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73 想いの行方


「私が魂の一部をあげたんだから――カイエに魔神の因子を埋め込んだ事には違いないけど。分け与えたのは、ほんの一欠片……私の魂の何万分の一よ? そのくらいで魔神になれたら、世界中に魔神が溢れちゃうわよ」


 エレノアは気楽な調子で話を続ける。


「しかも、カイエって……元々持っていた力も失くしてたのよね」


 神と魔神が王たちに与えた武器は、魂を滅ぼす力を持っており――カイエは肉体だけではなく、魔力の源である精神体すらボロボロの状態だった。


 自分が救おうとした者たちに裏切られ、殺された上に、自らの力も失ったのだから……普通なら、再び与えられた命にしがみついて、余生のように過ごしても仕方ないだろう。


 しかし――カイエは、そこから這い上がった。


 どうすれば力を取り戻せるか……新たな力を得るには、どうしたら良いか……カイエは自らを研究して、あらゆる事を試した。


 魔力を完全に失った身体は、普通の方法では力を取り戻すことなど出来なかったが――魔神の因子を与えられた事により、半ば不死に近い再生能力だけは持っていた。


 だから――自分の身体を実験動物のように使って、非人道的な実験を行ったのだ。


 精神が崩壊するほどの苦痛を伴う実験を、何百、何千と繰り返して……ついにカイエは――エレノアから与えられた魔神の因子に、強制的に『混沌の魔力』を取り込むという方法に辿り着いた。


 そして――カイエは『混沌』を司る魔神になった。


 勿論、この方法に辿り着いてからも――カイエが『混沌の魔力』を支配して魔神になるまでには、さらに数えきれないほどの試練があったのだが……それでも彼は迷うことなく、魔神への道を突き進んだ。


「どうして……カイエはそこまでして、力を取り戻そうとしたんだ?」


 エストは悲痛な表情を浮かべて――カイエを見つめていた。


「まさか……人や魔族への復讐のため? いや、カイエがそんな事のために……」


 カイエが本当に復讐のために魔神の力を手に入れたのだとしたら――()()()風に笑えるだろうか?


 エストたちに見せてくれる優しげな笑顔――それは復讐のために生きて来た者とは、とても思えないものだった。


 そんな想いを抱くエストの隣から――突然、ローズは駆け出すと、いきなりカイエに抱きついた。


「カイエ……悲しかったね……辛かったね……」


 溢れ出す涙を拭おうともせずに――ギュッと、カイエを抱きしめる。


「それでも……私には解るよ。カイエは復讐がしたかったんじゃなくて……力を取り戻して、みんなのことを守りたかったんでしょ?」


 ローズの言葉は――事実を言い当てていた。


 カイエ・ラクシエルが望んでいた事は――死ぬ前も、一度死んでからも同じであり……『神』と『魔神』の呪縛から人と魔族を開放することだった。


 そのために、カイエは魔神の力を手に入れたのだが――


「だから……この話をするのは嫌だったんだよ。昔の自分の恥ずかしい姿を、晒すみたいでさ」


 カイエがバツが悪そうに頬を掻くと、ローズは激しく首を振る。


「恥ずかしくなんて、ないわよ……カイエがどんな想いで……殺されてまで、人と魔族を守ろうとしたのか……」


 ローズは――初めから全く疑問を懐くこともなく、当然のようにカイエの想いに気づいていたのだ。


 さすがに……これはちょっと敵わないなと、エストは寂しさと口惜しさが混じった、切ない表情を浮かべた。


「エスト、あんた……ローズに負けたとか思ってないわよね?」


 声に振り向くと――アリスが意地の悪い笑みを浮かべていた。


「今のところはローズの方が、あんたよりもカイエと過ごした時間が長いってだけの話じゃないの? それに理解できるとか、信じるとか……それだけで相手を想う気持ちが測れるほど、単純じゃないわよ」


 まあ、勝手に負けを認めるなら――私が代わりに貰うから、好きにしなさいよとアリスは笑う。


「そ、そんなことは……いや、ありがとうアリス。私も……自分の気持ちは、誰にも負けないと思っているよ」


「エスト、私もね……正直に言うと悔しいんだけど……」


 そう言ってエマは、奥歯を噛みしめる。


「でも……私がカイエを好きだって気持ちは、本物だから……」


「えっとー……そろそろ良いかしら?」


 そんな彼女たちのやり取りを――エレノアは呆れた顔で見ていた。


「今のあなたたちを見てると……カイエとの関係なんて、今さら聞いても意味がないような気がしてきたけど……一応、聞かせて貰えるかしら?」


「カイエは私にとって……世界で一番大切な人よ……」


 カイエを抱きしめたまま応えたローズのことは、『はいはい、それはもう解っているから』とエレノアは軽く流すが――


「良いわ、答えてあげる……私はカイエの女よ」


 アリスが自信たっぷりに言い放つと、『なかなか、やるじゃない!』とニヤニヤと笑った。


「わ、私だって……カイエを想う気持ちは、誰にも負けないと自負している!」


「私も……本当に、本当に……カイエのことが好きなんだから!」


 さらには、エストとエマが恥ずかしそうに頬を染めながらも、頑張って宣言すると――


「いやあー……なかなか良いものを見せて貰ったわ!」


 と、エレノアは至極ご満悦な様子だった。


 そんな彼女たちの只中で――


(これって……公開処刑だよな?)


 カイエは顔を引きつらせながら、震える拳を握り締めており――


(おまえたちは……我のことを、完全に忘れておるだろう!!!)


 ずっと放置されたままのアルジャルスは――秘かに殺意を抱いていた。



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