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64 後始末とその後


 真夜中のシャルトの港に、突然現れた黒鉄の塔を――ジャグリーンから『伝言メッセージ』で連絡を受けていた海軍の兵士たちが出迎える。


「派手な帰還になったけど……魔族や物資の引き渡しがあるからな? 人気のないビーチに上陸して運んで来るなんて、面倒臭いんだよ。もし後で騒ぎになったら、後始末はジャグリーンに任せるよ?」


 しかし、本当に派手だったのはここからで――

 牽引していた二隻の船を海軍に引き渡すと、漆黒の球体を上空に展開させて、黒鉄の塔を吸い上げるようにして収納し――それと入れ替えるように、魔族のアジトから回収してきた大量の物資を出現させた。


 こういうときのカイエは、本当に適当な感じで――呆然としている兵士たちなどお構いなしで、連行されていく魔族たちを、眠そうな顔で眺めていた。


「商船を襲ったんだし、殺すなとは言わないけどさ……できれば人間と同じように公正に裁いてくれよ?」


 それでも何気ない感じで、こんなことを言うカイエだから――アリスも一緒にいるのだなと、ジャグリーンは改めて思った。


「ああ……ジャグリーン・ウェンドライトの名に賭けて、できる限りのことはさせて貰うよ。だから、今夜はゆっくりと休んでくれ……何なら、これから私の部屋で――」


「「そんなの駄目に決まってるでしょ(だろ)!」」


 ローズとエストがカイエの両腕を掴んで――ジャグリーンに激しい焔の視線を浴びせる。


「何だ、残念だな……だったら仕方ない。また今度の機会という事にしようか?」


 ジャグリーンは余裕の笑みで応えながら――ふと、彼らとは少し離れた場所で、切ない少女の顔をしているエマに気づいて……その背後に忍び寄る。


「聖騎士エマ――」


「……ひゃ! 何?」


 驚いて振り向くエマに――


「老婆心……コホンッ! 年上の女として……一つ忠告しておこう」


 ジャグリーンは優しい笑みを浮かべる。


「君の魅力は……他の三人にも決して敗けていないのだから、堂々と胸を張るべきだ。そして……君自身の気持ちに確信が持てたときは……迷わずに飛び込めば良いと、私は思うよ」


「何やってるのよ、ジャグリーン……私の役目を奪わないでくれる?」


 いつの間にか――アリスはエマの隣に立っていた。


「アリス……」


 気まずそうな顔のエマを――アリスは優しく抱きしめる。


「ごめんね、エマ……私ばっかり、自分の気持ちを優先して――エマが本気なら、私も応援するから!」


 ぎゅーと抱きしめられて……エマの瞳から、思わず涙がこぼれる。


「うん……あのね、私も――」


 闇夜に告げたエマの告白を――夜は優しく受け止めた。


※ ※ ※ ※


 そして次の日――


「ふわああ……悪い、ちょっと眠いや?」


 眠たそうなカイエを引きずって――ローズたちは再びビーチに繰り出した。


 しかし今回は……漆黒の塔も馬車もカイエの収納庫ストレージにしまったので、シャルトの観光客が集まる街のビーチに六人は向かったのだ。


「人が多いわね……少し、排除して来ようかしら?」


 残酷な笑みを浮かべるアリスだったが――彼女のセクシーすぎる水着に、周りの観光客たちは釘付けになっていた。


「アリス、そんな物騒なことは言わないでよ! 本当に邪魔になったら……私が片づけるから」


 エッジの利いたシャープなビキニ姿のローズは――ニッコリと笑いながら、決して勇者らしくない台詞を吐く。


「みんな、そんなことを言うな……他の人たちだって、楽しんでいるのだからな?」


 豊かな胸を強調するエストの青い水着は――周囲の男たちが動けない原因になっていたが、当人は一向に気づいていなかった。


 そして――


「ほら、アイシャ! こっちだよ!」


「待ってよ……エミーお姉様!」


 黄色いビキニの健康美少女少エマと、白いワンピの水着の天使アイシャが笑顔を振り撒いて遊ぶ姿は……

 あまりにも眩し過ぎて、思わず涙するオジさんが続出したとか、しなかったとか。


 そして次の日はシャルト名物の水族館、また次の日は港を一周する遊覧船に乗るなど……


 彼女たちは夏を満喫し――シルベーヌ子爵との約束である二週間は、瞬く間に過ぎていった。


※ ※ ※ ※


「みなさん、この度は本当にお世話になりました」


 約束の日の朝、荷物の整理を終えたアイシャが、畏まった感じで礼を言う。


「いや、こっちも一緒に遊べて楽しかったよ」


 エマが笑顔で応じると、アリスもニッコリと笑って――


「そうね。アイシャは誰かと違って大人だから、手間も掛からなかったわよ」


「その誰かって……もしかして、私の事?」


「あら、自覚はあるみたいね」


「ひっどーい! アリスはホント、意地悪だよね!」


 二人の冗談みたいなやり取りに、アイシャも可笑しそうに笑う。


 さすがにローズとエストも――このときばかりはカイエから離れて、アイシャと別れの挨拶をしていた。


 どうせ転移魔法を使うのだから、全員で送っても良かったのだが……

 そうしてしまうと、シルベーヌ子爵にまた何日か引き留められそうなので――


 土産を渡しに行くカイエと、転移魔法を使うエストの二人で、アイシャを送ることにしたのだ。


「一、二時間で戻るとは思うけど……そっちも適当に楽しんでいてくれよ。帰るタイミングが解ったら『伝言(メッセージ)』を送るから、昼飯は一緒に食べようか?」 


 そろそろ出発というタイミングで、カイエがローズたちと話をしていると――


「あの……カイエさん! ちょっと良いですか?」


 会話が途切れるのを待って、アイシャが声を掛けて来た。


「魔族の船団を討伐するのに、私が同行した件ですけど……お父様とクリスには内緒にして貰えませんか?」


 過保護な二人がそんな事を知ったら――何を言い出すか解ったものではない。

 そう思ってアイシャが願い出ると、


「正直に話しても、あいつらに文句を言わせない切り札はあるけどな……まあ、良いよ。色々と面倒臭そうだし、黙っておくのが正解かもな?」


「ありがとうございます!」


 アイシャはほっと胸を撫で下ろす。


「あの二人は……カイエさんが思っている以上に、相当面倒臭い性格ですよ?」


 カイエに借りた指輪で、律義なアイシャは毎日二人に『伝言メッセージ』を送っていたのだが――


『……アイシャは楽しそうだね! それに比べてパパは……早く早く早く早く早く……帰っておいで!』


『お、お嬢様の水着姿……そ、それを不埒な目で見るような輩は……この私が叩き切りますので、是非お教えください!』


 彼らの返信は――とても人様に話せるような内容ではなかった。



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