その2
つっこんだら負け
学校についた私はいつものように食パンの喩えを多様に使った授業を行い、昼休みにあの山田先生の元へと向かった。
山田先生は自分のクラスの教室にいたらしく、生徒達を教室から出さないようにして待っていた。
「やぁ山田先生」
「海道先生。早速お願いします」
休み時間の間に事件の内容は聞いていたのでさっそく生徒達に色々と聞くことにした。
「えー、このクラスで給食費が盗まれたそうだが、犯人を知っている奴はいるか?」
単刀直入に聞いてみたが、誰も知らないようだった。
私が務めている高校では、週二回、給食が出されている。その給食は希望者のみなのだが、その希望者の給食費がまるまる無くなってしまったらしい。その犯人を見つけ出して欲しいというものだった。
そしてこうして教壇に立って聞いてみたわけだが・・・こうなったら最終手段を使うしかない。
「では私は食パンを食べる。その間に、みんなで話し合いをしてくれ」
そう言って私は懐から食パンを1袋取り出すと、先生用の椅子に座ってその食パンを食べながら、生徒たちの動向を見ることにした。どうやら生徒たちは私が適当なことを言っていると思っているらしく、不審に思いながらも嫌そうではあるが話し合いをしている。
もちろんこれは犯人をおびき出すための作戦だ。そしてさらに生徒たちの自主性を尊重させるという画期的な方法だ。まさに一石二鳥である。
さて。そろそろいいかな。
「よし。犯人は見つかった」
「え? 海道先生、本当ですか?」
「もちろんだ。私が見つけたといえばカラスも白く染まるんだ」
そう自信満々に言って、再び教壇へと登った。
これから私の推理ショーの始まりである。
「まず、私はいつものように朝の6時に起きた。しかしうっかりしてしまい、二度寝をしてしまったんだ。次に目を覚ましたときは7時を過ぎようとしていた」
「二度寝っていうのは具体的には起き上がったんですか? それとも目覚ましを止めた程度で起き上がらなかったんですか?」
「いい質問だ。今日の二度寝では、私は起き上がってはいない。これで満足かな?」
「やはりですか。昨日の僕もそうでした」
「では続きを話そう。そしていつものようにトースターで食パンを焼き、コーヒー牛乳をコップに注いで朝食をとった。その時に来客があった」
「それが僕ですね」
「そうだ。私はゆっくりと朝食を食べ、それから玄関に向かい、山田先生の話を聞いた。その時に犯人は2つミスを犯していたのだ」
「ミスですか?」
「そうだ。1つは私に頼んだ事。そしてもう1つは私に食パンを与えてしまったことだ」
「それのどこがミスだって言うんです?」
「私に相談してもバレない自信があったんだろうが、そんなもんはまやかしでしかない。そして食パンだ。私は食パンが大好きだ。だから市販の食パンの重さも全て把握している。それはもちろん・・・
今日発売の新商品であってもだ!!
つまりどういうことかわかるかな?」
「くっ・・・」
山田が苦痛に顔を歪めた。
そんなことに気を遣わずに私は続ける。
「そう。私に食パンの袋を2つ渡した時、その間に給食費を挟んで渡したんだろう? きっと君の計画はこうだろう。私よりも先に帰って部屋に侵入し、あらかじめ食パンに挟んでおいた給食費を盗む・・・とかそんな感じだろう」
私が全ての考察を語り終えると、山田が小さく呻き声をあげ白状し始めた。
「今月はちょっとだけお金が足りなくて、それで生徒たちの給食費を借りようとしたんです。でもしだいに事が大きくなっていって・・・。そして食パン好きな海道先生ならバカだから、食パンの間にでも挟んで渡せば気づかないだろうと思いました。そして生徒一人と一緒に海道先生の家に行って、食パンの間から出てきた給食費を理由に、海道先生に全ての罪を着せるつもりでした。ほんの出来心だったんです。すみませんでした」
涙ながらに謝る彼に私は何も言わずに見下ろした。
その後、警察によって食パンの間に挟まれていた給食費は無事回収され、生徒たちは一安心していた。
全ての元凶の山田だが、警察によって窃盗罪で逮捕された。私にかぶせようとしていた罪は大変重いので、しっかりと償ってもらいたいものだ。
そして私は今日もすがすがしい朝を迎えていた。
今回の事件は私の食パン好きが引き起こしてしまった悲しい事件である。本当に申し訳ないと思っているのだが、私の食パンへの愛情は止められない。
食パンと金欠が引き起こしてしまったこの事件。私はこの事件を1年ぐらいは頭の片隅に置いて忘れないようにすることだろう。
私は今日も食パンを頬張りながらコーヒー牛乳を飲んだ。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
かなりカオスな展開ですが、一度でもニヤリとしたならばあなたの負けです。




