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55 悪巧み


 ジャグリーンの突然の告白は――勇者パーティーの顰蹙(ひんしゅく)を買ったが、意外なほどアッサリと収束した。


 理由は簡単で――カイエの方が、まともに受け合わなかったからだ。


「おまえらさあ……俺の事をどうしようもない女好きとか思ってるだろう?」


 それぞれの感情が渦巻く視線の集中砲火に――カイエはこめかみをヒクつかせる。


「そもそもジャグリーンが俺に惚れるとか、あり得ないだろうが? あいつは俺を使って、おまえたちを揺さぶろうとしてるか、戦力として俺を欲しがっているか……たぶん両方だろうな?」


 あの後もジャグリーンは、事ある毎にチラ見せして迫ってきたが――カイエに同じ手が何度も通用する筈もなく、次からは完全に無視(スルー)していた。


「私がこれだけ身体を張っているのに……君という男は、本当にツレないな?」


 思わせぶりな笑みを浮かべるジャグリーンに、


「悪いけど、茶番に付き合う気はないんだよ」


 カイエは呆れた顔で言うが――


「君は誤解しているよ……私は本気だ」


 ジャグリーンは不意に真顔になって、じっと見つめてくる。


「はいはい、どっちでも良いけど……俺は興味ないからさ?」


 カイエがそんな感じだったから――ローズとエストの機嫌はすぐに直って、エマもジャグリーンの態度など気にせず、食事に集中するようになった。


 しかし、ジャグリーンという人間をよく知るアリスだけは――彼女に対する警戒心を、全く解いていなかった。


※ ※ ※ ※


 船に必要な物資を積み込む必要もあり、魔族の船団の討伐に向かうのは三日後という事に決まったので――カイエたちは宿に戻って、残り二日間のバカンスをどう過ごそうかという話になった。


 外洋へ出るまでの日数を考えれば、シルベーヌ子爵との約束の二週間では厳しいし、そもそもアイシャを戦場に連れて行くのもどうかという事で――彼女のことは出航前に、シルベスタまで送り届ける手筈となった。


「アイシャ、ごめんね。せっかくの旅行が、こんなことになっちゃって……」


 エマは申し訳なさそうに言うが、


「エミーお姉様、気にしないで。お姉様たちは、みんなを守るために戦いに行くのだから、仕方ないわよ。私の事よりも……エミーお姉様こそ、怪我をしないように気を付けてね」


 文句など一切言わずに、気遣いを見せるアイシャを――エマはギュッと抱きしめる。


「うん……アイシャ、ありがとう」


「エミーお姉様……」


 それだけで……アイシャは心の底から幸せそうだった。


 明日と明後日はビーチに行ったり買い物をしたりと、一通り予定は決まったが、今日はもう午後も中途半端な時間だったので、今からどこかに出かけるという雰囲気でもなく――


「せっかくキッチンのある部屋に泊ってるんだから……クッキーでも焼こうかな?」


 最上階のフロアをを借り切った最上級の部屋(エグゼクティブルーム)は、寝室が四つとリビングにキッチン、専用のお風呂まであり――キッチンには、普通の燃料式だがオーブンもあった。


 エストの提案に、ローズとエマが賛成して――急遽『女子力アップのための料理教室』という感じで、エストにクッキー作りを教えて貰う事になった。


 アイシャも当然のように付いて行ったから、リビングに残ったのはアリスとカイエだけだった。


『ちょ、ちょっとローズ、何をやってるんだ!』

『大丈夫よ! こうやれば良いのよね?』

『ちょっと……エミーお姉様!』

『ハハハハ……なんか、料理って面白いね!』


 四人の楽しそうな声がキッチンの方から聞こえてくると――タイミングを計ったようにアリスが口を開いた。


「カイエ……あんたは甘く考えてるみたいだけど、ジャグリーンは本気よ!」


 これは忠告だからねと、アリスは顔を顰めて言うが、


「だとしてもさ……俺にその気がないんだから、関係ないだろう?」


 カイエは、もうこの件は終わったかのような態度を取るので――アリスの中の嗜虐性が顔を出した。

 

「そんな事言ってるけど……あんたも満更でもないんじゃない?」


 アリスはジト目になると――


「ジャグリーンに胸を押し付けられたとき……目がイヤらしかったわよ」


「いや、待てよ! 押し付けられてないし、そんな顔してないだろう?」


「さあ、どうだったかしら……少しくらい当たってたんじゃないの?」


 不条理な追求に――カイエはどうしたものかと頬を掻くが……不意に何かを思いついたかのように、意地の悪い笑みを浮かべる。


「アリス、おまえが何をそんなに気に食わないのか……解った気がするよ。でもさ……ジャグリーンの思い通りにさせる気なんて、俺には無いからな?」


 カイエの漆黒の目が――(したたか)かに煌めく。

 アリスはカイエを見つめるだけで、何も応えなかったが――


「まあ、どっちにしても……あの女には、色々と教えてやる必要があるかな。俺に首輪を嵌めようとしても無駄だって……解らせてやるよ」


 このときカイエは――悪戯を思いついた子供のような顔をしていた。


「カイエ、あんた……何をする気よ?」


 慌てて口を挟むアリスに、


「何だよ、アリス? 人をけしかけておいて……とりあえず、みんなの迷惑になるような真似はしないからさ」


 カイエはそう言うと、キッチンの方に歩いていく。


「なあ、ちょっと話があるんだけど……」


 扉を開けると――中は凄いことになっていた。


 床に撒き散らされた小麦粉と、散乱した卵の殻……ローズはボウルと格闘しながら中身を飛び散らせており、エマは何故か顔中バター(まみ)れだった。


「……どうしたの、カイエ?」


 ローズはニッコリと笑うが――その間も、ボウルから中身が飛び散りまくっている。


「エスト……おまえが教えてたんじゃないのかよ?」


 顔を引きつらせるカイエに、


「いや、私は何度も注意したんだが……もう笑うしかない状況だな」


 エストが疲れた笑いを浮かべると――アイシャが同情するように深く頷いた。


「まあ……クッキー作りの方は任せるよ。それより……みんな、予定を変更しても良いか? 魔族を討伐する件なんだけど、出発を明日に早めたいんだよね」


 『どういうこと?』という感じで、皆が視線を集める中――


(この状況じゃ……何を言っても馬鹿っぽいけどな?)


 などとカイエは考えながら――まあ仕方ないかと諦めて話を続ける。


「ジャグリーンのやり方は、アリスも気に食わないみたいだからさ……こっちも好きにやらせて貰おうと思ってね。海軍の船で外洋まで行くのもかったるいし、アイシャとの約束の方が優先だから……魔族の討伐なんて、ソッコーで終わらてやるよ」


 カイエは宣言するが――散らかりまくったキッチンのせいで、やっぱり間抜けな感じになってしまった。



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