78 過去編1:カイエ
すみません、別の作品のような雰囲気かも知れませんが……カイエの過去編です。
短めに纏めるつもりですので、どうかお付き合い下さい。
大陸東部最大の都市アウグスビーナに――二万を超える魔族の軍勢が押し寄せていた。
魔獣を駆る重装騎兵を先頭に、彼らが使役する怪物の群れが隊列を組む。その後方には上級魔族たちと、彼らの直属である魔術士部隊が控えていた。
「『人族』という種こそ――我らが崇める魔神様に仇なす存在だ! この地上から……全ての『人族』を根絶やしにせよ!」
部隊を構成する者たちは、確かに魔族ではあったが――その全身から溢れ出る魔力は、定命である彼らには決して生み出せないモノ……彼らが崇める『魔神』から借り受けた力だった。
「良いか、解っているだろうが……出来るだけ殺すなよ? 『権能』持ちだけ狙い撃ちにすれば、奴らの動きは止まるからな!」
そんな魔族の軍勢に襲い掛かったのは――人族と魔族が混在する集団だった。
彼らは金属製の筒状の武器――『魔銃』から銀色の弾丸を放ち、相手の射程距離外から魔族を狙い撃ちにする。
『魔銃』――それは人外のモノを殺すためだけに特化した、失われた魔道技術による武器だった。
銀色の弾丸に撃たれた魔族たちは――『魔神』の魔力を消失させて、大地に崩れ落ちる。
「貴様ら……何をやっておる! 魔神様より与えられた偉大なる力を以てすれば、烏合の衆を滅ぼすことなど容易かろうがだろ!」
魔族の軍勢を率いる魔将は――上空に巨大な魔法陣を出現させた。
魔神の『権能』によって増幅された魔力が――最上位魔法の術式を一瞬で創り出す。
「まあ、おまえは間違っちゃいないけどさ……やることが遅いんだよ?」
突然出現した黒髪の少年は――銀色の剣を魔将の心臓に突き立てた。
銀色の弾丸と同じ素材で造られた剣が――『権能』を食らい尽くす――
前髪が少し長く、魔族特有の尖った耳の少年は――余裕たっぷりの笑みを浮かべていた。
「き、貴様は……『魔神殺し』……」
「俺は大げさな仇名だと思うけど……勝手に呼んでるのは、おまえたちの方だからな?」
黒髪の少年――カイエはそう言うと、他の魔族たちが反撃を開始するよりも早く、次の標的に向かって瞬間移動した。
カイエが率いる『神と魔神に喧嘩を売る者たち』は――狡猾な刃を手にして、世界の理と戦っていた。
※ ※ ※ ※
人族の魔術士である父親と、魔族の戦士の母親の間に生まれたカイエは――生まれた瞬間から『異端』だった。
互いに憎み合う種族の両親が、暴力的な手段ではなく子を成した事自体が、本来であればあり得ない訳で――二人はそれによって、流浪者となる。
二つの種族から忌み嫌われたカイエは――姓を名乗ることを許されなかったが、それは些細なことだった。
カイエの両親は、彼が十歳になる前に、それぞれ同族によって殺されたが……生きるための術と、奇跡とも言えるほどの才能を彼に残した。
神の化身と魔神が普通に存在していた時代――それは現在よりも遥かに神々の影響が強く……『権能』を与えられることの代償として、人族と魔族は彼らの支配を受けていた。
しかし――人族でも魔族でもないカイエは、神々の支配とは無縁だった。
強かに生きることを強制されたカイエは――人族と魔族の自尊心を利用しながら成長し、十五歳になる頃には『権能』などに頼らなくても、『最強』と呼ばれるだけの実力を手に入れていた。
それでも――カイエは力に奢ることなく、もっと別のモノに興味を懐いていた。
「神の化身とか、魔神って……結局のところ、何だと思う? 人族と魔族の創造主とか言われてるけどさ……実際に調べてみると、色々と矛盾する点があるんだよね?」
そんなカイエの言葉に、耳を傾ける者はいなかったが――魔神エレノアとの邂逅が道を開いた。
「へえ……あんたは、その考えに自分で辿り着いたの?」
カイエと同じ黒髪の魔神は――面白がるように笑った。
「だったら……あんたの考えが正しいかどうか、世界中を調べてみれば良いわ……もっとも、それが可能であればだけどね?」
そんなことは不可能だとエレノアは嘲笑ったが――
カイエは人族では決して辿り着けないと言われた場所まで足を運んで……一つの答えを見出した。
「なるほどね……魔神エレノア、そういう事かよ?」
世界の理を解き明かして――勝ち誇るように笑うカイエに、エレノアは白旗を上げる。
「そこまで解っているなら……もう止める理由は無いけど。あんたは……どこまで本気でやるつもりなのよ?」
呆れた顔をする彼女に――カイエは、揶揄うような笑みを浮かべた。
「勿論……徹底的にやるさ。だから、エレノア……おまえも、俺に協力しろよ?」
魔神である自分に、何処までも不遜な態度を取るカイエを――エレノアは気に入ってしまった。
「良いわ……だったら、暇つぶし程度には付き合ってあげるわよ?」
などと言いながらも――彼女は神の化身と魔神の盟約に触れるギリギリのラインまで、カイエに協力したのだが――
その結末は……あまりにも悲惨なものだった。




