猫歴67年その4にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。アナサジ族はアリなんだから、重機とか使わなくても不思議じゃないんじゃない?
ウロがアナサジ族の建築方法に納得いかない顔をしていたので、どうしたのかと聞いたら宇宙人並みの技術力があると思っていたらしい。
それはわしも同じことを思ったけど、時の賢者の手記は基本的には嘘が書かれていなかったから、諦めてるの。
夢を奪って申し訳ないが、宇宙人の正体もUFOを作った神様の可能性が高いと説明して移動。他のウサギ付きの遺跡を案内して元気を出してもらった。「ちょっとウサギは邪魔」とウロが言っていたのは、わしも同意見だ。
それから次に移動するのだが、戦闘機で。低空飛行で飛びながら案内する。
「道みたいな物がありますね。西アメリカも猫の国が統治しているのですか?」
「う~ん……その答えは微妙だにゃ。アメリカ大陸全土にわしの石像が置いてあるけど、アレはリータたちが勝手にやっただけで、猫の国に入った部族は少ないんにゃ。だから点々って感じだにゃ」
「その理由は、やはり文化の違いが大きいのですか?」
「どちらかというと、わしが拒否してるのが大きいにゃ。こういうのは王様案件になっちゃうから、仕事増やしたくないんにゃも~ん」
「そんな理由で国土を増やさないとは……」
普通の王様なら国土を増やしたい野望はあるだろう。さらに最強の猫なら増やし放題。それをしないどころか仕事を増やしたくないと聞いたウロの死んだ目が痛い。
その時、ちょうど村ぐらいの大きさの集落が左手に見えたので、バスガイドのように説明する。
「左手に見えるのは、50年ぐらい前に猫の国に加入した、カンザ族が暮らすカンザ村ですにゃ~」
「あまり栄えているように見えませんね。あんな小さな村を加入させるメリットはあるのですか?」
「多少はにゃ。これから行く町とウサギ市の中間地点にゃから、休憩用の場所となってますにゃ~」
ウロはまだジト目をしているので、簡単な経緯を説明。ウサギ市から次の町まで道を整備して商用のバスやトラックを走らせるにあたって、カンザ族の村が近くにあったから「ここ通っていい?」と許可を取りに行った。
カンザ族とは初めて会った時にわしが美味しい物を食べさせたり、ボランティアもしていたので簡単に許可は下りた。
それからウサギ市ともうひとつの町が交易で行き来していたら「何してんの?」となって、物のやり取りをしていると説明したら「うちもやりたいな~」と加入することとなった。
いまでは運転手や商人の休憩地点として、けっこう役立つ村となったのだ。
カンザ族も小説に少しだけ出ていたので、ウロも興味を持ってくれたのでジト目は収まった。ただ、サンダーバードのトーテムポールぐらいしか見る物はないのでそのまま通り過ぎて、目的の場所にて戦闘機を着陸させるのであった。
「なんだか草原には場違いな建物が多く建っていますね」
「ここは小説にも出て来る、キカプー族が暮らすキカプー市にゃ~」
やって来たのは、皆さんご存知かどうかわからないキカプー市。ウロはご存知でしたのですぐに気付いてくれました。
「ハリケーン被害があった場所ですね。ここまで立派な町になっていたとは、関係ないのに何故か感慨深いです」
「その頃は100人前後だったもんにゃ~。いまは他部族も流れて来て、10倍に膨れ上がったんにゃ」
「なるほど……先住民が集まる交差点ということですね。揉めたりなんかはしないのですか?」
「風習が違うから多少はにゃ。でも、キカプー族が上手く立ち回ってくれるし、そもそもわしがいるから武力行使はやらないにゃ」
「結局、力業……」
「わしじゃないにゃよ? 猫軍アメリカ支部のポポル将軍が、首刈族をボコボコにしちゃったんにゃ~」
第三世界でわしがやらかしたことを知っているウロは信じられないって目。町の中を歩けば土下座する人もいるから「アレはポポルが勝手にやって風習化したヤツ!」と説明して納得していただいた。
「まぁ……立派になったと言っても見る物はたいしてないですね」
「まぁ……先住民の衣装の違いぐらいかにゃ~……あ、風習を聞くのはけっこう面白いにゃよ? まとめた物、読むにゃ?」
「確かに第三世界では西洋人に踏み荒らされているから、失伝した風習は多そうですね。貸してください」
本は荷物になるので帰ってから渡すとして、わしは寄りたいところがあったので一緒に向かう。
「わ、わふぅぅ……」
「犬のマネしてるにゃ?」
「和風のお墓に驚いているのです」
「ツッコミにゃら、もうちょっと声張ってくれにゃい?」
そしたらウロにツッコまれたけどお上品すぎるので、逆ツッコミ。これ以上は、はしたないからやらないんだってさ。同じようなやり取りをしたベティと大違いだ。
「こちらは有名な方のお墓なのですか?」
「う~ん……ま、ウロ君にゃら言っても大丈夫かにゃ? 猫の国のトップシークレットにゃけど聞くにゃ??」
「はい。絶対に誰にも喋らないと誓います」
元天皇陛下なら口が堅いと信じてわしは語る。
「ここに眠る人は、シャーマンの一族にゃ。ま、占い師ってヤツだにゃ」
「シラタマ王が占い師を頼るとは思えませんが……」
「にゃはは。ただの相談役じゃないにゃ。未来を百発百中で当てる一族なんにゃ」
「それが事実なら、トップシークレットになるとは思いますが、本当なのですか?」
「そりゃ信じられないだろうにゃ~……そろそろ来るかにゃ?」
「来る??」
わしたちがお墓に向かったまま話し合っていたら、後ろから若い女性が現れる。
「猫さん! 今日こそ占って行きますよね!?」
シャーマンだ。先代が数年前に他界したので、わしの感覚ではこの子は三代目シャーマンだから、三代目と呼んでいる。先住民の名前、発音難しいんだもん。
ただ、先代と同じくうるさい子だから、わしは面倒くさそうに振り返った。
「それも知ってるにゃろ?」
「知ってますけど~。ババ様みたいに、数回で終わりたくないんですよ~」
「天気予報を含めたらもっとあるにゃ~」
「そんなもんどうでもいいでしょ!!」
シャーマンは代替わりしてもわしに占ってもらいたい欲求があるからうるさいので、「場所を変えて占ってもらう」と言ったら落ち着いてくれた。
ちなみにキカプー市の学校には英語学科もあるので、シャーマンも英語を喋れるよ。英語ならわしが占ってくれると思ったらしいけど、いまのところ間に合ってます。
お墓から移動してやって来たのはシャーマンのお店。胡散臭さが漂う占いの館だ。
「こっちのウロ君の寿命を占ってくれにゃ」
「え……猫さんのことじゃないのですか?」
「あ、いまハズレたにゃ? やっぱり三代目も、わしが関わると確立が下がるんだにゃ~」
「ハズレてませ~ん。わかってました~。寿命ですね? チョチョイのチョ~イ」
わしたちのやり取りを黙って見ていたウロは、シャーマンのことを偽物と決め付けた目をしてる。その目に気付いたわしは念話で「これから面白いことになる」と教えてあげた。
けど、シャーマンが石とか骨を投げて占い出すと、ウロは確信の目に変わって「枝を折りましたよ? 偽物でしょ??」とかブツブツ言ってる。
「えっとですね……88歳……いや、300歳以上……え? どゆこと??」
さらにめちゃくちゃ悩んでとんでもない数字まで出て来たので、偽物率は100%になったな。
「だってにゃ? どう思ったにゃ??」
「正直言いますと……」
「こう考えてみようにゃ。88歳は普通に生きた場合にゃ。エルフになったら長寿になると教えたにゃろ?」
「……あっ! 私が悩んでいるとしたら、当たっています!!」
「にゃろ? どうもわしが関わると未来が枝分かれしちゃうらしいんにゃ。だからシャーマンも面白がって、わしを占いたいんにゃ~」
「確かに百発百中なら、違う未来が見えたほうが面白いでしょうね」
わしがウロと喋っていたら、シャーマンは頬を膨らませて話に割り込む。
「面白くありませ~ん。役に立ちたいだけで~す」
「そうかにゃ~? 先代も笑って逝ったけどにゃ~」
「アレは! 猫さんが寿命を延ばしたから、苦笑いしてたんですよ~。最後の最後にハズレたんですも~ん」
先代シャーマンは自分の死期を悟ってわしに日時を伝えていたから、その1週間前から毎日訪ねて超美味しい高級肉と高級薬草をふんだんに使った料理を「今までのお詫び」とか言って食べさせてやった。
そしたら4日も延命したから、笑いながらキレられた。わしも狙い通りだったから、大笑いして見送ったのだ。
「そんじゃあ、また来るにゃ~」
「だから占って行け~~~!!」
今日も今日とて、わしは何も占ってもらわず帰るので、シャーマンの遠吠えが響き渡るのであったとさ。
それからウロには「シャーマンがかわいそうでは?」とか言われながら、アメリカ大陸にある猫の国の村を何個か回ったら帰宅。疲れただろうから日を改めて、猫市を観光しながら感想を聞く。
「ま、猫の国はあんなもんにゃ。発展途上の場所もあるけど、ボチボチやってるにゃ~」
「これでボチボチですか……思っていたより近代国家に近くて驚きましたよ」
「それは第三世界のおかげにゃ。技術や本を持ち帰ったから、進化の速度が上がったんにゃ。知ってるかどうかわからにゃいけど、陛下からいただいた量子コンピュータも作ってるんにゃよ」
「そこまでとは……」
「ちょっと歪にゃ進化の仕方だけどにゃ。数百年後、歴史学者たちの頭を抱える姿が目に浮かぶにゃ~」
「フフフ。私も目に浮かびました」
進化の過程をすっ飛ばしてスマホとかを作っているのだから、歴史学者が悩むのは目に見えている。2人でどんなことを言われるのかと笑って歩いていたら、私立猫の国大学の近くにいたので、せっかくだからここも御案内。
地上の建物で勉強している学生たちを見て歩き、地下大図書館に移動する。
「この本は……発行日が令和となっていますけど、第三世界の本の貯蔵庫ですか?」
「うんにゃ。上では見せられないから隠しているわけにゃ」
「それは隠すしかありませんよね。他国の学生もいますし」
「まぁこの38年で美味しい技術や知識はほとんど出したと思うから、全て開放してもいいかもしれないけどにゃ~」
「その場合は、年号とかを書き直さないといけないから大変そうですね」
「確かに……まだマニアックにゃ本は残ってるから先送りにするにゃ~」
ウロには「また仕事が増えるの嫌がってる」とツッコまれながら技術部門も見たら、キャットタワーに帰ってディナーにする。
「ところでいつも私に付き合ってくれていましたが、仕事は大丈夫だったのですか?」
「そりゃわしが休日に何しようと自由だからにゃ。仕事に影響はないにゃ~」
「貴重な休日を奪ってしまい、申し訳ありません」
「気にするにゃ~」
ウロは気遣ってくれたけど、その話を聞いていたリータとメイバイは怒った顔でわしの両隣に座った。
「ホント、気にしないでください。シラタマさんが働くの、週に3日ぐらいですから」
「ちょっ! にゃに言ってるんにゃ~」
「事実ニャー! なんなら、先週は1日しか働いてないニャー!!」
「せ、先週は、ほら? 雨が多かったから、狩りの日が訓練になったじゃにゃい??」
「その訓練の日も縁側で寝てましたよね?」
「子供たちも呆れてたニャー!」
わしがどんなに言い訳しようと、リータとメイバイは許してくれない。てか、天皇陛下に仕事してないとチクらないでくださいよ~。
そのやり取りを微笑ましく見ていたウロは手をゆっくり上げたので、わしを助けてくれるのかと思ってムリヤリ話を振った。
「いまの会話の中に、王様らしい仕事がひとつもなかったのですけど……」
「えっと……基本的に政は首相とか議員がやってくれるからにゃ……ほら? 第三世界の天皇家もそんにゃ感じにゃろ??」
「国事行為は多々あるので、一緒にされたくないのですが……」
いや。助けてくれない。王様の仕事がひとつもないことに驚きと侮蔑がありそうだ。
「「こんなのが王様で恥ずかしい……オヨヨヨ」」
「泣くにゃ~。明日は仕事しにゃすから~~~」
リータとメイバイは泣き出す始末。たぶん嘘泣きしていると思うけど、そこをツッコムと烈火の如く怒られそうなので、わしは仕事すると言っちゃうのであったとさ。




