107 どうでも良いけど?
闇に飲み込まれて消えた冒険者たち――
「え……今の、何? まさか……」
嫌な想像をするエマに、カイエはニヤリと笑う。
「いや、もちろんエストは殺してなんかないから……そうだろう?」
「ああ、勿論だ。彼らには暫くの間、私が作った迷路の中を彷徨って貰うだけだ」
『深淵なる迷宮』とは――亜空間の自動生成型迷宮に相手を閉じ込める魔法だった。
一度中に囚われた者は、実際に迷宮を踏破しなければ、外に出ることはできない。
「いかにも、カイエが好きそうな魔法だけど……エスト、あんたもカイエに毒された訳? 足止めするだけなら、もっと簡単な方法が幾らでもあるでしょう?」
ジト目をするアリスに、エストは苦笑する。
「いや、半分は自己満足のために使ったようなものだから、そう言われても仕方ないが……相手に与える印象は、他の魔法を使うよりマシだとは思う」
高度な技術と相応の魔力が必要な割りには、効果は大した事がないように思えるが――
「いや、この魔法は地下迷宮そのものを一時的に作るから、ダメージを与えるトラップや、怪物だって配置できるんだけど。エストは、敢えてそうしなかったんだよ」
最上位級の魔法だから、トラップや怪物も、それなりのレベルになるため、下手に出現させたら、冒険者たちを殺してしまう可能性が高い。
「本来の使い方も、足止めには違いないけど。戦略的な意味で使うから、相手の生死は問わないんだよ。
まあ……こういう使い方じゃ、魔力の無駄とか言われそうだけど。テストにはなったんだし、悪くないんじゃないか?」
『深淵なる迷宮』を選択したエストのセンスに、カイエは満足げな笑みを浮かべる。
危害を加えるものを設置しなくても、『深淵なる迷宮』の構造自体は刻々と変化するのだ。
あの冒険者たちが、魔法の持続時間内に脱出できるとは思えない。
「まあ……邪魔者はとりあえず消えた訳だし。そろそろ、先に進もうか?」
カイエが再びエストを促そうとすると――左右から、がっしりと腕をロックされる。
「今日は随分と、エストにばかり優しいじゃない。私だって……もっと構って欲しいんだけど?」
「そうだよ、カイエ……私は落ち込んでるんだから、もう少し慰めてよね!」
ローズとエマに上目遣いで見つめられて――カイエは仕方ないかと、揶揄うような笑みを浮かべた。
「ああ、解った……地下迷宮の方は全部エストに任せたからな。二人の事は、俺がどうにかするよ」
そう言って――二人の肩に優しく腕を回した。
「「……え!」」
まさかカイエがこんな風に反応すると思っていなかった二人は、一瞬面食らうが――すぐに幸せそうに頬を染めて、身を任せるが……
「痛ッ……おい、いきなり何すんだよ?」
その直後、豪快な回し蹴りがカイエの背中に叩き込まれる。
「何でもないわよ……ただ少しだけ、ムカついただけ」
加害者のアリスはニッコリ笑いながら、こめかみをヒクつかせて――
「……どうしてだろう? 私も何だか、全然納得できないんだけど!」
エストの碧眼は、高熱の青い焔を宿らせていた。
※ ※ ※ ※
それからも暫くの間――エストは『迷宮案内人』を発動させて最短ルートで突き進みながら、遭遇する怪物の尽くを、新たに習得した魔法で蹂躙していったが――
第二十五階層に転移ポイントで出現した後、突如として動きを止める。
「みんな待ってくれ……先客がいるようだ」
彼らがいる回廊の先の部屋では――今まさに、戦闘が繰り広げられていた。
六人の冒険者たちが戦っているのは……倍以上の数の悪魔だった。
銀色の鱗に覆われた悪魔――銀色の悪魔と呼ばれる怪物に、冒険者たちは苦戦していた。
半数の冒険者が麻痺によって動けず、残りの冒険者たちも、襲い掛かって来る悪魔たちに防戦一方だった。
「知らない人たちよね……冒険者ギルドには、いなかったと思うわ」
ローズの言葉に、アリスとカイエが頷く。
「私たちが行った時点で、すでに地下迷宮に潜ってたんじゃないの?」
「まあ……あの場に冒険者全員がいたら、おまえら何サボってんだよって、突っ込むところだけどな?」
「それにしても……セオリーで言ったら、勝手に手出しするのはご法度だけど。このまま放置したら――」
銀色の悪魔は防御が固い上に、麻痺攻撃をしてくるので、中級以下の冒険者にとっては単体でも困難な相手だが――
さらに厄介な事に、仲魔を魔界から無制限に召喚する特殊スキルを持っているため、ハイレベルと言われる冒険者にとっても、無視できない脅威だった。しかし――
「行っくよー!」
アリスが台詞を言い終わる前に――エマは動いた。
いきなり冒険者たちの前に躍り出ると――加速した聖剣ヴェルサンドラで、悪魔を瞬殺する。
その光景が冒険者たちには……カイエの幻術のせいで、エマが漆黒の大鉈で悪魔を切り裂いていくように見えた。
「ありがとう……君たちのおかげで、助かったよ」
エストの魔法で麻痺から解放された冒険者たちは、口々に感謝の言葉を述べるが――
「こっちこそ。横取りしたみたいで、申し訳ないよ」
真夏の美少女という感じで輝く笑みを浮かべるエマに――男の冒険者たちが悩殺される。一方……
「いや……別に良いんじゃないの? 俺たちは獲物を狩っただけだし。いちいち感謝する必要なんて無いって」
しれっと爽やかに笑うカイエに、冒険者パーティーの女子たちは目を輝かせるが――
ローズ、エスト、それにアリスは――新たなフラグを立てたカイエに、ジト目を向けていた。




