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食パン先生  作者: シュウ
第一部
1/16

その1

つっこんだら負け

私の名前は海道 角(かいどう すみ)

今年28歳になるごく普通の教師だ。

今日もいつものようにトースターにパンを入れて朝の準備をする。

こう晴れて天気のいい朝は食パンに限る。曇りの日でも雨の日でも雷が鳴り響くような日でも食パンは欠かさない。そろそろ日本食パン愛好会から表彰状が来てもおかしくないとは思っているのだが、まだ届いてはいない。どこかで情報を操作されているのを疑うべきなのかもしれない。

おっと。言い忘れていたが、私は自分の次に食パンが好きだ。ホームベーカリーとかはめんどくさくてやったことはないので、あまり好きではない。市販の袋に入った食パンが好きで、特に5枚切りが好きだ。

この間も、授業中に食パンの話を一時間ほどばかりしたもんだから、校長先生に怒られたりもしたが、私の食パンに対する愛はそんなもので止められることはない。これからもその精神を忘れないようにしていこうと思う。


チンッ。


パンが焼けたようだ。

冷蔵庫から取り出したコーヒー牛乳をコップに注ぎ、トースターからパンを取り出し、バターを薄く塗って朝食を食べる。

そして毎朝の楽しみである、食パンの一口目に取り掛かろうとしたその時だった。


ピンポンピンポンピンポンピンポン


私の家のインターホンが激しく何度も鳴らされたのだ。

私の家のドアには『セールスお断り』と『食パン食事中のため呼び出し禁止』と書かれたシールを貼っているのだが、それを無視してこの連打は、明らかに私に対する挑戦状だと受け取るべきであろう。

私は、しばらくインターホンをBGMにして食パンを食べ終え、コーヒー牛乳を飲み干してから玄関へと向かった。

鍵を開けてチェーンを付けたままドアを開けると、そこには見覚えのある男性が立っていた。


「あ、海道先生」

「君はたしか・・・」

「山田です。山田拓郎(やまだ たくろう)です」

「知っている。同じ高校の教師じゃないか」


そこに立っていたのは、山田という私よりも少し若い同僚の教師だった。

この教師は、少しサイエンティストな雰囲気を醸し出しているが、実際のところは国語教師という顔を持っている。


「今日は何か用かな?」

「ぜひ海道先生の力を借りたくて」

「私の力?」


たしかに私は時々小さな事件を解決したりしているが、それも本当に小さな事件である。

銀行強盗が落したのは何万円札かというどうでもいい謎だったり、定期テストの問題を盗んだ犯人を突き止めたり、盗まれたブルマの行方を追ったり、誰が我がクラスのマドンナのリコーダーを舐めたのかを調べたりもした。

しかし、食パンを愛する私からしてみれば、本当にどうでもいい事件ばかりである。私のこの頭脳は、こんな事件を解決するためにあるのではない。食パンをいかにして食すかを考えるためにあるのだ。


「そうです。実はある事件が僕のクラスで起きてしまって困っているんです」

「そうか」

「もう僕の手には負えないぐらいまで来てしまっているので、海道先生の力を借りようかと思いまして」

「これは君の問題だろ? 君が解決するまでは諦めるのは良くないと私は思うんだ」


最近の若者は自分で考えるという行動をしなくなったせいか、すぐに他人の力を借りようとする。悪い傾向だと私は思う。


「この間新発売されたこの食パンを2セットお渡しします」

「まったく最近の若者はすぐに年上の者を物で釣ろうとしたがる。今回は特別だが、次回は無いと思え」


そうキツく言った私は、食パンを受け取り、キッチンの食パン置き場にそれを置くと、スーツに着替えて30分後に出発をした。

学校のチャイムが鳴り始めていて、通学路を歩いている生徒達もその音を聞いて慌てて走っている。

私は学校から徒歩2分の距離を、周りの生徒達にバレないように、秒速50メートルの速さで走り抜けた。

次回に続く

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