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93 策士


「イルマ・ヘルドマイア……ああ、勿論知っているさ。確か、チザンティン帝国の故グレミオ・バルガス侯爵の孫娘で、レガルタの中心街に屋敷がある筈だ」


 グレゴリーは記憶を探るようにして、そう言った。


「しかし……カイエはイルマ嬢の事を知っているのか? 君と接点があるようには思えないが……」


 不思議そうな顔のグレゴリーに――カイエは面白がるように笑う。


「そうだな、たまたま知り合っただけなんだけど……どういう奴か、グレゴリーなら知ってるかと思ってね」


「そうか……だが、今言った程度の事しか私も知らないんだ。期待にそぐわなかったのなら申し訳ない」


 グレゴリーは気さくな感じで微笑むが――


「そんなに構えるなって……別に俺は、喧嘩を売るつもりは無いから」


 カイエの漆黒の目が、揶揄からかうような光を帯びる。


「カイエ……君は何が言いたんだ?」


 グレゴリーが訝し気に目を細めると、


()()()()()が何を考えているかは知らないけどさ――手出しさえしなければ、俺から仕掛ける気は無いよ」


 カイエはグレゴリーの背後にある壁を見た。


 その瞬間――グレゴリーの瞳の奥に、一瞬だけ刃が煌めく。


「――カイエ!」


 アリスたちも空気の変化に気づいて身構える。


「だから、喧嘩をするつもりは無いって。取引き相手としてなら、グレゴリーは申し分ない奴だからな」


 カイエは苦笑すると、再びグレゴリーを見る。


「そういう訳で……グレゴリー。これからも、よろしく頼むよ」


「ああ……私としても、君たちとは良好な関係を築いていきたいと思っているよ」


 両手を組んで顎を上に乗せて――グレゴリーはしたたかに笑った。


※ ※ ※ ※


 カイエたちが帰った後――

 グレゴリーが残る貴賓室に、一人の男が姿を現わした。


 灰色の髪と金色の瞳、そして、魔族特有の尖った耳の二十代後半――身長はグレゴリーと同じくらい高く、鍛え上げられた身体は、引き絞った弓のようにしなやかだ。


 シンプルなダークカラーのスーツを着ているが――その圧倒的な存在感は、グレゴリーすら霞んで見えるほどだった。


「ナイジェル……貴方がいることに、カイエは気づいていましたよ」


 苦く笑うグレゴリーに、灰色の髪の男――ナイジェル・スタットは支配者然とした態度で、足を組んで椅子に座ると、詰まらなそうな顔で応える。


「当然だろう……()()魔神なのだからな」


 グレゴリーは驚きもせずに、ナイジェルに問い掛ける。


「なるほど……そういう事ですか。ところで、彼の印象はどうでした?」


「……印象だと? 貴様という男は……俺と奴らを鉢合わせにして、何を企んでいる?」


 ナイジェルの金色の瞳に睨まれても――グレゴリーは余裕の笑みで応じた。


「企んでいる? 人聞きが悪いですね……私はただ、勇者と魔将筆頭という、かつての宿敵同士が――魔王亡き後に、世界をどのように導いていくのか、興味があっただけですよ。

 カイエ・ラクシエルという存在についても知ってはいましたが――まさか魔神だとは、思いもいませんでしたよ」


 惚けた顔でグレゴリーは言うが――ナイジェルは、全く信用しなかった。


 グレゴリー・ベクターという男が、何を考えて魔族に協力しているのか――人と魔族の共存共栄のためなどと、ふざけた理由を言っているが……その本心は、ナイジェルにも計り知れなかった。


「貴様はわざと言っているのだろうが……何度も言わせるな。魔将筆頭などと、くだらぬ肩書で呼ぶのは止めろ。俺は一度たりとも、あの無能な魔王の配下になった覚えはない」


 魔王に匹敵する力を持つと恐れられた最強の魔将ナイジェル・スタットは、魔王軍の中で常に異端であり、誰にも従わなかった。

 魔将筆頭の地位も、魔王が一方的に与えたモノであり……ナイジェルは無視して、自分が望むままに世界を巡っていたのだ。


「魔王だ、勇者だなどと……実にくだらない。本当に世界を支配しているのは、そんな小さな存在ではないだろう」


「しかし……魔王が殺された今になって、貴方も魔王を利用すべきだったと気づいたのでしょう?」


 したり顔をするグレゴリーに、


「貴様……」


 ナイジェルは本気の殺意を向けた。

 全身から噴き出す圧倒的な魔力――しかし、グレゴリーは笑顔で受け流す。


「私を殺しても、何の得も無いどころか……利用できる貴重な駒を失うことになります。ナイジェル……貴方は、わざわざ不利益になる事をする方ではありませんよね?」


「……フッ、フフ……ハハハハハ!!!」


 突然、ナイジェルは豪快に笑い出した。


「グレゴリー……貴様は、本当に面白い男だな!!!」


 指先一つ動かすだけで、グレゴリーの命など簡単に奪うことができるというのに――この男は露ほども、ナイジェルのことを恐れていないのだ。


 何を考えているのか、掴みどころのない男だが――本人が言う通りに、利用価値がある事だけは確かだった。


「良いだろう……貴様の計略に乗ってやるから、せいぜい、俺のことを楽しませてくれ!」


 そう言うとナイジェルは――闇に解けるようにして、一瞬で姿を掻き消した。


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