75 女子会なのか?
アルペリオ大迷宮の隣りに、カイエは黒鉄の塔を出現させて――アルジャルスとエレノアを、最上階のダイニングキッチンへと招待した。
全面ガラス張りの広い円形の部屋は――まるで天空の高級食堂のようで、神の化身と魔神という人外の賓客も、三百六十度に広がる景色を楽しんでいた。
「なんか……懐かしいわ。この塔も、壊されずに残っていたのね」
カイエが眠りに就く千年以上前に――エレノアは何度か、黒鉄の塔を訪れていた。
「ああ、収納庫に入れっぱなしだったからさ……奴らと戦いを始めてからは、こんなものを使ってる余裕はなかったよ」
カイエが黒鉄の塔を造ったのは、『混沌の魔力』を手に入れてから、魔神として完全に覚醒するまでの期間だった。
新たな力を制御する鍛錬の一環として――カイエは様々な物を作っていた。
「どうぞ……まずは食前酒です」
エストがテーブルに、クリスタルのグラスに入ったピンク色の飲み物を運んで来る。
「それでは、改めまして……」
エストがグラスを掲げると、皆もそれに倣う。
「神聖竜様、先日は私たちのためにご尽力頂き、ありがとうこざいました。そして、エレノアさん……わ、私たちの大切な……カ、カイエの姉君として………今後とも、よろしくお願いします……」
途中から急に恥ずかしくなったのか、赤面するエスト声は小さくなり――
「それでは……乾杯!」
最後はローズがフォローして、宴は始まった。
ピンク色の飲み物を口に含むと――よく冷えた甘い液体はシュワッと弾けて、アルジャルスとエレノアは思わず顔を見合わせる。
「この飲み物は……何という旨さだ!」
「ええ……そうね! カイエ、これってどうやって作ったの?」
「勿論、魔法で。液体を弾けさせる方法は俺が教えたけど……実際に作ったのはエストだからな。レシピが知りたいなら教えて貰うけど……エレノアねえさんじゃ、多分作れないと思うよ?」
魔法で食べ物や飲み物を創造することはできるが――旨いかどうかは別の話で、生来の魔神であるエレノアは、料理などの女子力に欠けていた。
「まあ、これくらいで驚くなよ? うちのエストと……みんなの料理は、ちょっとしたモノだからな」
そう言っている間にも――
「こちらは……前菜になります」
野菜のテリーヌと小エビのカクテルサラダを運んで来たのは――ローズとエマだった。
今日ばかりは、彼女たちもホスト役として頑張っており……テリーヌはローズが、カクテルサラダの方はエマが、エストから特訓を受けて作ったものだった。
完璧主義のエスト先生は、二人に数十回のダメ出しをした上で――ようやく合格点を出した。
「ほう、どれどれ……うむ。なかなか旨いではないか」
最上の食材と、エストのレシピおかげではあるが……アルジャルスは彼女たちの努力を見抜いて、心の中で褒め湛える。
その後も――シャルトの海の幸やカナンの牛肉、王都名産の鳥など、各地の新鮮な食材を使った料理は、どれも美味しかった。
アルジャルスとエレノアは料理の味と、彼女たちの心を込めた饗に満足した。
「本当にカイエは無茶ばかりして……ほとほと困ったわよ! これは魔神になるずっと前の話なんだけど、魔族側を説得するのに、二万の軍勢に一人で乗り込んで……」
すっかり寛ぎモードになって――六人の女子はお喋りに花を咲かせていた。
呆れた顔でカイエの昔話をするエレノアに――『ああ、それ良く解るわ!』と同意するエストとアリスに対して、ローズとエマは、英雄譚のような話の内容に聞き入っている。
そしてカイエはというと――すっかり話の肴にされて、面白くなさそうな顔をしていた。
「まあ……この面子では仕方がなかろう?」
アルジャルスが同情するように囁くが――
「そもそも……なんでエレノアねえさんが、おまえのところに居るんだよ?」
カイエは不機嫌なまま質問する。
「何だ……解っておらぬのか? エレノアはおまえが目覚めたことを……いや、生きていたことを知って、ずっと探しておったのだぞ?」
『混沌の魔力』に自ら飲み込まれたカイエは――ずっと死んだと思われていた。
それが千年以上も経ってから、突然、実は生きていたと――魂が繋っているエレノアは、カイエが目覚めた瞬間に気づいたのだ。
彼女はすぐにでもカイエの居場所を探したかったが……とある事情から、動くことができなかった。
だから仕方なく、人外の情報網を通じて消息を探していたところ――アルジャルスとカイエが再会したことを知ったのだ。
アルジャルスと会って聞いた内容から、カイエが近いうちに再び彼女に会いに来るだろうと考えたエレノアは――カイエが来たら『伝言』で教えてくれるように頼んだ。
そして今日――カイエ来訪の知らせを受けて、アルペリオ大迷宮に転移で現れたという寸法だった。
「エレノアも、あんな態度を取っておるがな……『混沌の魔力』に飲み込まれて、おまえが死んだと思ったときは――」
「アルジャルス……全部聞こえているわよ!」
エレノアはいつの間にか――意地の悪い顔で二人を見ていた。
「それ以上、余計なことを喋ったら……アルジャルス、解っているわよね?」
「も、勿論だとも! カイエ、我は何も知らぬからな! ハハハ……」
慌てまくる神聖竜に――ローズたちは『あれ……もしかして、エレノアさんてメチャクチャ怖いの?』と、恐怖の大王を見るような顔で、彼女の様子を伺う。
「……コッ、コホン! もう、アルジャルスったら……冗談ばっかり!」
ニッコリ笑顔になってエレノアはフォローするが……凍りついた空気を元に戻すのは難しかった。
それでも――やはり、エレノアは一枚上手だった。
「そうだ、カイエ……あんたは料理もできたわよね? せっかくの機会だから、あんたが作ったものも食べたいわ!」
「え……なんで俺が……」
カイエは言い掛けたところで――無言の圧力に気づく。
(カイエ……あんたがフォローしなさいよ。拒否するなんて……絶対に許さないから!)
エレノアに物凄い顔で睨まれて――カイエは従うしかなかった。
「「「え……カイエが料理するの?」」」
ローズ、エスト、エマの三人が乙女モードで反応し――アリスも、興味津々という顔でキッチンに向かうカイエを眺めている。
再び柔らかくなった空気に――
(ふっ……よっしゃあ、勝った!)
エレノアは小さくガッツポーズを取った。
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