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18 試験通過と噂話



 一挙手一投足を見られているな、と思った。

 けれど見られることにはもう慣れていたので、特に動揺はしなかった。


 まして、歌ったり踊ったりしないわけだし。


「それで、」


 カップを置いて、背筋は伸ばしたまま。

 私は、困惑顔のご令嬢の皆さんにできるだけ落ち着いた声色で問い掛けた。


「本日お呼び立てくださったのは、どのようなご用件でしょう」

「……普通、逆ではありません?」


 試験は簡単なもので、結局、ほとんどその一口目の間だけで緊張は解けてしまったようなものだった。

 令嬢の皆さんのうち、特にその中心に座る彼女、伯爵令嬢のフリーア様が、テーブルに身を乗り出さんばかりの勢いで訊ねかけてくる。


「普通、あなたのような方って『音楽は得意だけれど他の行儀作法はさっぱり』なのではないの?」

「私も、自分がなってみるまでは聖女とはそういうものだと思っていました。ですが、私はどちらかといえば、テーブルマナーよりも歌の方が苦手で」


 そこは、王宮の社交室の一つだった。

 今更の話になるけれど、王宮というのは何も王族の居住・儀礼の空間だけを指しているわけじゃない。その周辺的な行政機能、つまり中央官庁も含めての空間を、この国では王宮と呼んでいる。


 その中には、もちろん貴族が交流や会談に使うような空間もある。

 それがこの社交室で、私はさっきまで一対七、生まれながらの貴族令嬢の皆さんの目に晒されながら、お茶のマナーの品定めをされていた。


 そして、ふっとフリーア様が砕けた調子になったところを見ると、どうも何かに合格したらしい。


「そうなの。てっきり私たち、前のネアネイラ様がああいう方だったから」


 ねえ、と彼女は友人たちに同意を求める。ねえ、と彼女たちも同調する。別に、フリーア様の意見におもねっているというわけでもなさそうだった。心からそういう調子で、


「わたくし、あの方がティアーロ殿下に面と向かって『君は笛に興味がないだろう』『音よりも吹いているときの自分が格好いいかどうかにしか興味がなさそうだ』と仰ったときは背筋が凍りました」


 しかも、具体的なエピソードまで伴って出てくる。ええ、と他の方々も頷くので、本当にあったものらしい。「あのとき殿下が大笑いなさらなかったらと思うと」と相槌も続く。思うと、の続きの感情を私も共有した。何となく、ネアネイラさんの初見の印象と現在把握できている人となり、公爵から聞いた評判が一つに繋がり始めていて、ちょっと嫌だった。ハラハラする。


 それから彼女たちは、私をもう一度見た。

 視線がこう語っている。


 それと比べれば、


「こうしてお話をさせてもらうと、今回の聖女様はとても気さくな方ですのね。よろしければ、サラ様とお呼びしても?」

「ええ。大変光栄なことでございます」

「嫌ね。私たちがそうお呼びするのだから、聖女様にはもっと気を抜いていただかないと。ねえ、皆さん」

「ええ」

「本当。私たちが気疲れさせて、お勤めに支障が出たら嫌ですもの」


 うふふ、と笑いが満ちれば、後は話に花が咲く。


 もう少し貴族の方々を相手にした会話というのは気疲れがするものだと予想していたけれど、そうでもなかった。この数ヶ月の間、相当苦手なことに取り組んできたから度胸がついた……というだけでもない気がする。何となく、この場にいる人の全員が私に好意的に感じる。


 単純に、それは私が聖女だからなのか。

 それとも別の狙いがあるのか。


「そういえば、音楽は苦手と先ほど仰いましたね」


 後者らしい、とフリーア様が訊ねかけてきたときの視線の色でわかった。


「ええ」


 でも、その狙いが何なのかまではわからない。私は頷きながら、当たり障りのないように、


「王宮に来る前にも、公爵領でご指導をいただいていたんです。皆様から見れば――」

「それって、ウィンスカーレ公爵直々にですか!?」


 大したものではないでしょうけど、と繋げるつもりが、フリーア様の勢いに掻き消された。


 驚いて目を丸くしていたんだと思う。私の顔を見ると、すぐに彼女は恥じ入るように声のトーンを落として、


「……う、噂でそういうことを耳にしまして」

「え、ええ。そのとおりです」


 それから再び、目を輝かせる。


 明かに色々と聞きたがっている様子だったから、私は続けた。公爵様は大変真面目な方で、お忙しい公務の合間を縫って私の指導をしてくださいまして……。どんどんその目の輝きが増していく。何なんだろう。これは話を続けない方がいいんだろうか。戸惑っていると、


「実はね」

 と、内緒話をするように、こそっとフリーア様が言った。


 私も少し、テーブルの上に身を乗り出す。彼女はもっと乗り出す。小さな声で、


「今、わたくしたちの間で噂になっているの。これまでウィンスカーレ公爵は社交界の薔薇のような方……つまり、近付くには棘のある方だと思われていたのですが、今はあなたの――」

「お嬢さん方、ご歓談中に失礼」


 コンコン、とノックが鳴って、二人揃って飛びのいた。

 どなたでしょう、とフリーア様が問い掛ける。名前が返ってきて驚く。やり取りがあって、その末に入ってくる。


「盛り上がっていたところ申し訳ない。ちょっと用事があってね」


 第一王子、ティアーロ。

 彼は、私の方に目線を向けて、


「借りてもよろしいかな。君たちのご友人の聖女様を」



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