うんにゃ。後衛として、文句ないできだにゃ」
「やっと認めてくれたでおじゃる~」
「翁が修行ばっかりしてるから、見てくれてないと思っていたでおじゃる~」
「ちゃ、ちゃんと見てたにゃ~」
ゴメン。和楽器修行で頭がいっぱいだったから、双子の研修はおざなりになってた。謝るからその目をやめてください。
「そういえば2人には、どんにゃハンターになりたいか聞いてなかったにゃ。目標とかあるにゃ?」
「どんなハンターかはよくわからないでおじゃるが、ロシアの土地を見て回りたいから猫クランに入ったでごじゃる」
「ロシアにゃ?」
「元々麻呂たちは、鬼の研究をしていたでおじゃる。高祖母のルーツはチェクチ族とはわかっておじゃるが、高祖父のルーツはまだ解明されていないでおじゃる」
「にゃるほど……その件は帰ってから話してやるにゃ」
オニタはまだ2人に詳しく話をしていなかったみたいなので、家に帰ったらどこまで喋ったのかを聞いてから、双子とオニタをわしの仕事部屋に呼び出した。
「まぁ……この人が、2人の本当の曾お爺さん、グリゴリーって人にゃ。エルフ市で悪さをしていたから、わしが殺したにゃ」
「こ、殺したと言っても、じいちゃんは悪くないからな? この頃の曾じいさんは頭の中がグチャグチャで、母さんの命を繋ぐことしか考えられなくて、人の命とか関係なかっただけなんだ」
懺悔するように言うとオニタが擁護してくれたが、わしは坦々とエルフ市で起こった悲劇を語り続ける。双子は最初は驚いた顔をしていたが、会ったことのない曾お爺さんよりはわしのことを信用するようなことを言ってくれた。
「まぁにゃんだ。曾お爺さんは、本当の鬼ではなく、人に作られた鬼だったワケにゃ。だから不具合もあったんだろうにゃ。これが、いまは亡き帝国が作りし人工オーガの亡骸にゃ」
次にわしが戦った阿修羅とケンタウロスの写真を並べたら、その異様な形に双子は目を背けた。なので、わしがその写真を片付けようと手を伸ばしたら、双子に止められた。
「こんな人間がいるでおじゃるか……」
「これで動いていたなんて信じられないでおじゃる」
「だよにゃ~。でも、こいつらも被害者にゃ。こんにゃ体に改造されて、獣と戦わされていたんだからにゃ。まぁ志願した可能性もあるけどにゃ」
被害者と聞いて、双子も哀れみの目になった。
「もう、他にはいないでおじゃる?」
「翁は探したりしたでおじゃる?」
「探すのは気が引けてにゃ~……もしも見付かったら、殺すしか救う方法がないからにゃ。メイバイたちも、わししか殺せないかも知れないからって、ロシアの調査はやめておこうってことになったんにゃ」
「翁は優しいでおじゃるからな……」
「でも……」
双子もわしのことを気遣ってはいるが、その顔はオーガを探したいって顔をしている。
「ま、普通に会話が成り立つ者がいるかもしれないにゃ。探してみようにゃ~」
「「翁、ありがとうごじゃります!」」
この日、オーガ探索が決定。双子は夢が叶うと、笑顔でわしに抱きつくのであった。
「あ、でも、探索は来年の夏からだからにゃ? いま行ったら、ドカ雪で戦いにくいしにゃ」
「「翁~~~!!」」
いますぐオーガ探索に行けると思っていた双子は、急遽延期されたのでわしを突き飛ばすのであったとさ。
オーガ探索は決まったモノの、延期になったのだから双子は大荒れ。狩りの日は無駄に魔法を使ってオーバーキルと魔力切ればかり。わしはというと、いつも通り荷物持ちをしつつ、猫クラン活動のない日はお昼寝と和楽器修行と製造。
そんなことをしていたらあっという間に年が替わり、新年早々、猫クラン加入希望者が羽ばたいて来た。
「ジジイの父さん。にゃ~す」
この白い短ランを着てふて腐れたように挨拶した黒猫は、なんとインホワの息子のシゲオ。つまりわしの孫。なのにここ8年近く、わしは祖父っぽい言葉で呼ばれたことがない。
ちなみに名前の由来は、巨人のスターから。名付けに悩んでいたインホワがお母様方に候補を出してもらっている時に、一切聞かれていないわしを哀れんだメイバイが「シラタマ殿もどう?」と言ったことが始まり。
どうせ選ばれないと思って適当に書いたらインホワは「シゲオ」が気に入ってしまい、命名となった。嫌われているのにおかしいなと思ってメイバイに質問したら、わしの書いた紙は無記名で出したんだって。
もちろんわしは真実を告げようとしたが、メイバイが「これ以上長引かせるのも赤ちゃんがかわいそう」と言うので、わしも黙るしかなかった。もしもバレた時は、し~らない。
「『にゃ~す』じゃないにゃろ! ちゃんとお願いしにゃすと言えにゃ!!」
「ジジイはうっせぇにゃ~」
「誰がジジイにゃ! お父様と呼べにゃ!!」
「誰が呼ぶにゃ!!」
この会話は誰と誰が喋っているかというと、インホワとシゲオ。わかりづらくてすいません。シゲオは思春期を迎えてからインホワと喧嘩中だから「ジジイ」と呼んで、「じいちゃん」と呼ばれていたわしは祖父から降格したの。
「まぁにゃんだ……インホワは訓練しとけにゃ」
「にゃんで俺だけ怒られるんにゃ……」
「別に怒ってないにゃ。キャラが被ってるヤツが集まり過ぎてるだけにゃ」
「キャラにゃ??」
「いいからいいから、にゃ?」
とりあえず意味不明なことを言ってインホワが首を捻って離れて行くと、わしはシゲオと差しで喋る。それでもわかりづらくてすみません。
「わしもインホワとの仲はそこまで良好ってワケじゃにゃいけど、このクランで活動する時はわしの指示には必ず従っているにゃ。どうしてかわかるにゃ?」
「そりゃ~……危にゃいから?」
「そうにゃ。わしたちは全員、命を仲間に預けているにゃ。必要以上に仲良くしろとは言わないにゃ。仕事の時だけは、上の指示に必ず従えにゃ。これが守られなければ、クランには入れないにゃ。いいにゃ?」
「う、うんにゃ……」
わしに叱られたことのないシゲオは、少し自信が無さそうに頷いた。これはまだあまり心に響いてないので、わしは鬼教官となることを心に誓う。
「大卒でも、そこそこ動けると聞いてるから、前衛志望で合ってるにゃ?」
「ああ。ジジイより強くしてくれにゃ!」
「それはシゲオの頑張りしだいにゃ。わしの教えは甘いから、死ぬ気でついて来るんにゃよ~?」
「おうにゃ! ……甘いにゃ??」
かといって、わしは子供や孫には甘々。いつも通り新人の首を捻らせてから、ゆる~っく猫クラン研修が始まるのであった。
猫クラン研修の初日はランニングからなので、しばらくわしも一緒に走って程々になったら外からシゲオの走りを確認する。そうしていたら、インホワがコソコソしながら寄って来た。
「さっきはシゲオが悪かったにゃ。態度悪かったにゃろ?」
「まぁ悪いっちゃ悪いけど、インホワと対して変わらないにゃよ?」
「俺はそんにゃことないにゃ~」
「ちゃんと思い出してみろにゃ。わしに言った数々の暴言を……今までシゲオに言われたことにゃろぉぉ~?」
「うっ……」
わしがおどろおどろしく言うと、インホワも身に覚えがあるらしく青い顔して黙った。
「どうにゃ? 恥ずかしいにゃろ~?」
「うんにゃ。俺、あの時どうかしてたにゃ……」
「それが、黒歴史ってヤツにゃ。子供が一生懸命、親に虚勢吐いちゃってにゃ~。プププ」
「笑うにゃよ~……にゃ!? あの時ずっとニヤニヤしてたの、将来俺が恥ずかしがると思ってにゃ!?」
インホワ、親になって自分の行いを恥じる。
「違うにゃよ? かわいいことやってるから、面白くってにゃ~。にゃしゃしゃしゃしゃ」
「やっぱりオヤジにゃんて、大嫌いにゃ~~~~!!」
しかし、わしの笑いの理由を知って、思春期はぶり返すのであったとさ。
怒ったインホワはわしに殴り掛かって来たけど、ヒョイヒョイ避けていたら諦めて去って行った。その数秒後に、ランニングしていたシゲオが息を切らして戻って来たので、水筒を投げ渡して休憩にする。
「にゃあ? ジジイとにゃんかあったにゃ??」
「べっつに~。教育論で熱くなっただけにゃ~」
「いや、殴られそうになってたにゃろ?」
「じゃれてただけにゃ。それより、次は魔法を見せてくれにゃ~」
「魔法は苦手にゃんだよにゃ~……」
ひとまずインホワの恥はごまかし、魔法のテスト。本人が言う通りたいした威力はないので、次は接近戦のテストだ。
「前衛にゃら武器は早く決めたほうがいいにゃ。にゃんでも作ってやるから、自分に合いそうにゃ武器を言ってくれにゃ」
「それにゃあ……バット作ってにゃ」
「……バットにゃ?」
「ヤンキー漫画だと、みんにゃバットで戦ってるにゃろ?」
「それは人間相手だからにゃ……ま、ちょっと待ってにゃ~」
どうりでシゲオは、今年23歳なのに白い短ランで下はドカンなのか。若者のファッションに口を挟むのもなんだからツッコまなかったけど、いつまでグレ続けるんじゃろう?
ひとまずわしは土魔法でバットを作り、シゲオの好きなように攻撃させるのであった。
その夜、わしはベティを仕事部屋に呼び出した。
「シゲオのファッションアドバイザーしてるのって、ベティだよにゃ?」
「そうよ。親子揃ってヤンキーファッションが好きって笑えるわよね~?」
「笑えるけど、シゲオの服って、インホワがグレた時に着ていた学ランの色違いだよにゃ? シゲオは知ってるにゃ??」
「さあ? インホワ君が言ったんじゃない?」
「インホワが言ってたら着てないにゃろ~」
「それはそうね……」
本当にファッションには口出ししたくないけど、ここから親子関係がまた拗れたらベティのせいだ。
「この写真を見せたら、もう着なくなるんじゃない?」
それなのにインホワがグレて短ラン着てる写真を見せるので、シゲオを殺す気か?
「それはそれでシゲオの心に傷が残るんじゃにゃい??」
「黒歴史がある男の子なんて山程いるわよ~。あんたもそうでしょ?」
「わしは……思い出せないにゃ~」
「猫又流抜刀術【駆け猫】とか、猫又流奥義【猫時雨】ってヤツはなに??」
「それを言ったらベティだって、『マジカルビクトリー』とか魔法少女になりきってるほうが恥ずかしくにゃい??」
わしのなんちゃって必殺技まで黒歴史扱いするので、わしもベティの黒歴史を引っ張り出して反論。「にゃ~にゃ~」口喧嘩に発展したけど、言えば言うほどお互いの顔が赤くなるだけだ。
「もう、やめとこうにゃ……」
「ええ。和解しよ……」
だって恥ずかしいもん!
この日初めて、わしとベティは心が通じ合った気がしたのであったとさ。




