猫歴73年その3にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。人殺しじゃないよ~?
「ほれ? さっきのは錯覚にゃ。気をしっかり持てにゃ」
「うっ。うぅ……」
わしが手も触れずにアーホノルドを倒したら、野次馬が「猫王様が人殺しした」とか騒いでいたので、このまま放置はさすがに見栄えが悪い。
アーホノルドに活を入れて、生きてるアピールだ。
「き……斬れてな~い!?」
縦に真っ二つにされたのだから、アーホノルドは起きて早々、顔を両手で挟んだ。斬れてたらそんなのでくっつくワケなかろうが。
「お前は気絶したんにゃから、わしの勝ちってことでいいんだにゃ?」
「ト、トリックだ! 魔法で幻覚を見せただろ! 無効だ~~~!!」
「近所迷惑になるから叫ぶにゃ。まだやりたいにゃら、わしについて来いにゃ。そこで相手になってやるにゃ」
「待て!!」
野次馬が増えて来たし、下手したら弱い者イジメしていると思われそうなので場所を変える。
わしが歩き出したらアーホノルドはすぐに追おうとしたが、嘘でも体は一度死んだと記憶されているから、ワナワナと震える足でついて来るのであった。
「あ、シラタマさん。ここですよ~?」
帰り道では電話を入れて呼び出していたので、キャットタワーの1階庭園にはリータとメイバイが待っていてくれた。
「急用ってなんニャー?」
「まぁまぁ。それよりイサベレはどうしたにゃ?」
「今日はシリエージョちゃんが戻って来る日だから、三ツ鳥居の前で待ってるニャー。さっき電話があったんだってニャ」
「そうだったにゃ! わしも早く会いに行かにゃいと!?」
「どこ行くんですか。まだ呼び出した理由も聞いてませんよ」
シリエージョが戻って来ると聞いて迎えに行こうとしたけど、リータに尻尾を掴まれたので急ブレーキ。怒っているようにも見えたので、アーホノルドの背中を叩いて前に出した。
「こいつ、バカさんの曾孫でアホ君って言うにゃ~」
「「馬鹿でアホ??」」
「バーカリアンで! アーホノルドだ!!」
リータとメイバイは日本語も達者なので、わしの言い方では伝わらなかったっぽい。そもそもバーカリアンも思い出すのには時間が掛かっているから、わしがヒントを与え続けてあげた。
「あ~。あの人の曾孫さんでしたか」
「私たちと一緒に、フェンリルと戦ったニャー」
「高祖父と??」
「うち、全員長生きでにゃ~」
アーホノルドはわしたちのことを詳しく知らなかったので、テーブル席でお茶しながら説明。70年前のアルバムを引っ張り出して探していたら、奇跡的にバーカリアンの写真が出て来た。
「これは……女王誕生祭の時のだにゃ。アイツ、まだ諦めずにイサベレに挑戦してたんだにゃ~。リータたちはにゃんか思い出したにゃ?」
「えっとですね……あ、宮本先生が褒めてましたよ。確か」
「あの宮本先生がにゃ~??」
「あ、私も思い出したニャー。1日で先の先も後の先も掴みつつあるとか言ってたと思うニャー」
「あ、そういえば、剣の腕前はたいしたモノだったにゃ~」
そこまで関係はなかったけど、なんだかんだで思い出話に花が咲くわしたち。アーホノルドも曾お爺さんの知らない話が出て来たので興味津々で聞いている。
「わしたちの知ってるバカさんはこんにゃもんかにゃ~? そっちのほうが詳しいんにゃから、ちょっと聞かせてくれにゃ」
「別に面白い話はないぞ」
アーホノルドが生まれた時にはバーカリアンは亡くなっていたから会ったことはないけど、祖父が剣術と生前の伝記、あとはわしへの恨みを引き継いでいたんだとか。
そのバーカリアン伝記をアーホノルドは毎日読みながら育ったから、こんなに曾お爺さんのことが詳しいらしい。よけいなことしやがって……
ちなみにバーカリアンは猫歴40年代には他界。結婚はせずに、事実婚で3人の女性と一緒に暮らしていたとのこと。子供も多く授かったらしく、男は漏れなくバーカリアン伝記に憧れてハンターになっているとのこと。
ただ、才能のある者が生まれずそこまで活躍していなかったそうで、この才能の塊のアーホノルドがバーカリアンの再来だと持て囃されていたそうだ。
「へ~。あの子たち、本当にお金貯めてたんにゃ」
「あの子たちって、高祖母たちのことか?」
「うんにゃ。わしの記憶では、バカさんは3人の女性にお金の管理されてたんにゃ。無駄遣いが多いから、小遣い制とか言ってたかにゃ? てっきり持ち逃げされて、道端で野垂れ死んでるかと思ってたにゃ~。にゃははは」
「高祖母たちは、高祖父を愛していたのは文章からも溢れ出てたから、そんなことは絶対しないぞ。馬鹿にするなよ」
「ゴメンゴメンにゃ。てことは、いい暮らししてたにゃ?」
「そこそこな」
バーカリアンはその当時のハンターの中ではナンバーワン。A級まで上がっていたし、お金は管理されていたから引退後もかなり裕福な暮らしだったらしい。
働く必要もないくらいの暮らしだったけど、東の国からの依頼で中学校のハンター講座の指導をしていたそうだ。
「にゃっ! そういえば、ハンター証を見せびらかしに来たことあるにゃ~」
「あ~。その時ですね。宮本先生に挑んだの」
「シラタマ殿が面倒だからって、宮本先生に押し付けてたんじゃなかったかニャー?」
「うんにゃ。押し付けたにゃよ? てか、どっちが勝ったか誰か知ってるにゃ?」
「「……さあ?」」
「剣術を習って帰ったんじゃないですかね?」
「習ってたんだから、負けたんじゃないかニャー?」
リータとメイバイもここまでしか記憶がナシ。ただ、曾孫としては負けは受け入れられないようだ。
「高祖父は、イサベレ様以外の人に一度たりとも負けたことがないと書いていたぞ!」
「たぶん嘘ついてるんじゃないかにゃ~?」
「嘘ついてるのはそっちだろ! 高祖父も猫王のことを、ズルでS級になった噓つき猫と呼んでいたんだ!!」
「バカさんが吹き込んだんにゃ……死んでからもわしに絡んで来るにゃよ~」
「「たはは」」
アーホノルドが来たのは、完全にバーカリアンのせい。わしのツッコミに、リータとメイバイも苦笑いだ。
他にも何か伝わっていないか聞いてみたら、イサベレ関連の恨み節が多い。東の国の女王を脅して結婚を命令させたとか、借金を盾に妻にしたとか、親しい人を人質に取ったとか、レイプして孕ませただとか、ケダモノだとか……
「いや、どれかひとつでもわしの物ににゃっているのでは??」
「全部やったんだろ! このケダモノ~~~!!」
「見ての通り、ケダモノにゃんだけど……」
脅しのネタが多すぎたので面白すぎて質問したら、酷い言われようだ。リータとメイバイも笑いが我慢できないように見えます。
「パパ~? 来たよ~??」
そんな感じでアーホノルドがワーワー騒いでいたら、イサベレがシリエージョとキアラに挟まれてやって来た。
ちなみにわしに声を掛けたのはキアラ。シリエージョは久し振りに里帰りしたけど、昨日わしと会っているのでまったく嬉しそうな顔をしてくれない。
「シリエージョ様!?」
その声に真っ先に反応したのは、アーホノルド。
「ゲッ……なんでこいつがいるの……」
アーホノルドはなんか飛び跳ねるように踊りながら近付いているが、シリエージョは汚物を見るような顔になってる。
そのやり取りをわしはリータたちと「どうしたんだろうね~?」と喋っていたら、アーホノルドはシリエージョの目の前まで行くと、大袈裟な身振りをして右手を差し出した。
「ここで会ったのはまさに運命! その運命には抗うことはできません! 私と結婚してください」
「イヤって言ってるでしょ」
「ぶべっ!?」
アーホノルドの流れるような求婚は、瞬殺。これまた流れるようにシリエージョはビンタ拒否だ。
「なっ!? もしやあなたは伝説卿? お歳を召してもその美貌は変わらずとは、まさに伝説! 私と結婚してください」
ビンタされたアーホノルドが左にズレたらイサベレが目の前に立っていたので、また流れるような求婚。
「結婚してるの」
「ぶほっ!?」
イサベレも何故かビンタ拒否。たぶん意味がわからないから手が出たんじゃない?
「おおっ! ここは天国か? シリエージョ様とも伝説卿とも負けず劣らずの美しさ。あなたは天使様ですか? 私と結婚しください」
アーホノルドは左にズレたら、今度はキアラにまで求婚。
「プッ……」
「ぎゃああぁぁ~!?」
キアラは、完全にノリでビンタ。三段落ちだからって、イサベレたちより力を込めたビンタでアーホノルドを吹っ飛ばしたのであった。
「シリエージョちゃん。どういうこと?」
アーホノルドがバタンキューとなったら、リータからの事情聴取が始まった。
「アイツ、女王誕生祭の騎士とハンターの試合で、毎年出て来て私に求婚するの。断ってるのに、プレゼントまで送って来て……気持ち悪いの」
「それって……バーカリアンさんとイサベレさんの関係に似てますね」
「バーカリアン……どこかで聞いたことがあるような……」
イサベレは薄らとしか記憶になかったので、シリエージョと同じことをしていたハンターの話をしたら、ギリギリ記憶にあったみたいだ。
「ねえ? パパ、ヤバくない??」
そんな中わしはと言うと、倒れているアーホノルドの傍まで行って、世界最強の刀【猫撫での剣】を振り上げていたのでキアラが指差した。
「おどれぇぇ~。わしの妻だけじゃにゃくぅぅ、娘のシリちゃんとキアラにまでチョッカイ掛けるとはぁぁ、どういうことにゃぁぁ~。オオ??」
そう。イサベレはそこまでじゃないけど、わしのかわいい娘に求婚するなんて、万死に値するからキレてるのだ。
「シラタマさん!?」
「ダメニャー!!」
わしがいまにもアーホノルドを殺しそうだったので、慌ててリータとメイバイが羽交い締めで止めてくれたのであったとさ。
「伝説卿とシリエージョ様と天使様をください! お父様!!」
リータたちにモフられてやっとわしが落ち着いたところで、気絶から回復したアーホノルドは土下座をしたけど、さすがのわしも呆れちゃった。普通、誰か1人を選ぶモノだよね?
「わかったにゃ。わしに勝てたらくれてやるにゃ」
「いよっしゃ~~~!!」
「「「「「……」」」」」
アーホノルドは飛び跳ねて喜んでいるが、イサベレたちは目だけで「これ、絶対渡す気ないよね?」とか言い合っている。そりゃそうじゃろ。わしに勝てる人間なんてこの世に存在しないもん。
「んじゃ、その剣がわしに掠るだけでも勝ちにしてやるにゃ。その代わり、簡単に死なせてやらんからにゃ?」
「ひゃっほ~~~!!」
ここまで脅しているのに、こいつは正真正銘のアホ。飛び掛かって来たので、わしは【殺気の剣】で斬りまくる。
最初は手首。次に足首に移動して、両手足を細切れにし、体もバッテン斬り。首も切り落としてやったけど、アーホノルドはまだ立ってやがる。
「ゼェーゼェー……まだまだ~~~!!」
【殺気の剣】は錯覚だけど、何度も死んでいるはずなのに立っているとは、わしも拍手だ。
「修羅の剣の奥義【殺気の剣】を耐えるその根性だけは認めてやるにゃ。この剣はどうかにゃ~?」
修羅の剣で倒れないのなら、優しい剣。何度も竹刀でアーホノルドの頭をスパーンッと叩いてやった。避けられない剣で、心を折る作戦だ。
「な、なんだこれは……」
「優しい剣の奥義【無意の剣】にゃ。殺して強くなるのではなく、殺さず強くなる。斬るではなく斬る矛盾を受け入れて、初めて使える剣にゃ。ここまで頑張ったお前には、もうひとつ侍の極地を見せてやるにゃ」
「なっ……」
ラストは、空間断絶魔法。わしはアーホノルドの握ってるソードを狙い、竹刀で真っ二つに切り飛ばしてやった。
「まぁ最後のはサービスにゃから、どうでもいいにゃ。修羅の剣と優しい剣の奥義を習得できたにゃら、わしの娘をくれてやるにゃ。たぶんシリエージョも、見直して惚れてくれるんじゃないかにゃ~?」
「お……おお! これほど素晴らしい技術を教えてくれただけでなく、シリエージョ様まで!? このアーホノルド、お父様の期待に必ず応えてみせます! ありがとうございました!!」
こうしてアーホノルドは、頭を下げてキャットタワーから去って行くのであった。
「パパ~? 勝手にあんなこと言わないでくれる~??」
せっかくわしがアーホノルドを追い返したのに、シリエージョは顔が怖い。
「ぶっちゃけ無理にゃろ? わしがにゃん年掛けて優しい剣を習得したと思ってるんにゃ」
「そうだけど~。本当にマスターしたらどうするのよ?」
「その時はその時にゃ。結婚してやれにゃ。シリエージョには力で及ばにゃくても、剣の腕前だけは超えるんにゃよ? 妥協点としては、充分な成果にゃろ」
「それ、本気で言ってる? あんなヤツと結婚していいの?」
「もしもの場合は、この世から完全に消しにゃす……」
「やっぱり……」
ちょっと大人っぽいことを言ってみたけど、シリエージョにはバレバレ。「私が結婚するの寂しいんでしょ~?」と嬉しそうなシリエージョにモフられて、わしもめちゃくちゃ嬉しくなるのであった……
その帰り道、イサベレがわしの隣に並んだ。
「誰にも教える気がない空間断絶魔法まで見せていたけど、本当は何を考えているの?」
どうやらわしがサービスし過ぎたから真意を聞きたいみたいだ。
「まぁにゃんだ。アホ君はアホにゃけど、剣だけは本物にゃ。もしかしたら、アホ君の一族に修羅の剣と優しい剣を習得する大天才が現れるかも知れないからにゃ~……種蒔きしてたんにゃ」
「そういうこと……そのふたつを融合できる人を待ってるんだ」
「わしとどっちが早いかにゃ~? あ、後藤家を紹介して切磋琢磨させるのも面白いかもにゃ~」
「フフフ。ダーリンが一番早いと思う」
「わしとしては、イサベレの孫か子孫が早いと思うんにゃけどにゃ~」
「ん。頑張っていっぱい産む。今晩どう?」
「イサベレも優しい剣、覚えにゃい??」
わしが種蒔きしている理由にイサベレが納得してくれたのはいいのだが、わしの子種を欲するイサベレとは、長い話は避けられないのであったとさ。




