37 冤罪?
真夜中に転移魔法で戻ってきたカイエたちを――エマとアリス、そしてアイシャの三人は、黒鉄の馬車の中で待ち構えていた。
「みんな……大丈夫だった?」
エマが真っ先に駆け寄る――
『まあ、気持ちは解るけどさ? これからやることは、どう考えてもエマには向いてないから……今回は俺たちに任せて、おまえはアイシャの傍にいてやれよ?』
そう言ってカイエは、ローズとエストをだけを連れて王都に向かったが――
残されたエマは『みんなに任せておけば大丈夫だから!』とアイシャを元気付けていたのだが……人に任せにして待っているなどエマは一番苦手だったから、本当のことを言えば気が気ではなかった。
そんな感じで――彼らの帰りを待ち侘びていたエマに、
「何だよ……俺って信用ないんだな?」
カイエは意地の悪い笑みを浮かべるが――
「……って、冗談だからさ。そんなに怖い顔をするなよ?」
カイエを黙らせたのはアリスだった。
「全く……勿体ぶるんじゃないわよ? あんたのことだから、どうせ全部終わらせてきたんでしょ?」
冷ややかな目で見るアリスに――ローズが応える。
「うん……だいたい正解かな? アイシャが心配するようなことは、もう何も起きないと思うわよ?」
カイエに目配せすると――ローズは『ウフフ……』と意味あり気に笑った。
「まあ……そういうことだな。アイシャの件が解決したことには違いないが……」
そう言いながら――エストは何故か遠い目をしている。
「……カイエ、どういうこと? きちんと全部説明しなさいよ!」
アリスが睨むが、カイエは何食わぬ顔で――
「そんな細かいことを、いちいち気にするなよ? それよりさ……」
そう言うと、彼らの会話を遠慮がちに聞いていたアイシャの元へと歩いて行く。
「よう、アイシャ……」
少女の前に立って、カイエは揶揄うように笑った。
「おまえも聞いていたただろう……モルネートとエドワードの件は、俺たちが全部サクッと解決したからさ?」
「……本当に? ラクシエル様……」
止めどなく溢れてくる涙を――アイシャはどうすることも出来なかった。
「あ、ありがとう……ございます。どんな言葉で……お礼を言えば良いのか……」
「……馬ー鹿。そんなのどうでも良いよ?」
本当はもっとマシな台詞を言うつもりだったが――少女の円らな瞳に見つめられて、カイエは耐え切れずに目を逸らす。
「あのさ……もう心配事は無くなったんだから。子供はいつまでも起きてないで、さっさと寝ろよ?」
「カイエ、そんな言い方って……」
エマが少し怒った感じで口を挟むが――
「……エミーお姉様! 良いのよ……」
アイシャは何故か嬉しそうだった――目を逸らす前に一瞬だけ……照れ臭そうに笑ったカイエの顔を、目の前にいた彼女だけが見ていたのだ。
(ラクシエル様って……可愛い!)
こんな台詞をカイエが聞いたら、色々と壮絶なことになりそうだが――
アイシャは頬を染めながら、伏し目がちで続けた。
「……本当に、ありがとうございます。それと……ラクシエル様、おやすみなさい!」
逃げるように駆けていくアイシャと、それを呆然と眺めるエマ。そして――
「カイエ……どういうことか、説明して貰おうか?」
「ホント……油断も隙もあったものじゃないわね!」
エストとローズの迫力を前に――今度もカイエに逃げ場はなかった。
※ ※ ※ ※
「まったく、カイエは女の子に甘いのよ……」
「そうそう、誰にでも優しくするのはどうかと思うぞ?」
二人の機嫌が直るまで、カイエは長々と小言を聞かされるハメになったが――
ようやくそれも終わり――そろそろ寝ようかという頃になって、アリスが声を掛けてきた。
「カイエ……悪いけど、もう少し付き合ってくれない?」
アリスはいつもカイエを邪険に扱っていたし、乙女モードで参戦してくるようなタイプでもない。
それにローズとエストは、カイエに散々小言を言って、とりあえず満足していたから――二人が出掛けることに誰も文句を言わなかった。
アリスがカイエを連れていったのは――夜営地の外れ、盗賊たちを光の壁で閉じ込めている場所だった。
外には隊商の人間が歩哨を立てていたが、カイエとアリスの姿に気づいても、声は掛けてこなかった。
「カイエ……あの無精髭の男だけ、解放することはできるわよね?」
盗賊たちの指揮をしていた男を――アリスは顎で指す。
そのくらいあんたならできるでしょうと、目が要求していた。
「まあ、訳ないけどさ……」
扱いの悪さにカイエは不満そうだったが、とりあえず黙って従うことにする。
カイエが魔法を発動させると――二人の目の前に、片腕を枕にしてだらしなく寝そべった格好で、無精髭の男が突然現れる。
腕を縛っていたロープは、いつの間にか解かれていた。
「……お、おい! 今何をしたんだよ?」
光の壁の中でやることもなく、男はふて寝するつもりだったが――腹が減り過ぎて眠れずにいるところを、魔法で呼び出されたのだ。
「あんたに質問する権利があると思ってるの? 黙ってこっちの質問に答えなさい」
アリスの命令口調に、男は舌打ちするが――冷ややかな視線を向けられて、ゴクリと唾を飲み込む。
「三下が……嘗めた態度を取るなら、舌を引き抜くけど?」
アリスは本気だった――男もそれを本能で理解する。
「か、勘弁してくれよ……」
ブルブルと震える男に、アリスは満足げに笑みを浮かべる。
「アリス、おまえ……怖すぎるだろう?」
「カイエ……あんたは黙ってなさい!」
アリスに睨まれても、カイエはニヤニヤと笑うだけだったが――アリスは無視して話を続ける。
「私の質問に正直に答えれば……話の内容次第で、あんたの罪を軽くする事も、食料や水を恵んであげることも考えてあげるわよ?」
「……本当だろうな?」
男は疑わしそうに言うが――アリスは嘲笑うかのように断言する。
「ええ。このアリス・ルーシェに二言はないわよ!」
「アリス……ルーシェって……あの白き暗殺者のアリスか?」
男は目を見開いて、まじまじとアリスを見る。
「あら、少しは物を知ってるみたいじゃない……だったら、私の気が短いことも知ってるわよね?」
アリスに見据えられて――男は慌ててコクコクと頷いた。
「ああ、解っている……何でも訊いてくれ!」
「そうね……私が知りたいことは二つ。一つは――」
そこからはアリスの独壇場で――
彼女の詰問が終わるまで。カイエは興味深そうに、その一部始終を眺めていた。




