枝豆
台場さんは俺のジュースを奪って飲み干してしまった。
「ぷっはっーー! ぶっちゃけボクシング部の団体戦なんてどうでもいいのよ! ……ま、まあ、おにちゃのアマチュアの最後の団体戦だったから、出場させてあげたかったのよ」
「あーー!! 私が選んだやつなのに! こら台場っ」
「あなたのじゃないからいいでしょ! 私ガサツそうに見えて意外と繊細なのよ! 信士君が助っ人に加えられないから結構ショックだし……」
「ごめん、ルールはルールだから」
台場さんは息を整えて、気落ちを落ち着けた。
「うん、おにちゃには連絡しておくのよ。……でも、もう忘れていると思うよ、団体戦の事」
夏美が目を見開いて驚いていた。
「はっ? た、大切な試合じゃねーの? あ、ありえないっしょ?」
台場さんは大きくうなずいた。
「うん、だっておにちゃは馬鹿だもん。そこらのバカじゃない。天才的な身体能力を持った天才的なバカだもん。今はそこの彼――信士君に夢中なのよ」
「マジ? ある意味すご」
「……えっと、お金もらえるなら殴られ屋やろうか?」
「それだと、信士君が殴らないよ。――ふん、私が挑戦しようかな? この前は一発しか当たらなかったし……、私、そこらの男子よりボクシングうまいのよ……」
あたりが薄暗くなってきた。
そろそろ帰ってもいい時間だ。
明日の予定はわからないけど、今日は夏美の準備もあるから、そろそろ家に帰ろう。
「信士、帰ろっ。転校の手続きとかもあるっしょ? テストすんのかな?」
「学校変えたとしても……本当に大丈夫かな? 少し不安だ」
「ばっか、私も一緒じゃん。大丈夫よ」
俺と夏美は微笑みあって、ベンチから立った。
「がががっ!? 私の事は無視っ! ま、まあいいわ、ふん、信士君、今日の歌番組見てね!」
よくわからないけど、とりあえず別れの挨拶をしよう。
「殴られ屋は廃業だから。またどこか会えたらいいね」
「はぁ、信士は優しいね。こんなちんちくりんなのにさ」
「ががっ! あなたなんか、素直になれないツンデレ友達なのよ! ばーか!」
「はっ!? 友達じゃなくて幼馴染だぞ、チョロい女は黙ってろ。変に振り切れてないツンデレも微妙っしょ!」
「チョ、チョロくないのよ、わ、私、男子なんておにちゃとしか話したことなくて……友達……あれ? いない。女子の友達も……あれ? みんな話しかけてくれない……、あ、わ、私友達いないの?」
「あっ、な、なんかわりぃ。そうだよな、金髪なのに地味な陰キャだからか……。ほ、本当にごめん」
「え、そ、そんなに謝らないで。わ、私だって友達いるもん! ほら、信士君とはもう友達!」
「信士は私の大切な幼馴染なの!」
うん、面倒だから仲裁しないでおこう。
俺は二人のじゃれ合いを微笑ましく見つめていた――
************
どういう力が働いたんだろう?
俺と夏美には理解できない力なんだろう?
……そもそも転校ってこんなに簡単に、素早くできるの? ――あまり疑問を抱かないようにしよう。
今まで通っていた学校の、隣の高校に今俺と夏美はいる。
新しい担任の先生が俺達の紹介を終えて、HRの終わりを告げた。
「じゃあ、竹芝と汐留は台場の席の前と横だ。好きに座れ。……台場、あとで学校の案内でもしてくれや」
なぜか、俺と夏美は同じクラスになった。……このクラスが一番少ないっていう理由らしいけど、しかも台場さんもいる。
台場がニヤニヤした顔をしていた。
金髪なのに、地味なメガネに地味な顔。
なんだか、前の学校の同じクラスの百合さんに雰囲気が似ている。
メガネを外すと全然違うんだけど。あっ、歌番組見てっていってたけど見てない。
あまり興味ないから仕方ない。
台場さんは友達はいないらしい。自分みたいんでちょっと可哀想だ。
「し、信士君、なんで可哀想な人をみるような目で見てんのよ! ふん、ま、まあいいよ。し、信士君は教科書もってないよね? み、見せてあげるよ」
「うっぜ、ていうか、教科書持ってんに決まってんでしょ? あんた信士と喋りたいだけでしょ?」
「そ、そんな事ないよ!? も、もう」
やっぱり二人は仲が良い。見てて気持ちの良いものだ。なんだか学生らしいやり取りだ。
前のクラスとは大違いだ。
午前中、学校を過ごしてわかった。別に台場さんに友達がいないわけじゃない。みんな、気を使っているだけであった。なんだか優しい距離感を感じる。
このクラスは優しい生徒たちばかりであった。
みんな人との接し方に節度と礼儀がある。
「し、汐留、そ、そのお揃いのお弁当は? な、なんで一緒なのよ!」
お昼休みになり、俺と夏美、それに台場さんと昼食を取ることになった。
台場さんの弁当はちっちゃいけど、すごく豪勢であった。栄養バランスが非常に考えられているお弁当だ。まるでプロが作ったものみたいだ。
「ふふん、だって、私達――一緒に住んでるんだもん! へへ、幼馴染だから親同士仲良くてさ、色々あって私が信士の家にいるんだ」
「えっ? ず、ずるくない!? わ、私も信士君の部屋見てみたいよ! ――そのおかず頂戴!」
「バカッ! これは信士が焼いてくれた卵焼きだからだめ! あんたは私が湯がいた枝豆でも食ってな!」
二人は口では悪態をついているけど、表情は嬉しそうであった。
「台場さん、じゃあ俺の卵焼き食べていいよ」
「本当! やった!」
「夏美は夕飯に何か作ってあげるから」
「う、うん、へへ、ありがと――」
台場さんは嬉しそうに卵焼きを頬張りながら俺に訪ねてきた。
「もぐもぐ、うまっ! あなた天才じゃない? ――あっ、そうだ、歌番組みてくれて! ふふふ、実はね――」
「ごめん、色々あって見てない。テレビはほとんど見てないから全然わからなくて……」
「がががっ!?」
「あー、私は歌は好きだけど、あんまりテレビやアイドルに興味なくて……、うん、私はわかってるけど、ぶっちゃけどうでもいいっていうか……、うん、台場だしさ。信士に驚いてほしかったんだろ? まっ、別に知らなくていいんじゃね?」
俺は話の流れがわからなくて、首をかしげた。
「……メガネを外した台場さんは確かに素敵だったけど……、それが何か重要な事なのか? 別にメガネを外して無くても十分素敵だと思う」
台場さんはつまんでいた枝豆を夏美に向かって飛ばしてしまった。
「ご、ごめんっ!? え、枝豆さん……」
「あ、あんた私に謝りなさいって!!」
台場さんの顔が少しだけ赤い。なんだか嬉しそうであった。
夏美もそんな台場さんを見て喜んでいた。
「……どうでもいいか。凄く良いのよ。ふふっ、信士君は私の事を知らない。ふふふっ……、なんか新鮮で嬉しい。よし、今日はおにちゃもいなし、仕事もないし、い、一緒に遊んであげてもいいのよ? ……あ、いや、できれば遊んで欲しいな――」
夏美は台場さんの背中をバンバンと叩いた。
「良いに決まってんじゃん! あははっ!」
「ちょ、あなた、意外と力強いのよ!?」
やっぱり、俺は仲良しの二人を見ていると、心が和む。
ほんの短い時間なのに、気持ちを切り替えただけでこんなに世界が変わるなんて――
台場さんが金髪のツインテールを指でいじりながら、俺に言った。
嬉しいのをこらえている子供みたいな表情で、夏美とは違った魅力があった。
「し、信士君、こ、これから――よろしく。うん、っと、ね。今更だけど、わ、私と友達になって欲しいのよ。……だ、だめかな?」
なんだか、不器用だけど純粋な台場さんの想いを受け取った。
俺は自然な笑顔で頷いた。
その時の台場さんの顔は――とても可愛らしかった――
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