猫歴66年その1にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。自分の生態も謎だとは思っていたけど、お春はもっと謎でした。
お春が亡くなってから猫家のお墓に花を手向けに行っていたら、お春のお墓の前で「先生、先生」と泣いている人がしょっちゅういたから何者か聞いてみると、諜報部でお世話になったとのこと。
確かにわしが「心得だけでいいから教わって来て」とお春をスパイ学校に入れたけど、いったいいつから先生をやっていたんじゃろう……
諜報部員を場末の居酒屋に誘ってもっと詳しく聞いてみたら、大先生と呼ばれる服部半荘からお春は手解きを受けていたから、尊敬して先生と呼んでいたとのこと。
お春は週に2回程度しか教壇に立っていなかったが、教え方が丁寧でわかりやすかったんだとか。たまに課題で、学校の情報を手に入れるってのがあったみたいだけど、私的使用がえげつない。だから子供たちの情報に詳しかったのね……
お春の知らない一面を知れて喜びたかったが、わしは微妙に引き気味。心の中に、そっとしまっておいた。
実母の死にナツとフユが落ち込んでいたので、遺産相続で大金でも出て来たら悲しみが吹っ飛ぶと思ったけど、残念ながらそれはなし。
メイドと諜報部の教師の掛け持ちをしていたから普通の人よりは貯め込んでいたけど、如何せんツユには勝てない。遺産は2人で折半となった。
2人と同じくリータとメイバイも落ち込んでいたので、傷の舐め合いをさせてみる。毎晩一緒に寝させたので、リータたちから「モフモフ~!」と復活してた。
それとは逆で、ナツとフユは「モ、モフモフ……」と、苦しそうに寝てた。復活にはもうちょっと掛かりそうだ。
猫歴65年はお春死去という悲しい出来事があったので我が猫家は少し暗くなってしまったが、わしはできるだけ明るく振る舞い、モフモフ苦しそうなナツとフユには「仕事に没頭したら楽になるよ」とアドバイス。
そのおかげで天気予報の精度が格段に上がって来たから、猫歴66年の夏に日ノ本に売り込みに来てみた。
「玉藻、久し振りだにゃ~」
「おお。なんじゃ。来ておったのか」
御所の廊下を歩いていたら、九尾の巨乳美女、玉藻とバッティングしたので軽く世間話。
「小判の件、無事解決したにゃ?」
「うむ。なんとかな……」
「その顔は、まだやってるみたいだにゃ」
最近、玉藻の出演回数が激減していたのは、通貨変更で大変だったから。わしと同じくしこたま貯め込んでいたのが理由ではない。帳簿と全然合わなかったから、無駄な仕事が異常に多かったからだ。
これは、政府も一緒。どうも公家ってヤツはどんぶり勘定をする気質なのか、数字がまったく合わなくてどれが正しいかもわからない。それを咎める天皇家もどんぶり勘定なので裁くこともできずに、わしに泣き付いて来たのだ。
何故わしに泣き付いて来たかと言うと、国民には言えないし、大事にしたくないから。秘密裏になんとかしてくれと頼まれたけど、「できるかボケ~!」と怒り狂ったよ。
とりあえず口が堅いキツネ族数人を猫の国に送らせて、猫の国の帳簿の付け方とパソコンを教え込んで日ノ本に帰還。わしも一緒に、手分けして片っ端から経理ソフトに金額を打ち込んだら、「ふざけるなボケ~!」と全員で怒り狂ったよ。
合う数字がないのでひとまず使途不明金として処理して、今回に限り、罪は問わないから謝罪して次回からはちゃんとする約束を取る。それを個別に話をつけていたから、めちゃくちゃ時間が掛かる作業となった。
もちろんそれはわしの仕事じゃない。やるわけないじゃろ。天皇家にそういった機関を作らせてあとは知るか!
こんなことをしていたから、他人事ではない玉藻もわしと遊んでる場合ではなく、疎遠になっていたのだ。
まぁ息抜きで、日ノ本の海にデカイ魚の目撃例があった場合は一緒に船に乗ってたけどね。
「そういえば、徳川家はどうなったか聞いてるにゃ?」
「向こうも向こうで酷い有様とは聞いておるが……妾たちはこっちで忙しかったからのう。シラタマのほうが詳しいんじゃないか?」
「ご老公とも疎遠なんにゃ~」
「ならば、まだまだ掛かっておるんじゃな」
実のところ、江戸も一緒。武家社会で不正が横行していたから、使途不明金だらけ。徳川家も不正して貯め込んでいたから、言うに言えない。わしに泣き付いて来たので、キレたよ。
こちらも口が堅いタヌキ族にパソコンとかを教えて、最初は手伝ったけどあとは知らない。ただ、切腹や打ち首が横行しそうだったので、「その点だけは許してやれ」と口を出しました。お前たちもやってたんじゃからな!
「それにしても今日はどうしたんじゃ? 妾に会いに来てくれたのか??」
「そんにゃわけないにゃろ。商談にゃ~」
「たまには用も無しに会いに来てくれてもよかろう」
「寂しいにゃら、電話すればいいにゃろ~」
「さ、寂しいなんて言っておらんじゃろ!」
玉藻がツンデレさんになってるけど、わしは忙しい身。時計を見たら商談の時間になっていたので、ケンカには乗ってあげない。
「そうにゃ。玉藻も同席するにゃ? 天気予報の話をしに来たんにゃ~」
「天気予報か……妾も聞かせてもらおうかのう」
玉藻がデレになったので、2人で喋りながら会議室へ。そこで待っていた年老いた悠方天皇と玉藻前に遅刻を指摘されたから、玉藻のせいにしたらツンになってた。間違ったこと言ってないんじゃけどな~?
「んじゃ、これを見てくれにゃ~」
大画面モニターにパソコンを繋いでわしのプレゼン。難しいことは置いておいて、台風の予想経路を見せてあげたら、悠方天皇たちより玉藻が食い付いた。
「これは去年の台風か?」
「いんにゃ。近々やって来る台風の進路予測にゃ」
「近々じゃと? こんなに離れておるのにわかるのか??」
「まぁ言いたいことはわかるにゃ~」
実を言うところ、これまでの気象局の台風予測の精度は悪かった。フィリピン近海で発生した台風は、どこに向かうかは勘だったので外れることは多い。
日ノ本に近付いて来て、やっと予想を言える程度だったから、玉藻たちが怪訝な顔をするのはさもありなんだ。
「今までは、コンピュータの処理速度が遅かったから、予想するのは難しかったんにゃ。だがしかし、わしの子供たちがすんごいコンピュータを作ってくれたから、今までとは段違いの天気予報ができるようになったんにゃ~」
「「「子供の自慢??」」」
「それもあるにゃ~」
「「「この親バカが……」」」
わしが隠すことなく子供を褒めるもんだから、3人は「親バカ親バカ」うるさいな。なのでもっと聞かせてやったら、玉藻たちも呆れて商談に戻った。
「つまりどういうことじゃ? 予測の精度が上がったから、値段を上げたいということか?」
「まぁそれもアリにゃんたけどにゃ~……イヤにゃろ?」
「うむ。あの程度で大枚叩かされたからな」
天気予報代は高いのにけっこう外れるモノだから、日ノ本からの苦情は多い。そのせいで毎年料金改定して安くしたんだから睨むなよ。
「だから、うちのシステムを貸すから、そっちでやらにゃい? って相談にゃ」
「サジを投げたということか……」
「そう思われても仕方ないにゃ。でも、結局のところ現地人のほうが、肌感覚でわかることがあるはずにゃ。猫の国が教えた観測方法で、データの蓄積もあるにゃろ?」
「まぁ……そうかもしれんな……」
どちらかというと、苦情が面倒だから押し付けたいだけ。さほど利益も出ないので、首相からも「どうにかならんもんかいの~?」と相談を受けていたから、バージョンアップついでに商談に来たってワケだ。
わしの口車に乗った玉藻たちは、ワイワイと議論に発展したので聞き耳を立てていたら、新機関設立の方向で決まりそうだ。
「まだ悩んでるみたいにゃけど、これがシステム使用料の概算にゃ~」
「「「たっか……」」」
せっかく決まりかけたけど、わしが料金表を出したら白紙になりそうな感じになってしまった。
「今回はマジで精度がいいんにゃから、損はさせないにゃ~。やり方によっては、水害とかも減らせるんにゃから、安いぐらいにゃ~」
「そうは言っても、前回のことがあるからな~」
「だから台風が来る前にアポ取ったんにゃろ。それを見てから決めてくれていいからにゃ」
「「「うう~む……」」」
3人はまだ信じてくれずに唸っているから台風が到着するまで、わしは猫ファミリーの暇な人を誘って京の旅館でゴロゴロするのであった。
久し振りの京旅行は、猫ファミリーにもけっこう好評。なので数年前に生まれた小さい孫を両手に花で楽しくブラブラしていたら、玉藻がわしを拉致して行った。
「アレ? ジイジがきえたにゃ……」
「ジイジ~~~!!」
その速度が尋常じゃない速度だったので、孫が驚いて泣いたらしい。でも、コリスが見えていたので「ジイジはお仕事行ったんだよ~?」と宥めたんだとか……
「にゃにするにゃ~~~!!」
そんな楽しい一時を邪魔されたわしはオコ。口も塞がれて御所に運び込まれたんだから、これは王様誘拐事件だ。
「そちがスマホの電源切っておるからじゃろ! 昨日から何度も掛けておるんじゃぞ! その上、集合時間に現れないとはどういうことじゃ!!」
わし以上に、玉藻は激オコ。センエン率いるお天気部隊を派遣したから、わしはいらないと思ってたけど甘かったみたい。ていうか、旅行が楽しくって働きたくなかったの。
「えっと……忘れてたみたいにゃ?」
「ほう……リータたちのスマホまで切っていたのは、どういうことかのう……」
「そっちまで掛けちゃったにゃ~……」
「まだ謝罪もないのう……」
「この度は、誠に申し訳ありにゃせん!!」
裏工作もバレてしまっていては、仕方ねぇ。わしはジャンピング土下座して腹切りポーズで事無きを得る。
「本当に切るんじゃな?」
「はいにゃ~。ふんっ!」
「折れたな……妾が介錯してやろう」
「冗談ですがにゃ~」
鉄製のナイフでは、ぜんぜん効きませんでした。玉藻が白銀の扇を開いたから、誠心誠意土下座して、なんとか許してもらうわしであったとさ。
「さてと~……どんにゃ感じにゃ?」
茶番が終われば、パソコンやモニターを持ち込んだ御所の一室でモニタリング。予想通り台風は進んでおり、和歌山の南部は暴風圏に入っていた。
「にゃ~? 言った通りにゃろ?」
「うむ……しかし、ここからじゃ。本当に京を直撃するんじゃろうな?」
「もうここまで来たらハズすほうが難しいにゃ。夜には確実にやって来るにゃ。けっこうデカイし、注意はしてるんだろうにゃ?」
「うむ。念の為な。紀州にも言ってある」
「にゃら、あとはテレビで被害状況を確認しようにゃ~」
これよりわしたちは、テレビと衛星写真で台風の動きを見ながら雑談。センエンたちはこんなに大きな竜巻を体験したことがないから大興奮。外に出てもまだ台風は来てないよ?
わしは手が開いたので、リータたちに電話。着信があったのにすぐ掛け直さなかったので怒られました。
いちおうリータたちにも気を付けるように告げ、うたた寝したりおやつを食べたりダラダラしていたら、雨風が強くなって来た。
「おお~。本当に来たな」
「だから言ったにゃろ」
「ここまで正確にわかるなら、台風をなんとか止める術はないかのう」
「ハッ……」
玉藻が大それたことを言うから、わしは鼻で笑ってしまったので睨まれた。
「なんじゃその顔は……」
「いや、台風は止めないほうがいいと思ってにゃ~」
「これほどの災害じゃぞ? ないに越したことはなかろうが」
「そういうワケにいかないのが、島国の特性にゃ。もしも台風を上陸前に消したら、水に困ることになるんにゃ。雨が降ることによって、山が水を蓄えることになるんにゃよ? 一時の危険回避で農作物が不作になったらどうするにゃ?」
「そうなのか? それでは、日ノ本は台風なしでは生きていけないというのか……」
「おそらくにゃ。1年の降雨量と作物の量を照らし合わせて、研究することをお勧めするにゃ~」
わしだって台風がないほうがいいと思っていた時はあった。ただ、第三世界のテレビでそんなことを言っていた記憶があったので口に出しただけ。
だからセンエンたちが「さすがっす!」って言って来るのは恥ずかしい。なんとか止めようと「外行かないの?」と言ってみたら、全員台風に突撃して行った。
「元気なヤツらじゃな……」
「バカと天才は紙一重ってヤツにゃ~」
「1人、飛んで行ったぞ?」
「にゃっ!? センエ~~~ン!!」
猫の国気象局員は暴風にテンション上がってジャンプとかしたもんだから、センエンが風に乗って飛んで行ったので、わしは慌てて追いかけるのであったとさ。




