第76話 生涯不敗の王国騎士団団長、村人Aに挑む
【超重大なお知らせ!!!!!】
本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は追って報告いたします!!
ここまでこれたのは、読者の皆様の応援のおかげです!
本当に! 本当にありがとうございました!
書籍化作業も更新もどっちも頑張ります!
これからも【根源魔法】をよろしくお願いいたします!
当然イラストつきますので、表紙など公開されたらぜひ見てください!
書店別特典SSなどつく可能性がありますので、感想欄で『どのキャラのSSが見たいか』を教えてもらえると嬉しいです!
もちろん書店別特典だけでなく、WEBの方にも番外編など作ってUPする参考にもします!
これからも、本作をよろしくお願いします!
――メルキスの村の近くの森の中。
1台の馬車が、村に向かって走っている。
馬車の中には2人の男女が座っている。
「いやー、ほんまに辺境やねぇ。マリエル様もよくこんなド田舎に引っ越しはるわぁ。よっぽどメルキス君の事が好きなんやねぇ」
ハムのサンドイッチを口にしながら、王国騎士団の団長クレモンが軽口を叩く。
「団長。仕事中なのですからお酒は控えて下さい」
クレモンの向かいに座っていた若い女が、ウォッカの瓶に手を伸ばそうとしたクレモンの手をはたく。
彼女の名はローラ。クレモンの補佐官である。
剣術以外はからっきしでだらしないクレモンの世話を焼くのがおもな仕事で、影から騎士団を支えている重要人物である。
「冗談やって。不完全とはいえ、復活した魔王を1人で一方的に倒したメルキス君。折角そんな男に会えるのにお酒なんて飲む訳ないやん?」
「……団長、まさかメルキスさんと戦うつもりですか?」
「んー、どないしよかなぁ。僕、平和主義者やから無駄な戦いとかしたくないねんけどなぁ。折角の機会なんやから手合せくらいしとかないかんかなぁって」
「平和主義、ですか。どの口が言うんですか」
ローラは、クレモンの薄っぺらいへらへらした笑顔が一瞬はがれて、本性である獰猛な笑みが露わになったのを見逃さなかった。
「手合せはいいですけど、怪我などさせないようにして下さいね? メルキスさんはマリエル様の婚約者で、国王陛下のお気に入りでもあるんですから」
「大丈夫やって。ほら僕、一度も練習試合で相手に怪我させたことないやん? 副団長のザッハーク君も含めて」
練習試合において、戦いが激しくなると怪我のリスクが高くなる。相手に怪我をさせたことがないというのは、相手より圧倒的に実力が上で、試合運びを冷静にコントロールする余裕がある証拠である。
(本当に、団長は底がしれないですね……)
と、ローラは心の中でつぶやく。
「じゃあ、正体を隠すために役作りしよか。僕は大陸を旅しながら修行をする剣士。ローラちゃんはお兄ちゃんのことが大好きな僕の妹、これでどうや?」
「却下です。修行の相棒とかそんな設定でいいでしょう」
「えー。つれへんわぁローラちゃん」
ぶーぶーと抗議するクレモンを無視して、ローラは卵のサンドイッチをかじっている。
そして、馬車が村に到着した。
――――――――――――――――――――
「ええ村やねぇ……いや、良すぎひん?」
村に到着し、門番に『盗賊ではない』と判断された王国騎士団クレモンとその補佐官ローラは、村の中に通されていた。
そして、その光景に圧倒されていた。
「通りは広いしキッチリ舗装されてるし、家は綺麗やし……まるでちっさくなった王都やでこれは」
「私も驚いています。マリエル様は領地経営の技術が凄いと聞いていたのである程度栄えていると予想はしていましたが。まさかこれほどとは」
驚きながら村の中を歩く。そのとき、クレモンの耳が金属音を捕らえた。
「お、今剣と剣がぶつかる音が聞こえたで。訓練場があるんやね、見に行かな!」
クレモンが子供のようにすったかたと駆けだす。
「ああもう! あなたという人は!」
文句を言いながらローラは追いかけていく。
「お。見ない顔っスね。旅の人っスか?」
訓練場に着いた2人を迎えたのは、若い冒険者だった。
「ええ。旅をして剣の腕を磨いている者です」
「おお、お兄さんも剣士なんスね? 良かったら、手合わせしていくっスか?」
「ええんですか? 僕、こう見えて結構強いんですよ」
(結構強いどころか、王国イチでしょうが)
と、クレモンの隣にいるローラが心の中で突っ込む。
「じゃあ早速始めるっス! アブないんで、練習用の刃の無い剣を使うっス」
そういって、若い冒険者が練習用の剣を投げてクレモンに渡す。
「おおきに――なんやコレ!?」
剣を握った瞬間。クレモンの全身を衝撃が駆ける。
(完璧な重量バランス。そしてこの異常な軽さ。この剣、刃を付けたら国王陛下から賜った僕の剣よりも良い剣になるんちゃうか……!?)
驚きを通り越して、クレモンは感動すらしていた。
「ホンマ、凄いわ……!」
「?? 手合わせはまだ始まってないっスよ?」
両者が剣を構える。
瞬間、クレモンを新しい衝撃を襲う。
(なんや、この圧力……!?)
クレモンは、剣を構えた相手の実力を正しく推し量ることができる。だが、今のクレモンは相手の若い冒険者の実力をまるで測れずにいた。
いや、正しくは測れないのではなく『強い』という情報以外が入って来ないのだ。
クレモンは、自分の手が震えている事に気付く。
(なんやこれ……? なんで僕の手ぇ震えてるんや?)
向かい合っている村の若い冒険者の姿が、途方もなく大きく感じる。背中から汗が噴き出して止まらない。
クレモンは、冷静に状況を分析する。
(ああそうか、コレが”恐怖”か)
自分より強い相手に出会った事がないクレモンは”恐怖”という感情を味わったことがなかった。未知の感情と、自分より強い相手との邂逅にクレモンは胸を高鳴らせる。
「じゃあ、行くっスよー」
村の若い冒険者が、軽い掛け声とともに剣を打ち込んでくる。
(速――)
クレモンは、反射的に間一髪防御。続く連撃を、精妙な技術でさばき続ける。
(なんやこの男の剣! 速い! 重い! ザッハーク君なんかと比べ物にならへんで!)
生涯不敗。【剣聖】のギフトを持つザッハークにさえ本気を出した事がないクレモンは今。相手の攻撃をしのぐだけで精一杯だった。
「そんな、クレモン団長が押されている……!?」
ローラが呆然と呟く。
「これはちょっと、本気出さなあかんね……」
クレモンは、後ろに跳んで間合いを取る。
「コレ外すんは、いつ以来やろね」
そう言ってクレモンが両腕のブレスレットを外す。ブレスレットは”ズシン”と音を立てて地面にめり込んだ。
クレモンは、普段力をセーブするために錘の着用を義務付けられていた。その重さ、なんと片側で20キログラム。常人なら腕を上げることすらままならない重さである。
「あの錘を外したクレモン団長は、影すら追いつけないほど速いという――」
次の瞬間。ローラはクレモン団長を見失った。
クレモンの最速の一撃。それを――
「お、さっきより早くなったっスね」
若い冒険者はなんなく受け止めていた。
「何やて!?」
クレモンは何発も追撃を放つ。しかしそれらはすべて、簡単に受け止め、いなされてしまう。
「一体、これはなんなんですか……?」
横で模擬戦を見ているローラは、何が起きているのか理解が追いついていない。
「このままじゃ、あかんわ……」
クレモンは再び後ろに跳んで間合いを取る。
「……なぁローラちゃん。僕の剣術、”ライゾフ流”っていうやん? ホンマはな、そんな流派無いねん」
「――え?」
「あんなもん、適当にそれっぽく剣振って適当な名前つけてただけや」
そう言ってクレモンは剣を左手に持ち替える。
「こっから先は、陛下にも見せたことないねん。ローラちゃん、これ黙っとってな」
クレモンが細い目を見開く。そして、獣のように低い姿勢で剣を構える。
「これが僕の本当の剣術や」
「あんな構え、見たことない……」
「この流派に、名前はあらへん。教えても、相手はみぃんなすぐに死んでまうから付ける意味ないねん」
クレモンの身体から凄まじい殺気が放たれる。離れた場所から見ているだけのローラでさえ、恐怖で全身の震えが止まらないほどだ。
一方、クレモンに向き合っている村の若い冒険者は特に殺気を気にせず空いた手で頭をかいている。
「いくで。勢い余って殺してもうたら、堪忍な……♡」
閃光。
クレモンの剣は1筋の光となって若い冒険者を襲う。
だが――
「おお、結構速いっスね!」
若い冒険者は、しっかりと剣で攻撃を受け止めていた。
音を超える速さと城門を穿つ破壊力を併せ持つ一撃を受けても、冒険者も持っている剣もびくともしていない。
クレモンは呆然としていた。
「よーし、俺もちょっと本気で行くっス」
「なんやて!? まだ全力ちゃうかったんか!」
そこから、常人では残像しか捕らえられない程のスピードでの剣戟の応酬が繰り広げられる。
「うっし、1本取ったっス!」
勝ったのは、村の若い冒険者だった。
「団長が、負けた……!?」
ローラは現実を受け入れられず呆けていた。
「……完敗や。これまで僕一度も負けたことなかったんやけどなぁ。君みたいな強い人初めて会ったわ」
「俺が強い……っスか? そんなこと言ってもらえたの初めてっス! 光栄っス!」
「へ? 言われたことあらへんの?」
「無いっス! 俺はこの村で中の下くらいっス!」
「ちゅ、中の下……?」
「冒険者の取りまとめやってるタイムロットさんは俺よりずっと強いですし、領主様は俺の100倍は強いっス!」
「100倍……!?」
クレモンは目を白黒させる。
「世界って、広いなぁ」
クレモンの胸の中には無力感と悔しさ。そして、自分より強い相手と出会えた喜びが混ざりあった複雑な感情が渦巻く。クレモンは手で自分の目元を覆った。
「はじめまして、お2人が旅の剣士さんですね。話は聞きました」
そこへ、話題の中心人物であったメルキスがやってくる。
「僕がこの村の領主、メルキス=ロードベルグです。ようこそお越しくださいました。良ければ村を案内しますよ」
突然のメルキスの登場に、クレモン団長とローラが動揺する。
「おおきに。領主サマ直々に案内してもらえるなんてツイてますわぁ」
(まさかいきなりメルキス君が来るとは予想外やったわ。これはツイてるで……。今日は散々驚かされたことやし、もうこれ以上驚かされることあらへんやろ)
クレモンは、この時まだそう思っていた。
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