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 女神様はどこでもいらっしゃる。

 女神様を称えるマークを描いた部屋なら、本当にどこにでもと、そう言われている。


 だから国内のほとんどの家――それこそ独居用の、ワンルームのような部屋に住んでいるのではなければ、どこにでも礼拝室に使われる部屋はある。大抵は客間を兼ねているけれど、広い家ならそれ専用の部屋が置かれている場合もある。


 王宮はもちろん、それ専用の部屋がある。

 部屋というより、教会の出張所という方が近いけれど。


「お邪魔します……」

 案内されたとおりに進んで扉を開ければ、そこはとても広い講堂だった。


 管理人をされている方には、あらかじめ話を通した。「聖女様が礼拝堂に!」とものすごく大事にされそうな反応があったけれど、何だかんだ私も、ここでの生活が長くなってきた。上手いこと宥めすかして、丸め込んで、どうにか単身でこの場所を訪れている。


 横長の椅子が、左右に三十基ずつ。

 その真ん中を通るカーペットは、正面の祭壇に続いている。


 私はカーペットの上を歩いて、流石に祭壇の目の前に膝を突く勇気はなかった。聖女になる前、街の教会を訪ねたりしていた頃と同じだ。少し前気味の椅子に腰を下ろして、息を吐く。


 静かな場所で、一人物思いに耽ろうとする。

 手を祈りの形に組んで、姿勢を整えるために、ふっと頭を持ち上げる。


 そのとき、ものすごく高い天井を見て、我に返った。


 そもそも私のやっていることって、相当な罰当たりなんじゃないだろうか。


 よくよく考えると全く言い訳の余地がないというか、よくよく考えるまでもないことですらあるというか、元々そんなに信心深い方でもない方なのが盛大に災いしたというか。本当に今更、そういうことに気が付いた。


 女神様から直々に選ばれて、歌とダンスを奉る。

 それが聖女の役割だというのに、自分は一体何なんだ。


 初恋だの何だのと、伝わるだの伝わらないだの、避けられているだのいないだの。

 どう考えても、聖女がやることじゃない。


 いくら女神様の懐が大変お広くていらっしゃるとはいえ、「真面目にやりなさい」と怒られたって仕方ない。歌とダンスがこれで本格的にダメなままだったら「真面目に選んでください」と怒り返せたかもしれないけれど、なまじそれなりに形になってきてしまっただけに、一方的に。


 悩み相談どころの話じゃない。

 この場を借りて、ちゃんと謝っておこう。


 そう思った瞬間のことだった。


「…………?」


 その天井でだ。

 何かが、ぼんやり見えた気がした。


 一面の真っ白に、何か淡く、緑色の、いや紫の、やっぱり黄色? 何かそういう、輪郭の確かじゃない波紋のようなものが映った気がする。天井の模様だろうか。一見すればよくわからない、美術的な装飾が施されているんだろうか。


 目を凝らす。

 それが、どんどん具体的になってきた。


 夢でも見ているのかと思った。私には、それが人の姿に見え始めていた。でも、それは天井に張り付いているとかそういうことじゃない。もっと、起きているときに見られるとは思えないもの。


 ものすごく大きな女の人。

 この一体何百人が入るだろうという礼拝堂の天井すら低いと言わんばかりに、身を屈めて、膝を抱えた、すごく綺麗な女の人。


「め、」

「好きとか嫌いとか、そういうの」


 名前を呼ぼうとしたら、向こうの方が先に話し始めた。

 優しく囁くような声だった。彼女は、明らかに私を見ている。好きとか嫌いとかそういうの。もしかして、と思う。


 心まで読まれて――



「いいね……」



 ぐっ、と親指を立てる。

 そうして女神様は、幻のように消えていった。


「…………」

 私はしばらく、呆然としていた。


 頬を抓る。痛い。少なくともこっちは現実らしい。自分で自分に問い掛ける。今のって何? 何だった? 一瞬の白昼夢? そんなに私って疲れてた? 歌の練習がそれだけ厳しかった? いやでも、私ってそうだ聖女に選ばれたんだし、もしかしたら誰も口外してこなかっただけでこういうこともあるのかなって、


「そうだ」

 もう一回おいでになられた。


 私がびっくりしているのなんて、もう慣れっこなんだろうか。彼女はそのまま一方的に、


「アダンのあれはね、『好き避け』だよ」

「す……?」

「だから心配しないで思うがままを行きなさい、悩める若人よ……」


 そうしてまた、すうっと消えていく。

 消えていって、一人。


 礼拝堂に取り残されて、私は思う。

 何今の。




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― 新着の感想 ―
1話前までキュンキュンしてたのに落差すごい、センスありすぎです
いいね……
近所のオバサンか!?
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