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94 血の色


 グレゴリーと別れた後、カイエたち五人は――レガルタの中心街を観光して回った。


 高層の建築物が連なるように立ち並び、建物同士を結ぶように、陸橋がそこかしこに造られている。

 狭い土地を有効利用するために――中心街の街並みは『立体的』に造られていた。


「レガルタの街を作った奴らの建築技術は、相当なものだな。下手な奴が作ってたら、落石事故とかバンバン起きそうだよな?」


 あれからカイエは――特にいつもと変わることなく、グレゴリーの事についても、自分から何か語ろうとはしなかった。


 だから何となく――ローズたちも、あえてその話題に触れなかったのだが……


「……うーん、もう! カイエ、いい加減に教えてよ! さっきグレゴリーと何を話していたのか、私にはさっぱり解らないんだもん!」


 我慢できなくなったエマが、露店で買った焼き菓子を両手に持ちながら頬を膨らませる。


「何だよ、エマ……いきなり、どうしたんだ?」


 カイエは悪戯っぽく笑うと――


「あ……」


 エマの手から焼き菓子を奪って、食べ掛けのところをガブリと噛み切る。


「ちょっと、カイエ……もう、仕方ないな」


 文句を言いながらも嬉しそうなエマを――ローズとエストがジト目で見ている。


「うん、なかなか旨いな……それで、グレゴリーとの話だっけ? あいつが隣の部屋に魔族を潜ませていたから、ちょっと牽制してやったんだよ」


 カイエは魔神の目で――魔族特有の魔力の色に気づいていた。


 壁越しでも感知できるほどの強い魔力だったが――それでも相手が本来の力を隠していたことくらい、カイエには解っていた。


「魔族って……だから、イルマさんに関係があるって思ったの?」


 魔族がイルマとガゼルを監視していることは、エマもカイエから聞いて知っている。


「まあ、そんなところだな……わざわざ魔族を隣の部屋に潜ませていたんだ。単なる偶然だなんて出来過ぎだろう?」


「だったら……グレゴリーが黒幕ってこと?」


「そんなに単純な話じゃないわよ……ねえ、カイエ?」


 アリスが訳知り顔で口を挟んでくる。


「グレゴリー自身は魔族じゃないし、経歴から考えても、真っ当な商人であることは間違いないわよ」


 暗殺者ギルドの情報網を使って、アリスはグレゴリーについて詳しく調べていた。


 ベクター家は何代も前から、レガルタで交易商を営んでいる家系だったが――グレゴリーは、その抜きん出た才能によって十代で独立し、僅か十年で本家など足元にも及ばない豪商となった。


「グレゴリーに出資した人たちも、レガルタや他の国の貴族だし……魔族との関係性を疑われるような噂も聞かないわ。でも……ああいう牙を隠して笑ってる獣ってタイプは、何かを企んでいたとしても、他人に悟られるような真似はしないでしょう?」


 カイエが一緒に居なければ――アリスたちも、グレゴリーを疑うことはなかっただろう。


「一応言っておくけどさ……隣の部屋にいたのは、最低でも上級魔族クラス――魔力を隠していたから、もっと強い力を持った奴だな」


 カイエは気楽な調子で言うが――アリスとエマは緊迫した顔になる。


「魔族だからって敵とは限らないって、カイエは言うけど……そのクラスの相手なら、魔王直属の魔将だった可能性もあるんじゃないの?」


 魔王を仕留めた勇者パーティーを、生き残った魔王軍の幹部たちが、快く思っている筈はないだろう。


「いや、そうかも知れないけどさ……だからって、仕掛けて来るとは限らないだろう? 警戒くらいはしておいた方が良いって思ったから、一応話しただけだよ」


 魔族たちがイルマやガゼルに危害を加えるつもりなら、仕掛けるタイミングは幾らでもあった筈だ。

 何しろ、あのお人好し過ぎるイルマが相手なのだから――


「なあ、カイエ……ところで、一つ疑問に思っていたんだが?」


 エストが考え込むような顔で言った。


「レガルタを最初の目的地に選んだのは――カイエだったな? つまり、カイエは最初から全部知っていたのか?」


 そもそも彼らの旅は、ローズがカイエに世界中の美しい場所を見せるために始めたことで――だから成り行き上、目的地を選ぶときは、彼の意見を優先していた。


 それでもカイエは、自分の意見を押し付けるようなことはなく、レガルタも幾つかの候補の中から選んだに過ぎなかったが――


「レガルタ周辺で魔族の動きがあるって話は、エレノアねえさんから聞いていたけどさ……」


 カイエはしれっと言う。

 エレノアには、人外の情報網を使って魔族の動きを探って貰うように依頼していた。


「レガルタに行きたいって言ったのは、俺だけじゃないし。ここに来ると決めた時点で、イルマやガゼルのことを知ってた訳じゃないからな」


 カイエが言っているのは嘘ではなく――イルマたちと出会ったのは半ば偶然だった。


「それにしても……どうして魔族がイルマさんを監視してるのか、それが解らないな。ガゼルさんが魔族の中で特別な地位にあるとか……そういう話なのか?」


「私は違うと思うけど……ねえ、カイエ。何か知ってるんでしょう?」


 ローズの褐色の目が――私は解っているんだからねと、意味ありげに煌めく。


「まあ、ローズの方が正解かな」


 ローズには適わないという感じで、カイエは苦笑する。


 突然、カイエは無詠唱で魔法を発動させる――『認識阻害アンチパシーヴ』。

 これで彼らの存在は、周囲の人から認識されなくなった。


「本人が知られたくないみたいだから、黙っていたけどさ……魔族の血が流れているのは、ガゼルだけじゃないんだ」


「え……それじゃ、イルマさんも……」


 驚きの視線に囲まれて――カイエは頷く。


「魔族の血が混じっているのは確かだな……それも、本人に自覚があるかは解らないが――あいつに流れているのは、そこら辺にいるような並みの魔族の血じゃない」


 ただの魔族と言うには――イルマが秘める魔力の色は、あまりにも鮮やかだった。



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