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初恋の人も幼馴染も同級生も、みんな俺を許さなかった。嫌われていたのに突然優しくされても困るだけだ……  作者: 野良うさぎ(うさこ)


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8/9

枝豆


 台場さんは俺のジュースを奪って飲み干してしまった。


「ぷっはっーー! ぶっちゃけボクシング部の団体戦なんてどうでもいいのよ! ……ま、まあ、おにちゃのアマチュアの最後の団体戦だったから、出場させてあげたかったのよ」


「あーー!! 私が選んだやつなのに! こら台場っ」


「あなたのじゃないからいいでしょ! 私ガサツそうに見えて意外と繊細なのよ! 信士君が助っ人に加えられないから結構ショックだし……」


「ごめん、ルールはルールだから」


 台場さんは息を整えて、気落ちを落ち着けた。


「うん、おにちゃには連絡しておくのよ。……でも、もう忘れていると思うよ、団体戦の事」


 夏美が目を見開いて驚いていた。


「はっ? た、大切な試合じゃねーの? あ、ありえないっしょ?」


 台場さんは大きくうなずいた。


「うん、だっておにちゃは馬鹿だもん。そこらのバカじゃない。天才的な身体能力を持った天才的なバカだもん。今はそこの彼――信士君に夢中なのよ」


「マジ? ある意味すご」


「……えっと、お金もらえるなら殴られ屋やろうか?」


「それだと、信士君が殴らないよ。――ふん、私が挑戦しようかな? この前は一発しか当たらなかったし……、私、そこらの男子よりボクシングうまいのよ……」


 あたりが薄暗くなってきた。

 そろそろ帰ってもいい時間だ。

 明日の予定はわからないけど、今日は夏美の準備もあるから、そろそろ家に帰ろう。


「信士、帰ろっ。転校の手続きとかもあるっしょ? テストすんのかな?」


「学校変えたとしても……本当に大丈夫かな? 少し不安だ」


「ばっか、私も一緒じゃん。大丈夫よ」


 俺と夏美は微笑みあって、ベンチから立った。



「がががっ!? 私の事は無視っ! ま、まあいいわ、ふん、信士君、今日の歌番組見てね!」


 よくわからないけど、とりあえず別れの挨拶をしよう。


「殴られ屋は廃業だから。またどこか会えたらいいね」


「はぁ、信士は優しいね。こんなちんちくりんなのにさ」


「ががっ! あなたなんか、素直になれないツンデレ友達なのよ! ばーか!」


「はっ!? 友達じゃなくて幼馴染だぞ、チョロい女は黙ってろ。変に振り切れてないツンデレも微妙っしょ!」


「チョ、チョロくないのよ、わ、私、男子なんておにちゃとしか話したことなくて……友達……あれ? いない。女子の友達も……あれ? みんな話しかけてくれない……、あ、わ、私友達いないの?」


「あっ、な、なんかわりぃ。そうだよな、金髪なのに地味な陰キャだからか……。ほ、本当にごめん」


「え、そ、そんなに謝らないで。わ、私だって友達いるもん! ほら、信士君とはもう友達!」


「信士は私の大切な幼馴染なの!」


 うん、面倒だから仲裁しないでおこう。

 俺は二人のじゃれ合いを微笑ましく見つめていた――





 ************





 どういう力が働いたんだろう?

 俺と夏美には理解できない力なんだろう?


 ……そもそも転校ってこんなに簡単に、素早くできるの? ――あまり疑問を抱かないようにしよう。



 今まで通っていた学校の、隣の高校に今俺と夏美はいる。

 新しい担任の先生が俺達の紹介を終えて、HRの終わりを告げた。


「じゃあ、竹芝と汐留は台場の席の前と横だ。好きに座れ。……台場、あとで学校の案内でもしてくれや」


 なぜか、俺と夏美は同じクラスになった。……このクラスが一番少ないっていう理由らしいけど、しかも台場さんもいる。


 台場がニヤニヤした顔をしていた。

 金髪なのに、地味なメガネに地味な顔。

 なんだか、前の学校の同じクラスの百合さんに雰囲気が似ている。


 メガネを外すと全然違うんだけど。あっ、歌番組見てっていってたけど見てない。

 あまり興味ないから仕方ない。


 台場さんは友達はいないらしい。自分みたいんでちょっと可哀想だ。


「し、信士君、なんで可哀想な人をみるような目で見てんのよ! ふん、ま、まあいいよ。し、信士君は教科書もってないよね? み、見せてあげるよ」


「うっぜ、ていうか、教科書持ってんに決まってんでしょ? あんた信士と喋りたいだけでしょ?」


「そ、そんな事ないよ!? も、もう」


 やっぱり二人は仲が良い。見てて気持ちの良いものだ。なんだか学生らしいやり取りだ。

 前のクラスとは大違いだ。



 午前中、学校を過ごしてわかった。別に台場さんに友達がいないわけじゃない。みんな、気を使っているだけであった。なんだか優しい距離感を感じる。


 このクラスは優しい生徒たちばかりであった。

 みんな人との接し方に節度と礼儀がある。


「し、汐留、そ、そのお揃いのお弁当は? な、なんで一緒なのよ!」


 お昼休みになり、俺と夏美、それに台場さんと昼食を取ることになった。

 台場さんの弁当はちっちゃいけど、すごく豪勢であった。栄養バランスが非常に考えられているお弁当だ。まるでプロが作ったものみたいだ。


「ふふん、だって、私達――一緒に住んでるんだもん! へへ、幼馴染だから親同士仲良くてさ、色々あって私が信士の家にいるんだ」


「えっ? ず、ずるくない!? わ、私も信士君の部屋見てみたいよ! ――そのおかず頂戴!」


「バカッ! これは信士が焼いてくれた卵焼きだからだめ! あんたは私が湯がいた枝豆でも食ってな!」


 二人は口では悪態をついているけど、表情は嬉しそうであった。


「台場さん、じゃあ俺の卵焼き食べていいよ」


「本当! やった!」


「夏美は夕飯に何か作ってあげるから」


「う、うん、へへ、ありがと――」


 台場さんは嬉しそうに卵焼きを頬張りながら俺に訪ねてきた。


「もぐもぐ、うまっ! あなた天才じゃない? ――あっ、そうだ、歌番組みてくれて! ふふふ、実はね――」


「ごめん、色々あって見てない。テレビはほとんど見てないから全然わからなくて……」


「がががっ!?」


「あー、私は歌は好きだけど、あんまりテレビやアイドルに興味なくて……、うん、私はわかってるけど、ぶっちゃけどうでもいいっていうか……、うん、台場だしさ。信士に驚いてほしかったんだろ? まっ、別に知らなくていいんじゃね?」


 俺は話の流れがわからなくて、首をかしげた。


「……メガネを外した台場さんは確かに素敵だったけど……、それが何か重要な事なのか? 別にメガネを外して無くても十分素敵だと思う」


 台場さんはつまんでいた枝豆を夏美に向かって飛ばしてしまった。


「ご、ごめんっ!? え、枝豆さん……」


「あ、あんた私に謝りなさいって!!」


 台場さんの顔が少しだけ赤い。なんだか嬉しそうであった。

 夏美もそんな台場さんを見て喜んでいた。


「……どうでもいいか。凄く良いのよ。ふふっ、信士君は私の事を知らない。ふふふっ……、なんか新鮮で嬉しい。よし、今日はおにちゃもいなし、仕事もないし、い、一緒に遊んであげてもいいのよ? ……あ、いや、できれば遊んで欲しいな――」


 夏美は台場さんの背中をバンバンと叩いた。


「良いに決まってんじゃん! あははっ!」


「ちょ、あなた、意外と力強いのよ!?」


 やっぱり、俺は仲良しの二人を見ていると、心が和む。

 ほんの短い時間なのに、気持ちを切り替えただけでこんなに世界が変わるなんて――


 台場さんが金髪のツインテールを指でいじりながら、俺に言った。

 嬉しいのをこらえている子供みたいな表情で、夏美とは違った魅力があった。



「し、信士君、こ、これから――よろしく。うん、っと、ね。今更だけど、わ、私と友達になって欲しいのよ。……だ、だめかな?」



 なんだか、不器用だけど純粋な台場さんの想いを受け取った。

 俺は自然な笑顔で頷いた。

 その時の台場さんの顔は――とても可愛らしかった――




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