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初恋の人も幼馴染も同級生も、みんな俺を許さなかった。嫌われていたのに突然優しくされても困るだけだ……  作者: 野良うさぎ(うさこ)


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9/9

困られて


 学校行くのが楽しい。


 俺は洗面所の鏡で自分の髪を整えていた。


 俺は子供の頃、神凪さんに一目惚れした。あれは初恋だったんだ。

 きっと、俺は神凪さんの容姿しか見ていなかった。


 俺がイジメられていたのも、神凪さんの事をからかっていたのが悪かったと思っていた。

 ……俺は自分を責めると楽になった。イジメを受けても仕方ないと思った。


 でも、いつからか心の奥底でおかしいと思っていた。

 あそこまでひどい事を人はできるのか? 俺の心が死んでしまった。

 本当に消えたいと思った。


 ――夏美と過ごしたら、俺の死んだ心が蘇った。




 リビングから夏美の声が聞こえてきた。


「おーい、そろそろ行こうよ! 台場も待ってんからさ」


 鏡の中の俺の顔は曇っていなかった。晴れ晴れとした顔であった。

 それでも、神凪さんの事を思う時がある。だって初恋の人だ。

 俺は夏美に返事をしてリビングへと向かった。






 学校ではいつもどおり平和な日常であった。

 夏美と台場さんが隣にいてくれて、台場さんのお兄さんのマイク君が時折俺に勝負を挑む。

 クラスメイトと雑談だってすることもある。


 本当に穏やかで、普通で、素敵な日常。

 ……だから、俺は――過去を見つめ直そうと思った。神凪さんと会ってみようと思った。


 夏美は俺が前の学校を訪ねるのに反対したけど、前に進めないと思ったんだ。


 ただ神凪さんをひと目見て、今の俺の気持ちを知りたかった。






 俺は放課後、数カ月ぶりに前の学校を訪ねた。

 夏美と台場さんは俺の事が心配でどうしても付いていくって聞かない。


「もう、信士、帰ろうよ。今更関わらなくてもいいっしょ?」


「そうなのよ。……私、信士をイジメていた子を見たら殴っちゃいそうよ」


「ははっ、絶対だめだから。――夏美は前の学校の誰かと連絡取っているの?」


「取るわけ無いじゃん。そう言えば、何かしら連絡あると思ってたけどさ、全然ないわ。まあ良いことだけのさ」


 そうなのか? てっきり冴島君は夏美の事が好きだから連絡してくると思ったけど?


 前の学校に向かって歩くと、大勢の生徒達が視線を俺達に向けていた。


「お、おい、あれって……」

「ああ、あの竹芝君だろ? 喧嘩売ってきた日本チャンピオンぶっ倒した」

「マジ? 誰それ?」

「バカ、冴島みたいに島流しになるぞ!」

「動画サイトで超有名だろ!? おまえ知らねーの? 後で見せてやるよ」

「あれって……、マリちゃん!? AKGのセンターじゃねえーか!!」

「え、ちょ、サインもらえねーかな?」

「あっ、夏美ちゃんだ! ヤバ、足綺麗……、流石トップモデルじゃん」

「ていうか、あの三人やばくね? ち、近づけないっていうか、オーラやばいよ」


 最近気がついたけど、台場さんは芸能人みたいだ。

 正直テレビはあまり興味がないから気にしてなかった。

 いつも出かける時はメガネをかけるのに、今日は初めて会った時みたいに、髪をふわふわさせて、メガネを外して雰囲気がいつもと違う。


 夏美は台場さんの紹介でバイトを始めたらしい。なんだかよくわからない雑誌で可愛らしい服を着ている。本を見せながらよく俺に自慢をしていた。


 二人がいると心強い。

 俺にとって、今はまだ――二人はただの幼馴染であり友達……。

 俺が過去と向き合わないと前に進めない。



「ていうかさ〜、放課後に学校行っても会える保証ないっしょ? まあ、良いけどさ」


「いいのよ、汐留。だって、信士君が望んでるんだもん」


 ちらほらと、俺の前のクラスメイトの姿が見えた。


「ひぃ!? や、やべぇ……」

「も、もう許して……」

「――た、竹芝く、ん」


 みんな一様に顔をそらして身体を震わせて逃げるように去っていった。

 それでも、俺の事をみつめるクラスメイトもいた。

 確か、あの子は――百合かもめさんだ。


 なんだか、垢抜けた感じであった。もっと暗いイメージがあったような。

 百合さんは、俺に柔らかい笑顔を向けて、頭を下げた。


 そして、遠くにいる友達に手を振ってその場を走り去っていった。





「信士、あれって……」


 俺は夏美の声で、百合さんから目を離した。

 そして、前を向くと――そこには神凪さんが一人で歩いていた。


 神凪さんは俺を見て作られた笑顔を向けた。


「え、あ……、し、信士君、会いたかったんだ。わ、私、信士君にひどいことしちゃって……、あっ、ここじゃあ人が多いから……」


 大勢の生徒が通りを行き交う。神凪さんは人の目を気にしていた。

 俺は人の目を気にしない。


「いや、ここで大丈夫。あのさ――」

「本当に懐かしいね!! 小学校の頃は一緒に沢山あそんだもんね! ……また信士君と遊びたいな。……私の事からかっていたのはもう気にしてないよ? うん、夏美ちゃんもまた仲良くしようね!」


 神凪さんはまくしたてるように俺に言う。過去記憶がごちゃ混ぜになる。好きだった。イジメてイジメられた。視線がトラウマになった。俺は何度も謝った。そのたびに冷たい言葉をかけられた。何か言いそうな夏美を手で抑える。


「……小学校の頃、本当はね、私も信士君の事――気になってたんだ。は、恥ずかしくて言かったから、中学の時に反動で意地悪しちゃったけどね。……小学校の頃の信士くんと一緒だよ? 気になってたからからかってたんだもんね? へへ、だからさ――」


 神凪さんはとびっきりの笑顔を俺に向けた。

 神凪さんの顔が少しだけ引きつっているのが俺にはわかった。


「私……、竹芝君の事……いつまでも待ってる……」


 台場さんが俺の制服を強く握って、自分を我慢していた。

 夏美は歯を食いしばっていた。


 神凪さんはある意味凄い。俺が昔好きだったということを最大限利用し、可愛い自分をアピールして、俺から好意的な言葉を言わせようとしている。



 そう、俺の初恋の人。本当に好きだと思っていた人。



「――――」



 かける言葉も見つからなかった。

 何も感じられない。――それでも……悪意の塊だとしても――俺の初恋だった人だ。


 神凪さんは俺の苦い表情を見て焦った顔をしていた。


「え、な、なんで何も言ってくれないの? わ、私、あの時すごく傷ついたんだよ? ま、まさか信士君が自殺しようとしていたなんて――」


「芽衣子っ!!」


「夏美……、大丈夫だ。帰ろう、三人で」


「汐留……、この女殴っていい? マジやばいのよ……」


 周りの生徒たちのざわめきの声も大きくなる。



「神凪さんやば、豊洲ちゃんの彼氏取ったんでしょ? しかも有明先輩と青海君と二股してて」

「冴島はあいつのせいで親父に怒られて、この学校やめて変な施設入ったんだろ?」

「誰も相手にしないからイジメもないよな」

「ま、今はおとなしいからいいじゃん。ほら私達も帰ろう」


 周りにいた生徒たちは神凪さんに興味を無くしてその場を後にした。


 神凪さんがうめくような声を上げる。


「――な、なんで……、わ、私……信士君と……、信士君のせいで、くそっ……あんたがいなかったら……、冴島のグズが……」


「――――」




 俺は無言で神凪さんの視線を切った。

 泣きながら――他人を罵声する言葉だけが聞こえた。


 俺の初恋は、本当の意味で終わった。



 俺は夏美と台場の手を取って、元の道へ歩き出した。








 帰り道、夏美が俺の腕を強く掴んできた。

 なぜか涙声であった。


「わ、私がもっと強かったら……、は、早く止められてたのに……、ご、ごめん、信士」


「夏美は優しい。俺が自虐的過ぎたのがいけなかったんだ。もっと早く神凪さんや冴島と向き合えば良かったんだ」


 夏美の力が更に強くなった。


「えっ……、き、消えないよね? どこにもいなくならないよね?」


「ははっ、大丈夫だ。気持ちを整理出来ただけだ。俺は――大切な人を残して消えない」


 俺は初恋があったから、好きっていう気持ちが理解できる。

 ……だけど、少し戸惑うことがある。


「……うぅ、わ、私はもっと早く信士君に会いたかったのよ。ぐしゅっ……、パンケーキ食べて帰ろうよ」


 なんでだろう? 

 その思いが初恋の時と比べ物にならないぐらい熱いものがあるんだ。


 言葉では表せないくらい愛おしく思える。


「信士、ずっと一緒にいようね!」

「信士君っ! わ、私だって離れないのよ!」





 これは俺が初恋の人に意地悪をして……間違えた人生をやり直す話だ。

 壊れた心が大切な人との日々によって再生する。


 こんな日々を二度と手放したくない――、これからも、俺を沢山困らせてくれ。


 だから俺は大切な――の手を強く握りしめた――





(初恋の人も幼馴染も同級生も、みんな俺を許さなかった。嫌われていたのに突然優しくされても困るだけだ……  完)










完結です!

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