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第63話 大賢者にもっと私の魔法を学んでくれと泣きつかれる

 エンピナ様から渡されたノートを読み終えたころには、夕方になっていた。


 僕は膝の上で寝ているエンピナ様を起こす。


「ノート、読み終わりました。エンピナ様、今日はありがとうございました。これからもよろしくお願いします」


「え、我が弟子よ、まさか今日はもう我の講義を聞く時間は終わりなのか? まだまだ話さなければならないことはたくさんあるのだぞ?」


 そう言えば、講義が何時間あるという話は一度もしていなかった。まさか、まだあるとは。


「すみません、今日はもう終わりにさせてください。腕がなまらないように毎日最低一時間は剣術の修行をしているんです。あと、今日は休みでしたが明日からは領主としての仕事もあります」


「そんな……! 汝には、365日起きている間は飯と風呂以外の時間はずっと我の講義を聞いてもらうつもりでいたのに……」


 いつのまにか、超過酷なスケジュールが組まれていた。


「ヤダヤダ、我の講義をずっと聞いてくれよ我が弟子~!」


 エンピナ様が子供のように駄々をこねる。こうしていると、本当に子供みたいだ。などと少し失礼な考えが頭をよぎる。


「わかりました、明日からは他の時間もギリギリまで切り詰めてエンピナ様との時間に充てるようにしますから。今日は剣術の修行をさせてください」


「今日ももっと我の講義を聞いてくれよ我が弟子ぃ~」


 訓練場に向かう僕の服の裾を、エンピナ様が引っ張って引き留めようとする。


 子供よりも駄々が酷くはないか……?


 この人、本当に大賢者と呼ばれているんだよな?


 僕はエンピナ様を引きずったまま僕は訓練場に着く。このまま剣の修行をするわけにもいかないので、どうにかしてエンピナ様の興味を逸らさなくてはいけない。


「ほら、見てくださいエンピナ様。僕がかけた【刻印魔法】によって、うちの村の冒険者さん達はあんなに高威力の魔法を扱えるんですよ」


 僕は、魔法を使って戦う冒険者さん達が訓練している方を指し示す。


「ファイアーボール!」


 1人の冒険者さんが放った魔法によって、家一軒ほどもある巨大な岩が爆発して吹き飛ぶ。そしてまた別の冒険者さんが土属性魔法”ロックエッジ”によってマト代わりの新しい岩を生み出している。


 反対側では、別の冒険者さんが氷属性魔法”アイスニードル”で岩を粉砕していた。


「ほう。これは驚いた。我が弟子程ではないが、下級魔法で上級魔法並みの威力を発揮するとは。これは期待できるではないか。高威力の魔法を扱えるものがこれだけいれば、我の研究の助け程度にはなろう」


 エンピナ様は嬉しそうだった。


「しかし、これだけの数の人間相手に教えるとなると大変だな……よし、本を書いてやろう」


「本ですか」


「そうだ。我の研究成果を集めた本を読めば、上級魔法も扱えるようになるはずだ。そうすれば、村の戦闘力も上がる。そして、我はその魔法を使う様子を観察して、自分の研究を更に進めることができる。我はたったの5系統しか魔法を使えぬからな。他の系統の上級魔法を観察できる機会は貴重だ」


 領主としても、村の戦力が上がるというのは魅力的だ。


「それはありがたいです! ぜひお願いします」


「任せろ。だが忘れるな、我が一番頼りにしているのは汝だ。汝でなければ、魔法の真理へとはたどり着けぬのだ……では、我はこれより早速本の執筆にとりかかる」


 そう言って、エンピナ様はうきうきした足取りで去っていった。 


 そして、翌日――。


「我が弟子、1冊目の本が完成したぞ!」


「速過ぎではないですか!?」


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