さいごのその2
どうして私の正体がバレたのか。このビルに入った時からバレていたのか。
そんなこと今となってはもうどうでもよかった。
わかっていることは、私の正体がバレていて、部長自ら私の相手をしてくれるということだ。なんとも手っ取り早くて助かる。
「あなたが部長さんですか」
「いかにも。俺こそが米粒神拳の奥義継承者。代々受け継がれてきたこ拳法とともに生きてきた。そしてこのオコメライス党に出会った」
「米田さん。あなたは騙されているんですよ?」
「騙されているだと? フハハハハハハ! この俺が敵の話を聞くとでも? しかしまぁ、話だけは聞いてやろう」
この米田という男、意外といいやつかもしれない。私は心の中でそう思った。
「このオコメライス党は、実は麺派の人間が設立したものだったのです。そして米派とパン派を争わせ、両者の実力が落ち切ったところを一網打尽にする予定だそうです。皮肉ですよね……」
「うぅっ……そうだったのか……俺は今まで何をしてきたのか……ううっ」
私の感動的な語り口に、涙もろいのか、米田は子どものように泣き出してしまった。私も罪な男だ。
「米田さん。私と一緒にこのオコメライス党を壊しませんか?」
「喜んで!」
即答だった。
私の説得は大成功だった。
「ではさっそく社長室へと行こう。社長なら黒幕が誰かを知っているかもしれない」
「わかりました。案内をよろしくお願いします」
そう言って二人で会議室を出て、近くのエレベーターに乗り込む。そして最上階のボタンを押し、到着とともに並んで降りる。すると指紋認証と声紋認証の機械があり、その扉の先に社長室があるらしい。
その二つの認証を米田が通過すると、私も後ろに続いた。
そして……
「覚悟っ!!」
「なにぃ!? ふごっ!」
私は米田の一瞬のスキをついて、口の中に食パンの耳以外の柔らかい部分をこれでもかというほどに詰め込んだ。そしてその口に牛乳を流し込む。これは、パンと最も相性が良いと言われている牛乳のコンボだ。パンを口の中に詰め、それを牛乳で流し込む。急いでいる朝ならば誰もが行ってしまう行為だが、このパンの柔らかい部分だけを大量に詰めることによって、喉の許容量を越えた塊を作り、それを無理矢理牛乳で押し込む。それによって喉が詰まり、呼吸ができなくなって意識が薄れていく。
これは『食パン殺法』と呼ばれる秘技の一つなのだが、相手が米粒神拳とやらの使い手ならば食パン殺法を使わざるを得ない。
米田は油断しすぎた。
敵の話は聞かないに限る。
ここに至るまでに何か親しげに米田が話していたが、私は食パンとの思い出を思い出しながら聞き流していた。
あいつはいい奴だったよ。もう顔も思い出せないのが惜しい。
そして私の潜入捜査はクライマックスを迎える。
社長室。
ここがオコメライス党のトップの部屋であり、麺派の人間の真のアジトである。
私は勢いよくその扉を開いた。
ちょっと短いですが、キリの良いところまででした




