終
数年後。
「第一班に告ぐ。前方2ブロック先左側、第四西島ビル屋上に三体、その向かい地下鉄黒金駅A2出入口付近に二体、屋上からは飛び降りようとしている、十分注意せよ」
「了解」
「(相変わらず指示が漠然としてるよねー)」
つぶやいたのは左につけていた春野だ。
今は黙っていろ、とたしなめる間もなく、突如、背後から数名の絶叫、関口は反射的に身を低くして振り返る。
第二班の三名がほぼ同時に、大量のゾンビに襲われていた。
「くそっ」
春野が銃を向ける。
「やめろ、仲間に当たる」関口の右側にいた観音寺が叫ぶが
「もう間に合わねえよ」
春野が前髪をかき上げた。すでに照準を合わせている。
だが
「待て!」
関口の静止と同時に春野も気づいたようだ。「誰だありゃ」
ゾンビの群れから、青白い火花が上がる、と同時に蛍光色の体液が噴水のごとく飛び散った。
バタバタと倒れ伏すゾンビらのただ中に、美しく弧を描く長い刃の軌跡がみえた。
「あれ……」
「関口さん、あれマルヤマ・ソードマークⅣですよね」
「すっげー、初めてみる」
「それにしても、早いな」
三人とも、つい状況を忘れ、呆然と戦いの様子を眺めていた。
「ひとりで、あんだけ斃したのか?」
ソードにこびりついた体液をばさりと払い、男が近づいてきた。
「大丈夫か?」
「ああ……後ろに三人いたんだが」
「やられていたよ、それよか前方にもいるんだろう?」
「あっ!!」
今まで口をぽかんと開けていた観音寺が大声を出した。
「神谷達彦!? さん!!?」
関口も気づいて思わず小さく叫んだ。「あの?」
春野は急に女子モードにギアチェンジしたらしい、頬を染めてぴょんぴょん飛んでいる。
「うっそ、あの、マルヤマ伝説のハンターっていう」
「マルヤマはとっくに辞めたよ」
ゾンビハンターなら大抵誰でも聞いたことはある。天下のマルヤマコーポレーションでの腕利きの新人、しかし入社間もなく、折り畳み傘一本持って会社を出たきり、二度と帰社しなかったのだという……
神谷が関口の制服をみて言った。
「敵はゾンビばかりじゃないんだよ。それより君ら、ヒグチの派遣社員か?」
「はい」
「この件は手ごわそうだ。前のゾンビを始末するの、手伝うが?」
「ホントですか?」
「さっきのも含めてひとり1体ずつ取り分にしないか?」
「もちろん」
三人はお互い顔を見合わせて、すぐにうなずいた。
「お願いします」
続けて、関口は早口で伝える。
「あの白いビルの屋上から3体飛び降りようとしていて、あと地下鉄入り口にも2体」
「屋上には4体だ」
神谷は目を細め、ビルの上方を見やった。
「ひとつ残って、下の連中を油断させるやり口だ、地下鉄入り口にももう少しいるだろう。
君、名前は」
「関口です、セキグチユウト」
「ハルノミツコです」
「カンノンジシンゴです」
「簡単に作戦を立てる」
神谷は淡々と、しかしよどみなく続ける。
「俺と関口と、左のビル担当する。関口が先に行き、飛び降りた3体を片付け……」
手短な、しかし的確な説明を済ませ、神谷が次のブロックまで先に立つ。
「神谷さん……」
関口がつい、声をかける。
伝説のハンターには、また、別名もあったのだ。いわく
『命知らず』
と。
「無茶しないように、気をつけてくださいね」
神谷が振り向いた。目が笑っている。
「大丈夫」
片手をあげた時には、既にまた前を向いていた。
「俺の帰りを待ってるヒトがいるんだ。簡単にはやられないって」
さて作戦いこうぜ、と神谷が手を振って四人はまた、混沌の街へと一歩、踏み出していった。
(了)




