猫歴67年その3にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。なんだかんだで自分の国の観光は初めてで楽しい。
ウロにソウ市の地下空洞を見せてあげたら、猫クランが訓練していたので引き気味。わしも巻き込まれたくないので、そっと扉を閉めて次に移動した。
「ここは~……なんとも……」
「質素にゃろ? 怒ったりしにゃいから、思ったこと言ってくれにゃ」
やって来たのはソウ市よりさらに北にあるニューキャットシティー市。
「シティーシティーって、おかしくないですか?」
「これは日本語の物語だから仕方ないんにゃ~」
町のダメ出しをされるのかと思ったら、文章のダメ出しをされたので困っちゃう。そんなことを言ったら、アメリカの日本語地名はそんなのばかりなので大目に見てください。わしが名付け親じゃないし。
「人も少ないですね。どうしてこんな場所に町を作ったのですか?」
「近くに塩湖があるんにゃ」
「そういうことですか。岩塩だけでは足りないということですね」
「まぁにゃ。輸入するとどうしても高くなるから、必要にゃ町なんにゃ。でもにゃ~。もうちょっと観光で来てくれると思ってたんだけどにゃ~」
「確かに。死海なんて観光客が多いですもんね」
「この近くにダムと水力発電所もあるんにゃよ? 見たいと思わないのかにゃ~??」
平行世界人ならではの感覚。この感覚を持つには、もう少し文化が発展しないといけないのではないかとの結論に至る。それから塩湖とダムを観光したら夕方になったので、猫市に帰宅するのであった。
「さ、寒いです。ここはいったい……」
「あ、ゴメンにゃ~。これ着てくれにゃ~」
日を改めてやって来たのは、雪国。4月前半ではまだまだ寒いから、ウロには熱羽織の魔道具付きマントをレンタル。ただ、まだ魔道具を使ったことがないらしいので、わしがスイッチだけ先に入れてあげた。
「ここはロシアの極東、チェクチ市にゃ~」
「チェクチ……あっ! 阿修羅の!?」
わしが場所を発表するとウロは初めてと言っていいぐらい興奮してる。何故かと聞くと、小説で一番好きな巻だから。阿修羅との戦闘のハラハラ感がたまらなかったらしい。
「舞台はここだったのですね」
「いや、もっと西にゃ。行きたいにゃ?」
「お願いします!」
人間がいない場所はパスしようと思っていたけど、次の候補に入れてあげる。その前に、チェクチ市観光だ。
「あまり発展してませんね」
「まぁにゃ~。こうも自然が厳しいと、人が集まらないからにゃ~」
「日本でも豪雪地帯は人口が少ないですから仕方ないですね」
「その代わりってわけじゃにゃいけど、チェクチ族は猫の国一番のお金持ちにゃから、室内は豪華にゃよ?」
「産業も乏しく見えるのに、お金持ちなのですか??」
「ここはレアアースの鉱山があるんにゃ~」
建物じたいは質素だけど、ここは白魔鉱や黒魔鉱がゴロゴロ採れる地。採掘量の規制は掛けているが、それでも恐ろしい額が入って来てるから全員お金持ちなのだ。
ちょっとその辺を歩いていた人に中を見せてくれと頼んだら、王様のお願いなので楽々侵入。ウロの家より家電が揃っていたので、「負けた」とか言っていた。
「電力はどうしてるのですか? 太陽光発電なんて、冬場は無理ですよね??」
「電池魔道具の話をしたにゃろ? チェクチ族は一般的にゃ人間より、およそ倍の魔力を持ってるからにゃんとかなるんにゃ」
「人力発電ですか……」
「言葉のイメージだと、ムチ打たれてモーター回してるみたいだにゃ」
電力の謎が解けたら、ちょっと観光。しかしたいして見る物はないので、真っ黒な外壁に登って「全て黒魔鉱だから5ヶ国ぐらい買えるよ」と教えてあげたら、ウロは驚きすぎて落下した。
そんなウロを助けて転移。リクエスト通り猫帝国に連れて来た。
「ロシアの赤の広場にある宮殿に似てますね。元からこの色なのですか?」
「いんにゃ。壊れていたのを直して、当時の塗料の成分も分析して塗ったんにゃ」
「それは誰が……」
「言わなくてもわかるにゃろ~」
王様らしくないって目をするウロを背負って城壁に飛び乗ったら微妙な顔。わしが至る所にいるもんね。
「この石像は……」
「見るべきところはそこじゃないにゃ~」
「おお……マンモスが歩いてます。まるで石器時代に戻ったような……デカすぎません?」
マンモスに感動していたウロであったが、その先にいた巨大すぎる白マンモスが目に入って言葉が乱れた。
「アイツはこの猫帝国を守る守護神にゃ~」
「それは心強いとは思いますけど、猫の国ではないのですね」
「ここには国民がいないからにゃ」
「国とは民あってのモノということですか」
「というか、リータたちがふざけて付けただけにゃ」
両者共にいいことを言ったけど、わしがカミングアウトしたら微妙な空気に。なので、空気を変えるために阿修羅との戦闘現場に連れて行ったらウロは大興奮。
爆心地のような大穴が何個もあるので、激しい戦闘が想像できて楽しめたみたいだ。
「次はどこ行こっかにゃ~……北極と南極も猫の国にゃけど、誰もいないからまた今度にしとこうかにゃ?」
「それも簡単に行けてしまうのも驚きですが、国に入れたのも驚きです」
「正確には、メイバイたちが石像とプレート置いただけにゃから、わしは認めてないにゃ~。まぁ行けるのわしたちしかいないんだけどにゃ」
「それでは仕方がないですね」
誰も行けない土地では、誰の物でもいいみたい。特に反対されなかったので、転移して猫の島にやって来た。
「ここは暑いですね」
「こっちに着替えてくれにゃ」
寒いところにいたので赤道が近い猫の島にしてみたけど、暑すぎたみたい。とりあえず熱羽織のクーラー版に変えて歩いてみる。
「リゾート地ですか?」
「うんにゃ。猫の島は、主に東の国の貴族が遊びに来てるにゃ~」
「外貨獲得の島ということですか。しかし、和風の城と地中海風の建物はミスマッチが凄いですね」
「にゃんかお城はリータたちが壊すの反対するんにゃ~。だから働く人の宿舎として使ってるんにゃ」
わしだって壊せるなら壊してる。なのにリータたちが猫のオブジェが足りないとか言って許可が下りない。たぶん、猫又シャチホコが気に入ってるのだろう。
猫の島は狭いし海しか見る物がないので、すぐに転移。猫の国から真っ直ぐ南に作られたとある村に連れて来てあげた。
「さっきと気温は少し低いくらいですか。しかし、岩をくり抜かれたようなこの町は……」
「ここはクリフ・パレスを参考に作られた、猫岩村にゃ~」
「崖の下は海ですから、名前に海を入れたほうがよろしいのでは?」
「その苦情はリータたちに言ってくんにゃい?」
猫岩村とは、漁業目的に作られた村。本当は猫の国の南を開拓して町を作ろうと思っていたけど、距離があるし黒い森が深すぎる上に山も越えなくてはいけないから、海まで開通するまで何十年先になるかわからない。
開通したところで強い獣が多いから、キャットトレインを守るのも大変。なので、三ツ鳥居があるんだから一足飛びに町を作る案が出たのだ。
猫クランに土木関係者を加えて漁港予定地を探してみたら、この辺りは超危険地帯。猫クランが滞在するならなんとか町を守れるが、普通のハンターや軍では「無理じゃね?」と、土木関係者は諦めることに。
そこでメイバイが、中国横断のことを思い出して「シラタマ殿ならクリフ・パレスを作れるニャー!」と超無茶振り。メイバイは猫耳族でお魚大好きだから、どうしても諦めきれないと、わしに鞭を打って作らせたのだ。
「またとんでもない物を作りましたね……」
「凄いにゃろ~? 科学的に作られた、現代版のクリフ・パレスにゃ~」
漁業をするのだから、ゴンドラは必須。両サイドは船を直接海に下ろせて、中央の2台はゴンドラに乗ったまま網や糸を放り込める。光は崖の淵に長い鏡を取り付けて、天井の鏡で乱反射。昼間はこれで省エネだ。
電気も必要だから、両サイドの壁に太陽光発電パネルを取り付けた。もちろん地震対策もバッチリ。家の多くはビルのような形で天井まで伸びているし、わしの魔法で作ったから、この空洞を支えるには充分な強度だ。
これ、ほとんどわしがやったんだよ? どんだけ大変だったか……
「こんな村を作るから、ニューキャットシティー市に観光客が行かないのでは?」
「そうにゃの……猫の島より物価がかなり安いし、安全な砂浜まで行けるトンネルもあるから、漁業より観光業のほうが儲かるの……」
ただし、国民みんなで作った町よりわしひとりで作った村が観光客で溢れてしまったから、頑張って作ったのに失敗したと受け取らざるを得ないわしであったとさ。
「ここは自然豊と言いたいところですけど、真っ黒な森は気持ち悪いですね」
「だにゃ。そして危険にゃ。そんにゃところにある町、エルフ市に御案内にゃ~」
猫岩村はそこまで広くないしウロは海なんて見飽きているので、エルフ市に移動。わざと真っ黒な外壁の外に転移して、門から入った。
「エルフというわりには、黒髪でアジア系なのですね。黒い家も木造建築ですし」
「にゃはは。元は中華民族だからにゃ。ちょっとガッカリ感はあるよにゃ~」
「私のイメージが悪いだけですので、そこまでは……」
「そんにゃに気を遣わなくていいにゃよ? エルフたちも自分で言って笑ってるからにゃ。正式名称は、周族にゃ~」
「周……南北朝時代に出て来ますね」
「さすがは天皇陛下にゃ。博識だにゃ~」
エルフ族は遠い昔は部族名があったのだが、孤立期間が長すぎて呼ぶことがなくなり、古い資料も保存状態が悪くて完全に消失してしまった。
そこで自分たちで部族名を考えさせていたのだがなかなか決まらなかったので、第三世界の歴史書を遡りこの場所に一番近い国名から、わしが周族と案を出したらしっくり来たらしいので本決定となったのだ。
「しかしここもシラタマ王がたくさんいますね。アレはワンヂェンさんですか?」
エルフ市を歩くと白猫木像と黒猫木像が至る所にあるので、ウロの質問が来てしまった。
「う、うんにゃ。猫が好きみたいにゃ……」
「野人の脅威から救ったシラタマ王を称えてですよね? ということは、ワンヂェンさんはおかしいような……」
「素材の色が違うだけにゃ~」
元天皇陛下にこれ以上ウソをつくのは心苦しい。黒猫ワンヂェンに罪を擦り付けたかったが、ここまで小説を熟読されていては木材の違いだと真実を語るしかないわしであったとさ。
エルフ市も見る所は少ないので、傭兵みたいなことをして収入を得てるとか美味しい野菜が採れるとか特徴を説明したら帰宅。日を改めて時差も合わせたら転移。
「これが本物のクリフ・パレス……」
「感動にゃろ? でも、いまはウサギ族が暮らすウサギ市にゃ~」
やって来たのコロラド州南西部にあるクリフ・パレス。ウロも初めて来たらしいので、岩をくり貫いて作られた岩窟住居に感動している。でも、「猫岩市を先に見るんじゃなかった」とも呟いてた。
「あそこに階段がありますけど、昔からあったのですか?」
「いんにゃ。遺跡に手を加えるのはあまりやりたくなかったけど、下が畑になってるからにゃ。出勤時に死ウサギが出そうだったから付けるしかなかったんにゃ」
「それは仕方がありませんね。人命……兎命?第一ですよね」
「別にわしに合わせなくていいにゃよ?」
いまだにわしはウサギを人と換算するのが引っ掛かるので「死ウサギ」と言ったので「兎命?第一」になったのかと思ったけど、ウロも「人命」に引っ掛かったんだって。
とりあえずウサギの件も階段の件もウロから反対意見はなかったので、階段を登って先にランチ。ラビットランド2に連れ込んだ。
「ウサギだらけでしたね~」
「昔はもっといたんにゃよ?」
「存じております。ここに6千人?は無理ですよね。いまは増えていないのですか?」
「倍は増殖してるにゃ~。多くなったら他に移住を促すようにしてるから、ここは基本的に人数?は一定なんにゃ。主に猫市か他の岩窟住居って感じだにゃ」
「あ~……メサ・ヴェルデ遺跡は何個か岩窟住居があるのでしたね。それも是非とも見たいです」
ウロも遺跡好きみたいなので話が早いが、クリフ・パレスはまだ来たところ。ラインダンスするウサギや、ウサギを撫で回す観光客を見ながらランチを終えると町に出た。
「遺跡に住むなんて、贅沢この上ないですね」
「にゃはは。確かににゃ。第三世界ではあり得ない贅沢にゃ~。わしの別宅もあるんにゃよ?」
「それは羨ましい。両親の許可が下りましたら、是非とも宿泊させてほしいです。そういえば、ここを作った先住民は……なんと言いました?」
「アナサジ族にゃ」
ウロはド忘れしていたらしくわしが捕捉すると目を輝かせた。
「そうそう。アナサジ族です。確かアリの姿をしているのですよね。その子孫なんかは見付からなかったのですか?」
「残念にゃがら、ウサギ族が移住した時にはいなかったみたいにゃ」
「それは残念です。どうやって作ったか知りたかったのですが」
「その謎は時の賢者が解き明かしてくれたにゃ~」
「あの『時のダンジョン』の??」
第三世界でクリフ・パレスの資料は売ったから、わしは知ってるモノだと思っていたが、ウロは首を傾げたので手をポンッと打った。
「そういえば、時の賢者の手記は第三世界で発表してなかったにゃ」
「あっ! 小説に手記を手に入れたとなってましたね。気になっていたのです」
「そっちには関係ないことだったからにゃ。まぁそれはあとで本を渡すから読んでくれにゃ。んで、掻い摘まんで説明すると、その手記には千年前にアナサジ族と会ったと書いていたんにゃ」
「ほう……それには建築法は……」
「書いていたにゃよ。アナサジ族は岩を歯とか前足で削ったんだってにゃ」
「……口と手作業??」
わしが答えを言うと、ウロの頭の上にハテナマークが浮かんだ。どうやら自分なりの予想があったから、それと大きく掛け離れていたっぽい。建築技術もへったくれもないもんね。
「地底に帰って行ったのですか……」
「今度はいつ出て来るんだろうにゃ~」
真相を知ってもどこか腑に落ちないウロと、ほのぼの歴史を語るわしであったとさ。




