表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱の竜は最強の竜狩りと恋をする  作者: しき
第三章 竜と竜狩り
65/69

3-18.共闘

 ロロに乗って戦うには準備が必要だった。クリフは一旦町に降りると馬小屋に向かった。門の近くには戦士団が管理する馬小屋がある。そこに着くと近くに置いてあった鞍と鐙を拝借した。騎乗して戦うには必要なものだった。

 クリフはそれらをロロの首の根元につける。試しに乗ってみると先程よりも安定感が良くて力が入りやすかった。これで準備完了だ。


「よし、行くぞロロ」

『うん』


 再び飛行してストレイグと黒竜が戦う場へと向かった。






「お助けします。ストレイグさん」


 黒竜の攻撃を防ぐと、ストレイグの前で滞空しながらクリフは言った。


「……何故俺を助けた? 俺は君たちを殺そうとした」


 ストレイグの疑問に、クリフは答える。


「守りたいと思ったからです。俺もロロも」

「それだけか?」

「はい」

『うん』


 身を庇っても守ろうとしたのは、ただそれだけだ。戦場では目まぐるしく戦況が変わる。いちいち考えを改める暇なんてない。直感で動くのが一番早く最適な動きになる。思考が苦手なクリフは、いつだってそう戦ってきた。それは今も同じだ。


「本来は味方同士なんですから当然です。守り守られて戦うのが戦士でしょ」

「……なるほど。たしかにそうだ」

「だからここはストレイグさんも同じ考えを持ってください」


 ストレイグがじっとクリフを見る。


「君は俺に意見を押し付けるのか?」

「当然です」


 クリフは即答した。


「目的は同じ、ならば今は共闘するのが最善です。俺が竜と一緒に居るからって、俺が人類の敵というわけではないんですから。俺もロロも味方です」

「……そうか」


 ストレイグが「ふっ」と笑った。


「良いだろう。共闘しようじゃないか。竜を連れた竜狩り」

「えぇ。よろしくお願いします」


 共闘出来ることにクリフは安堵した。この場で襲ってくるほどの憎悪は抱いていないようだ。少なくとも黒竜を相手にしている間の身の保障を確保した。


 さて、と。

 クリフは黒竜に視線を向ける。黒竜はクリフたちが会話している間、何もせずにじっと見ていた。こちらが会話を終わらせるのを待っていたのか? だとしたら奴は油断をしていると見て良い。その隙を突け入れれば……。


『《原初の竜》か!』


 突然、黒竜は声を上げた。喜々とした声にクリフは動揺する。原初の竜? 何の話だ?


『やはり私は間違っていなかった! 原初の竜は生きていた! これほど喜ばしいことがあるか?! いや、無い!』


 尋常じゃない程感激している。なぜ奴がここまで喜ぶのか、クリフには理解できなかった。


『ねぇクリフ。原初の竜ってなに?』


 クリフだけじゃなくロロも同じだった。「知らん」とクリフは答えた。


「まぁお前は変な竜だからな。それに関係しているのかもしれん」

『変って言わないでよー』

「だがお前の事について何か分かるかもしれないぞ」

『ロロはロロだよ。それ以外の何でもないって』

「気が緩みそうになる話は後にしろ。来るぞ」


 ストレイグの叱責を受け、クリフたちは気を引き締める。黒竜はクリフたちに強い視線を送っていた。


『さぁ、原初の竜よ。今こそ私と一つになるのだ』


 黒竜が炎を口に溜めている。さっきはあれを防げた。今度も―――。


「ダメだ! 避けろ!」


 ストレイグの指示の後、黒竜が炎を吐く。クリフはとっさに吐かれた炎を避けた。その炎は、先ほどロロが防いだものよりも大きな範囲に広がっていた。威力も高かったかもしれない。

 指示を受けて正解だった。ストレイグは空中戦こそ苦手なようだが、竜に対する洞察力は健在だ。これが研鑽し続けた成果か。


「助かりました」

「いい。それよりも、君はもっと観る力を極めろ。そうすれば生存率は格段と上がる」

「はい」

「黄金竜、君もだ。黒竜だけじゃなくクリフの挙動を敏感に察しろ。そうすればより早く動ける」

『うん!』

「では……行くぞ!」


 ストレイグの合図で、クリフとロロは黒竜に向かう。黒竜に近づくと、ロロとの違いがよく分かった。体長からしてロロの倍はあり、大きな爪はひと掻きで身体を斬り裂きそうだ。身体の大半が黒く染まっており、その部分から尋常じゃない禍々しさを感じる。今まで遭遇した黒竜とは比べ物にならない。これが極限種か。


 極限種の存在感に圧倒されそうになる。しかしストレイグが勇敢に極限種に立ち向かう姿を見て、身体を奮い立たせた。俺よりも年配の人が戦っているのになにを臆している。ロロよりも大きいのなら、その差は俺たちが埋めればいい。


「ロロ、口で指示する暇は無い。五感を使って俺の動きをちゃんと感じ取れ」

『りょーかい!』


 クリフは前傾姿勢を取ると、ロロは加速して黒竜に接近する。黒竜の爪が襲い掛かるが、クリフが身体を沈めるとロロが高度を下げて避けた。黒竜の腕の陰に隠れながら、クリフは身体に大剣を振るった。


「この調子だ!」

『うん!』


 ロロの反応は、クリフが思っていたよりも優れていた。クリフが僅かに身体を傾けた瞬間、ロロは最適な動きをとる。クリフの予想外な反射的な動きにも素早く反応できている。お蔭でクリフは危なげなく戦えていた。初めてだというのに、まるで長年寄り添った相棒のような一体感を得ていた。

 いや、違う。確かに一緒に戦うのは初めてだ。だが、似たようなことは今までもしていた。ロロが提案した女性克服作戦だ。


 日頃からクリフはロロから訓練を受けていた。近づかれたり、触られたり、色目を使われたりと、様々な状況を想定した訓練で、ロロと同じ時間を過ごした。その過程で僅か一ヶ月の間とは思えない程に相手の事を知れた。癖や仕草、好きな物や嫌いな物、好きなことや嫌いなこと、様々な事を知り、理解した。

 たった一ヶ月だが、その短期間の密度は高かった。本来の目的はまだ未達成だが、その過程で得たものがここで役立っている。しかもそれが極限種の黒竜と肉薄できるほどの結果に繋がっている事実に、クリフは可笑しくなって笑みを浮かべた。


 本当に、人生は何が起こるか分からない。竜を倒すために竜狩りを目指したのに、竜と協力して戦っている。果たすべき使命から遠ざかるような道を選ぼうとしていた。たった一ヶ月でこれほど変わり、しかもそれを嬉しく思っているなんて……。


「勝った気になるのはまだ早い」


 ストレイグがクリフに近づいて忠告する。笑っていたのを勘違いされたようだ。


「分かってます。油断はしてません」

「ならば良い。極限種との戦いはここからが本番だからな」

「本番?」


 クリフは黒竜の様子を見る。ストレイグとの共闘のお蔭で、黒竜の身体に多くの傷が切り刻まれている。致命傷こそ受けていないが、身体から流れている血がクリフたちが有利に戦いを進めていることを示していた。それでも黒竜には焦りや動揺が見られない。まだ幾分か余裕があるように思えた。


「他の黒竜に比べたら理性があるようですが……どう違うのですか?」

「極限種が厄介な点は力が強くなっているだけではない。他の竜には無い特殊な力を使うことだ。あの黒竜もそれを持っているはずだ」

「そろそろ使ってくるってことですか?」

「あぁ。それなりに負担がある力らしいが、追い詰められたらそうも言ってられない。気をつけろ」

「分かりました―――」


 強い熱を感じた。黒竜が炎を吹いたかと思ったが、まだその様子は無い。ただその場でじっとしているようにしか見えない。

 しかし、その黒竜が何かをしていることは明らかだった。


「来たようだ」


 黒竜の方から高熱の空気が広がって来る。じっとしているだけでも汗をかく。それほどの高温を黒竜が発していた。

 黒竜の口から黒い炎が溢れる。傷口からも黒炎が漏れ、全身が炎に包まれているようだった。巨大な竜が巨大な炎の塊へと変貌する。


「あれも黒竜砲の一種だ。長く浴びると死ぬぞ」


 バッテルの黒竜砲は強力だった。だが直線的な攻撃であるため見切りやすく、防御や回避は容易だった。だがこの黒竜のそれは、易々と対処させてくれそうにない。

 背筋に嫌な汗が流れる。やはり黒竜は一筋縄ではいかないようだ。


『流石と言ったところだな。だが―――』


 黒竜が上空に上がる。そして黒い炎がより一層大きく広がった。


『これまでだ』


 黒炎の塊が降ってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ