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食パン先生  作者: シュウ
第三部
6/16

その1

お久しぶりです。

私はこう見えても一端の教師であるゆえ、秋の修学旅行の引率にもキチンと参加している。

今回の修学旅行先は京都だったのだが、私が年間計画のレポートを提出してまでオススメしていたパン工場が、全体行動のスケジュールの中からごっそり抜かれていたのには、思わず背筋に変な汗が流れてしまった。京都といえば、私もよく食べているパンの工場があるのだが、それ以外でどこを見たらいいのかわからないほどの、有名観光スポットではないか。まったく、学校側も何を考えているのかわかりゃしない。

しかし今私の目の前で起こったことのことを考えれば、そんなことはパン粉のカスほどにもどうでも良くなる。

私は今、そんな修学旅行から帰ってきたわけだが、玄関に鍵を差し込もうとした時、鍵穴に対してぎっしりとご飯粒が詰め込まれているのが確認できた。これはオコメライス党の仕業に違いないと踏んだ私は、念の為に鍵穴に封をして現状維持を図り、いざ警察が来た時に説明できるようにした。そして万が一鍵をなくしてしまった時の為に、あらかじめ玄関の鍵には細工をしていて、思いっきり引けば開くようにしておいた方法で、家の中へと入る。その時の感触から、やはり鍵は開けられていたということがわかった。

このピッキング方法は、『ライスDEピック』と呼ばれる技法で、対象の家の鍵穴に米粒(炊いたもの)を詰め込み、最後に竹串のような細い棒を刺しておく。そして一度その場を離れる。その後、米粒がカピカピに固まる頃、だいたい丸一日も置いておけば固まるだろう。固まった米粒ごと、刺しておいた棒ごと鍵穴を回すと、鍵の形にぴったりとハマったカピカピの米粒が鍵の代わりとなり、見事開錠となるわけだ。しかしこれには弱点があって、対象の家の主がしばらく家を開けておかねばならないという点である。

私は修学旅行で家を留守にしていた。その隙を狙っての犯行だろう。

その手口、方法、手段、やりかたなどを見ても、やはりオコメライス党の仕業だと言わざるを得なかった。

私は念のためかけておいた三メートルのチェーンも全開まで伸びきるぐらいに勢いよく扉を開け、中へと急いだ。

廊下を進み、トイレに行き、ついでに脱衣所にある洗濯機に修学旅行で溜まってしまった洗濯物を入れて洗濯をスタートさせ、その空になったドラムバッグをクローゼットにしまい、スーツのネクタイを緩めながらリビングへと向かった。

そこへ向かった私は一つのメモを見つけた。

それを手にとって読んでみた。


「なになに……『親愛なる食パン先生へ この度はおかえりなさいませ。楽しい修学旅行でしたか? ……それは何よりです。早速本題に移ります。今回わざわざこのような侵入をさせてもらったのは、このことを内密にしていただきたいからです。現在オコメライス党は、食パン先生の命を狙っています。命が惜しければ、炊飯器を買いなさい。そしてお米を食べる』」


私はそこで国語の授業並みの朗読をやめた。これ以上読んでも意味がないと思ったからだ。

しかしこれでは完全に愉快犯だ。目的がわからない。わざわざ私の家の鍵をピッキングで開けてまで侵入したのが『お米食べろ』というだけのはずがない。

そして私は一つの事実を発見した。

このメモはチラシの裏に書かれているのだが、そのチラシというのが『オコメライス党社員募集!』とデカデカと書かれていることに気がついたのだった。これは普段から裏紙を使用するという節約根性が身についてしまったがゆえの行為だったのだろう。その行いには満点をあげたいところだが、満点にできない理由がある。それは、余白が多いことだ。きっとこのメモを書いた人物はよほどの貧乏性で、字を小さく書いて紙を節約していることが多かったのだろう。一番下まで読んでも、全体の六割は残っている。現に私も、テーブルに置いておいた虫眼鏡で読んでいるほどだ。

と、ここまでこのメモから読み取れることをプロファイリングしてみたのだが、ある程度の人物像がつかめてきた。

・貧乏性

・オコメライス党は社員を募集している

・節約している

・真面目

・気が小さい

など取り上げればキリがないが、とりあえずこのくらいだと判断した。

だが結局のところ、この差出人まではわからない。あと一つ何かがわかれば全てが繋がりそうなのだが、そこへ至るまでのヒントが何もわからない。


「うーむ……」


チンッ


私がリビングでスーツ姿で唸っていると、入れたはずのない食パンがトーストへと姿を変えてトースターの中から飛び上がった。

あまりにも聞きなれた音だったので聞き流しそうになったが、違和感を感じたために考えていたことを全てリセットさせた。そしてもう一度メモを見てみると、隅の方に何か描かれているのに気がついた。

もう一度虫眼鏡を使ってメモを見てみると、そこには、ふっくらとした米粒のでんぷんまで見えてきそうなほどリアルなおにぎりの絵が描かれていた。

これを見た瞬間、私の頭の中のすべてがつながった。


「なるほど。そういうことか」


私の家へと侵入し、メモを置き、トースターにパンを入れた人間。

それは、オコメライス党の人間だ! それも人事担当だ!

そうと決まれば話は早い。

そう思って家を飛び出そうとした矢先だった。


「少し待ちたまえ」

「!?」


その声に振り向くと、さっきまで私がいたリビングにある椅子に、一人の老人が座っていた。

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