181 二組目の来客
「ラ、ラクシエル師匠……これが、転移魔法というモノですか!」
「私は……何度か体験させて貰ってますが。いきなり別の場所に移動するのは……やっぱりビックリしますね」
カイエが次に連れて来たのは――予告していた通りに女騎士クリス・ランペールと、彼女が溺愛し、カイエたちの準メンバーとも言えるアイシャ・シルベーヌだった。
「これが……魔族の街ですか? 何て言いますか……」
「人族の街と、大差無いだろう?」
トルメイラの街並みに目を輝かせるアイシャに、カイエが優しく語り掛ける。
「ええ、カイエさん……本当に! 文化の違いとか、そういうのは感じますけど。聖王国の街とあまり変わらないと言いますか……」
「まあ……とりあえず、色々と見て回ろうか?」
カイエは紳士のように一礼して、アイシャに手を差し伸べる。
「俺がエスコートするよ、アイシャお嬢様!」
「カ、カイエさん……」
アイシャは頬を染めて、恥ずかしそうにチョコンと手を握った。
「あ、アイシャだけズルいよ!」
対抗心を燃やすエマが逆側の腕を取ると、
「エミーお姉様! もう……」
アイシャは嬉しそうに微笑んだ。
そんな二人に、いつものポジションを奪われた形のローズとエストだったが。
(まあ……今日のところは、仕方ないわね)
(そうだな……邪魔するのは無粋だな)
嬉しそうなアイシャを微笑ましく思いながら、三人の後ろをゆっくりと歩いた。
その一方――全く納得していない者が約二名いた。
(この小娘が……またしても、ロザリーちゃんのポジションを奪って!!!)
ポニーテールの幼女が頬を膨らませて、アイシャの背中を睨んでいると。
幼女が放つどす黒い魔力に、行き交う魔族たちはギョッとして道を譲る。
「ロザリー……あんたねえ。負の感情が駄々洩れだから」
呆れ顔のアリスに肩を叩かれて、
「ア、アリスさん……そ、そんな事は、ありませんのよ!」
ロザリーは慌てて魔力を隠すが――
「別に良いわよ。でも、憶えておきなさい……ロザリーは、私たちの仲間なんだから。アイシャに嫉妬する事なんて無いわよ」
アリスは片目を瞑って笑う。
「ア、アリスさん!」
ロザリーは彼女の顔をまじまじと見ると――何かを隠すようにそっぽを向くが、鼻を啜る音のせいでバレバレだった。
そして、納得していないもう一人は――
「ア、アイシャ様の護衛は、私に任せてください!」
アイシャとカイエの間に、強引に割り込もうとするが、
「クリス……カイエさんに失礼でしょ!」
少女に冷たい目で睨まれて、しゅんと肩を落とした。
「なあ、クリス……おまえは、いつもアイシャと一緒にいるんだから。今日くらい、俺に独占させてくれよ」
「え……」
アイシャはドキリとして、顔を沸騰させる。
「「「「「「ちょっと……」」」」」」
さすがに聞き捨てならないと、六人はジト目を向けた。
そしてクリスはと言うと――
「ラ、ラクシエル師匠も……やはり、〇リコンなのか……」
「さあ、どうかな……勝手に想像してくれよ」
軽く受け流すというカイエの新技は、意外なほど効果があり。
クリスは信じられないモノを見たという顔で、崩れ落ちる。
「ア、アイシャ様が……ロ〇師匠に取られる……」
「おい……その言い方だけは止めろよ」
飛んで来たブーメランに、カイエは速攻で後悔することになる。
そして――
(また……〇リって言われた! 私だって……成長してるんだから!)
フレンドリーファイアを食らったアイシャは、今回も涙目になった。
※ ※ ※ ※
適当に街を案内しているうちに、昼になったので。カイエたちは近くの店で、食事をする事にした。
夕食はギャゼスの店を予約していたが。ランチは良い機会だからと、街中の食堂のテーブル席で、魔族たちに囲まれる形で取ることにしたのだ。
ちなみに、この場にバーンとアレクがいないのは、カイエの仕掛けだ。二人には、クリスを呼んだことをまだ話していない。
「なるほど……ちょっと視線が痛い感じですね」
九人の人族が堂々と店に入って来たので、敵意を向けて来る魔族も少なからずいた。
しかし、闘技場があるトルメイラの街で、あからさまに喧嘩を売って来るような者は、もういなかった。
「よう、闘技場勝利者! また女を増やしたのか?」
「まあ……そんなところかな」
「おいおい! 相変わらず、何をやるにも豪快だな!」
いきなり声を掛けて来る魔族たちに、カイエは気楽に応える。
もっとギスギスした空気を想像していたクリスは、ちょっと面を喰らった感じだった。
「さすがは、カイエさんって感じですね」
しかし、アイシャの方は当然という感じで納得している。
「何だよ、もっと驚くと思ってたのに」
カイエはわざと不満そうな顔をするが、
「だって……カイエさんは、誰にだって優しいじゃないですか」
「俺が優しいとか……アイシャ、おまえは勘違いしてるだろ?」
「えー……そんなこと、ありませんよ!」
全幅の信頼を寄せている感じで、アイシャが頬を染めながら嬉しそうに話をするので――クリスの嫉妬心が復活した。
いや、それだけでは無くて……もう一つ、彼女には納得できない事があった。
「ところで……ロ〇シエル師匠!」
勢いに任せて、いきなり爆弾を投げ込むが、
「「……」」
憮然とした顔のカイエとアイシャに無視される。
『さすがに、それは無いわよね』と周りの六人からもジト目で見られて。自分の失態に気づいたクリスの顔から、血の気が引いた。
「ア、アイシャ様! ラクシエル師匠! 本当に申し訳ありません!」
ギルニルザばりに土下座しそうな勢いだったので、
「だから……あんまり調子に乗るなって」
「もう……クリス、解ったわよ」
息ピッタリな感じで窘める二人に、納得いかないものがあったが――
「それで……クリス。呼び方の件は別にして。おまえ、さっき何か言い掛けてたろう?」
何だかんだと言って、カイエはクリスの想いを拾っていた。
その気遣いに、クリスは自分の行動を恥ずかしく思いながらも。ここまで来て話をしないのも性分に合わないと、覚悟を決める。
「あの……他人の事を、どうこう言うつもりは無いですし。私には資格があるとか、己惚れている訳でもありませんが……ラクシエル師匠、教えてください」
めずらしく言いにくそうに前置きしてから、クリスは話を続ける。
「師匠は……メリッサ殿を弟子にされたのに。どうして、私は駄目なんですか?」
クリスにとっての一番の不満は――アイシャの隣を奪わてた事だが。
もう一つ。彼女はカイエを『心の師匠』と思って来たのに。いつの間にか、メリッサが自分を差し置いて弟子になっていた。
「いや、メリッサは弟子って言うかさ……」
どう言えば良いのかと、カイエは少しだけ考える。
メリッサも仲間には違いないが、ローズたちと同列という訳ではないし。ロザリーのように、みんなの侍女ポジションという立ち位置を確立している訳でもなかった。
年齢的にはロザリーを除けば長女だが――どちらかと言えばエマ以上に末っ子ポジションだろう。
「ああ、メリッサ殿には……こんなことを言って申し訳ない」
引き合いに出したメリッサに、クリスは素直に頭を下げる。
「いや、僕の方は……構わないけどね」
メリッサは、どちらかと言うと、カイエが考えている事の方が気になった。
「私の方が実力が無い事は解っていますが……すみません。メリッサ殿が、羨ましくて……」
言ってしまった――アイシャに対する愛情や嫉妬心を口にする事は、一切躊躇しないクリスだったが。
今回の件は、それとは違う感情であり………アイシャの件でダメージを受けなければ、多分口にしなかっただろう。
「何だよ、クリス。そんな事を考えていたのか?」
「はい、恥ずかしながら……ですが、忘れてください。結局私の実力不足という事ですね」
クリスは自己完結しようとするが、
「いや、そうじゃなくて……確かにおまえの実力はまだまだだけどさ。才能自体が無い訳じゃないから、鍛えて欲しいなら鍛えてやるけど」
カイエが何言ってるんだよと苦笑するので、目が点になる。
「へ……ですが、師匠と呼ぶなと言ったじゃないですか?」
「だから……俺は『師匠』って呼ばれるのが嫌いなだけで。おまえを鍛えるのが嫌な訳じゃない」
自分が勝手に勘違いしていたことに気づいて――クリスは思いきり赤面する。
「クリス、良かったじゃない! これでカイエさんから剣を教えて貰えるわね!」
「ア、アイシャ様……」
まるで自分の事のように喜んでくれるアイシャに、クリスは感極まって涙を流すが――
「だけどさ……クリスはメリッサが羨ましいって言ったけど。そもそも、おまえに同じ事は出来ないだろ?」
「それは……やはり、私では実力不足って事ですか?」
カイエの言葉を否定と受け取って、クリスは再び項垂れる。
しかし、論点はそこではなかった。
「そうじゃなくて……おまえは、アイシャの傍から離れる気なんて無いだろ?」
「ええ、勿論ですよ! 私にとって一番はアイシャお嬢様で、剣は二番目ですから!」
真顔で即答するクリスに――全員がジト目になる。
「クリス……散々引っ掻き回して、結局それ? 今すぐ、カイエさんとメリッサさんに謝りなさい!」
アイシャに怒られるが……そんなお嬢様も可愛いと思ってしまうクリスには、全く効果が無かった。




