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エピローグ

「なぁ聞いたか? あのストレイグが引退するってよ」

「マジか?! ついにあの人も歳かー……」


 とある酒場での世間話だった。ストレイグ本人が引退を発表してからの一週間後、王都アズルダから離れた町でのことだった。


「まぁそろそろ四十半ばだ。仕方ないだろ」

「そりゃそうだけどショックだよ。あの人ほど頼り甲斐のある竜狩りなんていないだろ?」

「たしかにな……。前に見たことあるけど、すっごい頼りがいがあるオーラ出してて、この人なら大丈夫だなって思えたなー」

「そうそう。これから大丈夫なのかよ。極限種とか相手に戦える竜狩りなんてそういないぞ」

「それは、まぁ、何とかするんじゃない? 極限種なんて滅多に出ないし、それ以外なら他の竜狩りでも倒せるから」

「違うってば。なんかこう、いざというとき何とかしてくれるっていう存在、そんな奴が居るのかって話だよ」

「あー、そういう話? まぁ……ベテランに頼るしか無く無い? 単独での討伐こそないけど、極限種の黒竜を倒してる人はいるはずだ。なんたって経験は重要だ」

「経験より才能だろ。俺はレイちゃんを押すね。若くて強くて頼もしいだろ」

「レイはちょっと心配だな……。一度話したことあるけど、なんかコミュ障っぽかったぜ。強いのは確かだろうけど」

「ベテランだって不安だろ。全盛期は過ぎてるだろうし、いつ身体がやられるか心配しちゃうね」

「そうならなかったから今まで生きてこれたんだろ。経験舐めんな」

「お前こそ才能舐めんな。天性の才覚を持つ者こそが最強なんだよ」

「ほう。ならばとことん議論でもするか?」

「望むところ―――」

「黒竜だー!」


 店の外で誰かが大声で叫んだ。声を聞いた人々は店から出て空を仰ぐ。上空には大きな黒竜が飛んでいた。


 人々は逃げ出した。この町には竜狩りが居ない。一刻も早く逃げないと死んでしまう。彼らはそれを直感で悟った。


『フハハハハ! 逃がしはせんぞ、餌共が!』


 黒竜が町に向かって急降下する。降り立った場所には多くの人々が集まっていた。周りには戦士すらも居なかった。


『さぁ絶望しろ! 貴様らは俺の腹の中で一生を終わらせろ!』


 人々は絶望した。誰も助けが来ない場面で死を予感する。ここで一生を終えるのだと。


 だが絶望は、一瞬にして希望となった。


「そうはさせないぜ、黒竜」


 一人の青年が黒竜の前に立ちはだかる。大剣を背に担いだ大柄の男だ。


「誰も殺させはしないんだから」


 青年の隣に金髪の女性が並ぶ。綺麗な髪が風に揺れた。


『何だ貴様らは?』


 黒竜は動揺した。目の前の二人から、自分を恐れる様子が微塵も感じ取れないからだ。


 女性は言った。


「最弱の竜と」


 青年は言った。


「最強の竜狩りだ」




 最弱の竜と最強の竜狩り。彼らは共に戦い続ける。

 いずれ来る、人と竜が交わるその日まで。


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