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42 衝撃の事実


 その日の夕食は――黒鉄の塔の広いキッチンでエストが存分に腕をふるい、豪華な料理がテーブルに並んだ。


 所謂アイランドキッチンタイプの厨房には、大出力の魔法加熱器マジックコンロ魔法の天火(マジックオーブン)、水の生成を自動で行う魔法の流し台(マジックシンク)があり、料理をするには最適だったが、それ以上にエストを満足させたのは、冷蔵庫と冷凍庫だった。


 歩いて中に入ることができる冷蔵庫と冷凍庫は、もはや部屋であり、エストたちが収納庫ストレージに入れて運んでいた全ての食材を収めることができた。


 ちなみに黒鉄の馬車にも小型のものが設置されており――カイエたちは道中も冷たい飲み物を楽しんでいる。


「あー! もうお腹いっぱいだよ! エストが作る料理は、本当に美味しいよね!」


 エマは満足そうにそう言うと、いつものようにエストが入れてくれた紅茶のカップを口に運ぶ。


 隊商キャラバンと同行していている間も、エストは黒鉄の馬車の魔法加熱器マジックコンロを使って料理を作っていたのだが。

 さすがにスペースの問題もあって、そこまで本格的な調理をするという訳にもいかず、エスト本人も、久々に広いキッチンが使えたことに満足していた。


「ホントね……もしエストが居なかったら、私たちの毎日の食事はずっと寂しいものになってるわよ」


 ローズも紅茶を飲みながら、しみじみという感じで言う。


 勇者である彼女は、生まれてから一度も料理をしたことがない。勇者パーティーではエストが料理を作ってくれたし、自宅にも使用人がいるから、食事のことで困ることが無かったというのも理由の一つではあるが――一番の理由は、ローズが戦いと休息以外の全ての時間を、強くなるために費やしてきたからだった。


 他の三人だって、かなりの時間を鍛錬に費やしてきたが――カイエと出会うまでのローズのストイックさは別格だった。

 光の神に与えられた特別な力があることは解っているが――このストイックさこそが勇者ローズを最強の存在にならしめたとエストたちは思っていた。


「満足してくれて……私も作った甲斐があるというものだよ。アイシャの口にも、料理の味は合ったかな?」


「はい……どれも、とても美味しくて……賢者エスト様は史上最高の魔術師なのに、料理もこんなに上手だなんて……同じ女性として憧れます!」


 アイシャは素直な気持ちで賞賛の眼差しを向ける。


「ありがとう、アイシャ……そこまで言われると、ちょっと照れてしまうけどね?」


 エストもまんざらでもない感じで、ニッコリと笑みを返した。


「ところで……カイエ。そろそろ、この塔について説明してくれない?」


 食後の紅茶に蒸留酒ブランデーを入れて楽しみながら、アリスは訝しげな表情でカイエを見る。


 この巨大な塔の中も、どこも気温が完璧に調節されていて涼しく、お風呂のお湯も常に適温に保たれているようだった。それだけでも膨大な量の魔力を消費する筈だが――


「まあ、説明って言っても……そんなに大した話じゃなくて。馬車と一緒で、俺が暇なときに造っただけだからな。エストだって、塔くらい持ってるだろう?」


「私の塔とは別次元だろう! 『防音サウンドプルーフ』や『索敵サーチ』、『防御シールド』だって、この塔全体に常時発動しているのだろうし……そもそも塔自体が、地上から浮いているよな?」


 塔に入る前に――地上から十センチのほどの高さに塔が浮いていることを、エストは確認していた。

 このサイズの建物を『浮遊フロート』の魔法で浮かせることなど、普通に考えれば不可能だが――


「そうだけどさ……別に特別なことをしてる訳じゃなくて、ほとんど馬車と同じ仕組みだから」


「……いや、そうじゃなくて! これだけの魔力をどうやって確保しているか、そっちが不思議なんだが……訊かない方が良いのかも知れないな?」


 馬車が消費する魔力を賄うだけでも、ラスボスクラスの怪物モンスター数体分の結晶体クリスタルが必要だと言うのに――この塔の魔力を確保するために、どういったレベルの怪物モンスターが、どれほどの数使われているのか、考えるだけでも恐ろしくなる。


「まあ……結局のところ、魔力の出力と量だけの話だからさ」


 本当のことを言えば――エストがまだ気づいていない魔法も複数常時発動しているのだが、説明するのが面倒だったから、カイエは黙っておくことにした。


「便利は便利だけど……この見た目だから風情がないと言うか、周りの景色には調和しないだろう? 俺だってそのくらいのことは理解してるから、他に泊まる場所があるときは使わないつもりだけどな?」


「でもさあ……街の宿屋だと、こんなに気持ち良く過ごせないよね? 私はずっとこの塔を使った方が良いと思うけどね」


 塔の仕組みにも、風情という言葉にも全く興味がないエマが、単純明快な意見を言う。

「あんたねえ……街中でこんなものを出したら、どういうことになるか……本当に解って言ってるの?」


 呆れ顔のアリスの言葉に、その状況を想像したアイシャが顔を引きつらせて頷く。

 そんなことをすれば――結構な規模のパニックを引き起こしてしまうだろう。


「だったら、街の外に塔を出せば良いんじゃない? 私は……カイエの塔は素敵だと思うわよ」


 ローズは乙女モードを全開にすると――カイエをうっとりと見つめて、しな垂れ掛かる。


「あのねえ、そういう問題じゃ……もう良いわよ。好きにしなさい」


 アリスは投げ槍な感じで言うが、


「でもさ、ローズ? その土地その土地の宿屋に泊まるってのも、悪くないと思うけどな?」


「うん、そうよね! それも素敵だわ……」


 カイエの一言で意見をコロッと変えるローズに――アリスは疲れた顔をする。


「なあ、カイエ……もう少し質問しても良いかな?」


 カイエの隣で幸せそうなローズを羨ましそうに眺めながら、エストはいつの間にか、カイエの逆隣りに座っていた。


「ああ、別に構わないけど?」


 気楽な感じで応えるカイエに、エストは少し恥ずかしそうな感じで、


「この塔には……カイエの時代の書物とか記録とか、そういう類のものが保管されているのか?」


「なんだ、そういう話か……あることにはあるけど、本という形じゃないからなあ?」


 そう言うとカイエは、何処からか銀色の小さな円盤のようなものを取り出す。


「記録媒体……って言って解るかな? この中に、本で言えば数千冊分の情報が入ってるんだけど。暗号化されてるから、特定の手順で魔力操作をしないと読めないからな……今度、やり方を教えてやるよ」


「ああ、ありがとう、カイエ! 凄く嬉しいよ!」


 エストは頬を染めながら、彼女にしては珍しいくらいの満面の笑みを浮かべる。

 エストにとって過去の知識は、非常に興味深いものであり、喉から手が出るほど欲しいものだった。


「それと……もう一つ、質問したことがあるんだけど?」


 エストは意を決した感じで、グイグイとカイエに迫る。


「……何だよ? 何を質問したって、構わないからな?」


 そう言いながらもカイエは、エストの勢いに押され気味だった。


「あの……キッチンの事なんだけど? 他のモノは便利だから造ったんだろうが……あれだけ立派なキッチンがあるって事は、もしかして……カイエも料理をするのか?」


 『魔神』であるカイエが料理をするところなど、あまり想像できないが――本当にそうであれば、エストとは魔法だけではなく、もう一つ共通点がある事になる。


「……まあ、俺は一人でいることが多かったからな?」


 カイエは頬を掻きながら、ちょっと恥ずかしそうに応えた。


「エストみたいに、人のために作ったことはないけど……一応、料理()()()できるよ」


「そ、そうなんだ……」


 エストは嬉しそうに頷くが――

 カイエの一言はそれ以上に、ローズとエマに衝撃を与えていた。


(……料理()()()できるって……)


(え、私って……もしかして、カイエに女子力で負けてるの?)


 その翌朝から――突然料理をすると言い出した二人のせいで、エストの手間は何倍にも増えることになった。



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