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97 告白


「カイエさんは、もう解ってるようですが……私の母は魔族です。それが理由で、母と結婚しようとした父は、バルガス家から勘当されました」


 イルマは青ざめた顔で――カイエたちに語り出した。


「母は私が物心つく前に亡くなり、父も何も話してくれませんでしたから……この事を私が知ったのは、父が亡くなった後になります」


 魔族の異邦者イルマの母と、バルガス侯爵家の三男である父は、父が海外の大学に留学している頃に出会った。

 二人は愛し合い、イルマを身籠ったが、魔族に対して風当たりの強いチザンティン帝国では、魔族を貴族の妻に迎えることなど不可能だった。


 結果、イルマの父は爵位よりも妻と娘を選び、レガルタに移住して平民の身となったが……早々に妻を亡くし、自身もイルマが十歳のときに他界することになる。


「父が亡くなった後に一度だけ……お爺様がレガルタに来てくれました。そのときに、父と母のことを教えてくれて、そして私が生活に困らないようにと、ヘルドマイヤの称号と男爵領を与えてくれたんです」


 現在も形式的には、イルマはヘルドマイア女男爵であり、チザンティン帝国に彼女の領地は存在する。


「お爺様はもう一つ……母が魔族であることは、決して誰にも話してはいけないと言っていました。私は父の血を濃く受け継いでおり、外見上は他の人と変わりません。母も魔族であることを隠していたようで……私自身が喋らなければ、魔族の血が流れていることを知られることはないと……」


 このときイルマは、気遣うようにガゼルの方を見た。


「あの、誤解して欲しくないんですが……私は魔族の血が流れている事を卑下するつもりはありません。しかし、このことが公になれば、お爺様やバルガス侯爵家の方々に迷惑が掛かると思って、ずっと隠してきたんです」


「そうだな……イルマさんには申し訳ないが、チザンティン帝国の貴族なら、一族に魔族の血が混じるだけでも、失脚する要因になるだろう」


 エストが難しい顔で告げる。


「それと……これは言いづらい事なんだが、あえて訊かせて貰う。同じ理由から、魔族であるガゼルさんと一緒だと、イルマさんが魔族だと疑われる可能性が高くなると思うんだが……彼を使用人にしたのには、何か特別な理由があるのだろう?」


「ええ……ガゼルのご両親は、レガルタに移住する前から私の母にずっと仕えてくれていた方なんです。そして……母を守ろうとして、一緒に殺されました」


「……殺された?」


 イルマの言葉に――エスト、ローズ、エマの三人が唖然とする。

 カイエとアリスは、大よその予測がついていたようで、黙って話に耳を傾けていた。


「これも、私は後から知った事なんですが……私の母は、同族である魔族から命を狙われていました。だから、ずっと……母とガゼルのご両親は、魔族であることを隠していたそうです」


「おい、お嬢……良いのかよ、そんなことまで話しちまって!」


 ガゼルは声を荒げて、イルマを止めようとするが――


「ええ、良いのよ……カイエさんは、すでに色々と知っているみたいだし。それにもしかしたら、()()()()も……」


 イルマは一度目を閉じると――意を決するように深く頷いて、再び目を開いた。


「私の母は……魔王の血族なんです。みなさんはご存知かも知れませんが……魔王となった者は、その地位を脅かされないために、血族を皆殺しにするそうです」


 魔王とは――魔族の主神である『闇』を司る魔神により、種族全体の王として『魔王の啓示』を受けた者のことだ。

 

 『闇』の魔神は、己の魔力を分け与えることで『魔王の啓示』を示すが――数百年周期で誕生すると言われる魔王だが、同時期に複数の者が啓示を受けることは珍しいことではないのだ。


 しかも――『魔王の啓示』を受ける者は、必ず同じ血族の中から現れる。


 同じ血族の中から複数の者が『魔王の啓示』を受ける理由は――その血族が元々特別な力を持っているせいだとも、『闇』の魔神が血の争いを求めるためだとも言われているが……正確なところは解っていない。


 しかし、現に初代魔王から第三代魔王まで――複数の『魔王の啓示』を受けた同じ血族の者の中から、最後に生き残った者が『魔王』とされた。


 だから以降――『魔王の啓示』を受けた者は、最初に血族を皆殺しにするようになったのだ。


「ええ……『魔王の啓示』を受けた者が血族を殺すことは知っているわ」


 そう応えたのは――ローズだった。


 『勇者』の力は血縁とは無縁であり、その世代で最も『勇者』に相応しい者が継承する。

 ローズのリヒテンバーグ家は、その才能と弛まぬ努力によって、三代続けて勇者を輩出していた。


 歴代の勇者たちは、宿敵である魔王についての知識も代々伝承しており――現勇者であるローズは、過去の魔王たちが行った残酷な所業も、詳しく知っていた。


 根絶やしにはされてきた魔王の血族の歴史を知っているからこそ――ローズは、今もイルマが生きていることが嬉しかった。


「あなたのお母さんが、そのせいで殺されたのは悲しいことだけど……あなたが生きていてくれて、私は嬉しいわ」


 もう一人の魔王となれば、確かに危険な存在だが……血族の中の何人が『魔王の啓示』を受けると言うのか。


「いえ、違うんです……()()ローズさん。あなたは何か勘違いしています」


 イルマはゆっくりと首を横に振って、諦めたような顔をするが――


「ごめんなさい、あなたが何を言っているのか解らないし……私が勇者だってことに、いつから気づいていたの?」


 ローズたちはファーストネームだけを名乗っていたが……四人の名前から、勇者パーティーだと憶測された可能性はある。


 しかし、イルマたちの前で力を見せたのは、誘拐犯を撃退したときくらいで――勇者パーティーだと確証できるものなどない筈だ。


「私は魔王の血族だから……勇者パーティーのことは気になって、以前から詳しく調べていたんです」


 イルマは、魔王の血族であると言う理由だけで、勇者パーティーに討伐される可能性を考えていたのだ。


「でも……あなたが勇者だって確信したのは、それが理由じゃないんです……」


 イルマは悲しそうな目でローズを見ると――全身から、闇の魔力を放った。


 強大な力を感じさせる、妖しく揺らめく負のオーラ――それは、魔王の魔力そのものだった。


「嘘だろ……」


「ねえ、イルマさん……嘘だと言ってよ!」


 エストとエマの言葉に――イルマは首を振ると、涙を流す。


「『魔王の啓示』を受けた者は……勇者の存在を、感じることができるんですよ」


「……お嬢! 仕方ねえな!」


 そして、覚悟を決めたガゼルは――イルマを庇うように、カイエたちの前に立ち塞がった。



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