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84 自由都市レガルタ


「こいつは……なかなか面白そうな街だな」


 白銀の船の甲板から――カイエは、前方の都市を眺める。


 大陸南西部の小さな離島にある自由都市国家レガルタは――島全体を埋め尽くすように築かれた建物の集合体だった。


 島の周囲を囲むように巨大な防波堤が造られており、その内側に築かれた港には、国際色豊かな無数の船が停泊している。


「そうでしょう……私のお勧めってだけはあるわよね? 船旅をするなら、まずはここを押さえなくちゃ!」


 アリスがフンと鼻を鳴らして自慢げに言う。


 白銀の船の最初の停泊地であるレガルタは――大陸沿岸航路が交差するという地の利を生かして発展した。


 大国のように王侯貴族の監視の目が厳しい訳でもなく、税金も安かったため、自然と物が集まり、それを目当てに人が集まった。


 さらには、商才のあった初代レガルタ太守が、集客と実益のためにカジノを次々と建設し、繁華街にも公金を惜しげもなく注ぎ込んだから――


 今ではレガルタは、世界でも有数の経済都市に発展していた。


「へえー……こんなデカイ船でも、停泊できるスベースがあるんだな」


 白銀の船は港湾管理官の小型挺に先導されながら、ぐるりと島の周囲を回るようにして、西の外れの埠頭まで移動する。

 船の停泊場所は、レガルタの役人が全て管理しているのだ。


 管理官は白銀の船を最初に見たとき――金属製の巨大な船体に目を丸くしていた。

 しかし、そこはプロというところで、手続きを終えて規定の停泊料を支払うと、彼らは事務的に案内を始めた。


 中心街から離れると、海から見える都市の景色も急に色あせていく。

 港に停泊している船の数も徐々に減っていき、周囲には旧式の帆船が何隻か停泊しているだけで、意外なほど閑散としていた。


「西側は旧市街地で、中心街からかなり離れているから人気がないのよ」


 アリスが当然という感じで説明する。


「貨物だって街中を馬車で運ぶと高くつくから、普通は割りが合わないんだけど。私たちは自分たちで運べるから、問題ないわよね」


 指定の桟橋まで白銀の船を案内すると――白い制服姿の管理官は小型艇から降りて、説明を始めた。


「停泊中の船の管理も、我々管理官が行っているが……積み荷を盗まれることが心配なら、倉庫に預けてくれ。検品の上、規定の保管税を支払えば、レガルタの警備兵が荷の安全は保証する」


 レガルタにとって交易船は富の源であり、その安全は国を上げて守るといったところだが――逆に自己責任で良ければ、何を持ち込もうと感知しないというスタンスだった。


「特に預けるようなものはないから、その必要は無いわね」


 アリスはしれっと言うが――白銀の船の中には、彼女が持ち込んだ大量の品が収められている。


 しかし、別に保管税をケチりたくて嘘を言っているのではなく――警備して貰う必要がないのと、港の倉庫では彼女の要求を満たせないから頼まなかったのだ。


「そうか……ならば、好きにしてくれて構わない。ただし、積み荷が盗難にあったと被害を届けても、我々は一切関知しないから、そのつもりでいてくれ」


「それは良いんだけどさ……船を管理するって言ってたけど、停泊中に俺たちの船に乗り込んだりするのか?」


 カイエの質問に――管理官は、白銀の船を見上げながら応える。


「ああ、立ち入って欲しくないという訳か……我々は埠頭の警備をするだけで、基本的には停泊している船に乗りはしない。しかし、明らかに不審者な者が船にいた場合は別で、その者を拿捕するために乗り込むこともある」


「なるほどね。だったら、もしそんな奴が居たとしても、無視してくれた方が良いかな……ちょっとした警備用の魔法を仕掛けてあるから、下手に乗り込むと危ないんだよ」


「……解った。ここの誓約書にサインをすれば、我々は貴方たちの船には一切関与しない」


 管理官はカイエの言葉を信じたのではなく――船の中には、他人に見られたくないものがあるのだろうと理解した。


 それが何であろうと――自分たちの管理外ならば黙認する。そういうことだ。


「これだけは言っておくが……レガルタの法に触れれば、当然ながら外国人であろうとレガルタ法で罰せられる。正当防衛と立証できない殺人や暴行、禁輸品を持ち込んだと()()した場合など……くれぐれも注意してくれ」


「ああ、よく解ったよ。ところで……レガルタでは、管理官に礼をするのは法律違反なのか?」


「贈賄は重罪だが……社交儀礼程度ならば問題はない」


 しれっと言う管理官に――カイエは金貨を一枚、弾いて渡す。


 この世界でも金貨の価値はそれなりのモノで……一枚あれば、市民一人の一月の生活費ぐらい十分に賄える額だった。


 驚いた顔をする管理官に――

 

「何か頼むつもりは無いから……単なる礼だよ。まあ、もし気にするなら……俺たちの船に変な奴が近づいたら、乗り込む前に捕まえてくれると助かるかな」


「なるほど……管理官の職務として心掛けよう」


 それだけ言うと――管理官は小型艇に戻って、埠頭から離れて行った。


「あら……手慣れたモノじゃない?」


 カイエのやり取りを見ていたアリスが、面白がるように言う。


「まあな、このくらいは……それより、手続きも済んだことだし。これから、どうする?」


「私はご飯が食べたいな! 色んな国の美味しい料理が食べられるから、レガルタって好きなんだよね!」


 手続きの事など全然興味がないといった感じで、少し離れた場所で見ていたエマだったが――こういう話になると、真っ先に参加してきた。


「私も……カイエと一緒に、素敵な店でお茶がしたいわ!」


 ローズもナチュラルに話に加わる。


「あんたたちねえ……私は幾つか用事があるから、それを先に済ませたいわね。暗殺者ギルドにも顔を出して、情報交換をしておきたいし」


 ちなみに、この世界の『暗殺者ギルド』とは――殺しを専門に行う組織ではない。

 技術として暗殺術は身に付けているが、表だって殺しを請け負うことはなく、諜報活動や工作が主な仕事だった。


「私も魔術士協会に行って、魔族の動きについて情報を集めて来るかな」


 『伝言メッセージ』の魔法を使って、すでに各国の魔術士協会に依頼してあるが――エストは実際に生の情報を確かめたかった。


「なら、俺とローズとエマの三人は冒険者ギルドで情報収集をしてから、後でみんなで合流するってのでどうだよ? もし時間が余るようだったら、俺たちだけで先にお茶でもすれば良いし」


 今は午後二時過ぎであり、夕食までにはまだ時間がある。

 だから、こちらも先にやるべきことを済ませておこうとカイエが提案すると――


「うん、それで良いよ……でも途中で屋台に寄って、買い食いするくらいは良いよね?」


「私も勿論良いわよ! 冒険者ギルドまで、レガルタの街を案内してあげるわ!」


 それはそれで楽しいようで――ローズとエマはアッサリと承諾した。



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