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83 白銀の船


「なかなか面白かったな。勇者ローズ、賢者エスト……君たちの本気を見せて貰ったよ」


 バチバチと音を立てるような視線の火花を散らして――ジャグリーン対ローズとエストという一幕が繰り広げられるかと思われたが……


 エマまで参戦しようと駆け付けてきた状況に、ジャグリーンは大人の態度で負けを認めた。


「何度も言うようだが……私は君たちと競うつもりは無い。だから……一晩くらい、カイエを貸してくれても良いだろう?」


「「「そんなの駄目に決まっているでしょ(だろ)!!!」」」


 全身全霊で抗議する三人に――ジャグリーンは意味ありげな笑みを浮かべると……


「だったら、君たちも女として……男という生き物のことを、もっと勉強した方が良い。男というモノはだな……欲望の塊なのだから、その捌け口になってやらないとな……」


「おい、ジャグリーン! おまえは何を言って……」


 爆弾発言に、カイエは慌てて口を挟むが――


「「「え……」」」


 顔を真っ赤にしたローズ、エスト、エマの三人がまじまじと見ていることに気づいて――どうしたものかと、バツが悪そうに頬を掻いていると、


「わ、私は……カイエが、そうしたいなら……」


「わ、私だって……カイエなら……」


「私はそういうの、よく解らないけど……カイエなら……良いよ」


 さらに外堀が埋められて――完全に逃げ場を失ってしまう。


「あのなあ、おまえらまで……俺は――」


 否定するのは簡単だったが――それが正解かどうかは、疑問が残るところだ。


 そんな風に、カイエが対応を決めあぐねていると――


「へえー……さすがは年季が入っている年増が言う事は違うわね」


 いつの間にかやって来たアリスが、ジャグリーンの前に立ち塞がっていた。

 アリスなら何かフォローしてくれるのではないかと、カイエは思わず期待してしまったが――


「でも、勘違いするんじゃないわよ……カイエは○○○○が入った□□□だから、そんなストレートな欲望を剥き出しにしたりしないわ!」


 公衆の面前で堂々と言い放たれて――カイエは唖然とする。


「おい……アリス! この際だから、はっきり言っておくけど……俺は○○○○でも、□□□でも無いからな!」


 カイエの心からの叫びに――何故か周りの兵士と商人たちが、優しい視線を向けて来る。


「おい……何の冗談だよ?」


 ふつふつと肩を震わせながら……カイエの目が座る。

 まるで何者であろうと切り伏せると決めた復讐者のごとく――漆黒の瞳は闇の色に染まっていたが――


「カイエ……私は、そんなカイエも大好きだから」


「そうだな。何て言うか……愛おしく思う……」


「うん、そうだね……カイエって……意外と可愛いよね!」


 三人に抱きしめられて――カイエは怒りの矛先を、完全に見失ってしまった。


「なるほどな……アリス。君の言うことも、一理あるかも知れないな」


「当然でしょ……カイエのことは、あんたなんかよりも何倍も解ってるんだから」


 ジャグリーンに対抗するように、アリスは勝ち誇って言い放つが――さすがに、そろそろ止めてくれよと、カイエは思っていた。


※ ※ ※ ※


 それから――二日後。

 白銀の船は、大陸沿岸の航路から外れて、外洋を西へ進んでいた。


 シャルトの港を出港してからの二日間――カイエたちの航海は順調過ぎるほど順調だった。

 全長百八十メートルの巨大な船は、港を出港して小一時間ほど経つと――水上に浮かび上がった。


 『浮遊フロート』の魔法が付与された船体は――波の影響など一切受けることなく、海上を突き進む。


 カイエが直接魔力を付与するのに比べたら、決して高速ではなかったが……他の帆船に比べれば倍以上の速度で、しかも波の揺れなど気にすることも無く、白銀の船は突き進む。


「うん……悪くはないわね? 欲を言えば……船上の気温も制御できないものかしら?」


 露出部分が多い煽情的なビキニ姿で――アリスは白いガーデンチェアに寝そべって、アンニュイ表情をしている。


 船体の一番前には――アリスのリクエストで作って貰ったプールがあり、彼女はその傍らで冷たいカクテルで喉を潤していた。


 その少し後方には――聖王国の畑から土を運んで作った果樹園と菜園が広がっており……


「これこそ……私が望んでいたものだよ。新鮮な野菜と果物を……海の上でも食べられるなんて、なんて素晴らしいんだ!」


 満足そうな笑みを浮かべるエストの姿があり――さらに、その後方には……薔薇の生け垣に囲まれた庭園が造られていた。


「カイエ、私……凄く嬉しいわ! 海の上で……こうして、カイエと一緒にお散歩ができるなんて……」


 感激して目を潤ませるローズに――カイエは苦笑する。


「まあ、このくらいなら、幾らでも用意してやるけど。そんなことよりも……」


 シャルトでのジャグリーンとの一幕を――カイエは今でも少し根に持っていた。

 あそこまでの精神的なダメージを感じたのは、彼も初めての経験だった。


「何よ、もしかして……カイエは、私に文句が言いたいの?」


 揶揄からかうように笑うアリスに――カイエは呆れた顔をする。


「いや、もう良いけどさ……次は無しだからな?」


 以前のカイエならば――他人に何を言われようと、実力で黙らせれば終わりだったが……

 ローズたち四人には、当然そんな手段は通用しない。


「……あ、カイエだ! ねえ、そろそろ、私の相手をしてよ!」


 そんなカイエの元に――ニコニコ笑いながら、エマがやって来る。


「一人でトレーニングしてても、詰まらないから。ねえ、カイエ! 一緒にやろうよ!」


 エマがカイエを連れて行ったのは……一つ下の階層にある鍛錬室。エマのリクエストで造ったものだった。


 空間拡張魔法を使ってはいるが――元々広い場所を使っているおかげで、その面積は広大なものだ。


「いっくよー! カイエ、私は全力を出すからね!」


 そんな風に――彼女たちのリクエストの全てを叶えたことが、船が巨大になった主な原因ではあったが……


 それ以外にも――カイエは趣味的な理由から、白銀の船に手を加えていた。



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