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食パン先生  作者: シュウ
第二部
5/16

その3

つっこんだらまけ

私はコムギと共に、強奪される予定である強力粉をのせたトラックの上にいた。

薄力粉をのせたトラックとすり替えられる時に、飛び移って計画を阻止してやろうという作戦だ。

具体的には・・・いや、ここから先はオコメライス党の人間に心の声を傍受されては困るので、もうしばらく黙らせていただくことにする。


「食パン先生! 多分あのトラックですね!」


コムギがトラックの側面に書かれたオコメライス党の文字を見つけたらしく、数キロ先に停車しているトラックを指さした。

そのトラックを確認した私は、交通誘導にて脇へと寄せられるトラックの上から薄力粉を乗せているであろうトラックへと飛び移った。

その距離、若干50m。

その時、音を立てないように着地の際には接地面との間に焼いていない食パンを使い、音を出さないようにするのも忘れない。

犠牲になった食パンだが、これから行われる惨劇を防ぐための一枚だと考えると、なんとも言えない気持ちになった。

その食パンは小さくちぎって近くを飛んでいた鳥達の餌にしてあげた。

トラックの上に無事到着すると、私とコムギはトラックの上に穴を開けてコンテナ内へと侵入をした。

案の定コンテナ内には警備はおらず、踊っても歌ってもオコメライス党に気づかれることはなかった。

そして私とコムギは作戦を決行するために、ポケットの中から水性マジックペンを取り出した。

そう。私たちの作戦は、薄力粉の袋に『薄力粉です! 気を付けてください!』と書くことで、使用する際に気を付けてもらおうというものだった。いくらオコメライス党の人間が万能だったとしても、薄力粉と書かれているものを強力粉と間違えて使うことはないだろう。そこの弱点をついての、この作戦である。

思ったとおり、強力粉と書かれた袋の中身は薄力粉だった。私は裸眼で2.0の視力を持っているので、薄力粉と強力粉を見分けることができる。

その時、予期せぬ問題が発生した。


「大変よ! この袋、水性ペンじゃ書けないわ!」

「なんだって!?」


私は薄力粉の入った袋を触ってみた。


「こ、これは・・・油かっ!」


そう。袋には薄くではあるが油が塗られていたのだ。

これでは水性マジックペンで文字が書けない。


「オコメライス党め・・・この作戦を読んでいたのか・・・」

「どうしますか?」

「ダメだ・・・この作戦がボツになった以上、どうすることもできない・・・」

「食パン先生・・・」


私は打ちひしがれた。このまま薄力粉の袋に囲まれたまま最後を迎えるのだろうか・・・

もしもこのマジックペンが水性ではなく、油性だったなら・・・

その時、落ち込んでいた私にコムギが激を飛ばした。


「食パン先生。まだ諦めてはいけません」


そう言うコムギの顔は何か覚悟を決めた顔だった。


「コムギ?」

「食パン先生。私はあなたに未来を託します」

「託す?・・・ま、まさか! やめろ! 早まるんじゃない!」


コムギは持っていたカバンの中から大量の玉ねぎと包丁を取り出すと、それをみじん切りにし始めた。

私はコムギがやろうとしていることを分かっていた。

玉ねぎを大量に切ることによって、鼻から玉ねぎの成分が侵入していき、それによって目から涙が出てくる。しかも切るのはここしばらくは研いでいないであろう包丁。そしてこのトラックのコンテナという閉鎖空間の中。

つまり換気ができないこの場所では涙を流し続けるしかない。つまりそれは・・・死を意味している。

人間は身体中の水分を無くしすぎると、脱水症状を引き起こしてしまう。もちろんそれが長い時間続くと死に至る場合がある。

彼女は今まさにそれをしようとしているのだ。


「コムギ・・・わかった。私は君の勇気を無駄にはしない!」


私はカバンの中からハンケチーフを取り出すと、それをコムギの目に当てて涙を吸い取った。

そしてそのハンケチーフを薄力粉の袋に当てて油を拭き取っていく。

それを繰り返していくと油が落ちていき、水性ペンでも文字がかけるようになっていく。

それをさらに他の袋にも繰り返していくことによって、全ての袋に文字を書く事に成功した。

全て書き終わり、コムギの方を見ると、すでに息をしていないコムギが倒れていた。そして傍には大量の玉ねぎのみじん切りが散らばっていた。


「コムギ・・・」


私がコムギの方へと歩み寄ろうとしたとき、トラックのスピードがゆっくりと落ちていった。どうやら目的の工場に到着するようだ。

私は唇を噛み締めて、彼女の傍にあった大量の玉ねぎで彼女のからだを隠すと、素早く入ってきた上の穴から出てトラックから離れた。




それから1週間が経った。


スーパーの店頭には食パンが売られており、今までと同じように近所のおばさま達がそれを取ってはカゴの中へと入れている。

このおばさま達は知らないのだ。

その手の中にある食パンは、一人の尊い犠牲のおかげで食べることが出来ているということを。

そして私は彼女のことを思い出しながら、一つの食パンの袋を手に取って、涙をこらえながらレジへと並んだ。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


いい話でしたね。


次を書くかどうかは未定なので、一旦完結扱いとさせていただきます。


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