猫歴66年その2にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。天才と書いてバカって読むんじゃね?
京に連れて来た気象局のヤツらは、初台風に浮かれて暴風のなか雨に打たれて笑っているから気持ち悪い。センエンに至っては飛んでったから、わしが救助したよ。
その台風は量子コンピュータが弾き出した予想進路を見事に通っているので、皆はモニターしながら徹夜。わしはゴロゴロ熟睡。
翌朝は綺麗な台風一過となっていた。
「ふにゃ~。本日は晴天にゃり。いい朝にゃ~」
わしがあくびをしながら外に出たら、電話をしていた玉藻に「シーッ」ってやられたので、縁側に腰掛けた。そうしてあくびをして待っていると、玉藻は電話を切って難しい顔で近付いて来た。
「にゃんかあったにゃ?」
「被害状況を聞いておったんじゃ」
「あぁ~……けっこうデカかったもんにゃ。被害は甚大だったにゃ?」
「いまのところ死者はないが、何軒か屋根が飛ばされているらしい。全てがわかるのは夜になるじゃろうな」
今回は前もって注意を呼び掛けたこともあり、準備は万全だったが、それでもダメージは避けられない。わしはせめて死者ゼロを祈りながら、家族の下へ急ぐのであった。
猫ファミリーが泊まっていた宿は、念のため頑丈な新しい宿を取っていたので建物にはダメージなし。庭にあった灯籠が倒れていたぐらいなので、すぐに復旧するだろう。
被害状況を確認して猫ファミリーに合流したら、リータとメイバイに話を聞いたところ、小さい孫たちが怖がっていたそうだ。
「にゃはは。ゴーゴーと風がうるさかったもんにゃ~」
「本当に。凄かったですね」
「建物も揺れたニャー」
「こんなの毎年来てるなんて信じられません」
「日ノ本の人、大丈夫ニャー?」
「大丈夫にゃから存続してるんにゃ。ほら? 空には雲ひとつない晴天にゃ~」
わしが指差すと、リータたちは空を見上げて「昨日の嵐が嘘みたい」と感嘆の声を出す。それに加え、昔わしがした台風の話を思い出したのか、アメリカで見たハリケーンの話題に変わるのであった……
台風の翌日は、わしたち猫ファミリーも町の清掃ボランティアに参加して、生の被害状況を確認する。その時、日ノ本テレビの中継が来ていたので「王様が何してるんですか?」ってインタビューを受けた。
夜になったら御所に顔を出して被害状況を聞こうとしたら、「何テレビに出てんだ」と笑われた。アナウンサーが変な質問ばかりするから笑われたっぽい。わしのせいじゃないのに……
一通り怒ったら、被害状況の確認。朝の状況から変わらず死者はゼロだったので、胸を撫で下ろす。家屋の被害も例年と比べると格段に減っていたらしい。
「ということは、買いってことかにゃ?」
「うむ。言い値で買うと決まったぞ」
「にゃはは。気前がいいにゃ~」
「このような結果を見せられてはのう。お手上げじゃ」
天気予報システム、売買成立。まだ忙しいので契約は後日となり、それから日ノ本にも気象庁なる組織が発足したのであった。
日ノ本に猫の国をマネた天気予報を行う組織が作られたことによって、天気予報システムの営業はかなり楽チン。各国に結果と共にわしがプレゼンしたら、ほとんど言い値で買ってくれた。
そんなことをしていたら、怒れるアンジェリーヌから呼び出し。なんで怒っているかわからないので顔を出したら、天気予報システムを寄越せだとか……
「……いるにゃ??」
「いるに決まってますぅぅ。私の功績になるんですぅぅ!」
どうやら他国が「こんなんできまんねん」と嬉しそうに言ったから、一切話を聞かされていないアンジェリーヌは怒っていたっぽい。それにちょっとでも功績を足そうとしてるな。
「と言ってもにゃ~……うちってお隣じゃにゃい? 無理にシステム買わなくても、わりと正確にゃ情報を安価で売ってるにゃろ?」
「ビーダールには売ったって聞きましたよ~」
アンジェリーヌに声を掛けなかったのは、必要ないから。南の端にあるビーダールぐらい離れていたら気候も違うからあったほうがいいし、データも手に入るから売りに行ったのだ。
「そんにゃに欲しいなら売ってもいいんにゃけど、その資金はどこから出るにゃ? 国民の血税にゃろ?」
「そうですけど……」
「わし、言ったよにゃ? 焦って手柄を欲してもいいことないってにゃ。後世に無駄に税金使った女王と書かれてもいいにゃ??」
「うっ……」
わしの説教は二度目なので、アンジェリーヌも落胆。歴史書に変なことは書かれたくないだろうから、さすがにもう言って来ないだろう。
「だったら何か他に功績くださ~い。おじ様~~~」
「くっつくにゃ~。歩きにくいにゃ~」
無理でした。アンジェリーヌの功績くれ病が再発し、形振り構わずわしに取り憑いて家臣がその現場を冷たい目で見ていたので、「遊んでるだけだよ~?」とわしが言い訳して担いで逃げるのであったとさ。
「功績と言われてもにゃ~……あっ、アレ、そろそろいいかもにゃ」
「あるのですか!?」
「喋りにくいから離れろにゃ~」
アンジェリーヌがわしの頬に頬ずりしまくるので、本当に喋りにくい。なので、「いらないのね?」と軽く脅したら対面のイスに飛び乗った。
「為替、やってみるにゃ?」
「為替とは??」
「簡単に言うと、国別のお金の価値を決めることにゃ。世界金融会議で先送りにしてたヤツにゃから、けっこうポイント高いんじゃないかにゃ~?」
「詳しく!!」
わしも詳しくないけど頑張って説明してみたら、アンジェリーヌも頭から煙りが出て来た。
「要するに、うちと東の国でもお金の価値が違うんにゃ。だってそうにゃろ? お金の流通量が違うのに毎年刷ってるんにゃから、数がピッタリ一致するわけがないんだからにゃ~」
「だからレートを決める機関が必要と……」
「いい加減やらにゃいと、国によっては不公平が生じてるかもしれないにゃ。物価が微妙に違うからにゃ」
「確かに全世界のお札が同じ価値ってのは無理ありますね。わかりました! 私がその功績いただきます!!」
「もうちょっと言い方にゃい??」
アンジェリーヌが鼻息荒く宣言するが、わしとしてはオブラートに包んでほしい。しかしやる気を削ぐと、こんなややこしいことを押し付けられないから、ツッコミはこの程度で席を立つわしであった。
「ちょちょちょちょ。どこ行くんですか?」
「帰るんにゃけど……」
「どうやるか教えてくださいよ~~~」
「功績、独り占めしたいんにゃろ~」
「おじ様~~~!!」
でも、やり方も告げずに立ち去ろうとしたから、涙ながらのアンジェリーヌに抱きつかれるわしであったとさ。
「ぶっちゃけ、わしもわからないんにゃ」
「えぇ~。しらえも~ん」
「その名前だけは呼ばないでくんにゃい?」
これはヤバイ。これを許していたら、青い物体が全力疾走からのドロップキックをして来るので、止めるためにはある程度の道筋は作らないといけないだろう。
「そうだにゃ~……第三世界の為替の本を片っ端から集めて、両国で勉強会をするってのはどうにゃろ? んで、為替のプロフェッショナルを作ろうにゃ」
「え……おじ様、本当にわからないのですか?」
「アンちゃんには、わしが天才に見えてたにゃ??」
「はい……顔はそうでもないですけど、国債の話は難しいのにスラスラと答えていましたもの」
「顔のことは言わにゃいでくれにゃい?」
若干ディスられたのは納得いかないけど、アンジェリーヌは謝罪したから許してやろう。
「誰だって専門分野ってのがあるにゃ。あの当時は国債のことには詳しく見えただろうけど、わしは齧った程度にゃから、いまの専門家にはボロ負けにゃ~」
「そう、なのですか……ということは、本当に一からやらないといけないのですね」
「だにゃ。まずは勉強して、価値の物差しとかを決めないことにはいけにゃいし、使いやすいシステムとかも構築しにゃいといけないにゃ。形になるまでは、他国に秘密にしないといけないにゃ~」
「うっ……すぐできると思ってました……」
「通貨の変更でも、にゃん年掛かったと思ってるんにゃ。5年を目処に頑張っていこうにゃ」
「はい……」
こればっかりは、一朝一夕では難しい。それに全ての国に関わることだから、絶対に揉める。できうることなら、東の国に全てをやってもらいたいと思うわしであっ……
「にゃあ? 一からやるにゃら、うちいらなくにゃい??」
「あっ! 東の国単独でもいけるかも……じゃあ、功績は私の独り占め~。フフン♪」
よくよく考えたら、押し付けるのは簡単だったので押し付けたらアンジェリーヌは超やる気。やったね!
「それでいいにゃよ。ただ、インターネット関連のシステムが必要になると思うから、その時は声を掛けてくれにゃ~」
「えぇ~。やっぱり猫の国も必要じゃないですか~。それならおじ様も手伝ってくださいよ~~~」
結局は猫の国に多大な利益が入って来るので、それに気付いたアンジェリーヌに逃がしてもらえないわしであったとさ。
この日はアンジェリーヌと遅くまで会議となり、合同チームを作って東の国で勉強会をするところまで決めた。お互い猫大卒の金融機関に勤めている若者を捻出する予定だ。
それが終わったら遅めのディナーをゴチになり、サンドリーヌタワーのとある部屋をノックしてわしは入った。
「シラタマちゃん。いらっしゃい」
ここはさっちゃんのお部屋。さっちゃんはもう歳なので、わしの兄弟と一緒にベッドの上で出迎えてくれた。
「遅くにすまないにゃ~」
「いいのよ。シラタマちゃんだもん。それにアンジェにイロイロねだられたんでしょ?」
「にゃはは。耳が早いにゃ~」
「アンジェが悪かったわね。シラタマちゃんに迷惑掛けるなんて、誰に似たんだろ?」
「さっちゃんにゃよ? さっちゃんが一緒になってねだるから、わしに集るようになったんにゃ~」
「そうだっけ? そんな記憶ないけどな~。てへ」
さっちゃんはボケたとでも言いたいのだろうけど、舌をペロッと出してるから完全に覚えてやがんな。
「功績欲しがるのも、さっちゃんのせいだからにゃ? わしから奪いまくったから、焦るに決まってるにゃ~」
「それは私だけのせいじゃないと思うな~? お母様も貰ってたでしょ?」
「あげてないにゃ。奪われたんにゃ……」
「記憶に御座いませ~ん」
「絶対覚えてるにゃ~~~」
そんな政治家みたいな逃げ方はわしは認めない。「にゃ~にゃ~」文句を言ってやったが、さっちゃんは急に真面目な顔に変わった。
「あの子も歳でしょ? そろそろだから焦っちゃってるのよ」
「あぁ~……もうそんにゃ歳にゃんだ……」
アンジェリーヌは、若く見えても60歳。女王の賞味期限はすぐそこだ。わしには孫ぐらいに見えていたのに、時の流れが早すぎて感慨深く思う。
「さっちゃんって59歳で退いたんにゃっけ?」
「うん。いま思うと早すぎたのかもね」
「だにゃ。まだまだ元気にゃろ?」
「もうダメよ。いつ死んでもわからないわ」
さっちゃんが弱気になっているので、わしは励ます。
「アンちゃんから、毎日ゴルフしてるって聞いてるにゃ~。にゃに老人のフリしてるんにゃ~」
いや、めっちゃ元気だから励ます必要はない。茶化してやった。
「77歳は老人でしょ! シラタマちゃんたちと一緒にしないで!!」
「ほら、元気にゃ~! ヒゲを引っ張るにゃ~~~」
こんな元気な77歳、この世界でエルフ以外に見たことがない。この歳までピンピンしてる普通の老人も初めて見たかも?
この日はさっちゃんとケンカして「まだまだ生きそうだな!」と捨て台詞を残して帰ったわしであった……




