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50 海軍提督と勇者の関係


 海軍提督ジャグリーン・ウェンドライトは――聖王国軍の精鋭部隊を率いる辣腕の指揮官として知られていた。


 魔族との戦いにおいて、勇者パーティーと直接行動を共にする事はなかったが――聖王国の『もう一つの主戦力』として活躍し、最終局面においては、魔都イクサンドラを強襲した連合艦隊の総司令官を勤めた。


 そんなジャグリーンが、ビーチなどという浮かれた場所にいるなど違和感があるのだが――それよりもローズたちは、彼女が至近距離に接近するまで気配を感知できなかったことに戦慄を覚えていた。


「あんたみたいな奴が……何でこんなところにいるのよ?」


 アリスは警戒心を剥き出しにする。


「その台詞を、そっくりそのまま返してやろう。港湾都市シャルトから離れた人気(ひとけ)のないビーチなどで、おまえたちが遊んでいるから、私の方から出向いて来たんだよ」


 ジャグリーンは平然と言うが――この場所に彼女が居合わせるのは、それほど簡単なことではなかった。


 異様に目立つ黒鉄の馬車で海岸沿いを移動して来たのだから、足跡を追うこと自体は難しくないだろうが――


 そもそも乗っているのがローズたちだと知ってなければならず、都市から離れるように移動した黒鉄の馬車よりも速く移動しなければ、追いつくことなど出来なかった。


「ウェンドライト提督って……私たちと何度か同じ作戦に参加したことがあるわよね?」


 ローズは不機嫌であることを隠さずに、褐色の瞳でジャグリーンを睨むが――


「勇者ローズ、私のことはジャグリーンと気楽に呼んでくれたまえ……『第六次・・・魔王討伐戦争』では、何度か君たちと同じ戦線で戦うことがあった。しかし、実際に君と顔を合わせるのは、今日が初めてだと思うがな?」


 彼女の方は何食わぬ顔で、飄々とした感じで応えていた。


「お互いの立場や役割が違うから、ともに剣を並べる事こそなかったが……私は君たちの活躍を、同胞として誇りに思っていたよ」


「ホント、よく言うわね……私たちを囮に使っていた癖に!」


 アリスは呆れた顔で、フンと鼻を鳴らした。


「同じ作戦に参加した事は全部で三回あるけど……その三回ともジャグリーンは、私たちが魔族の主力に囲まれている間に、その隙を突いて本隊を襲撃したのよ」


 勇者パーティーが敵陣営の深くまで侵入して、主だった魔族が彼女たちに群がるのを待ってから――ジャグリーンの部隊は、敵の背後を突いて本隊に奇襲を掛けたのだ。


「囮と言うのは聞こえが悪いが……最大戦力である君たちに敵の攻撃が集中することを計算した上で、私が作戦を立てたのは事実だな」


 ジャグリーンはアッサリ認めた上に――


「この件で君たちに詫びるつもりはない。私は、それが最も効果的な作戦であり、君たちならば成し遂げられると判断したまでだ。仮に、今後も同様の事態が発生すれば……私は一切迷うことなく、同じ選択をするだろう」


 ローズたちが目の前にいるにも関わらず、そう断言した。


「ジャグリーン……あんたはいったい、どういう神経してるのよ? あれだけの数の上級魔族に囲まれたら……一歩間違えれば私たちだって、死んでいたかも知れないのに!」


 勇者パーティーと言えども、不死でも無敵でもないのだ。

 ローズは魔王すら一太刀で倒した最強の勇者だが……数の暴力で押し潰されれば、その力を発揮することなく殺される可能性は十分にある。


 抜け抜けと言い放ったジャグリーンに――エマも、エストも怒りを覚えて、思わず拳を握り締めるが……


「みんな……でも、それは違うと思うわ。ジャグリーンが、みんなを犠牲にしようとしたのなら許せないけど……あのとき私たちは、自分たちで決めたじゃない」


 兵士ともに戦うことで、魔族の軍勢を撃ち滅ぼすことは容易になるが――それは同時に、味方にも多くの犠牲を強いることを意味する。


 だからローズたちは――少しでも犠牲を少なくするために、自ら率先して魔族の渦中に飛び込んだのだ。


 だからと言って、味方の兵士の援護が一切ないなどとは思っていなかったが――ローズたちに対して冷徹な判断を下したジャグリーンによって、さらに犠牲が減ったことも事実だった。


「私たちの実力を信じていたとか……そんなことを言われても、あなたを信用する気にはならないけど……ジャグリーン、あなたのおかげで犠牲が減ったことには感謝するわ」


 アリス、エスト、エマ……ローズにとって大切な、掛け替えのない人たちまで危険に晒すような判断を下したことを、決して許すことはできないが――


「勇者ローズ……私も許して貰えるとは思っていないよ。君たちに何と思われようとも、私は自分自身が信じる道を進むだけだ」


 左目を眼帯で覆ったジャグリーンの隻眼が、真っ直ぐにローズを見る。


「まあ……今度そんな真似をしたら、俺が只じゃ置かないけどな?」


 不意の声に、ジャグリーンが視線を向けると――カイエが揶揄からかうような笑みを浮かべて、すぐ傍に立っていた。


 声がした瞬間まで――そこにカイエがいることに、彼女は気づいていなかった。


「カイエ・ラクシエル……十日ほど前に、王都を騒がせたのは君だな?」


 それでもジャグリーンは落ち着き払った感じで、余裕の笑みを浮かべるが――


「俺のことも調べがついているって訳か……余裕ぶるのは構わないけどさ? 臨戦態勢に入ってるのはバレバレだからな」


 魔神であるカイエの目は――ジャグリーンの体内で起きた魔力の変化を見逃さなかった。


「君は……本当に面白い男だな? 化物だという噂も、あながち嘘ではないようだ」


「よく言うよ、おまえだっ……」


 カイエが言葉を途切れさせた原因は――ローズだった。


「……カイエ!」


 いきなり背中からギュッと抱きしめてきたローズに――ちなみにローズはビキニで、カイエは海パン一枚だから……色々な意味でマズかった。


「おい……ローズ? いきなり何してるんだよ?」


「うん……幸せを実感してるの!」


 そう言って、カイエの背中に顔をうずめる。


「……え? 何を言ってるのか、俺には意味が解らないんだけど?」


「だって……カイエは私たち(わたし)のために怒ってくれたじゃない! だから……もう我慢できなくなって!」


 あまりのローズの変貌ぶりと、翻弄されているカイエの姿に――


「ハハハ……君たちは本当に面白いな」


 ジャグリーンは初めて余裕を失い、引きつった笑みを浮かべた。



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