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74 過去の結末


 なし崩し的に、恋愛話に摺り替わってしまったが――エストはまだ、カイエに大事なことを訊いていなかった。


「こんなことを言ったら……空気が読めない人間だと思われるかも知れない。それでも……私は訊きたいんだ。カイエは、人と魔族を守ることができたのか?」


 エストは覚悟を決めて――その質問をした。


 カイエは彼らを神と魔神から開放するために、自ら魔神になったのだが――その結果について、エレノアは何も語っていなかった。


「ああ、そのことか……」


 カイエはニヤリと不敵に笑うと――


「まあ、結局のところ――俺はみんなを開放するとか散々大きなことを言ったくせに、奴らに勝てなかった間抜けってことだな?」


 まるで冗談でも言うかのように、気楽な感じで言った。


「そうか……」


 そんな風に笑うカイエの心情を思いやるように、エストは愁いを帯びた瞳で彼を見つめるが――


「また、そんな言い方をして……みんなが誤解するでしょう?」


 エレノアが呆れた顔で口を挟む。


「カイエは人を操っていた神の化身も、魔族を支配していた魔神も、全部一人で倒したじゃないの」


「……だから何だって言うんだよ?」


 カイエは皮肉な笑みを浮かべると――


「アウグスビーナもハインガルドも……人と魔族の都市の大半が、奴らに破壊されたんだ。これじゃ……勝ったとは言えない。それどころか……俺が世界が壊したようなものだろう?」


 『混沌の魔力』を手に入れたカイエは――かつて世界に君臨していた神の化身と魔神に戦いを挑んだ。

 その結果、カイエは彼らの肉体を滅ぼして世界から追放したが――彼らは消滅する前に、世界を業火で焼き払ったのだ。


 カイエは『混沌の魔力』を限界を超えて解き放ち、業火を全て飲み込もうとしたが……無論そんなことができる筈もなく、彼が救うことが出来たのは世界の一部に過ぎなかった。


 そして――力を使い果たしたカイエは、自らも『混沌の魔力』に飲み込まれて、永い眠りに就くことになった。


「それは違うって……何度も言った筈よね?」


 先ほどまでの何処か茶化すような表情を掻き消して――エレノアはカイエを睨んでいた。


「カイエが何もしなくても――神の化身と魔神たちは人と魔族を操って、互いを滅ぼそうとしていたわ。むしろ、カイエが彼らを解放しようとしたことで、戦いの進行を遅らせることができたじゃない」


 エレノアが言ったことは事実であり――かつての時代は神と魔神の影響が今よりも遥かに強く、人と魔族は、種族全体が互いを滅ぼそうと争っていた。

 神と魔神の代理戦争は――世界を終焉へと向かわせていたのだ。


「私には……自分の『子供たち』を守ることしかできなかったわ」


 魔神であるエレノアには――かつて彼女を崇める魔族の氏族がいた。


「ああ……それは我も同じだ。あのとき、カイエと共に戦うことができなかったことを……今でも申し訳ないと思っておるぞ」


 光の神の化身であるアルジャルスも――当時は信徒を守るだけで精一杯だった。


「それでも……俺が最後の引き金を引いたことは、事実だからさ。あ、でも……誤解するなよ? 俺は負けを認めた上で、どうやったら次は勝てるかって考えてるからな」


 カイエは二人を揶揄からかうように、笑みを浮かべる。


 世界は今も存在しており――カイエは再び目覚めたのだ。

 だから……これからだって、自分が思ったように出来ることをやるだけだ。


「……カイエ、大丈夫だよ。大丈夫だから……私は、ずっと隣にいるからね」


 カイエの胸の中で、ローズが優しく語り掛ける。


「私も、どんなことがあろうと……カイエの想いに寄り添わせてくれ」


 エストはゆっくり近づくと――ローズごとカイエを抱きしめた。


 そしてエマは――


「私だって……みんなと一緒だからね!」


 目を潤ませながら、思いきりジャンプして飛び込んで来る。


「エマ、ちょっと痛いじゃない!」


「だって、だって……私も一緒が良いんだもん!」


 それでも構わず抱きしめてくるエマに、


「もう……エマったら……」


 ローズとエストは互いに顔を見合わせて、思わず笑ってしまう。


 そんな風になすがままにされながら――カイエが少し困ったような顔をしていると、


「そんな顔をしたって無駄だからね? カイエが何て文句を言おうが――私は絶対に逃がさないわよ」


 アリスの勝ち誇るような笑みが――止め(トドメ)を刺した。


「ああ……そうだな。みんな……ありがとう」


 カイエは明け透けに――本当に嬉しそうに笑った。


「あれ……」


 その不意打ちに――アリスは瞳から、温かい涙が溢れ出す。


「カイエ……」


 顔を真っ赤にして、愛おしそうにカイエを見る。


 ローズも、エストも、エマも――それぞれの想いを込めて、カイエを見つめながら……ギューッと抱きしめた。


「はいはい……ごちそうさま。さすがの私も、お腹いっぱいって感じだわ!」


 エレノアがクスクスと笑いながら近づいてきた。


「まさかカイエが、こんな顔をするなんてね……」


 揶揄からかうような口調だったが――彼女も何処か嬉しそうだった。 


「いつも素直じゃない弟だけど……一緒にいてあげてくれる? あなたたちが一緒なら、こいつも、あんまり()()はしないでしょうから」


「……」


 エレノアの言葉に、思わず四人は沈黙する――自分の行動を思い出して、強張こわばった笑みを浮かべるローズとエマ……そんな二人を、エストとアリスはジト目で見ていた。


「ま、まあ……話はこれくらいにして! さっきアルジャルスと宴がどうとか言ってたわよね?」


 空気を読んだエレノアが、すかさず話を逸らしたので――ローズとエマは、ほっと胸を撫で下ろす。


「あ、ああ……そうだったな! それでは我は、再び王都まで行くことになるのか?」


 まさかのアルジャルスまで話を合わせたので――『魔神と神の化身に気を遣わせるこいつらって……』とカイエは秘かに苦笑していた。


「ああ、その話ですが……わざわざ遠方まで神聖竜様をお呼び立てするのも、申し訳ないかと思いまして――」


 エストが襟を直すような感じで、かしこまって説明するが――


(これだけ我に見せつけておいて、今さら畏まられてものう……)


 そうアルジャルスは思いながらも――やはり空気を読んで黙っていた。


「――地下迷宮ダンジョンの外に、宴の場を用意させて頂くことにしました。僭越ながら、私たちの作る料理を、召し上がって頂けませんでしょうか?」


「ほう……なるほど、そういう趣向か。解った、馳走になろうではないか!」


 アルジャルスは面白がるように笑うと――彼女の全身が一瞬光って、次の瞬間には、白い髪と金色の瞳の美女の姿になっていた。


「おまえたちと食事をするなら、この姿の方が都合が良かろう?」


「はい、ありがとうございます……エレノアさんも一緒に如何ですか?」


 突然の誘いに――『え……マジかよ?』とカイエは厭そうな顔をするが、女子チームは全員、当然という感じで受け止めている。


「あら、ありがとう……勿論、同席させて貰うわよ!」


 そんなカイエの反応を楽しむように――エレノアは嗜虐的(サディスティック)な笑みを浮かべていた。


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